StudyMed医師国家試験

無床診療所に来た「むせる高齢者」の発熱―まず考えるべきは食事指導ではなく搬送先

第109回医師国家試験 G問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第41問

84歳の女性。息苦しさと発熱とを主訴に家族に伴われて無床診療所に来院した。昨夜から元気がなかった。今朝から息苦しさと発熱とが出現したため受診した。5年前と2年前とに脳梗塞を発症し,要介護2と認定され訪問診療と訪問介護とを受けている。1日のほとんどを自宅内で過ごしており,排泄,入浴および着替えには一部介助が必要である。最近は食事のときにむせることが多くなった。体温38.6℃。脈拍104/分,整。血圧88/54 mmHg。呼吸数22/分。SpO2 89%(room air)。口腔内と皮膚とは乾燥し,右前胸部にcoarse cracklesを聴取する。  まず行うべき対応として正しいのはどれか。

  1. a.胃瘻を造設する。
  2. b.在宅で点滴治療を開始する。
  3. c.適切な食事形態を指導する。
  4. d.地域医療支援病院へ紹介する。
  5. e.地域包括支援センターに連絡する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、在宅療養中の高齢者が発熱と息苦しさで診療所に来たときに、最初に何をすべきかを問う問題だ。注目してほしいのは二つ。一つは背景にある嚥下機能の低下から何の病気を考えるか、もう一つはバイタルサインから読み取れる重症度だ。そして、受診先が「無床診療所」であることも忘れないでほしい。
医学生医学生
脳梗塞を2回起こしていて、最近食事でむせるということは、誤嚥性肺炎でしょうか。
ドクタードクター
その通り。発熱、呼吸困難、低酸素血症に片側のcoarse crackles、つまり水泡音がそろえば、まず細菌性肺炎を考える。そこに嚥下障害の背景があるから誤嚥性肺炎の可能性が高い。所見が右側なのも矛盾しないね。
医学生医学生
呼吸器の講義で、右主気管支は太くて分岐角度が垂直に近いので、誤嚥物が右に入りやすいと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。では次に重症度だ。日本の市中肺炎で使う重症度分類を覚えているかな。
医学生医学生
A-DROPですね。年齢、脱水、呼吸、意識、血圧の5項目だったと思います。
ドクタードクター
そう。女性なら75歳以上で年齢が該当、口腔内や皮膚の乾燥は脱水、SpO2 90%以下が呼吸、収縮期血圧90 mmHg以下が血圧。この方は意識以外の4項目を満たすから、超重症に分類される。外来治療は論外で、集中治療を考慮した入院が必要なレベルだ。
医学生医学生
4項目も……。正直、熱と脱水があるので点滴すればなんとかなるかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう考える人は多いんだ。でも、qSOFAも見てみよう。呼吸数22/分以上と収縮期血圧100 mmHg以下の2項目を満たしていて、敗血症が強く疑われる。血圧が90を切っているのは、循環不全に向かいつつある危険なサインだ。酸素投与、十分な輸液、血液培養や画像検査、抗菌薬の静注、場合によっては昇圧薬や呼吸管理まで必要になりうる。
医学生医学生
それは在宅や入院設備のない診療所では無理ですね。だから入院できる病院への紹介が正解なんですね。
ドクタードクター
そう。地域医療支援病院は医療法に基づいて都道府県知事が承認する病院で、紹介患者への医療提供や救急医療、設備の共同利用、地域の医療従事者の研修を担う。原則200床以上で、かかりつけ医を後方から支える役割だから、ここへの紹介・搬送が適切だ。状態を考えれば救急搬送の手配も含めて急ぐべきだね。
医学生医学生
在宅での点滴治療は、軽症なら選択肢になることもあるんですか。
ドクタードクター
軽い脱水や軽症の肺炎なら、訪問診療の枠組みで在宅点滴をすることは実際にある。ただ今回は急変の危険が高く、在宅で対応できる範囲を明らかに超えている。
医学生医学生
胃瘻造設や食事形態の指導は、誤嚥の対策としては大事だけど、今やることではないということですね。
ドクタードクター
その通り。胃瘻は侵襲のある処置で、全身状態が安定してから、本人や家族の意思も確認して適応を判断するものだ。しかも胃瘻にしても唾液や逆流した胃内容物の誤嚥は防げないから、誤嚥性肺炎を完全には予防できない。とろみ付けや嚥下調整食などの食形態の工夫は、回復後に嚥下造影や嚥下内視鏡で評価したうえで行う再発予防策だ。
医学生医学生
地域包括支援センターは、介護保険の分野で出てきた機関ですよね。公衆衛生の講義で、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが配置されると習いました。
ドクタードクター
そう、市町村が設置して、高齢者の総合相談や権利擁護、介護予防ケアマネジメントを担う。生活を支える大切な窓口だけど、急性疾患の医療を提供する機関ではない。退院後の生活支援の調整で関わることはあるけどね。
医学生医学生
急性期を乗り切ってから、嚥下評価や食形態、介護サービスの見直しに進む、という順番ですね。
ドクタードクター
まさにそれ。発展として、不顕性誤嚥も覚えておこう。夜間の睡眠中に気付かないうちに唾液を少しずつ誤嚥するもので、むせがなくても誤嚥性肺炎は起こりうる。臥位なら背側の区域、つまりS2、S6、S10などに好発するんだ。口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に有効とされていて、在宅医療でも重要な介入になる。
医学生医学生
臨床実習の在宅医療で、訪問歯科や歯科衛生士さんが口腔ケアに入っているのを見ました。多職種で関わる意味がわかった気がします。
ドクタードクター
いい経験をしたね。在宅医療では、自分のところで何ができて何ができないかを見極め、重症なら迷わず病院につなぐ判断が求められる。地域医療支援病院と特定機能病院の違い、つまり知事承認で原則200床以上か、厚生労働大臣承認で原則400床以上か、という点も合わせて整理しておこう。

まとめ

嚥下障害のある高齢者に発熱、呼吸困難、片側の水泡音が出現すれば誤嚥性肺炎を考え、A-DROPやqSOFAで重症度を評価します。本例は年齢・脱水・低酸素血症・低血圧の4項目を満たす超重症で、敗血症も強く疑われるため、酸素投与や輸液、抗菌薬静注、全身管理が可能な病院での入院治療が必要です。入院設備のない無床診療所では、まず地域医療支援病院などへ紹介・搬送することが最優先となります。胃瘻造設や食形態の指導、地域包括支援センターとの連携は、急性期を脱した後の再発予防や生活支援として位置づけられます。重症度を見極めて適切な医療機関につなぐ判断は、地域医療・在宅医療に携わるすべての医師に求められる基本です。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・84歳女性、脳梗塞を2回発症した既往があり、要介護2で訪問診療・訪問介護を受けている。 ・最近は食事のたびにむせることが増えている(嚥下機能の低下を示唆)。 ・前夜から元気がなく、今朝から発熱と息苦しさが出現した。 ・バイタルサイン:体温38.6℃、脈拍104/分、血圧88/54 mmHg、呼吸数22/分、SpO2 89%(室内気)。 ・身体所見:口腔内・皮膚の乾燥(脱水)、右前胸部にcoarse crackles(水泡音:気道内の分泌物を空気が通過するときの粗い断続性ラ音)。

診断へのプロセス

発熱、呼吸困難、低酸素血症に片側の水泡音がそろっており、細菌性肺炎がまず考えられる。脳梗塞後で食事中のむせが増えていることから、口腔内容物や食物を気道へ吸い込んだことによる誤嚥性肺炎の可能性が高い。誤嚥物は重力の影響で右側に入りやすい(右主気管支は左より太く、分岐角度が垂直に近い)ことも、右側の所見と矛盾しない。加えて口腔内・皮膚の乾燥から脱水を合併している。

重症度の評価

・SIRS(全身性炎症反応症候群)の項目のうち、体温>38℃、脈拍>90/分、呼吸数>20/分の3項目を満たす。 ・qSOFA(quick SOFA:呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100 mmHg以下)のうち呼吸数と血圧の2項目を満たし、感染症を背景とした敗血症が強く疑われる。収縮期血圧は90 mmHgを下回っており、循環不全へ進行しつつある危険な状態である。 ・日本の市中肺炎の重症度分類であるA-DROP(Age:男性70歳以上・女性75歳以上、Dehydration:BUN 21 mg/dL以上または脱水あり、Respiration:SpO2 90%以下、Orientation:意識障害、Pressure:収縮期血圧90 mmHg以下)では、年齢・脱水・SpO2・血圧の4項目が該当し、超重症に相当する。外来治療は不可能で、集中治療が可能な体制での入院治療が必要となる。

設問の考え方

受診先は入院設備のない無床診療所である。酸素投与、輸液による循環の立て直し、血液培養などの検査、適切な抗菌薬の静脈内投与、全身状態の厳重なモニタリングを速やかに行う必要があり、これらは無床診療所や在宅では担えない。したがって「まず」行うべきなのは、救急医療を提供できる病院へ紹介・搬送して入院治療につなげることである。嚥下障害そのものへの対策(栄養経路の検討、食形態の指導)や介護サービスの調整は、急性期を乗り切ってから取り組む課題である。

選択肢考察

  1. ×a.  胃瘻を造設する。

    誤った対応である。胃瘻(経皮内視鏡的胃瘻造設術:PEG)は、経口摂取が困難な状態が長期に続く場合や誤嚥を繰り返す場合に栄養経路として検討される処置である。しかし侵襲を伴う処置であり、全身状態が安定してから、本人・家族の意思も確認したうえで適応を判断するものである。敗血症が疑われ血圧が低下している急性期に行うものではない。なお、胃瘻にしても唾液や逆流した胃内容物の誤嚥は防げないため、誤嚥性肺炎を完全に予防できるわけではない。

  2. ×b.  在宅で点滴治療を開始する。

    誤った対応である。軽症の肺炎や脱水であれば訪問診療の枠組みで在宅点滴を行う選択肢もありうる。しかし本例は低血圧(88/54 mmHg)、低酸素血症(SpO2 89%)、頻脈・頻呼吸を伴い、A-DROPで4項目該当の超重症、qSOFAでも2項目を満たす敗血症疑いの状態である。急変のおそれが高く、酸素投与、大量輸液、血液培養や画像検査、昇圧薬の使用、呼吸管理などが必要になりうるため、在宅で対応できる範囲を超えている。

  3. ×c.  適切な食事形態を指導する。

    誤った対応である。とろみ付けや嚥下調整食の導入など食形態の工夫は、嚥下障害のある患者の誤嚥予防として重要であり、回復後には嚥下機能評価(嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査など)と合わせて実施すべきである。しかし、それは再発予防の手段であって、現在進行中の重症肺炎と循環不全の治療にはならないため、「まず」行う対応ではない。

  4. ○d.  地域医療支援病院へ紹介する。

    正しい対応である。本例は誤嚥性肺炎に脱水を合併し、低血圧と低酸素血症を伴う敗血症疑いの重症例であり、ただちに入院治療を要する。地域医療支援病院は医療法に基づき都道府県知事が承認する病院で、紹介患者に対する医療の提供、救急医療の提供、建物・設備・機器の共同利用、地域の医療従事者に対する研修などを役割とし、原則として200床以上の病床を有する。かかりつけ医(ここでは無床診療所)を支援し、重症患者を受け入れる役割を担う病院であるから、紹介・搬送先として適切である。状態からみて、救急搬送の手配も含め速やかに行うべきである。

  5. ×e.  地域包括支援センターに連絡する。

    誤った対応である。地域包括支援センターは介護保険法に基づいて市町村が設置する機関で、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)が配置され、総合相談支援、権利擁護(高齢者虐待への対応など)、包括的・継続的ケアマネジメント支援、要支援者などの介護予防ケアマネジメントを担う。高齢者の生活全般を支える窓口ではあるが、急性疾患の医療を提供する機関ではなく、連絡しても本例の重症肺炎は改善しない。退院後の生活支援の調整などで関わることはありうる。

誤嚥性肺炎

口腔内の細菌や食物、逆流した胃内容物を気道内に吸引して生じる肺炎である。脳血管障害の後遺症、パーキンソン病、認知症、加齢による嚥下機能・咳反射の低下が主な危険因子となる。夜間の睡眠中に気付かれないまま少量の唾液を誤嚥する「不顕性誤嚥」も重要で、むせがなくても起こりうる。起炎菌は口腔内常在菌(嫌気性菌、レンサ球菌など)が多く、高齢者では腸内細菌科細菌なども関与する。好発部位は、臥位では背側の区域(S2、S6、S10など)、立位・座位では下葉であり、右側に多い。

A-DROPシステム(市中肺炎の重症度分類)

A(Age):男性70歳以上、女性75歳以上 D(Dehydration):BUN 21 mg/dL以上または脱水あり R(Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60 Torr以下) O(Orientation):意識障害あり P(Pressure):収縮期血圧90 mmHg以下 0項目:軽症(外来治療)、1〜2項目:中等症(外来または入院)、3項目:重症(入院治療)、4〜5項目:超重症(ICU入院を考慮)。ショックがあれば項目数にかかわらず超重症として扱う。

qSOFA

呼吸数22/分以上、意識変容、収縮期血圧100 mmHg以下の3項目のうち2項目以上を満たせば、敗血症を疑って臓器障害の評価(SOFAスコア)を行う。

地域の医療・介護関連機関

・地域医療支援病院:医療法に規定。都道府県知事の承認。紹介患者への医療、救急医療、施設・設備の共同利用、地域医療従事者の研修を担う。原則200床以上。 ・特定機能病院:医療法に規定。厚生労働大臣の承認。高度医療の提供・開発・評価・研修を担う。原則400床以上。 ・地域包括支援センター:介護保険法に規定。市町村が設置。保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員を配置し、高齢者の総合相談や介護予防ケアマネジメントを行う。

POINT

・発熱、呼吸困難、片側のcoarse crackles+嚥下障害の背景 → 誤嚥性肺炎を考える。 ・低血圧(収縮期90 mmHg以下)、SpO2 90%以下、脱水、高齢はA-DROPの重症項目であり、4項目以上は超重症である。 ・無床診療所・在宅では重症肺炎や敗血症に対応できないため、まず入院可能な病院(地域医療支援病院など)へ紹介・搬送する。 ・胃瘻造設や食形態の指導は全身状態が安定した後の再発予防策であり、急性期の初期対応ではない。 ・地域包括支援センターは介護・福祉の相談窓口であり、急性疾患の治療は行わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。