StudyMed医師国家試験

胎盤の向こうの小さな命を守る―妊婦に使える抗菌薬・避けるべき抗菌薬

第109回医師国家試験 G問題 第40問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第40問

胎児への影響の観点から,妊婦に使用する抗菌薬として適切なのはどれか。3つ選べ。

  1. a.セフェム系
  2. b.ペニシリン系
  3. c.マクロライド系
  4. d.アミノグリコシド系
  5. e.テトラサイクリン系

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊婦の感染症に抗菌薬を選ぶときの基本を問う問題だ。ポイントは「胎盤を通過するかどうか」ではなく、「胎児に有害な作用が知られているかどうか」で判断すること。抗菌薬の多くは程度の差こそあれ胎盤を通過するからね。まず、妊婦に使える抗菌薬と聞いて何が浮かぶかな。
医学生医学生
ペニシリン系とセフェム系です。薬理学の講義で、細胞壁合成阻害薬はヒトに細胞壁がないので安全性が高いと習いました。
ドクタードクター
その理解で合っている。どちらもβ-ラクタム系で、標的の細胞壁はヒトの細胞には存在しないから、胎児を含めてヒトへの毒性が低い。長年の多数の使用経験でも、先天異常との関連は確認されていないんだ。
医学生医学生
セフェム系は、産婦人科の実習で妊婦さんの腎盂腎炎に点滴で使われているのを見ました。
ドクタードクター
妊娠中は子宮による尿管の圧迫やプロゲステロンによる尿管の弛緩で腎盂腎炎が起こりやすいから、まさに典型的な場面だね。ペニシリン系も代表的で、梅毒の治療や、分娩時のB群溶血性レンサ球菌による新生児感染を防ぐための母体投与に使われる。注意すべきは胎児よりもむしろ母体のペニシリンアレルギーの既往だ。
医学生医学生
マクロライド系は少し迷いました。胎盤を通過するなら危ないのではないかと。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。マクロライド系も胎盤は通過するけれど、胎児側の濃度は母体より低く保たれ、催奇形性は明らかでない。だから比較的安全に使える群に入るんだ。特に妊婦のクラミジア・トラコマティス感染症ではアジスロマイシンが標準的に用いられるし、ペニシリンアレルギーの妊婦の代替薬にもなる。
医学生医学生
マクロライドなら何でも同じように使えるんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。クラリスロマイシンは動物実験で胎児への影響が報告されているので、妊娠初期にはほかの薬を優先する考え方もある。同じ系統でも薬剤ごとの情報を確認する習慣をつけておこう。次に、避けるべき群を見ていこう。アミノグリコシド系はどうかな。
医学生医学生
腎毒性と耳毒性があると習いました。胎児の耳にも影響するということですか。
ドクタードクター
その通り。胎盤を通過して胎児の内耳を障害し、第Ⅷ脳神経障害による先天性難聴を起こすおそれがある。歴史的には、結核治療で妊娠中にストレプトマイシンを長期投与された母親から聴覚障害をもつ児が生まれたことが知られている。重症感染症でほかに手段がない場合を除いて、妊婦には使わないのが原則だよ。
医学生医学生
テトラサイクリン系は、歯が黄色くなるという話を小児科で聞いた覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。テトラサイクリンは胎盤を容易に通過して、形成途中の歯や骨のカルシウムと結合して沈着する。歯の石灰化が進む妊娠中期以降に投与すると、乳歯の黄褐色の着色やエナメル質形成不全、一時的な骨発育の抑制を起こしうる。同じ理由で8歳未満の小児にも原則として使わない。高用量の静注では母体の急性脂肪肝も報告されているんだ。
医学生医学生
使えるのはβ-ラクタム系とマクロライド系、避けるのは耳に来るアミノグリコシドと歯や骨に来るテトラサイクリン、と整理すればいいですね。
ドクタードクター
完璧だ。ここで妊娠時期との関係も押さえておこう。受精から妊娠4週未満はall or noneの時期で、影響を受けた胚は流産するか、完全に修復される。妊娠4週から7週末は器官形成期にあたる絶対過敏期で、催奇形性が最も問題になる。8週以降は形態異常は起こりにくくなるけれど、機能や発育への胎児毒性が問題になる。
医学生医学生
テトラサイクリンの歯の着色やアミノグリコシドの難聴は、形の異常というより胎児毒性の話なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。ほかにも妊娠中に避ける抗菌薬として、動物実験で関節軟骨障害が報告されているニューキノロン系、妊娠末期に新生児の核黄疸を起こしうるST合剤、新生児のグレイ症候群で知られるクロラムフェニコール、妊娠初期の内服を避けるメトロニダゾールも一緒に整理しておくといい。なお、以前は米国FDAのA〜Xの分類がよく引用されたけれど、2015年に廃止されて、今はリスクを文章で具体的に記載する方式になっている。臨床では添付文書や専門の情報源で個別に確認し、母体の治療の必要性と胎児へのリスクを天秤にかけて選ぶことが大切だよ。

まとめ

妊婦に抗菌薬を使う際は、胎盤通過の有無ではなく、胎児への有害作用が知られているかどうかで選択します。ペニシリン系・セフェム系のβ-ラクタム系とマクロライド系は豊富な使用経験から比較的安全とされ、妊婦の腎盂腎炎、梅毒、GBS感染予防、クラミジア感染症(アジスロマイシン)などで用いられます。一方、アミノグリコシド系は胎児の第Ⅷ脳神経障害による難聴、テトラサイクリン系は歯の着色・エナメル質形成不全・骨発育障害をきたしうるため原則として避けます。ニューキノロン系、ST合剤、クロラムフェニコール、メトロニダゾールなども妊娠時期に応じた注意が必要で、器官形成期の催奇形性と妊娠中期以降の胎児毒性を区別して理解することが、安全な処方の基盤となります。

解答・解説

正解はa, b, cです

妊婦に薬を使うときは、母体の治療効果だけでなく、薬が胎盤を通過して胎児に届いたときの影響(催奇形性や胎児毒性)を考えなければならない。抗菌薬はほとんどが程度の差はあれ胎盤を通過するため、「胎盤を通過するかどうか」ではなく「胎児に有害な作用が知られているかどうか」が選択の基準となる。 本問の選択肢は、次の2群に分けて考えると整理しやすい。 【比較的安全に使用できる群】ペニシリン系・セフェム系(いずれもβ-ラクタム系)、マクロライド系。長年にわたる多数の使用経験があり、催奇形性や胎児への重大な毒性は確認されていない。妊婦の感染症治療ではこれらが第一選択となる。 【胎児への有害作用が知られ、原則として避ける群】アミノグリコシド系(胎児の第Ⅷ脳神経障害による難聴)、テトラサイクリン系(歯の着色・エナメル質形成不全、骨発育への影響)。 したがって、適切なのはセフェム系、ペニシリン系、マクロライド系の3つである。

選択肢考察

  1. ○a.  セフェム系

    セフェム系はペニシリン系と同じβ-ラクタム系に属し、細菌の細胞壁合成を阻害する。細胞壁はヒトの細胞にはない構造であるため、ヒト(胎児を含む)への毒性は低い。胎盤は通過するが、先天異常との関連は報告されておらず、妊娠中も比較的安全に使用できる。妊婦の急性腎盂腎炎や膀胱炎などの治療で広く用いられる。

  2. ○b.  ペニシリン系

    ペニシリン系は胎盤を通過するものの、水溶性が高く体内でイオン化しやすいため組織への移行は限られ、通常の治療量で胎児に悪影響を及ぼすことはない。妊娠中に使用できる抗菌薬の代表であり、梅毒の治療(ベンジルペニシリンなど)や、分娩時のB群溶血性レンサ球菌(GBS)による新生児感染を予防するための母体投与(ペニシリンGやアンピシリン)にも用いられる。ただし、ペニシリンアレルギーの既往には注意する。

  3. ○c.  マクロライド系

    マクロライド系は胎盤を通過するが、胎児側の濃度は母体血中より低く保たれ、催奇形性は明らかでないため、比較的安全に使用できる。とくに妊婦のクラミジア・トラコマティス感染症ではアジスロマイシンが標準的に用いられ、ペニシリンアレルギーの妊婦の代替薬としても有用である。なお、クラリスロマイシンは動物実験で胎児への影響が報告されているため、妊娠初期にはほかの薬剤を優先する考え方もある。

  4. ×d.  アミノグリコシド系

    アミノグリコシド系は胎盤を通過し、胎児の内耳に障害を与える(第Ⅷ脳神経障害による先天性難聴)おそれがある。結核の治療で妊娠中にストレプトマイシンを長期投与された母親から、聴覚障害をもつ児が生まれたことが知られている。母体に対しても腎毒性・耳毒性がある薬剤であり、重症感染症などでほかに選択肢がない場合を除き、妊婦への使用は避ける。

  5. ×e.  テトラサイクリン系

    テトラサイクリン系は胎盤を容易に通過し、形成途中の歯や骨のカルシウムと結合して沈着する。そのため、とくに歯の石灰化が進む妊娠中期以降に投与すると、児の乳歯の黄褐色の着色やエナメル質形成不全、一時的な骨発育の抑制を起こしうる。また、妊婦に高用量を静注した場合に母体の急性脂肪肝(肝障害)が報告されている。同じ理由で8歳未満の小児にも原則として使用しない。

妊婦への抗菌薬使用のまとめ

比較的安全に使用できるもの ・ペニシリン系、セフェム系(β-ラクタム系) ・マクロライド系(エリスロマイシン、アジスロマイシンなど) 原則として避ける、または注意が必要なもの ・アミノグリコシド系:胎児の聴覚障害(第Ⅷ脳神経障害) ・テトラサイクリン系:歯の着色、エナメル質形成不全、骨発育障害 ・ニューキノロン系:動物実験で関節軟骨障害が報告されており、妊婦には原則として使用しない ・ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム):トリメトプリムの葉酸代謝拮抗作用(妊娠初期)、サルファ剤によるビリルビンとアルブミンの結合の阻害で新生児の核黄疸を起こすおそれ(妊娠末期) ・クロラムフェニコール:新生児のグレイ症候群(妊娠末期の投与や新生児への投与で問題となる) ・メトロニダゾール:妊娠初期(とくに妊娠3か月以内)の内服は避ける

薬剤の胎児への影響と妊娠時期

・受精から妊娠4週未満(all or noneの時期):影響を受けた胚は流産するか、完全に修復されて後遺症を残さないとされる。 ・妊娠4週〜7週末(絶対過敏期):器官形成期で、催奇形性が最も問題となる。 ・妊娠8週以降:形態異常は起こりにくくなるが、胎児の機能や発育に対する毒性(胎児毒性)が問題となる。テトラサイクリンによる歯の着色、アミノグリコシドによる聴覚障害はこの観点から理解するとよい。

参考:かつてのFDA分類

米国食品医薬品局(FDA)は、妊娠中の薬剤の危険度をA・B・C・D・Xの5段階に分類していた。ペニシリン系・セフェム系はおおむねカテゴリーB、テトラサイクリン系や多くのアミノグリコシド系はカテゴリーDとされていた。この分類は2015年に廃止され、現在はリスクを文章で具体的に記載する方式に移行している。

POINT

・妊婦に使用できる抗菌薬の基本はペニシリン系・セフェム系(β-ラクタム系)とマクロライド系。 ・アミノグリコシド系は胎児の第Ⅷ脳神経障害(難聴)のため避ける。 ・テトラサイクリン系は歯の着色・エナメル質形成不全・骨発育障害のため避ける(8歳未満の小児も同様)。 ・ニューキノロン系(関節軟骨障害)、ST合剤(核黄疸)、クロラムフェニコール(グレイ症候群)も妊娠中は避ける薬剤として整理する。 ・妊婦のクラミジア感染症にはアジスロマイシン、梅毒にはペニシリンを用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。