妻は産後、夫は今すぐ―風疹抗体陰性の妊婦を守るワクチン戦略
第108回医師国家試験 I問題 第40問
国試問題にチャレンジ
妊娠初期の妻の風疹HI抗体が陰性と判明した。 この夫婦への適切なワクチン接種時期の組合せはどれか。(編註:選択肢表は下記をご参照ください。) 妊婦 夫 a ただちに ただちに b ただちに 妊娠全期間 c 妊娠全期間 ただちに d 妊娠全期間 妊娠全期間 e 産褥期 ただちに f 産褥期 妊娠全期間
- a.ただちにただちに
- b.ただちに妊娠全期間
- c.妊娠全期間ただちに
- d.妊娠全期間妊娠全期間
- e.産褥期ただちに
- f.産褥期妊娠全期間
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
風疹HI抗体が陰性の妊婦は、妊娠初期の初感染により胎児が先天性風疹症候群(先天性心疾患・白内障・感音難聴)を発症する危険があります。風疹ワクチン(MRワクチン)は生ワクチンで妊婦への接種は禁忌のため、妻は分娩後の産褥期に接種し、次回の妊娠に備えます。一方、ワクチン接種者から周囲へ感染が広がることは基本的にないため、最も身近な感染源となりうる夫は妊娠中でもただちに接種すべきです。妊娠可能女性への接種後は約2か月の避妊が必要であり、成人男性の抗体保有率の低さが流行の背景にあることも押さえておきましょう。ワクチンの種類と感染経路から接種のタイミングを判断する考え方は、母子保健と感染症対策の両面で重要です。
解答・解説
正解はeです
風疹HI抗体(赤血球凝集抑制抗体)が陰性ということは、この妊婦は風疹に対する免疫をもっていない、つまり風疹にかかる可能性がある状態である。妊娠初期、とりわけ妊娠12週頃までに妊婦が風疹ウイルスに初感染すると、ウイルスが胎盤を通過して胎児に感染し、先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)を高率に起こす。したがってこの夫婦に求められるのは、妊娠中に妻が風疹に感染しないよう感染源を断つことである。 考えるべきポイントは二つある。
妊婦への接種
風疹ワクチン(現在は主に麻疹風疹混合ワクチン:MRワクチン)は、弱毒化したウイルスを用いる生ワクチンである。ワクチンウイルスが胎児に感染する理論上のおそれがあるため、妊婦への接種は禁忌である。したがって妻への接種は妊娠中には行わず、分娩後の産褥期(入院中や1か月健診時など)に行い、次回以降の妊娠に備える。
夫への接種
妊婦の最も身近な感染源は同居家族であり、夫が風疹に罹患すれば妻に感染させる危険が高い。風疹ワクチンの接種を受けた人から周囲へワクチンウイルスが感染することは基本的にないとされるため、妊婦の家族は妊娠中であっても接種してよい。夫が自分の免疫の有無をすぐに確認できない場合も含め、できるだけ早く、ただちに接種を受けるべきである。 以上より、妊婦は産褥期、夫はただちに、の組合せが適切である。
選択肢考察
- ×a. ただちにただちに
妊婦にただちに接種するとしている点が誤りである。風疹ワクチンは生ワクチンであり、妊娠中の接種は禁忌とされている。夫へのただちの接種は適切である。
- ×b. ただちに妊娠全期間
妊婦への妊娠中の接種は禁忌であり誤りである。また、夫の接種を妊娠期間中ずっと控える理由はない。むしろ夫が接種を遅らせるほど、夫経由で妻が感染する危険が続くことになる。
- ×c. 妊娠全期間ただちに
妊婦には妊娠のどの時期であっても生ワクチンである風疹ワクチンを接種しないため、妊娠期間中に接種するとする点が誤りである。夫へのただちの接種は適切である。
- ×d. 妊娠全期間妊娠全期間
妊婦は妊娠中に接種してはならない。また夫の接種を妊娠の全期間にわたって見合わせる必要もなく、ただちに接種して妻への感染リスクを下げるべきである。
- ○e. 産褥期ただちに
妊婦には生ワクチン接種が禁忌であるため、妻は分娩後の産褥期に接種して次回の妊娠に備える。授乳中であってもMRワクチンの接種は可能とされている。一方、夫は妻への最も身近な感染源になりうるうえ、ワクチン接種者から周囲へワクチンウイルスが広がることは基本的にないため、妊娠中の妻がいても支障なく、ただちに接種すべきである。両者の接種時期として最も適切な組合せである。
- ×f. 産褥期妊娠全期間
妊婦を産褥期に接種するとする点は正しいが、夫の接種を妊娠期間中控えるとする点が誤りである。夫が未接種のまま風疹に罹患すれば妻に感染させるおそれがあり、夫はただちに接種すべきである。
先天性風疹症候群(CRS)
妊娠初期に母体が風疹ウイルスに初感染すると、胎児感染によりCRSを生じる。古典的三徴は、先天性心疾患(動脈管開存症など)、白内障(ほかに緑内障・網膜症)、感音難聴である。そのほか低出生体重、血小板減少性紫斑病、肝脾腫、精神運動発達遅滞などを伴う。発症リスクは感染時期が早いほど高く、妊娠20週を過ぎるとまれになる。難聴は比較的遅い時期の感染でも生じうる。
妊婦健診での風疹抗体検査
妊娠初期の検査として風疹HI抗体価が測定される。HI抗体価が8倍未満は陰性(免疫なし)、16倍以下は低抗体価と判断され、いずれも産褥期のワクチン接種が勧められる。一方、256倍以上の高い抗体価では最近の感染の可能性を考え、風疹特異的IgM抗体を測定するなどして精査する。
風疹ワクチンと妊娠
・生ワクチンであり妊婦への接種は禁忌。 ・妊娠可能年齢の女性に接種する場合は、あらかじめ妊娠していないことを確認し、接種後およそ2か月間は避妊するよう指導する(かつてはより長い期間の避妊が指導されていた)。 ・誤って妊娠中に接種しても、これまでワクチンによるCRSの報告はなく、それだけを理由に人工妊娠中絶を勧める必要はないとされる。 ・ワクチン接種者から周囲への感染は基本的に起こらないため、妊婦の家族(夫、同居者)への接種は妊娠中でも可能であり、むしろ推奨される。
日本の風疹対策
日本では過去の予防接種制度の変遷により、成人男性(特に一定の年代の男性)に風疹抗体をもたない人が多く、流行の中心となってCRSの発生につながった。このため、定期接種の第5期として対象年代の男性への抗体検査と予防接種が実施されている。
POINT
・風疹ワクチン(MRワクチン)は生ワクチンであり妊婦への接種は禁忌。抗体陰性・低抗体価の妊婦は産褥期に接種する。 ・ワクチン接種者から周囲への感染はないため、夫など家族は妊娠中でもただちに接種してよい。 ・妊娠初期の風疹初感染は先天性風疹症候群(心疾患・白内障・感音難聴)の原因となる。 ・妊娠可能女性への接種後は約2か月間の避妊が必要である。
