StudyMed医師国家試験

耳の水疱・顔の麻痺・めまい―膝神経節から読み解くRamsay Hunt症候群

第108回医師国家試験 I問題 第39問

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第108回 I問題 第39問

Ramsay Hunt症候群の急性期の症候はどれか。3つ選べ。

  1. a.複視
  2. b.難聴
  3. c.めまい
  4. d.耳介疱疹
  5. e.眼瞼下垂

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はRamsay Hunt症候群の急性期にどんな症候が出るかを問う問題だ。症状を丸暗記するより、「どの神経節でウイルスが暴れて、炎症がどこまで広がるか」を考えると自然に答えが出るよ。まず原因から確認しよう。
医学生医学生
水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化ですよね。微生物学の講義で、初感染後に知覚神経節へ潜伏すると習いました。
ドクタードクター
その通り。Ramsay Hunt症候群では、顔面神経の膝神経節に潜んでいたVZVが、加齢や疲労、免疫低下をきっかけに再び増え始める。ここで大事なのは、膝神経節が側頭骨の中で内耳神経のすぐ近くにあることなんだ。
医学生医学生
ということは、顔面神経だけでなく第VIII脳神経にも炎症が及ぶ、ということですか。
ドクタードクター
そう。だから古典的三徴は、耳介や外耳道の帯状疱疹、末梢性顔面神経麻痺、そして難聴・耳鳴・めまいといった第VIII脳神経症状になる。では選択肢を見ていこう。難聴はどうかな。
医学生医学生
蝸牛神経や内耳に炎症が及べば感音難聴になるので、急性期の症候に入ると思います。
ドクタードクター
正解。しかも難聴は顔面神経麻痺に比べて回復しにくいことがあるから、早く治療を始める意味が大きい。めまいは?
医学生医学生
前庭神経がやられれば回転性めまいですね。耳鼻咽喉科の臨床実習で、悪心を伴って横になったまま動けない患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。眼振や悪心・嘔吐を伴う回転性めまいが出ることがあり、これも第VIII脳神経症状だから正しい。耳介疱疹はどうだろう。
医学生医学生
これは名前のイメージ通り、典型的な所見ですよね。
ドクタードクター
そう。顔面神経には耳介、特に耳甲介や外耳道の皮膚感覚を担う知覚枝があって、その領域に発赤と小水疱が出る。強い耳痛を伴うことが多いよ。ただし皮疹が麻痺より遅れて出たり、まったく出なかったりする例もあって、無疱疹性帯状疱疹と呼ばれる。その場合はBell麻痺との区別が難しくなるんだ。
医学生医学生
皮疹がないからといって否定はできないんですね。残りの複視と眼瞼下垂は、顔まわりの症状なので入りそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。複視は両眼の眼球運動の協調が崩れて起こるもので、動眼・滑車・外転神経の麻痺や外眼筋の障害が原因になる。Ramsay Hunt症候群で侵されるのは第VIIと第VIII脳神経だから、典型的な症候ではないよ。
医学生医学生
眼瞼下垂も、上眼瞼挙筋は動眼神経支配なので違いますね。顔面神経麻痺だと、むしろ目が閉じられなくなるんでした。
ドクタードクター
その通り。顔面神経は眼輪筋を支配しているから、麻痺すると閉瞼できない兎眼になる。瞼が下がるのとは逆の現象だね。眼瞼下垂は動眼神経麻痺のほか、Horner症候群や重症筋無力症でもみられる。
医学生医学生
障害される神経を第VIIと第VIIIに絞れれば、難聴・めまい・耳介疱疹の3つが選べる、ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、顔面神経麻痺の診察も押さえておこう。額のしわ寄せができなければ末梢性で、中枢性では前額部が両側支配のため保たれる。さらに障害部位によって、アブミ骨筋神経なら聴覚過敏、鼓索神経なら舌前2/3の味覚障害、大錐体神経なら涙液分泌低下が加わる。
医学生医学生
OSCEの脳神経診察で、額のしわ寄せを必ず確認するように言われた理由がよくわかりました。治療はどうするんですか。
ドクタードクター
急性期に副腎皮質ステロイドとバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬を併用するのが基本で、重症例では神経減荷術を検討することもある。Bell麻痺より麻痺が高度になりやすく、完全回復の割合も低いから、耳の痛みと顔の麻痺を訴える患者さんでは耳介をよく観察し、聴力や平衡機能も確認してほしい。閉瞼不全があれば角膜を守る点眼や眼帯も忘れずにね。

まとめ

Ramsay Hunt症候群は、顔面神経の膝神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して起こり、耳介・外耳道の帯状疱疹、末梢性顔面神経麻痺、第VIII脳神経症状(感音難聴・耳鳴・回転性めまい)を三徴とします。膝神経節が内耳神経に近接していることを理解すれば、難聴やめまいが生じる理由は自然に説明できます。複視や眼瞼下垂は動眼・滑車・外転神経などの障害で起こる症候であり、顔面神経麻痺ではむしろ閉瞼障害(兎眼)がみられる点に注意が必要です。Bell麻痺より予後不良で、皮疹を欠く例もあるため、急性期にステロイドと抗ウイルス薬を早期に併用することが重要です。障害される神経から症候を導く考え方は、脳神経疾患全般の理解に役立ちます。

解答・解説

正解はb, c, dです

Ramsay Hunt(ラムゼイ・ハント)症候群は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)が顔面神経の膝神経節に潜伏感染し、加齢・疲労・免疫低下などを契機に再活性化して生じる疾患である。膝神経節で増殖したウイルスは、顔面神経そのものを障害するだけでなく、側頭骨内で近接して走る内耳神経(第VIII脳神経:蝸牛神経と前庭神経)にも炎症を波及させる。 このため急性期の症候は、次の三つにまとめられる(古典的三徴)。 1. 耳介・外耳道の帯状疱疹(発赤・水疱、耳痛を伴う) 2. 末梢性顔面神経麻痺 3. 第VIII脳神経症状(感音難聴、耳鳴、回転性めまい) 解答にあたっては、障害される神経が顔面神経(第VII)と内耳神経(第VIII)であることを押さえ、眼球運動や眼瞼挙上を担う動眼神経(第III)・滑車神経(第IV)・外転神経(第VI)の症状は含まれないと判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  複視

    複視(物が二重に見える)は、両眼の眼球運動が協調しなくなることで生じ、動眼神経・滑車神経・外転神経の麻痺や外眼筋の障害(重症筋無力症、甲状腺眼症など)が原因となる。Ramsay Hunt症候群で障害されるのは顔面神経と内耳神経であり、外眼筋を支配する神経は侵されないため、典型的な症候ではない。

  2. ○b.  難聴

    膝神経節の炎症が内耳神経のうち蝸牛神経(あるいは内耳)に波及すると、感音難聴や耳鳴が生じる。Ramsay Hunt症候群の三徴の一つである第VIII脳神経症状に当たり、急性期にみられる症候である。難聴は顔面神経麻痺に比べて回復しにくいことがあり、早期治療の意義が大きい。

  3. ○c.  めまい

    炎症が内耳神経のうち前庭神経に及ぶと、平衡機能が障害されて回転性めまい、悪心・嘔吐、眼振などを生じる。難聴と同じく第VIII脳神経症状であり、急性期の症候として正しい。

  4. ○d.  耳介疱疹

    再活性化したVZVが顔面神経の知覚枝の支配領域である耳介(特に耳甲介)や外耳道の皮膚に至り、発赤と小水疱(帯状疱疹)を形成する。強い耳痛を伴うことが多い。本症候群の診断の手がかりとなる典型的所見である。ただし、皮疹が麻痺より遅れて出現したり、明らかな皮疹を欠いたりする例(zoster sine herpete:無疱疹性帯状疱疹)もあり、その場合はBell麻痺と区別が難しい。

  5. ×e.  眼瞼下垂

    眼瞼下垂は、上眼瞼挙筋(動眼神経支配)や瞼板筋(Müller筋、交感神経支配)の障害で起こり、動眼神経麻痺やHorner症候群、重症筋無力症などでみられる。顔面神経麻痺では眼輪筋が麻痺するため、むしろ瞼を閉じられない閉瞼障害(兎眼)が生じる。眼瞼下垂とは逆の現象であり、区別して覚えておく必要がある。

病態

VZVは初感染時に水痘を起こしたのち、知覚神経節(脊髄後根神経節や脳神経の知覚神経節)に潜伏する。顔面神経の膝神経節で再活性化したものがRamsay Hunt症候群である。

Bell麻痺との比較

末梢性顔面神経麻痺の原因として最も多いのはBell麻痺で、主に単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の再活性化が関与すると考えられている。Ramsay Hunt症候群はBell麻痺に比べて麻痺が高度になりやすく、完全回復の割合が低い。耳介の水疱や第VIII脳神経症状の有無が両者を区別する手がかりとなる。

顔面神経麻痺でみられる症状

・患側の額のしわ寄せ不能、閉瞼不全(兎眼)、鼻唇溝の消失、口角下垂 ・分枝の障害部位により、聴覚過敏(アブミ骨筋神経)、舌前2/3の味覚障害(鼓索神経)、涙液分泌低下(大錐体神経)を伴う ・額のしわ寄せができないことが末梢性麻痺の特徴であり、中枢性(核上性)麻痺では前額部は両側支配のため保たれる

治療

急性期に副腎皮質ステロイドと抗ウイルス薬(バラシクロビル、ファムシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬)を併用する。重症例では神経減荷術が検討されることがある。閉瞼不全がある場合は角膜保護(点眼・眼帯など)を行う。

POINT

・Ramsay Hunt症候群=膝神経節に潜伏したVZVの再活性化。 ・三徴:耳介・外耳道の帯状疱疹、末梢性顔面神経麻痺、第VIII脳神経症状(感音難聴・耳鳴・めまい)。 ・複視や眼瞼下垂は動眼・滑車・外転神経の障害であり本症候群の症候ではない。 ・顔面神経麻痺で生じるのは眼瞼下垂ではなく閉瞼障害(兎眼)である。 ・Bell麻痺より予後不良で、ステロイドと抗ウイルス薬を早期に併用する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。