耳の水疱が語る真犯人―Ramsay Hunt症候群を「ウイルスです」と説明できるか
第110回医師国家試験 D問題 第47問
国試問題にチャレンジ
55歳の女性。数日前から右耳痛があり,今朝から右顔面神経麻痺とめまいが出現したため来院した。身長160 cm,体重52 kg。体温36.8℃。両側の鼓膜に異常を認めない。血液所見:赤血球420万,白血球6,000。CRP 0.3 mg/dL。オージオグラムでは右耳に中等度の感音難聴を認める。初診時の右耳介の写真を別に示す。その他に神経症状を認めない。 患者への説明として正しいのはどれか。

- a.「細菌が入りました」
- b.「中耳炎が原因です」
- c.「ウイルスが原因です」
- d.「脳の血管が閉塞しています」
- e.「悪性腫瘍の可能性があります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
耳介の帯状疱疹、同側の末梢性顔面神経麻痺、感音難聴やめまいなどの内耳症状がそろえばRamsay Hunt症候群と診断でき、原因は膝神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化です。発熱や炎症反応がないこと、鼓膜が正常であること、突然発症でなく他の神経症状がないこと、緩徐進行でないことから、細菌感染・中耳炎・脳血管障害・悪性腫瘍は原因として考えにくくなります。治療は抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドの早期併用が基本で、Bell麻痺より予後が悪く、病的共同運動などの後遺症を残すことがあります。皮疹が遅れて出る例や三徴のそろわない不全型もあるため、顔面神経麻痺を診たら耳介や口腔の皮疹と聴力を必ず確認する姿勢が、正確な診断と患者さんへの適切な説明につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・55歳女性。数日前から右耳痛が先行し、今朝から右顔面神経麻痺とめまいが出現した。 ・体温36.8℃、白血球6,000、CRP 0.3 mg/dL:明らかな細菌感染を示す発熱や炎症反応の上昇はない。 ・両側鼓膜正常:中耳炎は否定的である。 ・オージオグラムで右耳に中等度の感音難聴:内耳(蝸牛)または蝸牛神経の障害を示す。めまいは前庭の障害を示す。 ・右耳介の写真:耳甲介から外耳道入口部の周囲に発赤があり、その上に小水疱やびらん・痂皮が集簇している。帯状疱疹の皮疹である。 ・顔面・聴覚・前庭以外の神経症状はない。
診断へのプロセス
耳介(外耳道周囲)の帯状疱疹、同側の末梢性顔面神経麻痺、内耳障害(感音難聴・めまい)の三つがそろっており、Ramsay Hunt症候群(ハント症候群)と診断できる。三徴がそろうものは完全型、一部を欠くものは不全型と呼ばれる。耳痛は皮疹や麻痺に先行して現れることが多く、本例の経過もこれに一致する。 Ramsay Hunt症候群は、小児期の水痘の後に神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢・ストレス・免疫低下などを契機に膝神経節(顔面神経の感覚神経節)で再活性化して起こる。炎症は顔面神経に沿って広がり、側頭骨内で近接する内耳神経(蝸牛神経・前庭神経)にも波及するため、難聴やめまいを伴う。 鑑別として、細菌性中耳炎や真珠腫による顔面神経麻痺は鼓膜所見に異常があるはずで、本例とは合わない。脳血管障害(特に脳幹梗塞)は突然発症し、他の脳神経症状、運動麻痺、感覚障害、小脳症状などを伴うことが多く、耳介の水疱も説明できない。腫瘍(聴神経腫瘍、顔面神経鞘腫、耳下腺悪性腫瘍など)による麻痺は一般に緩徐進行性で、耳介の帯状疱疹とは結びつかない。
設問への考え方
患者への説明として正しいのは、原因がウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化)であることである。治療は抗ウイルス薬(バラシクロビル、アシクロビル、ファムシクロビルなど)と副腎皮質ステロイドの早期併用が基本である。
選択肢考察
- ×a. 「細菌が入りました」
本例は発熱がなく、白血球数・CRPもほぼ正常で、細菌感染を示す所見はない。耳介の小水疱の集簇は帯状疱疹に特徴的な皮疹であり、原因はウイルスである。細菌性の中耳炎や内耳炎から顔面神経麻痺や難聴が生じることはあるが、その場合に耳介の帯状疱疹は生じない。
- ×b. 「中耳炎が原因です」
急性中耳炎や真珠腫性中耳炎でも顔面神経麻痺を合併することはあるが、その場合は鼓膜の発赤・膨隆・穿孔や真珠腫などの異常所見がみられる。本例は両側の鼓膜に異常がなく、中耳炎は考えられない。また中耳炎では耳介の水疱は説明できない。
- ○c. 「ウイルスが原因です」
耳介の帯状疱疹、同側の末梢性顔面神経麻痺、感音難聴・めまいという三徴がそろった完全型のRamsay Hunt症候群である。原因は、膝神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化であり、「ウイルスが原因です」という説明が正しい。治療は抗ウイルス薬と副腎皮質ステロイドの併用を早期に開始する。
- ×d. 「脳の血管が閉塞しています」
脳梗塞は突然発症するのが通常であり、本例のように耳痛が数日先行してから麻痺が出る経過とは合わない。脳幹梗塞で顔面神経麻痺やめまい、難聴が生じる場合でも、多くは他の脳神経症状(眼球運動障害、嚥下障害など)、四肢の運動麻痺・感覚障害、小脳失調などを伴う。本例は顔面神経と内耳神経以外の神経症状がなく、耳介の水疱も脳血管障害では説明できない。
- ×e. 「悪性腫瘍の可能性があります」
耳下腺悪性腫瘍、側頭骨腫瘍、転移性腫瘍、顔面神経鞘腫などでも顔面神経麻痺は起こるが、一般に緩徐進行性で、本例のような急性発症や耳介の帯状疱疹は説明できない。本例の症状は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化で一元的に説明でき、悪性腫瘍を原因として説明するのは誤りである。帯状疱疹は免疫低下を背景に発症することがあるため、全身状態や基礎疾患には配慮するが、それは本例の症状の原因説明とは別の話である。
Ramsay Hunt症候群(ハント症候群)
・病因:膝神経節に潜伏感染していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化。 ・三徴:①耳介・外耳道の帯状疱疹(発赤と小水疱)、②末梢性顔面神経麻痺、③第VIII脳神経症状(感音難聴、耳鳴、めまい)。三徴がそろわない不全型も多く、皮疹が麻痺より遅れて出ることもある。耳痛が先行することが多い。 ・その他:舌の前2/3の味覚障害、涙液分泌低下、聴覚過敏(アブミ骨筋神経麻痺による)など、顔面神経の障害部位に応じた症状を伴いうる。頸部や口腔内(軟口蓋など)に皮疹がみられることもある。 ・予後:Bell麻痺より不良で、完全回復率は低い。回復過程で病的共同運動(口を動かすと目が閉じるなど)やワニの涙(食事時の流涙)といった後遺症を残すことがある。 ・治療:抗ウイルス薬(バラシクロビル、ファムシクロビル、重症例ではアシクロビル点滴など)と副腎皮質ステロイドの併用を、できるだけ早期に開始する。めまいには対症療法を行う。
顔面神経麻痺の鑑別
・中枢性(脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など):前額部のしわ寄せが保たれる(前額部は両側の大脳皮質から支配を受けるため)。他の神経症状を伴いやすい。 ・末梢性:前額部を含めた顔面半側全体の麻痺。 ─Bell麻痺:最も多い。原因の多くは単純ヘルペスウイルス1型の再活性化と考えられている。皮疹や難聴を伴わない。 ─Ramsay Hunt症候群:耳介の帯状疱疹と内耳症状を伴う。 ─耳疾患によるもの:急性中耳炎、真珠腫性中耳炎、側頭骨骨折など。鼓膜所見や外傷歴で判別。 ─腫瘍性:耳下腺悪性腫瘍、顔面神経鞘腫、聴神経腫瘍など。緩徐進行。 ─その他:糖尿病、サルコイドーシス、Guillain-Barré症候群(両側性のことがある)など。
顔面神経の主な機能
表情筋の運動、アブミ骨筋(大きな音への反射)、舌の前2/3の味覚(鼓索神経)、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌(副交感神経)、外耳道周囲の一部の皮膚感覚。
POINT
・耳介の帯状疱疹+末梢性顔面神経麻痺+内耳症状(感音難聴・めまい)=Ramsay Hunt症候群。 ・原因は膝神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化。 ・治療は抗ウイルス薬+副腎皮質ステロイドを早期に。Bell麻痺より予後不良。 ・鼓膜正常なら中耳炎は否定的。突然発症でなく他の脳神経・神経症状がなければ脳血管障害は考えにくい。
