膿は出すしかない―赤く腫れて痛む肛門周囲膿瘍に、まず切開排膿を
第107回医師国家試験 I問題 第9問
国試問題にチャレンジ
発赤,腫脹および疼痛が強い肛門周囲膿瘍でまず行うべき対応はどれか。
- a.絶食
- b.硬化療法
- c.切開排膿
- d.痔瘻根治手術
- e.人工肛門造設術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肛門周囲膿瘍は、肛門陰窩から肛門腺に感染が起こって生じることが多く、膿瘍の位置により皮下・括約筋間・坐骨直腸窩・骨盤直腸窩などに分類されます。膿のたまった腔には抗菌薬が届きにくいため、治療の原則はドレナージであり、発赤・腫脹・強い疼痛を伴う膿瘍にはまず切開排膿を行います。絶食や硬化療法は膿瘍の治療にはならず、痔瘻根治手術は炎症が落ち着き瘻管が確認されてから行い、人工肛門はFournier壊疽やCrohn病の複雑病変などに限って検討されます。糖尿病などを背景とした重症化や、多発・複雑な痔瘻の背後にあるCrohn病にも注意が必要です。「膿瘍はまず出す」という原則と肛門疾患ごとの治療の使い分けは、外科・救急の現場で迷わず初期対応するための基本となります。
解答・解説
正解はcです
肛門周囲膿瘍は、肛門や直腸の周りに膿がたまる病気である。多くの場合、歯状線にある肛門陰窩(小さなくぼみ)から細菌が入り込み、そこに開口している肛門腺に感染が起こることで始まる(crypt-glandular説)。感染は内括約筋と外括約筋の間を中心に広がり、膿瘍の位置によって次のように分類される。 ・皮下膿瘍 ・括約筋間膿瘍(低位・高位) ・坐骨直腸窩膿瘍 ・骨盤直腸窩膿瘍 症状は、肛門周囲の痛み、腫れ、発赤、発熱である。膿瘍が皮膚に近いほど、発赤・腫脹・圧痛がはっきりする。深いところにある膿瘍では外見上の変化が乏しく、深部の鈍い痛みや発熱が主な症状になる。 膿がたまった腔には、周りから血流が届きにくい。そのため抗菌薬が十分に届かず、抗菌薬だけでは治らないのが膿瘍治療の大原則である。すなわち、膿を外へ出すこと(ドレナージ)が治療の基本となる。本問のように、発赤、腫脹、強い疼痛がそろった膿瘍は、表層近くで膿がたまり、内圧が高まった状態である。切開すれば速やかに痛みが和らぎ、放置すれば感染が周りに広がる。したがって、まず行うべきなのは切開排膿である。
選択肢考察
- ×a. 絶食
絶食にすれば便の量は減るかもしれない。しかし、すでに形成された膿瘍を改善する効果はなく、治療にはならない。肛門周囲膿瘍の患者は、通常は食事をとってかまわない。絶食は、腸閉塞(イレウス)、急性膵炎、消化管出血などで、腸管を安静に保つことが必要な病態に用いられる対応である。ちなみにイレウスでも、絶食だけでは不十分なことが多い。胃管やイレウス管で腸管内を減圧することが必要になる。
- ×b. 硬化療法
硬化療法は、硬化剤を注射して血管や組織を固め、縮ませる治療である。肛門疾患では、内痔核に対するALTA(硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸)療法などがこれにあたる。消化器領域では、食道・胃静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法(EIS)も代表的である。感染によって膿がたまった膿瘍には効果がなく、適応にならない。
- ○c. 切開排膿
膿瘍治療の基本は、膿を体の外へ出すドレナージである。発赤、腫脹、強い疼痛を伴う肛門周囲膿瘍は、皮膚に近い位置で膿が張りつめた状態にある。局所麻酔下(深い膿瘍では腰椎麻酔などの下)に切開して膿を出せば、痛みは速やかに軽くなる。さらに、坐骨直腸窩など周囲の組織への感染の広がりや、敗血症への進展を防ぐことができる。抗菌薬は、糖尿病や免疫不全のある患者、蜂窩織炎を広く伴う場合などに補助として使うが、ドレナージの代わりにはならない。したがって、まず行うべき対応である。
- ×d. 痔瘻根治手術
肛門周囲膿瘍が自然に破れたり切開されたりすると、感染の入口である原発口(肛門陰窩)と、皮膚側の出口である二次口とをつなぐ管(瘻管)が残ることがある。これが痔瘻であり、切開排膿後の患者の一部が痔瘻に移行する。痔瘻の根治手術には、瘻管切開開放術(lay open法)、括約筋を温存する術式、シートン法などがある。ただし、急性炎症の強い時期は組織の腫れや炎症のために、瘻管の走行や原発口を正確にとらえにくい。無理に行えば括約筋を傷つけて便失禁を招く危険がある。そのため、まず切開排膿で炎症を抑え、瘻管ができたことを確認してから、炎症が落ち着いた時期に根治手術を行うのが一般的である。最初の対応ではない。
- ×e. 人工肛門造設術
通常の肛門周囲膿瘍は、切開排膿で対処でき、人工肛門を造設する必要はない。人工肛門によって便の通り道を変えることが検討されるのは、限られた場合である。例えば、会陰部から陰部に広がる壊死性軟部組織感染症(Fournier壊疽)で創部の汚染を避ける必要がある場合がある。また、Crohn病に伴う難治性で複雑な肛門部病変や、直腸膣瘻などの場合も検討の対象となる。最初に行うべき対応ではない。
肛門周囲膿瘍の分類(膿瘍の位置による)
・皮下膿瘍:肛門縁の皮下にできる。発赤・腫脹・圧痛がはっきりしている。 ・粘膜下膿瘍:直腸粘膜の下にできる。 ・括約筋間膿瘍(低位・高位):内括約筋と外括約筋の間にできる。頻度が最も高い。 ・坐骨直腸窩膿瘍:外括約筋の外側にある坐骨直腸窩に広がる。肛門の後方で左右に広がると馬蹄形膿瘍となる。 ・骨盤直腸窩膿瘍:肛門挙筋より上にできる。まれであるが、深くて診断しにくく、難治性の痔瘻になりやすい。 深部の膿瘍は外から見て分かりにくいため、直腸指診、経肛門的超音波、CT、MRIで広がりを評価する。
肛門周囲膿瘍と痔瘻の関係
・肛門周囲膿瘍は急性期の状態であり、痔瘻はその後に残った慢性期の瘻管である。一連の病態として理解する。 ・痔瘻は男性に多い。長く続く痔瘻は、まれに癌化する(痔瘻癌)ことがある。 ・若年者で多発する痔瘻や、複雑な痔瘻をみたときは、Crohn病を疑う。
リスク因子・注意点
・下痢、糖尿病、免疫不全、Crohn病がリスク因子となる。 ・糖尿病患者などでは、Fournier壊疽のような重症の壊死性筋膜炎に進むことがある。急いで広範囲のデブリドマンを行う必要がある。
肛門疾患の治療の整理
・内痔核:保存療法、ゴム輪結紮、硬化療法(ALTA)、結紮切除術 ・肛門周囲膿瘍:切開排膿 ・痔瘻:根治手術(lay open法、括約筋温存術、シートン法) ・裂肛:保存療法、慢性化すれば内括約筋側方切開術など
POINT
・膿瘍治療の原則はドレナージであり、抗菌薬だけでは治らない。 ・発赤・腫脹・強い疼痛を伴う肛門周囲膿瘍には、まず切開排膿を行う。 ・肛門周囲膿瘍は痔瘻に移行しうる。痔瘻根治手術は、炎症が落ち着いてから行う。 ・硬化療法の対象は内痔核や静脈瘤である。
