StudyMed医師国家試験

赤ちゃんのおしりに膿がたまったら―波動が教える「出す」治療

第120回医師国家試験 A問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第18問

1か月の男児。肛門部の異常に気付いた母親に連れられて受診した。体温37.6℃。心拍数100/分,整。血圧80/46mmHg。呼吸数20/分。腹部は軽度膨隆している。腸雑音に異常を認めない。肛門周囲の発赤部は柔らかく,波動を認め,触れると痛がる様子がある。肛門部の写真を下に示す。  適切な対応はどれか。

第120回 A問題 第18問の問題画像
  1. a.絶食
  2. b.沐浴の中止
  3. c.消炎鎮痛薬の内服
  4. d.発赤部の切開排膿
  5. e.副腎皮質ステロイド軟膏の塗布

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、生後1か月の赤ちゃんのおしりにできた病変への対応を問う問題だ。注目すべきは「乳児の男児」「肛門の側方」、そして「波動を触れる」という3点。写真では肛門のすぐ横に、限局した発赤と腫れがある。まず、何が起きていると考える?
医学生医学生
赤くて痛がっているので、おむつかぶれかなと最初は思いました。
ドクタードクター
日常的によく見る病気だから、そう思うのは自然だね。でも、おむつ皮膚炎はおむつの当たる範囲に広がる皮膚の炎症で、膿はたまらないし波動も触れない。今回のように一か所が盛り上がって柔らかく、押すと中の液体が動く感じがあるのは、皮下に膿がたまった状態、つまり膿瘍ができていることを意味するんだ。
医学生医学生
肛門周囲膿瘍ということですね。でも、赤ちゃんでもなるんですか。外科の講義では成人の痔瘻の話として習いました。
ドクタードクター
実は乳児、特に生後数か月までの男児に多い病気なんだ。肛門管の歯状線には肛門陰窩という小さなくぼみがあって、そこから腸内細菌が肛門腺に入り込み、皮下に感染が広がって膿瘍を作る。男児に多いのは、アンドロゲンの影響で陰窩が深くなりやすいためと推定されている。好発部位は肛門の側方、3時・9時方向だ。
医学生医学生
熱が少しあって、お腹も少し膨らんでいますが、全身の感染は心配しなくていいでしょうか。
ドクタードクター
いい確認だ。微熱はあるけれど、心拍数や血圧、呼吸数はおおむね許容範囲でショックの所見はない。乳児のお腹はもともと膨らんで見えやすく、腸雑音も正常だから、腸閉塞や腹膜炎を疑う状況ではない。局所の感染症として対応すればいい。では、膿瘍ができている場合の治療の原則は?
医学生医学生
感染なので、まずは抗菌薬や消炎薬で様子を見る……では足りないんですか。
ドクタードクター
そこがポイント。膿瘍は炎症性の壁で囲まれていて、中は血流が乏しいから薬が届きにくい。波動を触れるほど膿がたまっていたら、外に出さない限りなかなか治らない。だから最も適切なのは発赤部の切開排膿。小さく切開して膿を出すと、痛みや熱は速やかによくなるんだ。
医学生医学生
消炎鎮痛薬は痛みを和らげるだけで、膿そのものは取れないということですね。
ドクタードクター
その通り、対症療法にすぎない。それに生後1か月の赤ちゃんには、NSAIDsは一般に使わず、解熱鎮痛が必要ならアセトアミノフェンを選ぶのが原則だ。では、ステロイド軟膏を塗るのはどうだろう。
医学生医学生
炎症を抑えるならよさそうにも見えますが、局所の免疫を抑えてしまいますよね。
ドクタードクター
そう。ステロイド外用薬は湿疹やおむつ皮膚炎のような非感染性の炎症に使うもので、細菌感染の膿瘍に塗ると感染を悪化・遷延させるおそれがある。
医学生医学生
絶食や沐浴の中止も、なんとなく安静にさせるイメージで選んでしまいそうです。
ドクタードクター
ひっかけになりやすいところだ。絶食が必要なのは腸閉塞や消化管穿孔など腸を休ませるべき病態で、皮下の局所感染には不要。むしろ乳児を絶食させると脱水や低血糖のリスクがある。沐浴は便の汚れを洗い流して患部を清潔に保ち、切開後の排膿も促すから、続けるべきなんだ。
医学生医学生
小児科の実習で、お母さんに「お風呂はどうしたらいいですか」と聞かれていた場面を思い出しました。答えは「むしろ入れてあげてください」なんですね。
ドクタードクター
そういう説明ができると保護者も安心する。発展知識として、膿瘍が破れたり切開されたりした後、陰窩と皮膚の間に管が残ると乳児痔瘻になる。再発を繰り返しやすいけれど、多くは1〜2歳ごろまでに自然に治るので、乳児期には瘻管の根治手術は通常行わず、保存的に経過をみる。わが国では排膿散及湯などの漢方薬が使われることもあるよ。
医学生医学生
成人の痔瘻は自然には治りにくくて手術になることが多い、という点が違いますね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ臨床で大事なのは、年長児や女児、再発を繰り返す例、多発例では、クローン病や慢性肉芽腫症のような免疫不全を考えて精査すること。典型像から外れたら一歩立ち止まる、という姿勢を持っておこう。

まとめ

生後数か月の男児で肛門の側方に発赤・腫脹・圧痛があれば、乳児の肛門周囲膿瘍を考えます。波動を触れることは膿瘍が完成していることを示し、膿瘍内には薬が届きにくいため、治療の基本は切開排膿です。患部の清潔保持のため沐浴は継続し、授乳制限も不要で、感染巣へのステロイド外用は避けるべきです。乳児痔瘻に移行して再発を繰り返すこともありますが、多くは1〜2歳ごろまでに自然治癒するため乳児期の根治手術は通常行わず、年長児・女児・多発例ではクローン病や免疫不全の精査を考えます。「膿は出す」という外科の原則と乳児特有の自然経過を押さえることは、保護者への適切な説明にもつながります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・生後1か月の男児で、母親が肛門部の異常に気付いて受診している。 ・体温37.6℃と軽度の発熱がある。心拍数100/分、血圧80/46mmHg、呼吸数20/分は乳児としておおむね許容範囲内で、ショックや敗血症を示す所見はない。 ・腹部は軽度膨隆しているが、腸雑音は正常である。乳児の腹部はもともと膨らんで見えやすく、腸閉塞や腹膜炎を思わせる所見ではない。 ・肛門周囲に発赤があり、その部分は柔らかく波動(指で押すと内部の液体が移動する感触)を触れ、圧痛がある。写真でも肛門の側方に限局した発赤・腫脹がみられる。

診断へのプロセス

発赤・腫脹・熱感・疼痛という炎症所見に加え、波動を触れることは、皮下に膿がたまった状態、すなわち膿瘍が完成していることを示す。乳児期早期の男児で、肛門の側方に生じた膿瘍という組み合わせは、乳児の肛門周囲膿瘍に典型的である。全身状態は保たれており、局所の感染症として扱えばよい。 鑑別としては、おむつ皮膚炎(膿瘍を作らず、波動を触れない)、毛巣洞や皮膚の化膿性疾患、まれにクローン病や免疫不全に伴う膿瘍が挙がるが、本例の年齢・性別・部位からはまず通常の乳児肛門周囲膿瘍を考える。

設問の考え方

膿瘍が形成されている(波動を触れる)段階では、抗菌薬や消炎薬だけでは膿は吸収されにくく、膿を体外に出すことが治療の基本となる。したがって、発赤部を切開して排膿する処置が最も適切な対応である。一方で、日常生活(授乳・入浴)を制限する必要はなく、感染を悪化させるような処置は避ける。

選択肢考察

  1. ×a.  絶食

    絶食が必要になるのは、腸閉塞、消化管穿孔、壊死性腸炎など腸管を安静にすべき病態である。本例は腸雑音が正常で、腹部の軽度膨隆も乳児では生理的範囲と考えられ、消化管の異常を示す所見はない。肛門周囲膿瘍は皮膚・皮下の局所感染であり、授乳は普段どおり継続してよい。むしろ乳児で絶食にすると脱水や低血糖のリスクが生じる。

  2. ×b.  沐浴の中止

    肛門周囲膿瘍では、患部を清潔に保つことが治療・再発予防の両面で重要である。沐浴や座浴は便による汚染を洗い流し、切開後の排膿を促す効果もあるため、むしろ積極的に続けるべきである。中止する理由はない。

  3. ×c.  消炎鎮痛薬の内服

    消炎鎮痛薬は痛みや発熱を和らげる対症療法にすぎず、膿瘍腔にたまった膿を取り除くことはできないため、根本的な治療にならない。また、生後1か月の乳児では非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は一般に用いず、解熱鎮痛が必要な場合はアセトアミノフェンを選ぶのが原則である。波動を触れる完成した膿瘍に対する第一の対応としては不適切である。

  4. ○d.  発赤部の切開排膿

    波動を触れることから膿瘍腔が形成されていると判断できる。膿瘍は周囲を炎症性の壁で囲まれ、血流が乏しいため抗菌薬が届きにくく、膿を排出しない限り治りにくい。発赤・波動のある部位を小さく切開して排膿すると、疼痛や発熱は速やかに軽快する。乳児の肛門周囲膿瘍は自然に破れて(自潰して)排膿し軽快することもあるが、切開排膿のほうが症状の改善が早く、本例のように波動が明らかな場合に最も適切な対応である。処置後は清潔保持を続け、再発や瘻孔化がないか経過を観察する。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド軟膏の塗布

    副腎皮質ステロイドは局所の免疫反応を抑えるため、細菌感染による膿瘍に塗布すると感染を増悪・遷延させるおそれがある。ステロイド外用薬は湿疹やおむつ皮膚炎など非感染性の炎症に用いるもので、細菌感染巣には禁忌に近い。膿瘍に対する治療としては誤りである。

乳児の肛門周囲膿瘍・乳児痔瘻

・病態: 肛門管の歯状線にある肛門陰窩(小さなくぼみ)に細菌(大腸菌などの腸内細菌が多い)が入り込み、肛門腺を介して感染が肛門周囲の皮下に広がって膿瘍を作る。膿瘍が破れたり切開されたりした後、陰窩と皮膚の間に管(瘻管)が残ったものが乳児痔瘻である。 ・疫学: 生後6か月未満、特に生後数か月の乳児に多く、ほとんどが男児である。男児に多い理由として、母体由来や乳児自身のアンドロゲンの影響で肛門陰窩が深くなりやすいことが推定されている。 ・好発部位: 肛門の側方、時計方向でいう3時・9時方向に多い(砕石位表記)。 ・症状: 肛門周囲の発赤・腫脹・硬結、圧痛(おむつ交換や排便時に泣く)、微熱。膿瘍化すると波動を触れる。 ・治療: 膿瘍形成時は切開排膿が基本で、自潰を待つこともある。患部の清潔保持(沐浴・座浴)を行う。再発を繰り返しやすいが、多くは1〜2歳ごろまでに自然治癒するため、乳児期には瘻管の根治手術は通常行わず保存的に経過をみる。わが国では排膿散及湯や十全大補湯などの漢方薬が用いられることもある。抗菌薬は周囲に蜂窩織炎が広がる場合などに補助的に使用する。 ・注意点: 年長児や女児、再発を繰り返す例、多発例では、クローン病や免疫不全症(慢性肉芽腫症など)の可能性を考えて精査する。

成人の肛門周囲膿瘍との違い

成人でも肛門陰窩からの感染(crypto-glandular infection)が主な原因で、治療は切開排膿である。ただし成人では瘻管が自然に閉じることは少なく、痔瘻に移行した場合は手術(瘻管切開開放術、シートン法など)が必要になることが多い点が乳児と異なる。

POINT

・乳児(特に生後6か月未満)の男児の肛門側方(3時・9時方向)の発赤・腫脹 → 肛門周囲膿瘍を考える。 ・波動を触れる=膿瘍が完成している → 治療の基本は切開排膿。 ・患部の清潔保持のため沐浴は継続し、授乳制限(絶食)も不要。 ・感染巣へのステロイド外用は禁忌に近い。 ・乳児痔瘻は再発しやすいが、多くは1〜2歳までに自然治癒するため、乳児期の根治手術は通常行わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。