健診の尿糖陽性、その裏に膵臓は隠れていないか―新規糖尿病で「最初の一手」を選ぶ
第120回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
54歳の男性。健診で尿糖陽性を指摘され来院した。喫煙は10本/日を30年間。飲酒は機会飲酒。父親が膵癌で死亡。身長170cm,体重90kg。BMI 31.1。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。胸腹部に異常を認めない。血液所見:赤血球458万,Hb 13.7g/dL,白血球6,700,血小板32万。血液生化学所見:AST 23U/L,ALT 25U/L,空腹時血糖180mg/dL,HbA1c 6.5%(基準4.9~6.0)。心電図は洞調律。胸部エックス線写真に異常を認めない。 まず行うべき検査はどれか。
- a.肝生検
- b.FDG-PET
- c.腹部超音波検査
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査〈ERCP〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
空腹時血糖126mg/dL以上とHbA1c 6.5%以上が同一採血でそろえば、1回の検査で糖尿病と診断できます。肥満を伴う中年の糖尿病はまず2型を考えますが、新規診断時には膵癌などによる二次性糖尿病の可能性を一度は検討する必要があり、膵癌の家族歴・喫煙・肥満・糖尿病が重なる本例では膵病変の検索が求められます。その第一歩は、非侵襲的で外来ですぐ行え、膵腫瘤や主膵管拡張に加えて脂肪肝・胆石も評価できる腹部超音波検査です。異常や描出不良があれば造影CT、MRI・MRCP、超音波内視鏡へ進み、侵襲の大きいERCPや、高血糖で精度が落ちるFDG-PETは最初には選びません。糖尿病の新規発症や急な悪化を膵癌のサインとして捉える視点は、早期発見が難しい膵癌に向き合ううえで臨床的に重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・54歳の男性。健診で尿糖陽性を指摘された。自覚症状の記載はない。 ・空腹時血糖180mg/dL(126mg/dL以上)かつHbA1c 6.5%(6.5%以上)である。同一採血で血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型を示しているため、この1回の検査で糖尿病と診断できる。 ・身長170cm、体重90kg、BMI 31.1で、日本肥満学会の基準では肥満2度(BMI 30以上35未満)にあたる。 ・喫煙は10本/日×30年で、ブリンクマン指数(1日本数×年数)は300、パック・イヤー(1日箱数×年数)では15である。 ・父親が膵癌で死亡している(第1度近親者の膵癌家族歴)。 ・貧血・黄疸はなく、AST・ALTは正常。心電図・胸部エックス線写真にも異常はない。
考え方
肥満を伴う中年男性の糖尿病であり、まず考えるのは生活習慣を背景とした2型糖尿病である。しかし糖尿病を新たに診断したときには、「二次性の糖尿病(他の疾患が原因で生じた糖尿病)が隠れていないか」を一度は考える必要がある。特に膵癌は、腫瘍により膵内分泌機能が障害されて耐糖能が悪化するため、糖尿病の新規発症や急な増悪を契機に見つかることがある。 本例には、膵癌の家族歴、喫煙、肥満、糖尿病という膵癌の危険因子が複数重なっている。したがって、糖尿病の治療を始めると同時に、膵癌を含む膵病変の有無を確かめるべきである。 その最初の検査として選ぶべきは、非侵襲的で簡便、外来ですぐに行え、膵臓(膵腫瘤、主膵管の拡張、嚢胞性病変)だけでなく、肥満・糖尿病に合併しやすい脂肪肝や胆石も同時に評価できる腹部超音波検査である。異常があれば、あるいは描出が不十分であれば、造影CT、MRI(MRCP)、超音波内視鏡(EUS)へと段階的に進める。侵襲の大きい検査や特殊な検査から始めるのは順序として誤りである。
選択肢考察
- ×a. 肝生検
肝生検は肝臓に針を刺して組織を採取する侵襲的な検査で、出血などの合併症の危険がある。慢性肝炎の進行度評価、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎の診断、腫瘍の組織診断、脂肪性肝疾患における脂肪肝炎の診断などに用いられる。本例はAST・ALTが正常で、肝疾患を強く疑う所見はなく、画像検査も行われていない段階で最初に選ぶ検査ではない。
- ×b. FDG-PET
FDG-PETはブドウ糖類似物質(FDG)を投与し、糖代謝が亢進した部位(悪性腫瘍や炎症)を画像化する検査である。悪性腫瘍の病期診断や転移・再発の検索には有用だが、放射線被曝があり費用も高く、スクリーニングの初期検査には用いない。さらに、高血糖があると正常組織と腫瘍の間でFDG集積の差が出にくくなり(血中のブドウ糖とFDGが競合するため)、診断精度が低下する点も、血糖180mg/dLの本例では不利である。
- ○c. 腹部超音波検査
本例は糖尿病の新規診断例であり、膵癌の家族歴・喫煙・肥満という危険因子をあわせもつため、膵癌を含む膵病変の検索が必要である。腹部超音波検査は被曝がなく非侵襲的で、外来で繰り返し施行でき、膵腫瘤、主膵管拡張、膵嚢胞などを評価できる。同時に、肥満・糖尿病に伴いやすい脂肪肝や胆石などもチェックできる。膵尾部や肥満例では描出が難しいことがあるため、所見や描出状況に応じて造影CT、MRI/MRCP、超音波内視鏡(EUS)へと進めるが、その入り口として最初に行う検査として最も適切である。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査は食道・胃・十二指腸の粘膜病変(食道癌、胃癌、消化性潰瘍、逆流性食道炎など)の診断に用いる。本例には腹痛、心窩部不快感、貧血、消化管出血などの上部消化管疾患を疑わせる所見はない。また、膵実質や膵管を観察することはできないため、本例で問題となる膵病変の評価には適さない。
- ×e. 内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査〈ERCP〉
ERCPは内視鏡を十二指腸まで進め、十二指腸乳頭から造影剤を注入して胆管・膵管を直接造影する検査である。膵液細胞診や胆管ドレナージなど診断・治療に役立つが、検査後膵炎(ERCP後膵炎)、出血、穿孔などの合併症があり、侵襲が大きい。他の画像検査で膵管の異常が見つかり、細胞診や処置が必要となった段階で行うもので、最初に行う検査ではない。
糖尿病の診断基準(日本糖尿病学会)
糖尿病型の判定: ①空腹時血糖126mg/dL以上、②75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、③随時血糖200mg/dL以上、④HbA1c 6.5%以上 のいずれか。 ・血糖値(①〜③のいずれか)とHbA1c(④)が同一採血で糖尿病型であれば、1回の検査で糖尿病と診断できる(本例)。 ・血糖値が糖尿病型で、口渇・多飲・多尿・体重減少などの典型的症状、または確実な糖尿病網膜症があれば、1回で診断できる。 ・それ以外は別の日に再検査し、再び糖尿病型であれば診断する(ただしHbA1cのみの反復では診断できない)。
糖尿病の成因分類
1型糖尿病、2型糖尿病、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病に分けられる。「その他」には膵外分泌疾患(膵癌、慢性膵炎、膵切除後など)、内分泌疾患(クッシング症候群、先端巨大症、褐色細胞腫、原発性アルドステロン症など)、肝疾患、薬剤(副腎皮質ステロイドなど)、遺伝子異常などが含まれる。
膵癌の危険因子
・家族歴(膵癌患者のいる家系、特に第1度近親者に複数いる場合はリスクが高い)、遺伝性疾患(BRCA1/2変異を伴う遺伝性乳癌卵巣癌症候群、Peutz-Jeghers症候群、リンチ症候群、遺伝性膵炎など) ・糖尿病(特に新規発症・急な増悪)、肥満 ・喫煙、大量飲酒 ・慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や膵嚢胞 膵癌診療ガイドラインでは、危険因子を複数有する人を高危険群とし、腹部超音波検査や腫瘍マーカー(CA19-9など)から始め、造影CT・MRI(MRCP)・超音波内視鏡(EUS)で精査する流れが示されている。小さな膵癌では、腫瘍そのものより主膵管拡張や小さな嚢胞などの間接所見が手がかりになる。
肥満度分類(日本肥満学会)
BMI 18.5未満: 低体重、18.5以上25未満: 普通体重、25以上30未満: 肥満1度、30以上35未満: 肥満2度、35以上40未満: 肥満3度、40以上: 肥満4度(35以上を高度肥満とする)。
POINT
・空腹時血糖126mg/dL以上とHbA1c 6.5%以上が同一採血でそろえば、1回で糖尿病と診断できる。 ・糖尿病の新規発症・急な悪化は膵癌の手がかりとなりうる。家族歴・喫煙・肥満などの危険因子が重なれば膵の画像検索を行う。 ・膵病変検索の第一歩は非侵襲的な腹部超音波検査。続いて造影CT、MRI/MRCP、EUSへ進む。 ・ERCPは膵炎など合併症があり、FDG-PETは病期診断向けで高血糖時は精度が落ちる。いずれも最初に行う検査ではない。
