診断の次は「どれだけ重いか」―急性膵炎の重症度を決める画像検査はひとつだけ
第119回医師国家試験 A問題 第26問
国試問題にチャレンジ
60歳の女性。心窩部痛を主訴に来院した。昨夜,大量飲酒後に激しい心窩部痛があり,軽快しないため受診した。生来健康である。飲酒は焼酎4合/日を30年間。意識は清明。体温37.2℃。脈拍100/分,整。血圧160/92mmHg。呼吸数20/分。腸雑音は減弱している。心窩部に圧痛を認めるが反跳痛や筋性防御を認めない。血液所見:赤血球420万,Hb 12.2g/dL,Ht 38%,白血球12,800,血小板22万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン4.2g/dL,総ビリルビン1.0mg/dL,直接ビリルビン0.4mg/dL,AST 40U/L,ALT 62U/L,LD 240U/L(基準124~222),アミラーゼ2,048U/L(基準44~132),尿素窒素22mg/dL,クレアチニン1.1mg/dL,Na 136mEq/L,K 4.0mEq/L,Cl 104mEq/L。CRP 1.6mg/dL。 この患者で重症度判定に必要な画像検査はどれか。
- a.腹部造影CT
- b.腹部超音波検査
- c.超音波内視鏡検査
- d.磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉
- e.内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
急性膵炎は、上腹部の急性腹痛と圧痛、膵酵素上昇、画像所見のうち2項目以上で診断し、診断後は直ちに重症度を判定して治療の場と方針を決めます。日本の重症度判定基準は9項目の予後因子(3点以上で重症)と造影CT Grade(Grade2以上で重症)の2本立てで、画像で評価するのは造影CTによる炎症の膵外進展度と膵実質の造影不良域(膵壊死)です。腹部超音波は初期診療や胆石性膵炎の成因評価に、超音波内視鏡やMRCPは結石・腫瘍・膵管異常などの成因検索に用いますが、重症度判定には使いません。ERCPはそれ自体が膵炎を起こしうるため診断目的では行わず、胆管炎を伴う胆石性膵炎などに治療目的で考慮します。重症度は経時的に変化するため予後因子と造影CTを繰り返し評価する姿勢が、膵炎診療で患者の命を守る基本になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・患者背景:60歳女性。焼酎4合/日を30年間という長期の大量飲酒歴がある。 ・現病歴:前夜の大量飲酒後に激しい心窩部痛が出現し、軽快しない。 ・バイタル:体温37.2℃、脈拍100/分(頻脈)、血圧160/92mmHg(疼痛による上昇と考えられる)、呼吸数20/分。意識は清明で、ショックはない。 ・腹部所見:腸雑音の減弱(炎症が腸管に及んで生じる麻痺性イレウスを示唆)。心窩部に圧痛はあるが、反跳痛・筋性防御はなく、汎発性腹膜炎や消化管穿孔を示す所見に乏しい。 ・検査:アミラーゼ2,048U/Lと基準上限の約15倍に上昇。白血球12,800/μL、CRP 1.6mg/dLと炎症反応は軽度。ALT 62U/L・LD 240U/Lと軽度上昇、尿素窒素22mg/dL・クレアチニン1.1mg/dLとわずかに高めである。総ビリルビンは正常で、胆道閉塞を示唆する所見はない。
診断へのプロセス
心窩部痛の鑑別としては、胃・十二指腸潰瘍(穿孔を含む)、胆石・胆嚢炎、急性膵炎、急性心筋梗塞、大動脈解離・瘤などが挙がる。本例では、常習飲酒者が大量飲酒を契機に発症したこと、上腹部の持続痛と圧痛、血中膵酵素(アミラーゼ)の著明な上昇がそろっている。日本の急性膵炎診断基準(①上腹部の急性腹痛発作と圧痛、②血中または尿中の膵酵素上昇、③超音波・CT・MRIで急性膵炎に伴う異常所見、の3項目中2項目以上)のうち①②を満たすため、アルコール性急性膵炎と診断できる。
設問の考え方
急性膵炎は軽症の多くが保存的治療で改善する一方、重症例では膵壊死、多臓器不全、感染合併により致命率が高い。そのため診断がついたら直ちに重症度判定を行い、治療の場(一般病棟かICUか、高次施設への転送の要否)や治療方針を決める必要がある。日本の重症度判定基準(厚生労働省、2008年改訂)は「予後因子」と「造影CT Grade」の2本立てであり、どちらか一方でも基準を満たせば重症と判定する。このうち画像で評価するのは造影CT Gradeであり、炎症の膵外への広がりと、膵実質の造影不良域(膵壊死を示唆)を評価する。単純CTや超音波では膵実質の血流(造影不良域)を評価できないため、重症度判定に必要な画像検査は腹部造影CTである。 なお本例では、SIRS(全身性炎症反応症候群)の診断項目は脈拍>90/分と白血球>12,000/μLの2項目にとどまり(体温は38℃未満、呼吸数は20/分で>20/分を満たさない)、LDも基準上限の2倍未満であるため、予後因子は0点と考えられる。重症か否かの判定は造影CT所見に委ねられることになる。
選択肢考察
- ○a. 腹部造影CT
急性膵炎の重症度判定基準において、画像による評価項目として採用されているのは造影CT Gradeである。造影CTでは、炎症が膵外のどこまで進展しているか(前腎傍腔、結腸間膜根部、腎下極以遠)と、膵実質の造影不良域の範囲(膵を頭部・体部・尾部の3区域に分けて評価)を点数化する。合計2点以上(Grade2以上)は重症と判定される。造影不良域は膵壊死を反映し、感染性膵壊死などの合併症や予後の推定に重要である。造影剤使用時は腎機能や造影剤アレルギーに注意する。
- ×b. 腹部超音波検査
腹部超音波検査はベッドサイドで非侵襲的に繰り返し施行でき、膵腫大、膵周囲の液体貯留、胆嚢・総胆管結石(胆石性膵炎の成因評価)を確認するのに有用で、初期診療で行うべき検査である。しかし急性膵炎では麻痺性イレウスによる腸管ガスで膵が描出されにくいことが多く、膵実質の壊死(造影不良域)や炎症の広がりを定量的に評価できないため、重症度判定には用いない。
- ×c. 超音波内視鏡検査
超音波内視鏡検査(EUS)は胃・十二指腸内から膵や胆管を至近距離で観察でき、小さな総胆管結石、膵腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)など、急性膵炎の成因検索に有用である。また穿刺吸引による組織採取(EUS-FNA)や、被包化壊死に対するドレナージなどの治療にも用いられる。しかし重症度判定基準には含まれず、発症直後の重症度評価の目的で行う検査ではない。
- ×d. 磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉
MRCPは造影剤を使わずに胆管・膵管の形態を描出でき、総胆管結石、膵管の狭窄・拡張、膵胆管合流異常、IPMNなどの評価に優れる。急性膵炎では主に成因診断(特に胆石性膵炎の評価)に用いられるが、重症度判定基準に含まれる検査ではない。
- ×e. 内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉
ERCPは十二指腸乳頭から造影剤を注入して胆管・膵管を造影する侵襲的な検査であり、それ自体が膵炎の原因となる(ERCP後膵炎)。急性膵炎の診断や重症度判定の目的で行うことはなく、膵炎を悪化させる危険があるため行うべきではない。急性膵炎でERCPが考慮されるのは、胆管炎を合併した胆石性膵炎や、総胆管結石による胆道通過障害が持続する場合に、内視鏡的乳頭括約筋切開術などの治療目的で行うときに限られる。本例はアルコール性で胆道閉塞の所見もなく、適応はない。
急性膵炎の主な成因
アルコール性と胆石性が二大成因である。男性ではアルコール性、女性や高齢者では胆石性が多い傾向がある。そのほかERCP後、高トリグリセリド血症、薬剤、自己免疫性、膵腫瘍・IPMN、膵胆管合流異常などがある。
急性膵炎の重症度判定基準(厚生労働省、2008年)
1. 予後因子(各1点、3点以上で重症) ・BE≦−3mEq/L、またはショック(収縮期血圧≦80mmHg) ・PaO2≦60mmHg(room air)、または人工呼吸を要する呼吸不全 ・BUN≧40mg/dL(またはCr≧2mg/dL)、または乏尿(輸液後も1日尿量≦400mL) ・LDHが基準上限の2倍以上 ・血小板数≦10万/mm3 ・総Ca≦7.5mg/dL ・CRP≧15mg/dL ・SIRS診断基準の陽性項目数≧3 ・年齢≧70歳 2. 造影CT Grade ・炎症の膵外進展度:前腎傍腔=0点、結腸間膜根部=1点、腎下極以遠=2点 ・膵の造影不良域:膵を3区域に分け、各区域に限局または膵周辺のみ=0点、2区域にかかる=1点、2区域全体以上=2点 ・合計1点以下=Grade1、2点=Grade2、3点以上=Grade3。Grade2以上を重症とする。 予後因子3点以上、または造影CT Grade2以上のいずれかを満たせば重症急性膵炎と判定する。
初期治療の要点
十分な初期輸液(循環血漿量の維持)、除痛、呼吸・循環のモニタリングが基本である。重症例では集中治療が可能な施設での管理を考慮し、可能であれば早期(おおむね発症48時間以内)に経腸栄養を開始する。重症度は経時的に変化しうるため、予後因子は繰り返し評価し、造影CTも発症早期には壊死範囲が明らかでないことがあるため、経過に応じて再評価する。
POINT
・急性膵炎の診断基準:上腹部の急性腹痛と圧痛、血中・尿中膵酵素上昇、画像所見の3項目中2項目以上。 ・重症度判定は「予後因子(9項目、3点以上で重症)」と「造影CT Grade(Grade2以上で重症)」のいずれかで判定する。 ・重症度判定に用いる画像検査は造影CTであり、炎症の膵外進展度と膵の造影不良域(壊死)を評価する。 ・超音波、EUS、MRCPは主に診断・成因検索に用いる。 ・ERCPは膵炎を増悪させうるため診断・重症度判定目的では行わない(胆管炎合併の胆石性膵炎などに治療目的で行う)。
