膿が出きっても終わらない―「トンネル」が残る成人の痔瘻はなぜ自然に治らないのか
第118回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
成人の痔瘻で誤っているのはどれか。
- a.自然治癒する。
- b.Crohn病に合併する。
- c.肛門癌の原因になる。
- d.肛門周囲膿瘍で発症する。
- e.便意とは関係なく排膿する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
成人の痔瘻は、肛門陰窩から肛門腺への細菌感染で肛門周囲膿瘍が生じ、自壊や切開排膿の後に原発口と二次口を結ぶ瘻管が残ることで成立します。原発口から腸内細菌が入り続け、瘻管内面が上皮化・線維化するため成人では自然治癒はほとんど期待できず、根治にはlay-open法、括約筋温存術、シートン法などの手術が必要です。一方、乳児痔瘻は自然治癒しやすく保存的治療が基本であり、この違いが重要な鑑別点となります。症状は排便と無関係な排膿や下着の汚染で、若年者の多発性・難治性痔瘻ではCrohn病を、長期経過例で症状が変化した場合は痔瘻癌を念頭に置きます。病態の流れから自然経過と合併症を理解しておくことは、肛門疾患の診療で適切な治療方針を立てる土台になります。
解答・解説
正解はaです
成人の痔瘻(あな痔)の成り立ち・症状・合併症・自然経過を問う一般問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式である。 痔瘻の成り立ちは「肛門陰窩からの感染 → 肛門周囲膿瘍 → 瘻管形成」という流れで理解するとよい。歯状線にある肛門陰窩(肛門小窩)から細菌が肛門腺に入り込むと、感染が括約筋の間などに広がって膿がたまり、肛門周囲膿瘍となる。膿瘍が自然に破れるか切開排膿されると、急性期の痛みや発熱は治まる。しかし、肛門陰窩側の入口(原発口)から皮膚側の出口(二次口)までを結ぶトンネル状の通り道(瘻管)が残る。これが痔瘻である。 瘻管の内面は上皮化した肉芽組織で覆われ、原発口から腸内細菌が入り続けるため、成人では自然に閉じることはほとんどない。そのため、根治には手術(瘻管開放術〈lay-open法〉、括約筋温存術、シートン法など)が必要である。この自然経過を理解していれば、誤りの選択肢を判断できる。
選択肢考察
- ○a. 自然治癒する。
誤りであり、これが正解である。成人の痔瘻は、原発口から腸内容が入り続けることと、瘻管の内面が上皮化・線維化していることにより、自然治癒はまず期待できない。放置すると膿瘍の再燃を繰り返し、瘻管が枝分かれして複雑化することがある。そのため、根治的な治療は手術である。なお、乳児(主に生後数か月の男児)の痔瘻は自然治癒する傾向があり、まずは保存的に経過をみることが多い。乳児と成人で自然経過が異なる点が出題のポイントである。
- ×b. Crohn病に合併する。
正しい記述である。Crohn病では、痔瘻、肛門周囲膿瘍、裂肛、肛門潰瘍、浮腫状の皮垂(skin tag)などの肛門病変が高頻度にみられる。腸管の症状より先に肛門病変が見つかり、それがCrohn病診断のきっかけになることも少なくない。Crohn病に伴う痔瘻は、多発する、複雑な走行をとる、難治であるといった特徴をもつ。このため、若年者の多発性・難治性の痔瘻をみたらCrohn病を疑い、消化管の精査を行う。治療は、シートン法によるドレナージや抗菌薬で局所の感染を抑えたうえで、免疫調節薬や抗TNF-α抗体製剤などの生物学的製剤を併用する。痔瘻の基礎疾患としては、ほかに結核やHIV感染症なども知られている。
- ×c. 肛門癌の原因になる。
正しい記述である。長期間(一般に10年以上)持続した痔瘻では、慢性炎症を背景に瘻管から癌が発生することがある(痔瘻癌)。頻度は低いが、組織型は粘液癌を含む腺癌が多く、ゼリー状の粘液の排出、硬結の増大、疼痛の変化などが手がかりになる。Crohn病に伴う長期の痔瘻でも癌化が報告されている。長く経過した痔瘻で症状が変わった場合は、生検などで癌を除外する必要がある。
- ×d. 肛門周囲膿瘍で発症する。
正しい記述である。肛門周囲膿瘍は、肛門陰窩から肛門腺への細菌感染で生じる急性化膿性炎症である。強い肛門痛・腫脹・発熱で発症し、痔瘻の前段階(急性期)に相当する。膿瘍が自然に破れるか切開排膿されると、その後に瘻管が残って痔瘻(慢性期)へ移行することが多い。膿瘍は膿がたまる部位によって、皮下、低位筋間、高位筋間、坐骨直腸窩、骨盤直腸窩などに分類され、痔瘻の分類(隅越分類)もこれに対応している。
- ×e. 便意とは関係なく排膿する。
正しい記述である。痔瘻では、瘻管にたまった膿や分泌物が、肛門周囲の皮膚にある二次口から持続的または間欠的に漏れ出る。排便とは無関係に起こるため、下着の汚れや肛門周囲の湿り・かゆみとして自覚される。二次口がふさがると膿がたまり、再び腫脹と疼痛が起こる(膿瘍の再燃)。直腸診では、二次口から原発口へ向かう索状の硬結として瘻管を触れることがある。
痔瘻の病態と分類
・原因の大部分は、肛門陰窩から肛門腺への細菌感染(cryptoglandular infection)である。男性に多い。 ・肛門周囲膿瘍(急性期)→ 自壊・切開排膿 → 痔瘻(慢性期)という経過をとる。 ・瘻管の構成:原発口(肛門陰窩)、原発巣(肛門腺)、瘻管、二次口(皮膚側の開口部)。 ・隅越分類:瘻管と括約筋の位置関係により、Ⅰ型(皮下または粘膜下)、Ⅱ型(内外括約筋間。最も多い)、Ⅲ型(肛門挙筋下の坐骨直腸窩)、Ⅳ型(肛門挙筋上の骨盤直腸窩)に分ける。Ⅲ型・Ⅳ型ほど複雑で治療が難しい。
診断
視診(二次口の確認)と直腸指診(瘻管の硬結、原発口付近の陥凹)、肛門鏡で診断する。複雑な痔瘻では、経肛門的超音波検査やMRIで瘻管の走行を評価する。
治療
・肛門周囲膿瘍:まず切開排膿を行う。抗菌薬だけでは不十分である。 ・痔瘻:手術が根治的治療である。 瘻管開放術(lay-open法):浅い瘻管に用いる。再発は少ないが、括約筋の切離量が多いと便失禁のリスクがある。 括約筋温存術(くり抜き法など):括約筋の機能を保つことを優先する術式である。 シートン法:瘻管にゴム紐などを通して、ゆっくり締め付けながら切離またはドレナージする。複雑痔瘻やCrohn病の痔瘻に用いる。
乳児痔瘻との違い
乳児痔瘻は生後数か月の男児に多く、自然治癒することが多い。そのため、膿瘍に対する切開排膿などの保存的治療が基本となる。一方、成人の痔瘻は自然治癒しにくく、手術適応となる。
POINT
・成人の痔瘻は自然治癒しない(自然治癒が期待できるのは乳児痔瘻)。根治治療は手術である。 ・肛門陰窩からの感染による肛門周囲膿瘍が先行し、排膿後に瘻管が残って痔瘻になる。 ・症状は、便意と関係のない持続的・間欠的な排膿と肛門周囲の汚染である。 ・長期経過例では痔瘻癌(粘液癌を含む腺癌が多い)が発生しうる。 ・若年者の多発性・難治性痔瘻ではCrohn病を疑う。
