胃を守る盾が壊れたら?―NSAIDs潰瘍にはまず「酸を断つ」
第107回医師国家試験 I問題 第10問
国試問題にチャレンジ
非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉による活動期消化性潰瘍の治療薬として最も適切なのはどれか。
- a.抗菌薬
- b.制酸薬
- c.抗コリン薬
- d.副腎皮質ステロイド
- e.プロトンポンプ阻害薬
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
NSAIDsはCOX(とくにCOX-1)を阻害して胃粘膜のプロスタグランジンを減らし、粘液・重炭酸分泌や粘膜血流といった防御機構を弱めることで潰瘍を引き起こします。活動期のNSAIDs潰瘍では、可能ならNSAIDsを中止したうえで、酸分泌の最終段階であるプロトンポンプを阻害するPPIを第一選択とし、NSAIDsを継続せざるをえない場合もPPIで治療します。制酸薬や抗コリン薬は効果が不十分で、抗菌薬はピロリ菌除菌のための薬、副腎皮質ステロイドはNSAIDsとの併用で潰瘍リスクを高める因子です。予防にはPPIやボノプラザンの併用、ミソプロストール(妊婦禁忌)、COX-2選択的阻害薬が選択肢となります。鎮痛薬を処方する機会は診療科を問わず多いため、潰瘍の発症機序と治療・予防をセットで理解しておくことは日常診療に直結します。
解答・解説
正解はeです
消化性潰瘍の二大原因は、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染と、非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs。低用量アスピリンを含む)である。 NSAIDsが胃や十二指腸の粘膜を傷つける仕組みは、主に二つある。 ①局所への直接作用:薬剤が粘膜の上皮細胞を直接傷つける。 ②全身作用:吸収されたNSAIDsがシクロオキシゲナーゼ(COX、とくにCOX-1)を阻害し、胃粘膜のプロスタグランジン(PG)を減らす。 PGは、粘液や重炭酸イオン(HCO3-)の分泌を促し、粘膜の血流を保ち、上皮の修復を助けて、粘膜を守っている。PGが減るとこの防御が弱まり、胃酸によって粘膜が傷つきやすくなる。そのため、坐薬や注射で投与しても潰瘍は起こりうる。 治療の考え方は次のとおりである。 ・まず、可能であればNSAIDsを中止する。 ・そのうえで、強力な酸分泌抑制薬を投与して、潰瘍が治るのを助ける。 ・消化性潰瘍診療ガイドラインでは、NSAIDs潰瘍の治療にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を第一選択としている。NSAIDsをやめられない場合でも、PPIを投与して治療する。 本問は、活動期(潰瘍が治りきっていない時期)のNSAIDs潰瘍に対する最も適切な治療薬を問うている。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
消化性潰瘍の治療で抗菌薬を使うのは、H. pylori陽性の潰瘍に対して除菌を行う場合である。除菌には、アモキシシリンとクラリスロマイシン(二次除菌ではメトロニダゾール)に、PPIまたはボノプラザンを組み合わせる。NSAIDs潰瘍は、細菌感染ではなく薬剤によって粘膜防御が障害されたものであるため、抗菌薬は治療の中心にならない。ただし、NSAIDsを使う患者でH. pylori感染があると潰瘍のリスクがさらに高まる。そのため、状況に応じて感染の有無を調べ、除菌を考えることはある。
- ×b. 制酸薬
制酸薬(炭酸水素ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなど)は、胃の中の酸をアルカリで中和する薬である。症状を一時的に和らげる効果はある。しかし、作用時間が短く、胃酸の分泌そのものは抑えないため、潰瘍を治す力はPPIに大きく劣る。現在、活動期潰瘍の主な治療薬としては用いられず、「最も適切」とはいえない。
- ×c. 抗コリン薬
抗コリン薬は、ムスカリン受容体を遮断することで、消化管のけいれんや運動を抑え、胃酸分泌をある程度抑える。ブチルスコポラミンは腹痛に対する鎮痙薬として、ピレンゼピン(M1受容体に選択的な拮抗薬)はかつて潰瘍治療に用いられた。しかし、酸分泌を抑える力は弱く、口の渇き、尿閉、眼圧上昇、頻脈などの副作用もある。潰瘍治療における位置づけは低く、第一選択にならない。
- ×d. 副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドには、潰瘍を治す作用はない。ステロイドは組織の修復を遅らせ、感染への抵抗力を下げる。ステロイドを単独で使った場合に消化性潰瘍のリスクが上がるかどうかについては、はっきりした結論が出ていない。一方、NSAIDsと併用すると、潰瘍や消化管出血のリスクが明らかに高まる。むしろ、NSAIDs潰瘍のリスク因子の一つとして覚えるべき薬剤である。
- ○e. プロトンポンプ阻害薬
プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI。オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールなど)は、胃の壁細胞が酸を分泌する最後の段階を担うH+,K+-ATPase(プロトンポンプ)を阻害する薬である。PPIは、壁細胞の酸性の分泌細管で活性体(スルフェンアミド)に変わり、プロトンポンプのSH基(システイン残基)と共有結合して、その働きを止める。そのため、H2受容体拮抗薬より強く、長く酸分泌を抑える。NSAIDs潰瘍の治療で第一選択とされ、NSAIDsを続けながらでも潰瘍を治すことができる。また、再発の予防にも有効である。なお、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)のボノプラザンも、強力な酸分泌抑制薬として同様の目的で使われる。
NSAIDs潰瘍の特徴
・胃の前庭部に多く、浅い潰瘍が多発しやすい。 ・痛みを感じにくいことがあり、突然の吐血や下血で見つかることがある(NSAIDs自体の鎮痛作用も関係する)。 ・高齢者、潰瘍の既往、高用量や複数のNSAIDsの使用、抗凝固薬・抗血小板薬・ステロイドとの併用、H. pylori感染が、リスクを高める因子である。
治療と予防
・治療:可能ならNSAIDsを中止し、PPIを投与する。中止できない場合もPPIで治療する。 ・予防:NSAIDsを続ける必要がある高リスク患者では、PPI(またはボノプラザン)の併用や、PGE1誘導体であるミソプロストールの投与が有効である。ミソプロストールは子宮を収縮させる作用があるため、妊婦には禁忌である。 ・COX-2選択的阻害薬(セレコキシブなど)は、胃粘膜障害が比較的少ない。ただし、心血管イベントのリスクに注意が必要である。 ・H2受容体拮抗薬は、NSAIDs潰瘍の予防効果がPPIより劣る。
PPIの主な適応
胃潰瘍・十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、非びらん性胃食道逆流症、Zollinger-Ellison症候群、H. pylori除菌の併用薬、低用量アスピリンやNSAIDs投与時の潰瘍再発予防など。
酸分泌抑制薬の比較
・制酸薬:胃酸を中和するだけで、作用は短い。 ・抗コリン薬:酸分泌抑制作用は弱く、副作用が多い。 ・H2受容体拮抗薬:ヒスタミンによる刺激を抑える。夜間の酸分泌を抑える効果に優れる。 ・PPI:酸分泌の最終段階を阻害し、抑制作用は強力である。 ・P-CAB(ボノプラザン):酸で活性化される必要がなく、速く効き、作用が安定している。
POINT
・NSAIDs潰瘍は、COX阻害によるPGの減少で粘膜防御が弱まることが主な原因である。 ・治療:可能ならNSAIDsを中止し、PPIを投与する(第一選択)。 ・NSAIDsを続ける必要がある場合の予防には、PPIやミソプロストール(PGE1誘導体)を用いる。 ・NSAIDsとステロイドの併用は、潰瘍のリスクを高める。
