その抗体は「いま」を語るか?―肝炎ウイルスマーカーの読み方
第107回医師国家試験 I問題 第11問
国試問題にチャレンジ
肝炎をきたすウイルス感染症とその診断に必要な抗体検査の組合せで誤っているのはどれか。
- a.A型急性肝炎 ―― IgM型HA抗体
- b.B型急性肝炎 ―― HBe抗体
- c.C型慢性肝炎 ―― HCV抗体
- d.伝染性単核球症 ―― VCA IgM抗体
- e.サイトメガロウイルス感染症 ―― CMV IgM抗体
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ウイルス感染の血清診断では、IgM抗体が急性感染、IgG抗体が既往感染を示すのが基本で、IgGで急性感染を判断するにはペア血清で抗体価の上昇を確認します。A型急性肝炎はIgM型HA抗体、EBウイルスによる伝染性単核球症はVCA IgM抗体(EBNA抗体陰性で初感染)、CMV初感染はCMV IgM抗体で診断し、C型肝炎はHCV抗体でスクリーニングしたうえでHCV-RNAで現在の感染を確認します。B型肝炎は抗原と抗体の組合せで病期を読み、HBe抗体はウイルス増殖が低下した回復期や非活動期を示すマーカーであるため、B型急性肝炎の診断にはHBs抗原と高力価のIgM型HBc抗体を用います。免疫不全者のCMV再活性化では抗体ではなくアンチゲネミア法やPCRを用いるなど、患者背景による検査の使い分けも重要です。各マーカーが感染のどの時期を反映しているかを理解することは、検査結果を正しく解釈し、診断や感染対策を判断するための基礎となります。
解答・解説
正解はbです
ウイルス性肝炎や、肝障害を伴うことのある全身性ウイルス感染症について、診断に用いる血清学的マーカーを問う問題である。 血清学的診断の基本的な考え方は次のとおりである。 ・IgM抗体は感染後早期に出現し、比較的短期間で消える。したがって「いま起きている初感染(急性感染)」の証拠になる。 ・IgG抗体は遅れて出現し長く残るため、単独陽性では既往感染(過去の感染)を示すにとどまる。急性感染の判断には、ペア血清(急性期と2〜3週後の回復期の血清)で抗体価の有意な上昇を確認する必要がある。 ・B型肝炎ウイルス(HBV)のように、抗原と抗体の組合せでウイルスの増殖状態や病期を判断するものもある。 この原則に照らし、各疾患で「その疾患の診断に役立つ検査」として適切かを判断する。HBe抗体は、HBVの増殖が落ち着いた時期(セロコンバージョン後や急性肝炎の回復期)に出現するマーカーであり、B型急性肝炎を診断する検査ではない。B型急性肝炎の診断にはHBs抗原とIgM型HBc抗体を用いる。
選択肢考察
- ×a. A型急性肝炎 ―― IgM型HA抗体
組合せとして正しい。A型肝炎ウイルス(HAV)は経口感染し、慢性化しない。発症時にはすでにIgM型HA抗体が陽性となっていることが多く、これが陽性であればA型急性肝炎と診断できる。IgG型HA抗体(あるいは総HA抗体)は長期間持続するため、単独陽性は既往感染やワクチン接種後を意味し、急性肝炎の診断には用いない。
- ○b. B型急性肝炎 ―― HBe抗体
組合せとして誤っており、これが正解である。HBe抗体は、HBVの活発な増殖を示すHBe抗原が消えたあとに出現する抗体で、ウイルス増殖が低下した状態(急性肝炎の回復期や、慢性感染でのセロコンバージョン後の非活動期)を反映する。急性肝炎であることを示す検査ではない。B型急性肝炎の診断には、HBs抗原(現在HBVが存在することを示す)とIgM型HBc抗体(高力価陽性で初感染を示す)を用いる。補助的にHBV-DNA量も測定される。なお、HBVキャリアの急性増悪でもIgM型HBc抗体が陽性になることがあるが、その場合は低力価にとどまることが多く、初感染との鑑別の手がかりになる。
- ×c. C型慢性肝炎 ―― HCV抗体
組合せとして正しい。C型肝炎ウイルス(HCV)感染のスクリーニングにはHCV抗体を用いる。ただしHCV抗体は中和抗体ではなく、陽性であっても「現在感染している」のか「過去に感染してウイルスが排除された(自然治癒や治療後)」のかは区別できない。そこでHCV抗体陽性例ではHCV-RNAを測定し、陽性であれば現在の感染(持続感染)と判断する。治療方針の決定にはHCV-RNA量やジェノタイプ(遺伝子型)の情報も用いられる。なお、感染直後の急性C型肝炎ではHCV抗体の出現が遅れ、初診時に陰性のことがあるため、HCV-RNAの測定や期間をおいた再検査が必要になる。
- ×d. 伝染性単核球症 ―― VCA IgM抗体
組合せとして正しい。伝染性単核球症はおもにEBウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)の初感染で起こり、発熱・咽頭扁桃炎・頸部リンパ節腫脹・異型リンパ球増加・肝脾腫・肝機能障害をきたす。EBVのウイルスカプシド抗原(viral capsid antigen:VCA)に対する抗体のうち、VCA IgM抗体は急性期に出現して数か月で消えるため、初感染の診断に有用である。VCA IgG抗体も急性期から陽性となり終生持続する。一方、EBV核内抗原(EBNA)に対する抗体は発症後数か月を経た回復期以降に陽性となる。したがって「VCA IgM抗体陽性かつEBNA抗体陰性」は初感染を、「EBNA抗体陽性」は既感染を示唆する。
- ×e. サイトメガロウイルス感染症 ―― CMV IgM抗体
組合せとして正しい。サイトメガロウイルス(CMV)の初感染(成人では伝染性単核球症様の症状や肝障害を呈することがある)では、CMV IgM抗体が陽性となり、診断に用いられる。IgG型CMV抗体はペア血清で有意な上昇を確認することで活動性感染の根拠となる。なお、臓器移植後や免疫不全者のCMV再活性化では抗体反応が乏しいため、白血球中のCMV抗原(pp65抗原)を検出するアンチゲネミア法や、PCRによるCMV-DNA定量が診断・経過観察に用いられる。
B型肝炎ウイルスマーカーの意味
・HBs抗原:HBVの外殻蛋白。陽性なら現在HBVに感染している。 ・HBs抗体:HBVに対する中和抗体。感染が治癒した後やワクチン接種後に陽性となり、感染防御能を示す。 ・HBe抗原:ウイルス増殖が盛んで感染力が強い状態を示す。 ・HBe抗体:HBe抗原消失後に出現し、ウイルス増殖が低下した状態を示すことが多い(ただしHBe抗原陰性でもウイルス量が多い変異株感染例がある)。 ・IgM型HBc抗体:高力価陽性はB型急性肝炎(初感染)を示す。キャリアの急性増悪では低力価陽性のことが多い。 ・IgG型HBc抗体(HBc抗体):高力価はキャリア(持続感染)、低力価は既往感染を示す。 ・HBV-DNA:ウイルス量の指標で、治療効果判定にも用いる。
B型急性肝炎の典型的な経過
HBs抗原・HBe抗原・HBV-DNAが先行して陽性となり、肝炎発症とほぼ同時期にIgM型HBc抗体が上昇する。回復とともにHBe抗原が消えてHBe抗体が出現し、続いてHBs抗原が消えてHBs抗体が出現する。HBs抗原消失からHBs抗体出現までの間に両者とも陰性となる時期(ウインドウ期)があり、この時期はIgM型HBc抗体が診断の手がかりになる。
各ウイルス性肝炎の診断マーカーのまとめ
・A型急性肝炎:IgM型HA抗体 ・B型急性肝炎:HBs抗原、IgM型HBc抗体(HBV-DNA) ・C型肝炎:HCV抗体でスクリーニングし、HCV-RNAで現在の感染を確認 ・D型肝炎:HBV感染者におけるHDV抗体、HDV-RNA ・E型急性肝炎:IgA型HEV抗体(日本で保険適用)、HEV-RNA ・EBV初感染:VCA IgM抗体陽性、EBNA抗体陰性 ・CMV感染症:CMV IgM抗体、ペア血清でのIgG抗体上昇、免疫不全者ではアンチゲネミア法・CMV-DNA
POINT
・急性感染の診断にはIgM抗体(またはペア血清でのIgG抗体価上昇)を用いるのが基本である。 ・B型急性肝炎の診断はHBs抗原とIgM型HBc抗体(高力価)。HBe抗体はウイルス増殖の低下を示すマーカーであり、急性肝炎の診断には用いない。 ・HCV抗体は既往感染でも陽性となるため、現在の感染はHCV-RNAで確認する。 ・EBVの初感染はVCA IgM抗体陽性・EBNA抗体陰性、EBNA抗体陽性は既感染を示す。
