StudyMed医師国家試験

くも状血管腫と血小板減少が告げる「静かな肝硬変」―B型肝炎はウイルスを止めることから始まる

第120回医師国家試験 A問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第37問

40歳の男性。全身倦怠感を主訴に来院した。10年前にHBs抗原陽性を指摘されたがそのままにしていた。1か月前から全身倦怠感を自覚したため受診した。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。前胸部にくも状血管腫を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球434万,Hb 13.7g/dL,白血球6,300,血小板9.8万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,アルブミン4.0g/dL,総ビリルビン0.7mg/dL,AST 56U/L,ALT 42U/L,γ-GT 53U/L(基準13~64)。免疫血清学所見:HBs抗原陽性,HBV-DNA陽性,HCV抗体陰性,HIV抗原・抗体陰性。腹部超音波検査で肝辺縁の鈍化と表面の不整,脾腫を認める。  第一選択薬はどれか。

  1. a.グリチルリチン
  2. b.核酸アナログ製剤
  3. c.グルココルチコイド
  4. d.ウルソデオキシコール酸
  5. e.直接作用型抗ウイルス薬〈direct acting antivirals〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はB型肝炎ウイルスの持続感染を長く放置していた患者さんの治療薬を選ぶ問題だ。ポイントは2つ。まず「いま肝臓がどの段階にあるか」を見抜くこと、次に「ウイルスが増えているかどうか」を確認すること。この2つがそろえば、第一選択薬は自然に決まってくるよ。
医学生医学生
肝機能の数値はそれほど悪くないので、慢性肝炎くらいかなと思いました。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。AST・ALTは肝細胞が壊れている勢いを示すだけで、線維化の進み具合は反映しにくい。肝硬変を見抜くには、別の手がかりを拾う必要があるんだ。くも状血管腫はどうして出ると習ったかな。
医学生医学生
消化器内科の講義で、肝臓でエストロゲンが代謝されにくくなるからだと習いました。手掌紅斑や女性化乳房も同じ仕組みでしたよね。
ドクタードクター
その通り。くも状血管腫は慢性肝疾患、とくに肝硬変を示唆する所見だ。次に血小板が10万を切っている点。肝硬変では門脈圧が上がって脾臓が腫れ、血小板が脾臓に捕まる。さらに肝臓でつくられるトロンボポエチンも減る。血小板10万未満は肝硬変を疑う目安の一つだよ。
医学生医学生
ASTがALTより高いのも、線維化が進んだサインでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。慢性肝疾患で線維化が進むとAST優位になりやすい。そして超音波で肝辺縁が鈍く、表面が凸凹で、脾臓が腫れている。これは肝硬変に典型的な画像所見だ。つまりこの患者さんはB型肝炎ウイルスによる肝硬変と考えられる。
医学生医学生
でも黄疸も腹水もなくて、アルブミンも保たれています。肝硬変なのに元気そうに見えるのが不思議です。
ドクタードクター
そこが「代償性」ということなんだ。肝臓の予備能がまだ保たれていて、症状が表に出にくい段階。だからこそ、この時期に手を打って非代償期や肝細胞癌への進行を防ぐことが大切になる。そしてもう一つ、HBV-DNAが陽性、つまりウイルスはいまも増えている。では何を使うべきだろう。
医学生医学生
ウイルスを抑える薬だから、抗ウイルス薬ですよね。直接作用型抗ウイルス薬も抗ウイルス薬ですが……。
ドクタードクター
名前に惑わされやすいところだね。直接作用型抗ウイルス薬はC型肝炎ウイルスのプロテアーゼやNS5A、NS5Bを狙った薬で、B型肝炎ウイルスには効かない。今回はHCV抗体陰性だから適応がない。B型肝炎ウイルスの複製を止めるのは核酸アナログ製剤だ。ウイルスの逆転写酵素を阻害してDNA複製を強力に抑える経口薬で、エンテカビルやテノホビルが代表だよ。
医学生医学生
B型肝硬変なら、ALTの値やウイルス量に関係なく治療するんですか。
ドクタードクター
そう。日本肝臓学会のガイドラインでは、肝硬変ではHBV-DNAが陽性であれば、ALT値やウイルス量にかかわらず治療対象とされている。慢性肝炎ならウイルス量とALTの基準で判断するけれど、肝硬変はハードルが低い。インターフェロンは肝炎の増悪や副作用の心配があって肝硬変では使いにくく、非代償性肝硬変では禁忌だ。だから確実にウイルスを抑え続けられる核酸アナログ製剤が第一選択になる。
医学生医学生
グリチルリチンも肝臓の薬として聞いたことがあります。
ドクタードクター
グリチルリチンは抗炎症作用でAST・ALTを下げる肝庇護薬だね。抗ウイルス療法ができないときに補助的に使うことはあっても、ウイルスそのものは減らせない。甘草の成分だから偽アルドステロン症による低カリウム血症や高血圧にも注意が必要だ。ウルソデオキシコール酸も同じく抗ウイルス作用はなく、原発性胆汁性胆管炎の第一選択薬として覚えておこう。
医学生医学生
グルココルチコイドは自己免疫性肝炎の治療薬ですよね。炎症を抑えるならB型肝炎にも使えそうな気がしますが。
ドクタードクター
そこは危険な発想なんだ。ステロイドで免疫を抑えると、B型肝炎ウイルスがかえって増殖し、肝炎が重症化したり劇症化したりするおそれがある。B型肝炎ウイルス感染者にステロイドは使うべきではない。
医学生医学生
肝炎を抑える薬と、ウイルスを抑える薬は別物ということですね。
ドクタードクター
まさにそれが今回の核心だ。発展知識も押さえておこう。核酸アナログ製剤は肝細胞の核内にあるcccDNAまでは消せないので、原則として長期の継続投与になる。自己判断でやめると肝炎が急に悪化することがあるから、服薬を続ける意味を患者さんにしっかり伝えることが大切だ。テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩では腎機能障害や骨密度低下に注意し、テノホビル アラフェナミドはその影響が少ないとされる。
医学生医学生
臨床実習で、関節リウマチの患者さんに生物学的製剤を始める前にHBc抗体やHBs抗体を測っていたのも、この再活性化の対策だったんですね。
ドクタードクター
その通り。HBs抗原陽性の人だけでなく、HBs抗原陰性でもHBc抗体やHBs抗体が陽性の既往感染者は、免疫抑制療法や化学療法でウイルスが再活性化することがある。HBs抗原陽性者には核酸アナログを予防投与し、既往感染者はHBV-DNAを定期的に測る。それから、B型肝硬変は肝細胞癌の超高危険群だから、3〜4か月ごとの超音波と腫瘍マーカーによるサーベイランスや、上部消化管内視鏡での食道胃静脈瘤のチェックも欠かせない。家族のHBVマーカー検査とワクチン接種も忘れずにね。
医学生医学生
薬を出して終わりではなくて、癌のスクリーニングや家族への対応までがセットなんですね。
ドクタードクター
そう。B型肝炎の診療は長い付き合いになる。ウイルスを抑え、合併症を早く見つけ、周りへの感染を防ぐ。この3つを意識しておこう。

まとめ

くも状血管腫、血小板減少、AST優位のトランスアミナーゼ上昇、超音波での肝辺縁鈍化・表面不整・脾腫は肝硬変を示す所見であり、黄疸・腹水がなくアルブミンが保たれていれば代償性肝硬変と考えます。B型肝硬変ではHBV-DNAが陽性であればALT値やウイルス量にかかわらず抗ウイルス療法の対象となり、第一選択はウイルスの逆転写酵素を阻害する核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル)です。直接作用型抗ウイルス薬はC型肝炎の薬、ウルソデオキシコール酸は原発性胆汁性胆管炎の薬、グリチルリチンは補助的な肝庇護薬であり、ステロイドはB型肝炎ウイルスの増殖や肝炎の重症化を招くため避けます。核酸アナログ製剤はcccDNAを排除できないため長期継続が原則で、自己中断による急性増悪や、免疫抑制療法時の再活性化にも注意が必要です。肝硬変の段階評価と、肝炎を鎮める薬とウイルスを抑える薬の区別は、ウイルス性肝炎診療全体の基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・40歳男性。10年前にHBs抗原陽性を指摘され、未治療のまま経過している。今回もHBs抗原陽性で、B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染(慢性HBV感染)である。HBV-DNA陽性であり、現在もウイルスが増殖している。 ・1か月前からの全身倦怠感。 ・前胸部のくも状血管腫:肝臓でのエストロゲン代謝が低下して生じる皮膚所見で、慢性肝疾患・肝硬変を示唆する。 ・血小板9.8万/μLと減少:肝硬変では門脈圧亢進に伴う脾腫(脾機能亢進)と、肝臓でのトロンボポエチン産生低下により血小板が減少する。血小板10万未満は肝硬変を疑う目安の一つである。 ・AST 56U/L、ALT 42U/LでASTがALTを上回る(AST/ALT比>1)。線維化が進んだ慢性肝疾患でみられやすいパターンである。 ・腹部超音波で肝辺縁の鈍化、肝表面の不整、脾腫:肝硬変に特徴的な画像所見である。 ・一方で、黄疸(眼球結膜黄染なし、総ビリルビン0.7mg/dL)、腹水(腹部平坦・軟)、低アルブミン血症(4.0g/dLと保たれている)はなく、肝性脳症の記載もない。肝予備能は保たれており、代償性肝硬変と考えられる。 ・HCV抗体陰性でC型肝炎の重複はなく、HIV陰性で重複感染もない。

診断

B型肝炎ウイルスによる代償性肝硬変(HBV-DNA陽性)。

治療方針の考え方

B型肝炎治療の目標は、HBVの増殖を抑えて肝炎を鎮静化させ、肝硬変への進展・肝不全・肝細胞癌の発生を防ぐことにある。日本肝臓学会のガイドラインでは、肝硬変の症例ではHBV-DNAが陽性であれば、ALT値やHBV-DNA量にかかわらず抗ウイルス療法の対象となる。肝硬変では、インターフェロン(IFN)による肝炎の増悪や副作用の危険があるため、ウイルス増殖を確実かつ持続的に抑制できる核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル)が第一選択となる。

選択肢考察

  1. ×a.  グリチルリチン

    グリチルリチン(甘草の成分、静注製剤など)は抗炎症作用によりAST・ALTを低下させる肝庇護薬である。抗ウイルス療法が行えない場合などに補助的に用いられることはあるが、HBVの増殖を抑える作用はなく、病気の進行を根本から止める治療ではない。HBV-DNA陽性の肝硬変に対する第一選択とはならない。なお副作用として偽アルドステロン症(低カリウム血症、高血圧、浮腫)に注意が必要である。

  2. ○b.  核酸アナログ製剤

    核酸アナログ製剤は、HBVの逆転写酵素(DNAポリメラーゼ)を阻害してウイルスDNAの複製を強力に抑える経口薬である。現在の第一選択はエンテカビル、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)、テノホビル アラフェナミド(TAF)で、いずれも薬剤耐性が生じにくい。B型肝硬変ではHBV-DNA陽性であれば治療対象となり、肝炎の鎮静化、線維化の進展抑制、肝不全・肝細胞癌の発生リスク低下が期待できる。肝細胞核内のcccDNA(閉環状DNA)は排除できないため、原則として長期の継続投与が必要であり、自己判断で中止すると肝炎が急性増悪する危険がある。

  3. ×c.  グルココルチコイド

    グルココルチコイドは自己免疫性肝炎の第一選択薬である。しかしHBV感染者に投与すると、免疫抑制によりウイルス増殖を促進し、HBVの再活性化や肝炎の重症化(劇症化)を招くおそれがある。本症例のB型肝硬変の治療として用いるべきではない。

  4. ×d.  ウルソデオキシコール酸

    ウルソデオキシコール酸(UDCA)は親水性の胆汁酸製剤で、原発性胆汁性胆管炎(PBC)の第一選択薬であり、コレステロール胆石の溶解療法や、慢性肝疾患での肝機能改善目的にも用いられる。抗ウイルス作用はなく、HBVの増殖を抑えることはできないため、本症例の第一選択とはならない。

  5. ×e.  直接作用型抗ウイルス薬〈direct acting antivirals〉

    直接作用型抗ウイルス薬(DAA)は、C型肝炎ウイルス(HCV)のNS3/4Aプロテアーゼ、NS5A、NS5Bポリメラーゼなどを標的とするC型肝炎の治療薬である(例:グレカプレビル・ピブレンタスビル配合剤、ソホスブビル・ベルパタスビル配合剤)。HBVには効果がなく、HCV抗体陰性の本症例では適応がない。なおHBV既往・重複感染者にDAAでHCVを排除すると、HBVが再活性化することがあり注意を要する。

B型肝炎の抗ウイルス療法の整理

・目標:HBV増殖抑制→肝炎鎮静化→肝硬変・肝不全・肝細胞癌の予防。最終的にはHBs抗原の消失が理想とされる。 ・治療対象の目安(日本肝臓学会ガイドライン):慢性肝炎では、HBV-DNA量が2,000IU/mL(3.3 LogIU/mL)以上かつALT 31U/L以上が治療対象。肝硬変ではHBV-DNAが陽性であれば、ALT値やウイルス量にかかわらず治療対象となる。 ・薬剤:  ①核酸アナログ製剤(エンテカビル、TDF、TAF):経口でウイルス増殖を強力に抑制し、副作用が少ない。中止すると再燃しやすいため長期投与が基本。肝硬変(代償性・非代償性とも)では第一選択。TDFは腎機能障害・骨密度低下に注意し、TAFはこれらの影響が少ない。  ②ペグインターフェロン:免疫賦活作用によりHBe抗原陰性化やHBs抗原消失を期待でき、投与期間が限られる(通常48週)という利点がある。若年の慢性肝炎で考慮されることがあるが、非代償性肝硬変では禁忌で、肝硬変一般でも用いにくい。発熱、血球減少、うつ症状、間質性肺炎などの副作用がある。

肝硬変を示唆する所見

・身体所見:くも状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房、腹壁静脈怒張、黄疸、腹水、羽ばたき振戦など。 ・検査所見:血小板減少、AST/ALT比上昇、アルブミン低下、プロトロンビン時間延長、ビリルビン上昇、線維化マーカー(ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン、M2BPGiなど)の上昇、FIB-4 indexの高値。 ・画像所見:肝辺縁の鈍化、肝表面の凹凸不整、肝実質の粗造化、右葉萎縮・左葉(尾状葉)腫大、脾腫、腹水、側副血行路。エラストグラフィで肝硬度上昇。 ・重症度評価:Child-Pugh分類(脳症、腹水、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間)。

B型肝硬変患者で並行して行うこと

・肝細胞癌のサーベイランス:HBVは肝硬変に至らなくても発癌しうるが、肝硬変例は超高危険群であり、3〜4か月ごとの超音波検査と腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3)、定期的なCT/MRIが推奨される。 ・門脈圧亢進症の評価:上部消化管内視鏡で食道胃静脈瘤の有無を確認する。 ・家族への対応:同居家族・パートナーのHBVマーカー検査と、未感染者へのHBワクチン接種。

HBV再活性化

HBs抗原陽性者、あるいはHBs抗原陰性でもHBc抗体・HBs抗体陽性の既往感染者に、副腎皮質ステロイド、抗癌薬、生物学的製剤などの免疫抑制療法を行うと、HBVが再増殖し重症肝炎を起こすことがある。HBs抗原陽性者では免疫抑制療法前に核酸アナログを予防投与し、既往感染者ではHBV-DNAを定期的にモニタリングする。

POINT

・HBs抗原陽性+HBV-DNA陽性+くも状血管腫・血小板減少・肝表面不整・脾腫 → B型肝硬変(本症例はアルブミン・ビリルビン正常で代償性)。 ・B型肝硬変はHBV-DNA陽性ならALT値やウイルス量にかかわらず治療対象で、第一選択は核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル)。原則長期継続し、自己中断は肝炎の急性増悪をまねく。 ・インターフェロンは非代償性肝硬変で禁忌。 ・DAAはC型肝炎、ステロイドは自己免疫性肝炎、UDCAは原発性胆汁性胆管炎、グリチルリチンは肝庇護療法(補助的)。 ・HBV感染者への免疫抑制療法は再活性化のリスクがあり、核酸アナログの予防投与などで対応する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。