破裂の前に目が語っていた―動眼神経麻痺が指し示す脳動脈瘤の居場所
第120回医師国家試験 A問題 第38問
国試問題にチャレンジ
57歳の男性。突然生じた激しい頭痛を主訴に救急車で搬入された。数日前から軽度の頭痛と複視,軽度の左眼瞼下垂を認めていた。既往歴に特記すべきことはない。頭部単純CTを下に示す。 破裂脳動脈瘤の部位として最も可能性が高いのはどれか。

- a.内頸動脈
- b.前大脳動脈
- c.中大脳動脈
- d.後大脳動脈
- e.椎骨動脈
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然の激しい頭痛と、CTで脳底槽からシルビウス裂に広がる高吸収域はくも膜下出血を示し、その多くは脳動脈瘤の破裂によります。発症前の軽い頭痛は警告頭痛の可能性があり、眼瞼下垂を伴う複視は動眼神経麻痺を示します。動眼神経は内頸動脈-後交通動脈分岐部のすぐ近くを走るため、この部位の動脈瘤が増大すると圧迫されやすく、本例は内頸動脈の動脈瘤が切迫破裂から破裂に至ったと考えられます。前交通動脈瘤は視野障害、中大脳動脈瘤は脳内血腫による片麻痺や失語、椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部の動脈瘤は下位脳神経症状と、部位ごとに出やすい症状が異なります。瞳孔散大を伴う新たな動眼神経麻痺は緊急の血管評価が必要なサインであり、神経解剖と症候を結びつける力は破裂前の発見にも直結します。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・57歳男性。突然発症の激しい頭痛で救急搬送されている。「突然」「人生最悪」の頭痛は、まずくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を念頭に置くべき症状である。 ・数日前から軽い頭痛があった。SAHの発症前には、動脈瘤からの少量の出血(マイナーリーク)や動脈瘤の急な増大によって、軽い頭痛が先行することがある。これを警告頭痛(警告出血)と呼ぶ。 ・同じ時期から複視と左眼瞼下垂が出ている。眼瞼下垂を伴う複視は、上眼瞼挙筋と外眼筋(上直筋・下直筋・内直筋・下斜筋)をともに支配する動眼神経の麻痺を示唆する。 ・頭部単純CTでは、脳底槽からシルビウス裂にかけて脳槽内に高吸収域が広がっており、SAHと診断できる。
診断に至る考え方
SAHの原因の大部分は脳動脈瘤の破裂である。本問では、破裂前から動眼神経麻痺が出現していた点が、動脈瘤の部位を推定する決め手となる。動眼神経は中脳の腹側から出たあと、後大脳動脈と上小脳動脈の間を通り、内頸動脈の外側・後交通動脈の近くを前方へ走って海綿静脈洞へ入る。このため、内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)にできた動脈瘤が大きくなると、すぐ近くを走る動眼神経が圧迫されて麻痺が起こる。 動脈瘤による圧迫では、動眼神経の表面寄りを走る副交感神経線維(瞳孔括約筋を支配)が障害されやすく、瞳孔散大(対光反射の消失)を伴うことが多い。これは、瞳孔が保たれやすい糖尿病性の虚血性動眼神経麻痺との鑑別点になる。 以上から、左IC-PC動脈瘤が増大して左動眼神経麻痺と警告頭痛を起こし、その後に破裂してSAHを生じたと考えるのが最も自然である。設問は破裂した動脈瘤の部位を問うており、選択肢の中では内頸動脈が該当する。CT像だけで出血源を特定するのは学生には難しく、動眼神経麻痺という神経所見と解剖の知識から判断させる問題である。
選択肢考察
- ○a. 内頸動脈
内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)は脳動脈瘤の好発部位の一つで、前交通動脈・中大脳動脈分岐部と並び、頻度の高い部位である。動眼神経はこの分岐部のすぐ近くを走るため、動脈瘤が大きくなると同側の動眼神経が圧迫され、眼瞼下垂・複視(多くは瞳孔散大を伴う)が出る。本例の左動眼神経麻痺と先行する軽い頭痛は、左IC-PC動脈瘤が増大し、切迫破裂の状態にあったことを示し、その後の破裂でSAHに至ったと説明できる。最も可能性が高い。
- ×b. 前大脳動脈
前大脳動脈系の動脈瘤は、前交通動脈との分岐部に最も多い。破裂すると大脳半球間裂や終板槽に血腫が目立ち、前頭葉内に出血が及ぶこともある。動脈瘤の位置が正中前方にあり、動眼神経から離れているため、本例の動眼神経麻痺は説明できない。
- ×c. 中大脳動脈
中大脳動脈の分岐部(M1-M2分岐部付近)は動脈瘤の好発部位である。破裂すると、病側のシルビウス裂に偏った出血や側頭葉内の血腫をつくりやすく、出血分布に左右差が出やすい。CT所見だけでは否定しきれないが、動脈瘤がシルビウス裂の外側にあって動眼神経とは離れているため、動眼神経麻痺の先行を説明できない。
- ×d. 後大脳動脈
動眼神経は中脳から出た直後に後大脳動脈と上小脳動脈の間を通るため、この付近の病変で動眼神経麻痺が起こることは解剖学的にはありうる。しかし後大脳動脈そのものは脳動脈瘤の好発部位ではなく、頻度の点で最も可能性が高いとはいえない。なお、この部位で動眼神経麻痺をきたす動脈瘤としては、脳底動脈-上小脳動脈分岐部(BA-SCA)動脈瘤のほうが知られている。
- ×e. 椎骨動脈
椎骨動脈では、後下小脳動脈(PICA)との分岐部が動脈瘤の好発部位である。また、解離性動脈瘤もSAHの原因となる。破裂すると後頭蓋窩の脳槽(大槽・延髄周囲)に出血が多く、水頭症を起こしやすい。動脈瘤が延髄の外側にあるため、圧迫されやすいのは下位脳神経(舌咽・迷走・副・舌下神経)であり、動眼神経麻痺は説明できない。
脳動脈瘤の好発部位
・嚢状動脈瘤の多くはウィリス動脈輪の前半部の分岐部にできる。主な部位は前交通動脈(Acom)、内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)、中大脳動脈分岐部で、この3部位が大部分を占める。 ・後方循環では、脳底動脈先端部、椎骨動脈-後下小脳動脈分岐部(VA-PICA)、脳底動脈-上小脳動脈分岐部(BA-SCA)などにできる。
部位ごとに出やすい局所症状
・IC-PC動脈瘤:動眼神経麻痺(眼瞼下垂、眼球の外下方偏位、瞳孔散大) ・前交通動脈瘤:大きくなると視交叉を圧迫し、視野障害を起こすことがある。破裂後は前頭葉症状や記銘力障害が出ることがある ・中大脳動脈瘤:破裂して脳内血腫を伴うと、片麻痺や失語が出る ・脳底動脈先端部・BA-SCA動脈瘤:動眼神経麻痺を起こすことがある ・VA-PICA動脈瘤:下位脳神経の症状 ・海綿静脈洞部の内頸動脈瘤:海綿静脈洞内を通る脳神経(動眼・滑車・外転神経、三叉神経第1・2枝)の障害。くも膜下腔の外にあるため、破裂してもSAHにはなりにくい
動眼神経麻痺の鑑別
・瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺(瞳孔が障害されたもの):動脈瘤などによる圧迫をまず疑い、緊急にCTアンギオグラフィ(CTA)やMRアンギオグラフィ(MRA)などの血管評価を行う。動脈瘤による動眼神経麻痺は、動脈瘤が急に大きくなっていることを意味し、切迫破裂として扱う。 ・瞳孔が保たれた動眼神経麻痺:糖尿病などによる神経栄養血管の虚血(微小血管障害)で起こりやすい。ただし、瞳孔障害がないことだけで動脈瘤を否定してはならない。 ・ほかに鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニア)、海綿静脈洞病変、Tolosa-Hunt症候群なども原因となる。
SAHの診療の流れ
・診断:まず頭部単純CTを行う。CTで所見がはっきりしないのに臨床的に疑わしい場合は、髄液検査(血性髄液・キサントクロミー)を検討する。出血源の検索にはCTA、MRA、脳血管造影を用いる。 ・初期対応:再出血は発症後早期(特に24時間以内)に多く、予後を大きく悪化させる。このため、鎮痛・鎮静と降圧を行い、刺激を避けて再出血を防ぐ。 ・根治的治療:開頭によるクリッピング術、または血管内治療によるコイル塞栓術で動脈瘤の再破裂を防ぐ。 ・合併症:再出血、脳血管攣縮(発症後おおむね4〜14日に多い)、水頭症、低ナトリウム血症など。
POINT
・突然発症の激しい頭痛+CTで脳槽内の高吸収域 → くも膜下出血(SAH) ・SAHに先行する軽い頭痛は、警告頭痛(マイナーリーク・動脈瘤の増大)の可能性がある ・眼瞼下垂を伴う複視 → 動眼神経麻痺 ・動眼神経麻痺(特に瞳孔散大を伴うもの)→ 内頸動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤を考える。切迫破裂として緊急に対応する ・BA-SCA動脈瘤でも動眼神経麻痺は起こりうるが、頻度はIC-PCより低い ・動脈瘤による動眼神経麻痺はまれであり、麻痺がないことでIC-PC動脈瘤を否定してはならない
