StudyMed医師国家試験

生煮えの猪鍋から4週間―下痢のない肝障害が指し示すE型肝炎

第120回医師国家試験 F問題 第56問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第56問

48歳の男性。全身倦怠感を主訴に来院した。4週間前に猪肉と野菜の鍋料理を食べた。「急いで食べたので,食材に十分に火が通っていなかった」と言う。1週間前から全身倦怠感,食欲低下および微熱を自覚した。腹痛,嘔吐および下痢はない。全身倦怠感が改善しないため受診した。既往歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長176cm,体重68kg。体温37.2℃。脈拍88/分,整。血圧122/80mmHg。呼吸数16/分。口腔内と咽頭とに異常を認めない。甲状腺と頸部リンパ節とを触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,右肋骨弓下に肝を2cm触知する。腸雑音に異常を認めない。下腿に浮腫を認めない。尿所見に異常を認めない。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,Ht 42%,白血球6,300,血小板24万。血液生化学所見:総ビリルビン1.4mg/dL,AST 160U/L,ALT 380U/L,ALP 82U/L(基準38~113),γ-GT 72U/L(基準13~64),尿素窒素12 mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL。  最も考えられる原因微生物はどれか。

  1. a.A型肝炎ウイルス
  2. b.E型肝炎ウイルス
  3. c.Campylobacter jejuni
  4. d.Salmonella spp.
  5. e.Yersinia enterocolitica

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、食事歴と検査所見から原因微生物を絞り込む問題だ。注目してほしいのは3つ。何を食べたか、食べてから症状が出るまでの期間、そして障害されているのが腸なのか肝臓なのか、だ。まず検査値のパターンから、どんな病態が考えられるかな。
医学生医学生
ASTとALTが上がっていて、ALTのほうが高いです。ALPは正常なので、胆汁うっ滞ではなく肝細胞の障害だと思います。
ドクタードクター
その通り。ALT優位のトランスアミナーゼ上昇で、ALPは正常、ビリルビンもごく軽度の上昇にとどまる。肝細胞障害型、つまり急性肝炎のパターンだ。倦怠感、食欲低下、微熱、肝腫大というのも急性肝炎の初期によくみられる症状だね。では原因として何を考える?
医学生医学生
猪肉を食べているので、食中毒の細菌も気になります。でも腹痛や下痢がないのは引っかかります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。そこが鑑別の分かれ目になる。経口感染で急性肝炎を起こすウイルスといえば?
医学生医学生
A型とE型です。ウイルス学の講義で、B・C型は血液感染、A・E型は経口感染と整理しました。
ドクタードクター
そう。そして決め手が「加熱不十分な猪肉」だ。わが国のE型肝炎は、豚・猪・鹿の肉やレバーを生や加熱不十分で食べたことによる人獣共通感染症として起こることが多い。潜伏期は平均約6週間、2〜9週間程度とされるから、食べてから約3週間で症状が出た今回の経過とも矛盾しない。
医学生医学生
A型肝炎も潜伏期は数週間ですよね。臨床像だけだとA型との区別は難しくないですか。
ドクタードクター
鋭いね。A型肝炎の潜伏期は2〜6週間で、症状だけでは確かに区別しにくい。違うのは感染経路だ。A型は糞口感染で、汚染された水や生のカキなどの二枚貝、感染者からの二次感染、性的接触が典型的。獣肉は典型的な感染源ではない。だから猪肉の摂取歴を説明できるのはE型肝炎なんだ。
医学生医学生
なるほど、感染源で分けるんですね。CBTの勉強では、カキならA型、ジビエならE型と覚えていました。
ドクタードクター
その覚え方で大筋は大丈夫。では細菌のほうも確認しよう。カンピロバクターはどうかな。
医学生医学生
鶏刺しで感染するイメージがあります。感染後にギラン・バレー症候群が起こることもあったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。カンピロバクターは主に加熱不十分な鶏肉から感染し、潜伏期は2〜5日程度、発熱・腹痛・下痢、ときに血便を起こす腸炎が中心だ。サルモネラは鶏卵や食肉、カメなどの爬虫類から感染し、潜伏期は半日〜3日程度と短く、急性胃腸炎を起こす。どちらも今回の長い潜伏期、消化管症状の欠如、肝障害主体という病像には合わない。
医学生医学生
エルシニアは豚肉から感染するので、猪肉とも関係がありそうに思えました。
ドクタードクター
豚肉が感染源になる点では引っかけになりうるね。エルシニアは冷蔵庫の低温でも増殖できるのが特徴で、回腸末端炎や腸間膜リンパ節炎による右下腹部痛から虫垂炎と紛らわしいことがある。結節性紅斑や反応性関節炎を合併することもある。ただ、これも腸炎が主体で、今回のように下痢も腹痛もなく肝炎だけ、という像にはならない。
医学生医学生
潜伏期が長くて、腸の症状がなく、肝臓だけが障害されている。だからE型肝炎ということですね。確定診断はどうするんですか。
ドクタードクター
わが国で保険適用があるIgA型HEV抗体を測るか、HEV RNAを検出する。A型ならIgM型HA抗体だね。急性肝炎を診たら、重症度の評価も忘れないこと。プロトロンビン時間が延長してPT活性40%以下、あるいはINR 1.5以上なら急性肝不全を考えるし、肝性脳症の出現にも注意が必要だ。
医学生医学生
E型肝炎は慢性化しないと習いましたが、それで合っていますか。
ドクタードクター
通常は自然に治って慢性化しない。ただし臓器移植後など免疫抑制状態では慢性化することがある。また、流行地では妊婦、特に妊娠後期の感染で劇症化しやすく致死率が高いことが知られている。中高年の男性に多いのも日本のE型肝炎の特徴だ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、ジビエを出すお店が増えているという話を聞きました。予防も大事ですね。
ドクタードクター
その通り。猪や鹿の肉からは、E型肝炎のほかにも腸管出血性大腸菌、トキソプラズマ、旋毛虫、肺吸虫などに感染しうる。中心部まで十分に加熱すること、具体的には75℃で1分以上かそれと同等以上の加熱が予防の基本だ。肝障害の患者さんを診たら、食事歴、特に獣肉やレバーを食べたかどうかを具体的に聞くことが診断への近道になるよ。

まとめ

加熱不十分な豚・猪・鹿の肉やレバーを食べた数週間後に、倦怠感・食欲低下・微熱とALT優位のトランスアミナーゼ上昇を伴う急性肝炎が出現した場合は、E型肝炎を第一に考えます。E型肝炎は経口感染するRNAウイルスによる人獣共通感染症で、潜伏期は平均約6週間、中高年男性に多く、診断はIgA型HEV抗体やHEV RNAで行います。同じ経口感染のA型肝炎は糞口感染や生の二枚貝が典型的な感染源であり、カンピロバクター・サルモネラ・エルシニアは潜伏期が数日と短く腸炎症状が主体である点で区別できます。E型肝炎は通常慢性化しませんが、免疫抑制状態での慢性化や妊婦での劇症化に注意が必要で、予防には中心部までの十分な加熱が欠かせません。検査値で病態を、食事歴と潜伏期で原因を絞り込む流れは、感染性の肝障害を診るうえでの基本的な臨床推論となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・48歳の男性。主訴は全身倦怠感。 ・4週間前に、十分に加熱されていない猪肉の鍋料理を食べた(加熱不十分なジビエ〈野生鳥獣肉〉の摂取歴)。 ・1週間前から全身倦怠感・食欲低下・微熱(37.2℃)。腹痛・嘔吐・下痢はない(消化管症状を欠く)。 ・右肋骨弓下に肝を2cm触知(肝腫大)。黄疸についての記載はない。 ・血液生化学:AST 160U/L、ALT 380U/L とトランスアミナーゼが上昇し、ALT優位である。ALPは基準範囲内、γ-GTは軽度上昇、総ビリルビン1.4mg/dLはごく軽度の上昇にとどまる。腎機能・尿所見・血算は正常。

診断へのプロセス

1. 病態:ALT優位のトランスアミナーゼ上昇(肝細胞障害型)に対しALPの上昇がなく、胆道閉塞や胆汁うっ滞型の障害ではなく、肝細胞の障害(急性肝炎)を考える。倦怠感・食欲低下・微熱・肝腫大は急性肝炎の前駆〜初期症状として典型的である。 2. 原因:経口感染しうる急性肝炎ウイルスとしてA型とE型がある。本例は「加熱不十分な猪肉」の摂取が決め手となる。わが国のE型肝炎は、豚・猪・鹿などの肉やレバーを生または加熱不十分で食べたことによる人獣共通感染症としての発生が多い。摂取から発症までの約3週間(摂取から受診まで4週間)という経過も、E型肝炎の潜伏期(平均約6週間、2〜9週間程度)に矛盾しない。 3. 細菌性腸炎との区別:猪肉・豚肉などの食肉からはカンピロバクター、サルモネラ、エルシニアなどの細菌にも感染しうるが、これらは潜伏期が数日程度と短く、下痢・腹痛・発熱などの腸炎症状が中心である。本例は潜伏期が長く、消化管症状を欠き、肝障害が主体であるため合わない。 以上から、加熱不十分な猪肉の摂取によるE型肝炎ウイルス(HEV)感染による急性E型肝炎が最も考えられる。確定診断には血中のIgA型HEV抗体(わが国で保険適用のある診断法)やHEV RNAの検出を用いる。

選択肢考察

  1. ×a.  A型肝炎ウイルス

    A型肝炎ウイルス(HAV)も経口感染で急性肝炎を起こし、潜伏期は2〜6週間(平均約4週間)で、本例の臨床像そのものとは区別しにくい。しかし感染経路は糞口感染であり、汚染された水や生の貝類(特にカキなどの二枚貝)、感染者からの二次感染、性的接触(男性間性交渉など)が典型である。獣肉の摂取は典型的な感染源ではなく、本例の猪肉摂取歴を説明するのはE型肝炎である。

  2. ○b.  E型肝炎ウイルス

    E型肝炎ウイルス(HEV)は経口感染するRNAウイルスで、わが国では豚・猪・鹿の肉や内臓(特にレバー)を生または加熱不十分で食べることで感染する例が多い。潜伏期は平均約6週間で、全身倦怠感・食欲低下・発熱などに続いて肝障害をきたす。本例の加熱不十分な猪肉の摂取歴、数週間の潜伏期、消化管症状を欠きALT優位のトランスアミナーゼ上昇と肝腫大を認める点はE型肝炎に合致する。診断はIgA型HEV抗体やHEV RNAで行う。中年以降の男性に多く、多くは自然に治るが、劇症化することもある。

  3. ×c.  Campylobacter jejuni

    カンピロバクターは主に加熱不十分な鶏肉(鶏刺し、鶏わさなど)や、それに汚染された食品から感染する。潜伏期は2〜5日程度で、発熱・腹痛・下痢(ときに血便)を主とする腸炎を起こす。感染後にギラン・バレー症候群を合併することがある。本例は摂取から発症まで約3週間と長く、消化管症状がなく肝障害が主体なので合わない。

  4. ×d.  Salmonella spp.

    サルモネラ属菌(非チフス性)は鶏卵やその加工品、食肉などから感染し、ペットのカメなど爬虫類から感染することもある。潜伏期はおおむね半日〜3日程度と短く、発熱・腹痛・嘔吐・下痢などの急性胃腸炎を起こす。本例の長い潜伏期、消化管症状の欠如、肝炎主体の病像には合わない。

  5. ×e.  Yersinia enterocolitica

    エルシニア・エンテロコリチカは豚肉や汚染された水・乳製品などから感染し、低温(冷蔵庫内)でも増殖できるという特徴がある。発熱・腹痛・下痢を起こし、回腸末端炎や腸間膜リンパ節炎により右下腹部痛をきたして虫垂炎と紛らわしいことがある。合併症として結節性紅斑や反応性関節炎が知られる。本例は消化管症状がなく、肝障害が主体なので合わない。

経口感染する肝炎ウイルスの比較

・A型肝炎(HAV):RNAウイルス。糞口感染(汚染された水・生の二枚貝、感染者からの二次感染、性的接触)。潜伏期2〜6週間。小児では不顕性感染が多く、成人ほど症状が強い。診断はIgM型HA抗体。慢性化しない。ワクチンあり。 ・E型肝炎(HEV):RNAウイルス。途上国では汚染された飲料水による流行性の感染(遺伝子型1・2)、わが国を含む先進国では豚・猪・鹿の加熱不十分な肉・レバーからの人獣共通感染(遺伝子型3・4)が主体。輸血による感染例もある。潜伏期は平均約6週間。中高年男性に多い。診断はIgA型HEV抗体、HEV RNA。通常は慢性化しないが、臓器移植後など免疫抑制状態では慢性化することがある。妊婦(特に妊娠後期)が感染すると劇症化しやすく致死率が高いことが知られる(主に遺伝子型1の流行地での報告)。

急性肝炎の検査所見の読み方

・肝細胞障害型:AST・ALTが著明に上昇し、急性ウイルス性肝炎ではALT優位となることが多い。 ・胆汁うっ滞型:ALP・γ-GTが優位に上昇し、直接ビリルビンも上昇する。 ・重症度の評価:プロトロンビン時間(PT)の延長(PT活性40%以下、INR 1.5以上)は急性肝不全の目安であり、肝性脳症の出現にも注意する。肝臓の合成能が低下すると血中アンモニアが上昇し、尿素窒素はむしろ低値となる。 ・黄疸が強くなると直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症となり、尿の色が濃くなる(ビリルビン尿)、便の色が薄くなるといった症状が現れる。

ジビエ(野生鳥獣肉)の生食・加熱不十分で問題となる主な感染症

E型肝炎、腸管出血性大腸菌感染症、サルモネラ症、カンピロバクター腸炎、トキソプラズマ症、旋毛虫症(トリヒナ症)、肺吸虫症(猪肉に寄生した幼虫による)、有鉤条虫症など。中心部まで十分に加熱(75℃で1分以上またはこれと同等以上)することで予防できる。

POINT

・加熱不十分な豚・猪・鹿の肉やレバーの摂取歴 + 数週間後の急性肝炎 → E型肝炎。 ・E型肝炎の潜伏期は平均約6週間。診断はIgA型HEV抗体(またはHEV RNA)。 ・A型肝炎は生の貝類(カキ)・糞口感染、E型肝炎は獣肉の生食・加熱不十分が典型的な感染源。 ・E型肝炎は通常慢性化しないが、免疫抑制状態では慢性化しうる。妊婦では劇症化に注意。 ・カンピロバクター、サルモネラ、エルシニアは潜伏期が数日程度で腸炎症状が主体であり、消化管症状を欠く肝障害主体の病像とは合わない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。