膜に包まれて飛び出した臓器―臍帯ヘルニアを出生前に告げるとき、両親に何を伝えるか
第120回医師国家試験 F問題 第55問
国試問題にチャレンジ
32歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠20週時に胎児超音波検査で体外に臓器が脱出している所見を認めた。精査のために妊娠32週時に撮影した胎児単純MRIのT2強調矢状断像(A,B)を下に示す。 両親への説明として適切なのはどれか。

- a.「妊娠継続は難しいでしょう」
- b.「出産は経腟分娩で行いましょう」
- c.「出生後直ちに処置が必要でしょう」
- d.「お母さんにステロイドを投与しましょう」
- e.「赤ちゃんの臓器の脱出は自然に戻るでしょう」
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
胎児の腹部臓器が臍帯付着部の正中から膜(ヘルニア嚢)に包まれて脱出していれば臍帯ヘルニア、膜がなく臍の右側から腸管が脱出していれば腹壁破裂と鑑別します。臍帯ヘルニアは胎生期の生理的臍帯ヘルニアと異なり自然には戻らず、出生直後から嚢の保護・保温・輸液・胃管による減圧を行い、全身状態が安定したら臓器の還納と腹壁閉鎖(大きければサイロを用いた多期的還納)を行います。そのため新生児外科とNICUを備えた施設での計画分娩とし、大きなヘルニアでは嚢の破裂や臓器損傷を避けるため帝王切開が選ばれることが多く、母体ステロイド投与は34週未満の早産が切迫した場合の胎児肺成熟目的であり本例の適応ではありません。臍帯ヘルニアは染色体異常や心奇形などの合併が多く、予後はそれらに左右されるため出生前からの精査も重要です。画像所見から病態を見極め、出生後の管理までを見通して両親に説明する力は、周産期医療チームの一員として欠かせない基盤となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・32歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠20週の胎児超音波検査で、胎児の体外に臓器が脱出している所見がみられた。 ・妊娠32週の胎児MRI(T2強調矢状断像):胎児(頭位)の前腹壁から、膜に包まれた大きな腫瘤状の構造が羊水中に突出している。袋の内部には液体(T2強調像で高信号)とともに、ループ状に連なる腸管と考えられる構造がみられ、袋の外縁は膜で境界されている(ヘルニア嚢)。脱出の基部は腹壁の正中、臍帯付着部にあたる。
診断へのプロセス
胎児の腹腔内臓器が体外に出ている病態としては、主に臍帯ヘルニアと腹壁破裂を鑑別する。 ・臍帯ヘルニア:臍帯付着部の腹壁正中の欠損から、腸管・肝臓などが膜(羊膜・ワルトン膠質・腹膜からなるヘルニア嚢)に覆われて脱出する。染色体異常(13・18トリソミーなど)や心奇形、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群などの合併が多い。 ・腹壁破裂:多くは臍帯付着部の右側の小さな欠損から腸管が膜に覆われずに脱出し、羊水中に浮遊する。若年の母体に多く、合併奇形は少ない。 なお、先天性横隔膜ヘルニアは腹部臓器が胸腔へ脱出する疾患で、体外への脱出ではない。 本例は脱出臓器が膜に包まれた大きな袋として描出されており、臍帯ヘルニアと診断できる。
設問の考え方
臍帯ヘルニアは胎内で自然に治ることはなく、出生後に外科的治療(脱出臓器の腹腔内への還納と腹壁閉鎖)が必要である。出生直後からヘルニア嚢の保護、体温・水分の管理、胃管による減圧、合併奇形の評価などの新生児管理を要するため、新生児外科・新生児集中治療室(NICU)を備えた周産期センターで計画的に分娩し、生まれてすぐに処置を始められる体制を整えることを両親に説明する。
選択肢考察
- ×a. 「妊娠継続は難しいでしょう」
臍帯ヘルニアそのものは妊娠継続を妨げる疾患ではない。ヘルニア嚢が破れるなどの事態がなければ、胎児の成熟を待って正期産(妊娠37週以降)での計画分娩を目指すのが一般的である。重い染色体異常や致死的な合併奇形がある場合には予後の説明が変わりうるが、本例でそのような情報は示されていない。
- ×b. 「出産は経腟分娩で行いましょう」
臍帯ヘルニアにおける分娩方法は、小さなヘルニアであれば経腟分娩も選択肢となりうるが、本例のように大きなヘルニア嚢がある場合には、産道通過時の嚢の破裂や脱出臓器(特に肝臓)の損傷、難産を避けるため帝王切開が選ばれる。また、新生児外科チームが待機できる日時に計画的に分娩できるという利点もある。本例で一律に経腟分娩を勧める説明は適切でない。
- ○c. 「出生後直ちに処置が必要でしょう」
臍帯ヘルニアの新生児は、出生直後から管理が必要である。脱出臓器を覆うヘルニア嚢を温かい生理食塩水で湿らせたガーゼやラップ・ビニール袋などで保護して乾燥・損傷・感染を防ぎ、脱出部から失われる熱と水分を補うため保温と輸液を行う。胃管を入れて腸管内のガスを減圧し、腸管の血流が保たれるよう体位を整える。合併奇形(心奇形、染色体異常など)を検索しつつ、全身状態が安定すれば脱出臓器を腹腔内に戻して腹壁を閉じる手術を行う。脱出が大きく一度に戻せない場合は、サイロ(シリコン製の袋)を用いて数日かけて段階的に還納する。このように生後すぐの処置が不可欠であることを両親に伝えるのは適切である。
- ×d. 「お母さんにステロイドを投与しましょう」
母体への副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン)投与は、妊娠34週未満で1週間以内に早産となる可能性が高い場合に、胎児の肺成熟を促し新生児呼吸窮迫症候群などを減らす目的で行われる。本例には切迫早産の徴候や早期娩出の予定は示されておらず、臍帯ヘルニア自体もステロイド投与の適応ではない。
- ×e. 「赤ちゃんの臓器の脱出は自然に戻るでしょう」
臍帯ヘルニアは腹壁の形成不全であり、子宮内でも出生後でも自然に脱出臓器が腹腔内へ戻ることはない。出生後に外科的な還納と腹壁閉鎖が必要である。なお、胎生10週ころまでは腸管が臍帯内に出ている生理的臍帯ヘルニアが正常にみられ、これは自然に腹腔内へ戻るが、妊娠20週以降まで脱出が残る本例はそれとは異なる。
臍帯ヘルニアと腹壁破裂の比較
・欠損部位:臍帯ヘルニアは臍帯付着部(正中)。腹壁破裂は多くが臍帯付着部の右側で、臍帯は正常に付着する。 ・ヘルニア嚢:臍帯ヘルニアはあり(羊膜・ワルトン膠質・腹膜)。腹壁破裂はなし。 ・脱出臓器:臍帯ヘルニアは腸管のほか肝臓を含むことも多い。腹壁破裂は主に腸管で、羊水にさらされて腸管壁が肥厚・癒着しやすい。 ・合併異常:臍帯ヘルニアは多い(染色体異常、心奇形、ベックウィズ・ヴィーデマン症候群、総排泄腔外反などを含む正中線上の異常)。腹壁破裂は少ないが、腸閉鎖などの腸管自体の異常を伴うことがある。 ・母体:腹壁破裂は若年母体に多い。 ・母体血清AFP(α-フェトプロテイン):どちらも上昇しうるが、腹壁破裂でより高値となりやすい。 ・予後:臍帯ヘルニアは合併異常に左右される。腹壁破裂は合併異常が少なく、腸管の状態が良ければ予後は比較的良好。
発生
胎生6週ころ、急速に伸びる中腸は腹腔に収まりきらず臍帯内へ出る(生理的臍帯ヘルニア)。その後胎生10〜12週ころに回転しながら腹腔内へ戻る。臍帯ヘルニアは、この還納の失敗や体壁の閉鎖不全によって生じると考えられている。
出生前診断後の対応
・胎児超音波・MRIで脱出臓器の範囲や大きさ、ほかの奇形を評価し、必要に応じて遺伝カウンセリングを行ったうえで染色体検査を検討する。 ・新生児外科・NICUを備えた施設で計画分娩とする。大きなヘルニアや肝臓脱出例では帝王切開が選ばれることが多い。 ・ヘルニア嚢の破裂や胎児機能不全が生じれば急速遂娩を考慮する。
出生後の治療
嚢の保護・保温・輸液・胃管による減圧 → 合併奇形の評価 → 一期的閉鎖(小さい場合)またはサイロを用いた多期的還納(大きい場合)。全身状態が悪く手術ができない巨大例では、嚢表面の上皮化を待って後日腹壁を修復する保存的方法がとられることもある。
POINT
・胎児の腹部臓器が膜(ヘルニア嚢)に覆われて臍帯付着部から脱出 → 臍帯ヘルニア。膜がなく臍の右側から腸管が脱出 → 腹壁破裂。 ・臍帯ヘルニアは染色体異常・心奇形などの合併が多く、出生前から精査する。 ・自然には治らない。出生直後からヘルニア嚢の保護・保温・輸液・胃管減圧を行い、還納と腹壁閉鎖の手術を行う。 ・新生児外科のある施設での計画分娩とし、大きなヘルニアでは帝王切開を選択する。 ・母体ステロイド投与は妊娠34週未満の早産が切迫している場合の胎児肺成熟目的であり、本例は適応外。
