針を刺すか、刺さないか―出生前診断を「侵襲的」と「非侵襲的」に分ける一本の線
第118回医師国家試験 C問題 第32問
国試問題にチャレンジ
出生前診断の中で非侵襲的検査はどれか。2つ選べ。
- a.絨毛検査
- b.羊水検査
- c.超音波検査
- d.母体血清マーカー検査
- e.臍帯血検査〈胎児血液検査〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
出生前診断は、子宮内に針を入れて胎児側の検体を採取するかどうかで侵襲的検査と非侵襲的検査に分けられます。超音波検査と母体血清マーカー検査(クアトロテストなど)は画像や母体採血だけで行う非侵襲的検査で、胎児へのリスクはないものの、多くは確率を示す非確定的検査です。絨毛検査(11〜14週ごろ、胎盤限局性モザイクに注意)、羊水検査(15〜16週以降)、臍帯血検査(18週ごろ以降、胎児貧血の診断や胎児輸血にも関与)は確定診断が可能な一方、流産などのリスクを伴う侵襲的検査です。母体血中のcell-free DNAを調べるNIPTも非侵襲的ですが、陽性時は侵襲的検査での確定が必要です。各検査の性質を正しく理解することは、遺伝カウンセリングを通じて妊婦とパートナーの意思決定を支えるための基盤となります。
解答・解説
正解はc, dです
問われていること
出生前診断(胎児の疾患や染色体異常などを妊娠中に調べる検査)を、「侵襲的検査」と「非侵襲的検査」に分類できるかを問う問題である。
分類の考え方
・侵襲的検査:子宮内に針などを入れて、胎児由来の細胞や組織(絨毛、羊水中の胎児細胞、胎児血)を直接採取する検査。胎児の染色体・遺伝子を直接調べるので確定診断が可能だが、流産・破水・感染・出血などのリスクを伴う。 ・非侵襲的検査:母体の体外からの画像検査や母体の採血だけで行う検査。胎児・妊娠経過に対する直接のリスクはないが、多くは「可能性(確率)」を示す非確定的検査(スクリーニング)であり、陽性の場合は確定のために侵襲的検査が必要になる。 判断のポイントは「胎児側の組織を穿刺・採取するかどうか」である。母体腹壁の外からプローブを当てる超音波検査と、母体の腕から採血する母体血清マーカー検査は非侵襲的検査に当たる。絨毛・羊水・臍帯血はいずれも胎児側の検体を穿刺して採るため侵襲的検査である。
選択肢考察
- ×a. 絨毛検査
絨毛採取(CVS:chorionic villus sampling)は、経腹的または経腟(経頸管)的に胎盤の絨毛組織を採取し、染色体分析などを行う侵襲的検査である。妊娠11~14週ごろと早い時期に実施できる利点があるが、流産のリスクが羊水検査よりやや高い。また絨毛は胎盤由来の組織であるため、胎盤だけに染色体異常がみられる胎盤限局性モザイクによって結果が胎児の核型と食い違うことがある。
- ×b. 羊水検査
超音波ガイド下に母体腹壁から子宮内に針を刺し、羊水を採取して浮遊する胎児由来細胞を培養し染色体検査などを行う侵襲的検査である。通常は妊娠15~16週以降に行う。染色体異常の確定診断に最も広く用いられるが、流産・破水・感染などのリスク(流産率はおおむね0.3%前後とされる)がある。
- ○c. 超音波検査
母体の腹壁上(または腟内)からプローブを当てて胎児を観察する画像検査で、胎児や妊娠に対する侵襲がない非侵襲的検査である。胎児の発育、形態異常(心奇形、神経管閉鎖不全など)の評価に加え、妊娠11~13週ごろの胎児後頸部浮腫(NT:nuchal translucency)の肥厚は染色体異常(21トリソミーなど)の可能性を示すソフトマーカーとなる。ただし超音波所見から染色体異常を確定することはできず、確率を示す非確定的検査である。
- ○d. 母体血清マーカー検査
母体から採血し、胎児・胎盤に由来して母体血中に移行する物質の濃度を測定する検査で、母体の採血だけで済む非侵襲的検査である。代表的なクアトロテスト(妊娠15~18週ごろ)では、AFP(α-フェトプロテイン)、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、uE3(非抱合型エストリオール)、インヒビンAの4項目を測定し、母体年齢などと組み合わせて21トリソミー、18トリソミー、開放性神経管閉鎖不全症の確率を算出する。結果は確率で示される非確定的検査であり、確定には羊水検査などの侵襲的検査が必要である。
- ×e. 臍帯血検査〈胎児血液検査〉
超音波ガイド下に臍帯の血管(通常は臍帯静脈)を穿刺して胎児血を直接採取する検査で、臍帯穿刺とも呼ばれる侵襲的検査である。妊娠18週ごろ以降に行われ、染色体検査のほか、胎児貧血(血液型不適合妊娠など)、胎児感染症、血液疾患の診断に用いられる。必要に応じて胎児輸血などの治療にもつながる。流産や胎児徐脈などのリスクは羊水検査より高い。
出生前検査の整理
非確定的検査(非侵襲的) ・超音波検査(NT計測などのソフトマーカーを含む) ・母体血清マーカー検査:クアトロテスト(AFP、hCG、uE3、インヒビンA)、トリプルマーカー(AFP、hCG、uE3) ・コンバインド検査:妊娠11~13週にNT計測と母体血清マーカー(PAPP-A、遊離β-hCG)を組み合わせる ・NIPT(無侵襲的出生前遺伝学的検査、non-invasive prenatal genetic testing):妊娠10週以降に母体血中の胎児(胎盤)由来cell-free DNAを解析し、主に21・18・13トリソミーを調べる。感度・特異度は高いが、陽性的中率は母体年齢などで変わるため、陽性時は羊水検査などで確定する必要がある。 確定的検査(侵襲的) ・絨毛検査:妊娠11~14週ごろ。早期に結果が得られるが、胎盤限局性モザイクに注意。 ・羊水検査:妊娠15~16週以降。最も一般的な確定検査。 ・臍帯血検査(臍帯穿刺):妊娠18週ごろ以降。染色体以外に胎児貧血や感染症の診断も可能。
クアトロテストの典型パターン
・21トリソミー:AFP低下、uE3低下、hCG上昇、インヒビンA上昇 ・18トリソミー:AFP・uE3・hCGがいずれも低下 ・開放性神経管閉鎖不全症:AFP上昇
倫理的配慮
出生前検査は、検査の意義・限界・結果が判明した後の選択肢について、検査前後に十分な遺伝カウンセリングを行ったうえで、妊婦(とパートナー)の自己決定に基づいて実施することが求められる。
POINT
・侵襲的検査(確定的検査):絨毛検査、羊水検査、臍帯血検査(臍帯穿刺)=胎児側の検体を穿刺・採取する。流産などのリスクがある。 ・非侵襲的検査(多くは非確定的検査):超音波検査、母体血清マーカー検査、NIPT、コンバインド検査=画像または母体採血のみ。 ・非確定的検査で陽性なら、確定には侵襲的検査が必要。 ・実施時期の目安:絨毛検査11~14週、羊水検査15~16週以降、臍帯穿刺18週以降、クアトロテスト15~18週、NIPT10週以降。
