StudyMed医師国家試験

赤く、張りつめた鼓膜―5枚の耳鏡像から急性中耳炎を見抜く

第106回医師国家試験 I問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第24問

耳鏡所見(①~⑤)を別に示す。  急性中耳炎の所見と考えられるのはどれか。

第106回 I問題 第24問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は耳鏡所見の読み分けの問題だ。5枚の鼓膜写真のうち、急性中耳炎に当たるものを選ぶ。鼓膜を見るときは「色」「位置(膨らんでいるか、へこんでいるか)」「穿孔の有無と場所」「鼓膜越しに何が透けて見えるか」の4点を順にチェックするのが基本。この物差しで1枚ずつ見ていこう。
医学生医学生
正直、耳鏡写真はどれも同じような丸い膜に見えてしまって苦手です。まず正常の鼓膜がどう見えるかから自信がありません。
ドクタードクター
そこから確認しよう。正常鼓膜は真珠のような灰白色で半透明。中央にツチ骨柄が透けて見え、上のほうにツチ骨短突起、そして前下方に光錐という光の反射が見える。この「ランドマークが見える」というのが正常の目安なんだ。
医学生医学生
臨床実習の耳鼻科で耳鏡を覗かせてもらったとき、光錐を探すように言われました。光錐が見えないと何か異常、ということですか。
ドクタードクター
そう考えていい。光錐は鼓膜がきれいな円錐形で張っているから見える反射なので、膨隆したり陥凹したりして形が崩れると消えたり乱れたりする。では急性中耳炎を考えよう。どんな病態だったかな。
医学生医学生
上気道炎のあとに、細菌が耳管を通って中耳に入って起こる急性炎症です。肺炎球菌やインフルエンザ菌が多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。中耳腔に膿がたまるから、鼓膜は炎症で真っ赤になり、内側から押されて外側へパンパンに膨らむ。膨隆が強いとツチ骨柄も光錐も見えなくなる。つまり「発赤」と「膨隆」と「ランドマーク消失」の3点セットを探せばいいんだ。
医学生医学生
鼓膜全体が強く赤く腫れて盛り上がり、ツチ骨柄がまったくわからない写真がありました。あれが急性中耳炎ですね。
ドクタードクター
正解。それが典型像だ。膨隆がさらに進むと鼓膜が自然に破れて膿性耳漏が出てくる。破れると圧が抜けて、耳痛はむしろ楽になることが多いのも臨床では大事なポイントだよ。では残りも見ていこう。鼓膜の内側に黄色っぽい液体が透けて見えて、鼓膜がへこんでいる写真はどうかな。
医学生医学生
液体がたまっているなら、それも急性中耳炎の途中経過かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだ。発赤がなく、鼓膜は膨らむどころか陥凹していて、ツチ骨柄が短く見える。黄色〜琥珀色の液体が透見されるのは滲出性中耳炎だ。耳管機能が悪くて中耳腔が陰圧になり、滲出液がたまった状態で、耳痛や発熱といった急性炎症症状は伴わない。ティンパノグラムはB型になる。
医学生医学生
膨隆なら急性中耳炎、陥凹なら滲出性中耳炎、と位置で分けるわけですね。
ドクタードクター
そういうこと。液面線や気泡が見えることもある。小児ではアデノイド増殖症、成人で片側の滲出性中耳炎なら上咽頭癌による耳管閉塞を必ず疑う、というのも頻出だ。次に、鼓膜の下方の緊張部に大きな穴が開いていて、奥の鼓室粘膜が見えている写真。
医学生医学生
穴が開いているなら、急性中耳炎が破れたあとということはないでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。ただこの写真は発赤も膨隆もなく、炎症の落ち着いた大きな穿孔が残っている。これは慢性中耳炎の像だ。耳漏を繰り返す時期と乾いた時期があり、伝音難聴を伴う。治療は鼓膜形成術や鼓室形成術になる。
医学生医学生
残りの2枚は真珠腫ですよね。CBTの勉強で、弛緩部型と先天性の違いがややこしかった記憶があります。
ドクタードクター
整理しよう。鼓膜上方の弛緩部に赤い肉芽がある写真は後天性の弛緩部型真珠腫を示唆する。弛緩部は線維層が乏しくへこみやすく、そこにできたポケットに角化物がたまって増大する。一方、穿孔も炎症もない鼓膜の奥に白い塊が透けて見える写真は先天性真珠腫だ。中耳炎の既往がない小児に偶然見つかることが多い。
医学生医学生
どちらの真珠腫も、骨を壊して進むから手術になるんでしたね。
ドクタードクター
そう。耳小骨破壊による伝音難聴、顔面神経麻痺、内耳障害、頭蓋内合併症まで起こりうるので、原則手術だ。最後に急性中耳炎の臨床面を補足しておこう。乳幼児に多いのは、耳管が太く短く水平に近いからだ。言葉で痛みを訴えられないので、不機嫌や耳を触る仕草で気づかれることが多い。
医学生医学生
治療はすぐ抗菌薬ですか。
ドクタードクター
日本の小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、年齢、症状、鼓膜の発赤・膨隆・耳漏をスコア化して重症度を決める。軽症なら抗菌薬なしで経過観察、中等症以上でアモキシシリンが第一選択、高度の膨隆を伴う重症例では鼓膜切開も考慮する。耐性菌を増やさないためにも、鼓膜所見を正しく評価できることが治療選択の出発点になるんだ。

まとめ

急性中耳炎の鼓膜は、中耳腔にたまった膿によって全体が発赤・膨隆し、ツチ骨柄や光錐といった正常のランドマークが見えなくなるのが特徴です。発赤がなく陥凹して黄色の液体が透見されれば滲出性中耳炎、緊張部の大きな穿孔は慢性中耳炎、弛緩部の肉芽や痂皮は後天性真珠腫、穿孔のない鼓膜の奥の白色塊は先天性真珠腫と読み分けます。鼓膜は「色・位置・穿孔・透見される内容」の4点で系統的に観察するのが基本です。小児急性中耳炎ではこの鼓膜所見が重症度判定に直結し、経過観察・抗菌薬・鼓膜切開の選択を左右するため、耳鏡所見を正しく読む力は臨床で欠かせません。

解答・解説

正解はcです

中耳炎の診断では、耳鏡(または耳内視鏡・顕微鏡)で鼓膜を観察し、①色調(発赤の有無)、②位置(膨隆しているか、陥凹しているか)、③穿孔の有無と部位(緊張部か弛緩部か)、④鼓膜を透かして見える鼓室内の様子(液体貯留、白色塊など)を順に確認することが基本である。 正常鼓膜は真珠様の灰白色で半透明であり、ツチ骨柄(鼓膜に付着するツチ骨の柄の部分)やツチ骨短突起が透見でき、前下方に光錐(光の反射)がみられる。 急性中耳炎は、主に細菌が上気道から耳管を経て中耳腔に感染して起こる急性炎症である。鼓室内に膿が貯留するため、鼓膜は発赤し、内側から押されて外側へ膨隆する。膨隆が強いとツチ骨柄や光錐は見えなくなる。本問では、鼓膜全体が発赤・腫脹して膨隆している像を選べばよい。各画像を、鼓膜の色・位置・穿孔・透見される内容の観点から読み分けることが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    鼓膜上方の弛緩部(上鼓室に面する部分)に赤色の肉芽形成を認める。弛緩部は線維層が乏しく陥凹しやすい部位で、ここに陥凹ポケットができ、角化上皮(落屑)が蓄積して増大したものが後天性(弛緩部型)真珠腫である。弛緩部の病変・肉芽・痂皮は真珠腫性中耳炎を示唆する所見であり、急性中耳炎の像ではない。真珠腫は周囲の骨を破壊しながら進展し、耳小骨破壊による伝音難聴、顔面神経麻痺、内耳障害、頭蓋内合併症をきたし得るため、原則として手術治療となる。

  2. ×b.  ②

    鼓膜緊張部(鼓膜の大部分を占める下方の部分)に大きな穿孔を認め、穿孔を通して鼓室内の粘膜や耳小骨が見える。発赤・膨隆はなく、炎症が落ち着いた状態の慢性中耳炎(慢性化膿性中耳炎)の所見である。慢性中耳炎では、耳漏を繰り返す耳漏期と、乾燥した乾燥期がみられ、伝音難聴を伴う。治療として鼓膜形成術や鼓室形成術が行われる。

  3. ○c.  ③

    鼓膜は全体が強く発赤し、鼓室内に貯留した膿によって外側へ膨隆・腫脹しており、ツチ骨柄や光錐などの正常構造が判別できない。これは急性中耳炎に典型的な所見である。膨隆が高度になると鼓膜が自潰(自然穿孔)して膿性耳漏が出現し、耳痛はむしろ軽減することが多い。臨床的には、上気道炎に続いて耳痛・発熱・難聴が出現し、乳幼児では不機嫌や耳を触る仕草で気づかれることが多い。

  4. ×d.  ④

    鼓膜自体には穿孔や明らかな炎症所見はないが、鼓膜を透かして鼓室内(ツチ骨柄付近の前上象限〜後上方)に白色の塊状物が見える。中耳炎の既往や鼓膜穿孔がないのに鼓膜の内側に白色塊を認める場合、先天性真珠腫を考える。先天性真珠腫は胎生期の上皮の遺残から生じるとされ、小児に多く、無症状で偶然発見されることも少なくない。進行すると耳小骨を破壊して伝音難聴をきたすため、手術で摘出する。

  5. ×e.  ⑤

    鼓膜は発赤を伴わず内側へ陥凹しており、ツチ骨柄が短縮して見える。鼓膜越しに黄色〜琥珀色の液体貯留が透見される。これは滲出性中耳炎の所見である。滲出性中耳炎は、耳管機能障害などで中耳腔が陰圧となり、鼓室内に滲出液が貯留した状態で、急性炎症症状(耳痛・発熱)を伴わない。気液面(液面線)や気泡が見えることもある。小児ではアデノイド増殖症、成人では上咽頭癌による耳管閉塞にも注意する。ティンパノグラムはB型(平坦型)を示す。

主な中耳疾患の鼓膜所見の比較

正常:灰白色・半透明、ツチ骨柄と光錐が見える。 急性中耳炎:発赤、膨隆(膿の貯留)、光錐消失。進行すると穿孔と膿性耳漏。 滲出性中耳炎:発赤なし、陥凹、黄色〜琥珀色の液体貯留の透見、気泡・液面線。 慢性中耳炎:緊張部の永久穿孔(中心性穿孔が多い)、炎症期には耳漏。 後天性真珠腫(弛緩部型):弛緩部の陥凹・穿孔、痂皮・肉芽・白色の角化物(デブリ)。 先天性真珠腫:正常な鼓膜の内側に白色塊が透見される(前上象限に多い)。

急性中耳炎の概要

好発年齢は乳幼児で、耳管が太く短く水平に近いこと、上気道感染を起こしやすいことが背景にある。主な起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスである。日本の小児急性中耳炎診療ガイドラインでは、年齢、耳痛・発熱・啼泣/不機嫌といった臨床症状、鼓膜の発赤・膨隆・耳漏の程度をスコア化して重症度を判定し、軽症では抗菌薬を投与せず経過観察、中等症以上では抗菌薬(第一選択はアモキシシリン)投与、高度の鼓膜膨隆を伴う重症例では鼓膜切開も考慮する。合併症として急性乳様突起炎、顔面神経麻痺、髄膜炎などがある。

POINT

・急性中耳炎の鼓膜所見は「発赤」と「膿の貯留による膨隆」で、光錐やツチ骨柄が不明瞭になる。 ・滲出性中耳炎は「発赤なし・陥凹・液体貯留の透見」で急性中耳炎と区別する。 ・緊張部穿孔は慢性中耳炎、弛緩部の病変(肉芽・痂皮)は後天性真珠腫、穿孔のない鼓膜の奥の白色塊は先天性真珠腫を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。