StudyMed医師国家試験

飢えた体はなぜ成長ホルモンを増やすのか―「節約」と「動員」で読み解く低栄養の検査値

第106回医師国家試験 G問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第21問

低栄養状態で高値を示すのはどれか。

  1. a.レプチン
  2. b.アルブミン
  3. c.成長ホルモン
  4. d.コリンエステラーゼ
  5. e.遊離トリヨードサイロニン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、低栄養状態でホルモンや血清蛋白がどう動くかを問う問題だ。丸暗記に頼らず、飢餓に置かれた体が「何をしたいのか」を考えると答えが見えてくる。具体的な病態としては、神経性やせ症をイメージすると整理しやすいよ。
医学生医学生
低栄養なら、とにかく全部の値が下がりそうな気がします。高くなるものがあるんですか。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だね。飢餓に対する体の反応は大きく2つの方向に分けられる。1つは「エネルギーを節約する」方向、もう1つは「血糖を保つために蓄えを動員する」方向だ。前者に関わる値は下がり、後者に関わるホルモンは上がる。
医学生医学生
血糖を上げる方向というと、インスリン拮抗ホルモンですね。生理学の講義で、グルカゴン、コルチゾール、カテコラミン、成長ホルモンと習いました。
ドクタードクター
その通り。成長ホルモンは脂肪分解や肝臓での糖新生を促して血糖を維持する働きがある。だから飢餓では分泌が亢進して高値になる。これが正解だ。
医学生医学生
でも、成長ホルモンって名前の通り「成長」や同化のホルモンですよね。食べていないのに上がるのは不思議です。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。ここで鍵になるのがIGF-Iだ。栄養が足りている時、成長ホルモンは肝臓でIGF-Iを作らせて成長・同化に働く。ところが低栄養では肝臓の成長ホルモン受容体が減って作用が伝わりにくくなり、IGF-Iは低下する。IGF-Iは成長ホルモン分泌を抑えるフィードバックを担っているから、それが弱まって成長ホルモンはさらに上がるんだ。空腹で胃から出るグレリンが分泌を刺激することも加わる。
医学生医学生
成長ホルモンは高いのにIGF-Iは低い、という乖離が低栄養の特徴なんですね。同化はやめて、血糖維持の仕事だけさせているイメージでしょうか。
ドクタードクター
うまい表現だ。では節約側を見ていこう。レプチンはどうかな。
医学生医学生
脂肪細胞から出るホルモンなので、脂肪が減れば下がりますよね。肥満で高いと習いました。
ドクタードクター
正解。レプチンは体脂肪量にほぼ比例し、低栄養では低下する。レプチン低下は視床下部のGnRH分泌を抑えるので、神経性やせ症の無月経の一因と考えられている。次は遊離トリヨードサイロニン、つまりFT3だ。
医学生医学生
代謝を落としてエネルギーを節約したいなら、甲状腺ホルモンは下がるはずです。でもTSHはどうなるんでしょう。
ドクタードクター
よく考えているね。低栄養ではT4を活性型のT3に変える脱ヨウ素酵素の働きが落ちて、FT3が下がり、代わりに不活性型のリバースT3が増える。TSHやT4は通常ほぼ正常に保たれる。これを低T3症候群と呼ぶ。甲状腺そのものの病気ではないので、原則としてホルモン補充は不要だ。
医学生医学生
内科の実習で、重症の入院患者さんのFT3だけ低い結果を見て、指導医の先生に「甲状腺は悪くないよ」と言われたことがあります。
ドクタードクター
まさにそれだね。重症疾患でも同じ現象が起こる。残るアルブミンとコリンエステラーゼは、どちらも肝臓で合成される蛋白だ。材料のアミノ酸やエネルギーが不足すれば合成が落ちて低値になる。
医学生医学生
コリンエステラーゼは有機リン中毒で下がる酵素というイメージしかありませんでした。肝臓の合成能も反映するんですね。
ドクタードクター
そう。肝硬変でも下がり、逆に脂肪肝やネフローゼ症候群では上がる。アルブミンは半減期が約3週間と長いので、長期の栄養状態の指標になる。直近の変化を見るなら、半減期約2日のトランスサイレチン、いわゆるプレアルブミンなどのrapid turnover proteinが役立つよ。
医学生医学生
整理すると、節約側のレプチンとFT3、合成低下のアルブミンとコリンエステラーゼは下がって、動員側の成長ホルモンだけが上がる、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も加えておこう。神経性やせ症ではコルチゾールも上昇しやすく、意外なことに総コレステロールが上がることも多い。白血球数や血糖は下がる。また、高度の低栄養の人に急に栄養を入れると、低リン血症などを来すリフィーディング症候群の危険があるから、再栄養はゆっくり慎重に進めることが大切だ。
医学生医学生
検査値を「体が飢餓にどう適応しているか」として読めば、暗記しなくても方向がわかりますね。

まとめ

低栄養状態では、体はエネルギーを「節約」する方向と、血糖を維持するために蓄えを「動員」する方向の両面で適応します。節約側ではレプチンや遊離T3が低下し(低T3症候群ではリバースT3が上昇、TSHは通常正常)、肝臓で合成されるアルブミンやコリンエステラーゼも材料不足で低下します。一方、インスリン拮抗ホルモンである成長ホルモンは脂肪分解・糖新生を促すため上昇し、GH抵抗性によるIGF-I低下とそのフィードバック減弱、グレリン増加がさらに拍車をかけます。「GH高値・IGF-I低値」の乖離は低栄養の特徴的な所見です。検査値を生体の適応反応として理解しておくと、神経性やせ症や重症患者の栄養評価、再栄養時の管理にも応用できます。

解答・解説

正解はcです

低栄養(飢餓)状態で体内の各種ホルモンや血清蛋白がどう変化するかを問う問題である。神経性やせ症(神経性食欲不振症、anorexia nervosa)の検査所見を思い浮かべると整理しやすい。 低栄養に対する生体の反応は、大きく次の二つの方向でとらえられる。 1) エネルギーを節約する方向:基礎代謝を下げるため、活性型甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)が低下する。脂肪組織の減少を反映してレプチンも低下し、生殖機能(性腺系)も抑えられる。 2) 血糖を維持し、蓄えを動員する方向:糖新生や脂肪分解を促すホルモン(成長ホルモン、コルチゾールなど、インスリンに拮抗するホルモン)が上昇する。 さらに、材料となるアミノ酸やエネルギーの不足により、肝臓で合成される蛋白(アルブミン、コリンエステラーゼ、トランスサイレチンなど)の合成が低下する。 したがって、選択肢のうち低栄養で「高値」になるのは、血糖維持に働くホルモンである成長ホルモンと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  レプチン

    低栄養では低値となる。レプチンは脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(脂肪組織が分泌する生理活性物質)で、血中濃度は体脂肪量におおむね比例する。視床下部に作用して食欲を抑え、エネルギー消費を高める。肥満や過栄養では上昇し、脂肪が減少する低栄養では低下する。レプチンの低下は視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)分泌を抑えるため、神経性やせ症でみられる無月経の一因と考えられている。

  2. ×b.  アルブミン

    低栄養では低値となる。アルブミンは肝臓で合成される血漿蛋白で、蛋白・エネルギーの摂取不足が続くと合成が低下する。血中半減期が約3週間と長いため、比較的長期の栄養状態を反映する指標である。短期間の栄養状態の変化をみるには、半減期の短いトランスサイレチン(プレアルブミン、約2日)、トランスフェリン(約1週間)、レチノール結合蛋白(約半日)などのRTP(rapid turnover protein)が用いられる。なお、アルブミンは肝障害、ネフローゼ症候群、炎症などでも低下するため、栄養指標として解釈する際には注意が必要である。

  3. ○c.  成長ホルモン

    低栄養で高値となるため、これが正解である。成長ホルモン(GH)は下垂体前葉から分泌され、脂肪分解や肝臓での糖新生を促し、インスリンの作用に拮抗して血糖を上げる働きをもつ。飢餓時には血糖とエネルギー供給を維持するためにGH分泌が亢進する。加えて、低栄養では肝臓のGH受容体の発現が低下してGHの作用が伝わりにくくなり(GH抵抗性)、肝臓で産生されるインスリン様成長因子-I(IGF-I、ソマトメジンC)は低下する。IGF-IはGH分泌を抑える負のフィードバックを担っているため、その低下によってGHはさらに上昇する。空腹時に胃から分泌され、GH分泌を刺激するグレリンの増加も関与する。このように「GHは高値、IGF-Iは低値」という乖離が低栄養の特徴である。

  4. ×d.  コリンエステラーゼ

    低栄養では低値となる。血清コリンエステラーゼ(ChE、主に偽性コリンエステラーゼ)は肝臓で合成される酵素であり、アルブミンと同様に肝臓の蛋白合成能を反映する。低栄養や肝硬変などの肝合成能低下で低下し、有機リン中毒でも活性が著しく低下する。一方、過栄養を背景とする脂肪肝やネフローゼ症候群では上昇する。

  5. ×e.  遊離トリヨードサイロニン

    低栄養では低値となる。低栄養では、甲状腺から分泌されたサイロキシン(T4)を活性型のT3に変換する5'-脱ヨウ素酵素の働きが低下し、遊離T3(FT3)が低下する。代わりに不活性型のリバースT3(rT3)が増加する。これにより基礎代謝が抑えられ、エネルギー消費が節約される。TSH(甲状腺刺激ホルモン)やT4は通常ほぼ正常に保たれ、この状態を低T3症候群(non-thyroidal illness、甲状腺以外の疾患に伴う甲状腺ホルモン異常)という。甲状腺そのものの病気ではないため、甲状腺ホルモンの補充は原則として不要である。

低栄養(神経性やせ症など)でみられる主な検査値の変化

・上昇するもの:成長ホルモン(GH)、コルチゾール、グレリン、リバースT3、(脱水時の)BUN、肝逸脱酵素(AST・ALT、重度の低栄養や再栄養時)、コレステロール(神経性やせ症でしばしば上昇する)など。 ・低下するもの:IGF-I、レプチン、遊離T3、LH・FSH(エストロゲンも低下し無月経となる)、アルブミン、総蛋白、コリンエステラーゼ、トランスサイレチン、血糖、白血球数など。 ・不変のことが多いもの:TSH、T4(FT4は正常〜やや低下)。

栄養指標となる血清蛋白の半減期

アルブミン:約21日、トランスフェリン:約7〜10日、トランスサイレチン(プレアルブミン):約2日、レチノール結合蛋白:約0.5日。半減期が短いほど直近の栄養状態の変化を鋭敏に反映する。

GH–IGF-I系と栄養

栄養状態が良いとGHはIGF-Iの産生を通じて成長・同化に働く。一方、飢餓ではGH抵抗性によりIGF-Iが低下し、GHは主に脂肪分解・血糖維持という異化・抗インスリン作用を担うようになる。GH高値でもIGF-Iが低いという組合せは、低栄養や肝硬変などで典型的にみられる。

POINT

・低栄養でGHは上昇し、IGF-Iは低下する(GH抵抗性とIGF-Iによる負のフィードバックの減弱)。 ・レプチンは体脂肪量を反映し、低栄養で低下する。 ・アルブミン・コリンエステラーゼなど肝臓で合成される蛋白は低栄養で低下する。 ・低栄養ではFT3が低下しリバースT3が上昇、TSHは通常正常(低T3症候群)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。