減り続ける措置入院―「入院から地域へ」で読み解く日本の精神保健福祉
第106回医師国家試験 G問題 第20問
国試問題にチャレンジ
我が国における精神保健福祉について誤っているのはどれか。
- a.精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉の目的には,精神障害者の社会参加が挙げられている。
- b.平成20年患者調査による在院患者数では「精神及び行動の障害」の患者が最も多い。
- c.精神障害者は障害者自立支援法の対象に含まれる。
- d.地域精神保健活動の第一線機関は保健所である。
- e.措置入院患者数は増加傾向にある。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
精神保健福祉法は医療・保護に加え、社会復帰・自立・社会経済活動への参加の促進を目的に掲げており、精神障害者は身体・知的障害者とともに障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の対象となっています。患者調査の傷病分類別入院患者数では、長期入院の多さを反映して「精神及び行動の障害」が第1位であり、地域精神保健活動は保健所が第一線機関、精神保健福祉センターが技術的中核機関として担います。指定医2名以上の一致と都道府県知事の権限で行う措置入院は、人権擁護の強化や任意入院の創設、地域生活中心への政策転換により長期的に大きく減少しており、増加傾向ではありません。任意入院・医療保護入院・措置入院などの入院形態と手続きの違いもあわせて整理しておくと、制度問題に強くなります。「入院医療中心から地域生活中心へ」という政策の流れを軸に理解することが、統計の推移を判断する手がかりとなり、患者の権利擁護や地域連携という臨床実践にもつながります。
解答・解説
正解はeです
我が国の精神保健福祉制度について、法律の目的、患者数の統計、関係する福祉法制、地域での実施機関、入院形態の動向という複数の観点から基本知識を確認する問題である。「誤っているのはどれか」を選ぶ形式なので、事実と異なる記述を一つ探す。 押さえるべき骨格は次のとおりである。 1) 精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)は、医療・保護だけでなく、社会復帰と自立、社会経済活動への参加の促進を目的に掲げる福祉法でもある。 2) 患者調査(厚生労働省が医療施設を利用する患者を対象に3年ごとに行う調査)では、入院患者を傷病分類別に見ると「精神及び行動の障害」が第1位である。長期入院が多いことが背景にある。 3) 精神障害者は、身体障害者・知的障害者と並んで障害福祉サービスの対象であり、障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)の対象に含まれる。 4) 地域精神保健活動は保健所が第一線機関として担い、都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターが技術的中核としてこれを支える。 5) 入院医療中心から地域生活中心へという政策転換の中で、行政処分による強制入院である措置入院は長期的に大きく減少してきた。 これらと照らし合わせると、措置入院患者数が「増加傾向」とする記述が事実に反する。
選択肢考察
- ×a. 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉の目的には,精神障害者の社会参加が挙げられている。
正しい記述である。精神保健福祉法第1条は、精神障害者の医療と保護を行うこと、障害者福祉の法律と連携して社会復帰の促進および自立と社会経済活動への参加の促進に必要な援助を行うこと、さらに精神障害の発生予防や国民の精神的健康の保持増進を図ることを目的として定めている。つまり、社会参加の促進は法の目的に明記されている。1995年に精神保健法から現在の名称に改められた際、「福祉」の要素が法の目的に加えられた経緯がある。
- ×b. 平成20年患者調査による在院患者数では「精神及び行動の障害」の患者が最も多い。
正しい記述である。平成20年(2008年)患者調査の推計入院患者数を傷病分類別に見ると、「精神及び行動の障害」が約30万1千人で最多であり、次いで「循環器系の疾患」約28万人、「新生物」約16万人の順であった。入院患者総数は減少傾向にあるが、統合失調症などで長期入院の患者が多いため、精神疾患が入院患者の中で大きな割合を占め続けている。この傾向はその後の調査でも変わっていない。なお、外来も含めた一般診療所の患者では循環器系の疾患(主に高血圧)が多い点と混同しないようにする。
- ×c. 精神障害者は障害者自立支援法の対象に含まれる。
正しい記述である。2006年に施行された障害者自立支援法は、それまで障害種別ごとに分かれていた福祉サービスを一元化し、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)を共通の制度の対象とした。精神障害者が他の障害者と同じ枠組みで福祉サービスを利用できるようになったことが大きな意義である。同法は2013年に障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)へ改正・改称され、対象に難病等も加えられたが、精神障害者が対象であることは変わらない。精神科通院医療費の公費負担(自立支援医療)もこの法律に基づく。
- ×d. 地域精神保健活動の第一線機関は保健所である。
正しい記述である。保健所は地域保健法に基づき都道府県・政令指定都市・中核市等が設置する機関で、精神保健福祉相談、訪問指導、精神障害者の社会復帰支援、措置入院に関する申請・通報への対応など、地域精神保健活動の第一線を担う。これに対し、精神保健福祉センターは都道府県・政令指定都市に置かれ、保健所や市町村への技術指導・技術援助、複雑・困難な相談、精神医療審査会の事務、精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療(精神通院医療)の判定などを行う技術的中核機関である。また、障害福祉サービスの提供など住民に身近な支援は市町村の役割も大きくなっている。
- ○e. 措置入院患者数は増加傾向にある。
誤った記述であり、これが正解である。措置入院は、精神保健指定医2名以上の診察の結果が一致して、精神障害のために自身を傷つけまたは他人に害を及ぼすおそれ(自傷他害のおそれ)があると認められた場合に、都道府県知事(政令指定都市の市長)の権限で行われる強制入院である。1960年代〜1970年頃には在院患者のかなりの割合(最多時は7万人を超える)を占めていたが、人権意識の高まりや、本人の同意に基づく任意入院を創設した1987年の精神保健法制定、地域生活中心への政策転換などにより大幅に減少し、2011年頃には在院患者数が1,500人程度となった。現在も在院精神科患者全体のごく一部にとどまっており、増加傾向ではない。
精神保健福祉法の変遷
精神病者監護法(1900年)・精神病院法(1919年)→ 精神衛生法(1950年、私宅監置の廃止、措置入院・同意入院の制度化)→ 精神保健法(1987年、宇都宮病院事件を契機に人権擁護を強化、任意入院・精神医療審査会の創設)→ 精神保健福祉法(1995年、法の目的に自立と社会経済活動への参加促進を追加、精神障害者保健福祉手帳の創設)という流れで改正されてきた。
精神保健福祉法に基づく主な入院形態
・任意入院:本人の同意に基づく入院。 ・医療保護入院:精神保健指定医1名が入院が必要と判断し、本人の同意が得られない場合に、家族等の同意で行う入院。 ・措置入院:指定医2名以上の診察で自傷他害のおそれがあると一致した場合に、都道府県知事の権限で行う入院。 ・緊急措置入院:急を要し正規の手続きがとれない場合、指定医1名の診察で72時間に限って行う措置入院。 ・応急入院:急速を要し家族等の同意が得られない場合に、指定医の診察により72時間に限って行う入院(応急入院指定病院で実施)。 現在の在院患者の大部分は任意入院と医療保護入院で占められ、措置入院はごく少数である。
地域精神保健の実施体制
・保健所:地域精神保健活動の第一線機関(相談、訪問指導、通報対応など)。 ・精神保健福祉センター:都道府県・政令指定都市に設置される技術的中核機関(技術援助、複雑困難事例の相談、精神医療審査会事務、手帳・自立支援医療の判定)。 ・市町村:障害福祉サービスの実施主体として、住民に身近な相談・支援を担う。
障害者福祉の法体系
障害者基本法は身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害を「障害」と定義する。障害福祉サービスは障害者自立支援法(2006年)で3障害が一元化され、2013年から障害者総合支援法として難病等も対象に加えられている。
POINT
・精神保健福祉法の目的には、医療・保護に加えて社会復帰・自立・社会経済活動への参加の促進が含まれる。 ・患者調査の入院患者数(傷病分類別)の第1位は「精神及び行動の障害」。 ・精神障害者は障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の対象である。 ・地域精神保健活動の第一線機関は保健所、技術的中核は精神保健福祉センター。 ・措置入院(指定医2名以上の一致、都道府県知事の権限)は長期的に大きく減少しており、増加傾向ではない。
