StudyMed医師国家試験

「橋の下を水が流れる」―子宮動脈と尿管から読み解く女性骨盤の立体地図

第106回医師国家試験 G問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第19問

女性の骨盤内解剖で正しいのはどれか。

  1. a.尿管は腹腔内を走行する。
  2. b.卵巣動脈は腎動脈から分岐する。
  3. c.子宮円索は基靱帯の一部を構成する。
  4. d.子宮動脈は内腸骨動脈から分岐する。
  5. e.Douglas窩とは子宮と膀胱の間を指す。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は女性の骨盤内解剖の問題だ。婦人科手術、特に子宮全摘術を安全に行うための土台になる知識で、血管の起始、尿管の走行、子宮を支える靱帯、腹膜のくぼみという4つの視点で整理すると解きやすい。まず血管から考えよう。子宮と卵巣はそれぞれどこから血流を受けているかな。
医学生医学生
子宮動脈は内腸骨動脈の枝だと解剖学の講義で習いました。卵巣動脈は…腎臓の近くから出るので、腎動脈の枝だった気がします。
ドクタードクター
前半は正解、後半は惜しい。子宮動脈は内腸骨動脈の前枝から出て、基靱帯の中を内側へ進み、子宮頸部の外側に達する。そこで子宮体部・卵管方向へ上る上行枝と、頸部・腟へ下る下行枝に分かれるんだ。一方、卵巣動脈は腎動脈の少し下、第2腰椎付近の高さで腹大動脈の前面から直接出る。
医学生医学生
なぜ卵巣だけそんなに高い位置から血管が来るんですか。
ドクタードクター
発生学がヒントだ。卵巣は発生初期に腎臓の近くの腰部でつくられ、そこから骨盤へ下りてくる。血管は生まれ故郷から引き連れてくるから、腎臓の高さの大血管から出るわけだ。男性の精巣動脈と同じ理屈だね。卵巣動脈は骨盤の縁で卵巣提索、いわゆる骨盤漏斗靱帯の中に入って卵巣に届く。
医学生医学生
なるほど、精巣と同じなら静脈も同じでしょうか。左の精巣静脈は左腎静脈に入るので、精索静脈瘤が左に多いと泌尿器科の講義で聞きました。
ドクタードクター
その通り。卵巣静脈も右は下大静脈へ直接、左は左腎静脈に入る。腎動脈と腎静脈を取り違えて「卵巣動脈は腎動脈から」と覚えてしまう人が多いから、動脈と静脈を分けて整理しておこう。まれに腎動脈から出る変異はあるけれど、正常解剖としては腹大動脈起始だ。では次に尿管。尿管は腹腔内を走ると思う?
医学生医学生
尿管は腎臓と同じく後腹膜臓器なので、腹腔内ではなく後腹膜腔を走るはずです。
ドクタードクター
正解。腎盂から出て大腰筋の前を下り、総腸骨動脈の分岐部あたりで骨盤内に入る。そして子宮頸部の外側約2cm、基靱帯の中で子宮動脈の下をくぐって膀胱へ向かう。子宮動脈を橋、尿管を水にたとえて「橋の下を水が流れる」と覚えるんだ。
医学生医学生
臨床実習で婦人科の手術に入ったとき、先生が子宮動脈を結紮する前に尿管の位置をすごく慎重に確認していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそこが尿管損傷の好発部位だからね。ほかにも、骨盤の縁で卵巣提索を処理するときや、基靱帯の処理・腟断端の縫合のときも尿管は危険にさらされる。では3つ目、子宮を支える組織だ。子宮円索は基靱帯の一部だろうか。
医学生医学生
どちらも子宮から横に伸びる靱帯のイメージがあって、正直ごっちゃになっていました。
ドクタードクター
混同しやすいところだね。基靱帯、別名Mackenrodt靱帯は子宮頸部と腟上部から骨盤側壁へ横に広がる結合組織の束で、子宮動静脈や尿管がこの中を通り、子宮の下垂を防ぐ最も重要な支持組織だ。子宮円索は子宮底の外側、卵管の付け根の前下方から出て、鼠径管を通って大陰唇の皮下で終わる細い索で、子宮の前傾を保つ。起始も走行も違う、まったく別の構造なんだ。
医学生医学生
鼠径管を通るのは、男性でいう精索の位置に相当するからですね。最後のDouglas窩は、子宮と直腸の間だと思います。
ドクタードクター
正解。子宮の前、膀胱との間のくぼみは膀胱子宮窩で、子宮の後ろ、直腸との間が直腸子宮窩、つまりDouglas窩だ。立位でも臥位でも女性の腹腔で最も低い位置になるから、血液や腹水、膿がたまりやすい。
医学生医学生
CBTの過去問で、異所性妊娠の破裂ではDouglas窩に血液がたまって、経腟超音波で見つかると覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。後腟円蓋からのダグラス窩穿刺もこの位置関係を利用している。子宮内膜症の好発部位でもあるし、胃癌などの腹膜播種が直腸指診で触れるSchnitzler転移もここだ。男性では直腸膀胱窩が最も低い場所になる。以上をまとめると、正しい記述は子宮動脈が内腸骨動脈から分岐するというものだけになる。
医学生医学生
血管の起始は発生、尿管は後腹膜と「橋の下」、靱帯は役割の違い、くぼみは前後関係、と整理すれば迷わずに済みそうです。
ドクタードクター
いい整理だ。臨床的な発展として、子宮動脈の解剖は分娩後の大量出血に対する子宮動脈塞栓術や内腸骨動脈結紮による止血の基盤になる。また広汎子宮全摘術では、膀胱子宮靱帯の中を通る尿管を丁寧に剝離する尿管トンネルの処理が要になる。解剖を立体的に思い浮かべられるかどうかが、手術の安全性に直結するんだ。

まとめ

女性骨盤内では、子宮動脈は内腸骨動脈の前枝から、卵巣動脈は発生学的な由来を反映して腎動脈の少し下の腹大動脈から直接分岐し、卵巣静脈は右が下大静脈、左が左腎静脈へ注ぎます。尿管は後腹膜腔を下行し、子宮頸部の外側で子宮動脈の下をくぐるため(橋の下を水が流れる)、子宮全摘術における損傷の好発部位となります。子宮の最も重要な支持組織は基靱帯(Mackenrodt靱帯)であり、子宮円索は鼠径管を通って大陰唇に至る前傾保持の構造で、基靱帯とは別物です。Douglas窩は子宮と直腸の間の直腸子宮窩で、腹腔の最低位として出血・腹水・膿の貯留や子宮内膜症、腹膜播種の好発部位となり、子宮と膀胱の間は膀胱子宮窩と呼びます。これらの位置関係の理解は、婦人科手術や産科出血への血管内治療など、臨床の安全な手技の土台となります。

解答・解説

正解はdです

本問は、婦人科手術(子宮全摘術など)を安全に行うための基本となる、女性骨盤内の血管・尿管・子宮支持組織・腹膜のくぼみ(窩)の位置関係を問うものである。

整理の手がかり

・血管:子宮は主に内腸骨動脈の枝である子宮動脈から、卵巣は腹大動脈から直接出る卵巣動脈から血流を受ける。両者は子宮と卵管のつなぎ目のあたりでつながり合う(吻合)。卵巣は発生の初期に腎臓の近く(腰部)でできて骨盤へ下りてくる。このため、卵巣の血管は腎臓の高さの大血管から出る。 ・尿管:腎盂から膀胱まで腹膜の後ろ(後腹膜腔)を下り、子宮頸部のすぐ外側で子宮動脈の下をくぐる。 ・支持組織:子宮を支える主な組織は基靱帯・仙骨子宮靱帯・膀胱子宮靱帯である。子宮円索は子宮の前傾を保つ細い索で、これらとは別の構造である。 ・腹膜のくぼみ:子宮の前は膀胱子宮窩、後ろは直腸子宮窩(Douglas窩)である。 これらの位置関係を正しく思い浮かべられれば、正しい記述は「子宮動脈は内腸骨動脈から分岐する」だけだと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  尿管は腹腔内を走行する。

    尿管は腎臓・副腎・膵臓などと同じく後腹膜臓器であり、全長にわたって腹膜の後ろ(後腹膜腔)を走る。腎盂から出て大腰筋の前を下り、総腸骨動脈が分かれるあたりで骨盤内へ入る。その後、子宮頸部の外側約2cmの基靱帯の中で、子宮動脈の下(背側)をくぐって膀胱へ向かう(「橋の下を水が流れる」と覚える)。この交差部は子宮全摘術で子宮動脈を処理するときに尿管を傷つけやすい場所として、とても重要である。腹腔内を走るわけではないので誤りである。

  2. ×b.  卵巣動脈は腎動脈から分岐する。

    卵巣動脈は、左右とも腎動脈の少し下(第2腰椎付近)の高さで、腹大動脈の前面から直接出る。そこから後腹膜を下り、骨盤の縁で卵巣提索(骨盤漏斗靱帯)の中に入って卵巣へ届く。まれに腎動脈から出る変異もあるが、正常な解剖としては腹大動脈から出るのが正しい。一方、卵巣静脈は左右で行き先が違う。右は下大静脈へ直接入り、左は左腎静脈に入る。動脈と静脈を混同しないよう注意する。

  3. ×c.  子宮円索は基靱帯の一部を構成する。

    子宮円索(子宮円靱帯)は、子宮底の外側で卵管の付け根の少し前下方から出る索状の構造である。子宮広間膜の前葉の下を通り、鼠径管を抜けて大陰唇の皮下で終わる。子宮を前に傾けた位置(前傾)に保つ働きがある。一方、基靱帯(Mackenrodt靱帯)は子宮頸部と腟の上部から両側の骨盤壁へ横に広がる結合組織の束である。子宮動静脈や尿管がこの中を通り、子宮が下がるのを防ぐ最も重要な支持組織である。両者は出る場所も走る方向も異なる別の構造であり、子宮円索は基靱帯の一部ではない。

  4. ○d.  子宮動脈は内腸骨動脈から分岐する。

    子宮動脈は内腸骨動脈の前枝から出る。基靱帯の中を内側へ進み、子宮頸部の外側で尿管の上(腹側)を越えて子宮の横に届く。そこで上に向かう上行枝(子宮体部・卵管・卵巣へ行き、卵巣動脈とつながる)と、下に向かう下行枝(子宮頸部・腟へ行く)に分かれる。子宮全摘術ではこの子宮動脈を結んで切るが、そのすぐ下を尿管が通るため、尿管を傷つけないよう気をつける必要がある。また、産後の大出血などで行う子宮動脈塞栓術(UAE)や、内腸骨動脈を結ぶ止血法も、この解剖が基になっている。記述は正しい。

  5. ×e.  Douglas窩とは子宮と膀胱の間を指す。

    Douglas窩は子宮と直腸の間にある腹膜のくぼみ(直腸子宮窩)を指す。立った姿勢でも寝た姿勢でも、女性の腹腔の中で最も低い位置にあるため、腹腔内の出血(異所性妊娠の破裂など)や腹水、膿がたまりやすい。後腟円蓋からの穿刺(ダグラス窩穿刺)や経腟超音波で調べられるのは、このためである。また、子宮内膜症や、癌が腹膜に広がった転移(直腸指診で触れるSchnitzler転移)が起こりやすい場所でもある。子宮と膀胱の間のくぼみは膀胱子宮窩と呼ばれ、Douglas窩ではない。

女性骨盤内の主な血管

・子宮動脈:内腸骨動脈(前枝)から出る。上行枝は卵巣動脈と、下行枝は腟動脈とつながる。 ・卵巣動脈:腹大動脈(腎動脈より下、第2腰椎付近)から出て、卵巣提索(骨盤漏斗靱帯)の中を通る。 ・卵巣静脈:右は下大静脈へ、左は左腎静脈へ入る(精巣静脈と同じ流れ方)。 ・内腸骨動脈のほかの主な枝:上膀胱動脈、中直腸動脈、内陰部動脈、閉鎖動脈、上・下殿動脈など。

子宮を支える主な組織

・基靱帯(Mackenrodt靱帯):子宮頸部から骨盤の側壁へ伸びる。子宮が下がるのを防ぐ最も重要な組織。 ・仙骨子宮靱帯:子宮頸部の後ろから仙骨の前へ伸びる。 ・膀胱子宮靱帯:子宮頸部から膀胱へ伸びる。広汎子宮全摘術では、この靱帯の中を通る尿管を丁寧にはがして分ける(尿管トンネルの処理)。 ・子宮円索:子宮の前傾を保つ。鼠径管を通って大陰唇に至る。 ・子宮広間膜:子宮の両側を覆う腹膜のひだ。子宮を強く支える働きは小さい。 ・固有卵巣索:卵巣と子宮をつなぐ。 ・卵巣提索(骨盤漏斗靱帯):卵巣と骨盤壁をつなぐ。卵巣動静脈が中を通る。

腹膜のくぼみ

・女性:前から膀胱子宮窩 → 子宮 → 直腸子宮窩(Douglas窩) ・男性:膀胱と直腸の間に直腸膀胱窩があり、腹腔内で最も低い場所となる。

尿管を傷つけやすい場所(婦人科手術)

1. 骨盤の縁で卵巣提索を処理するとき(尿管がすぐ近くを通る) 2. 子宮頸部の外側で子宮動脈を処理するとき(尿管が子宮動脈の下をくぐる) 3. 基靱帯を処理するとき、また腟の断端を縫うとき

POINT

・子宮動脈は内腸骨動脈から、卵巣動脈は腹大動脈から出る ・卵巣静脈は右が下大静脈、左が左腎静脈に入る ・尿管は後腹膜を走り、子宮頸部の外側で子宮動脈の下をくぐる(手術で傷つけやすい) ・子宮を支える最も重要な組織は基靱帯。子宮円索は子宮の前傾を保つ別の構造で、鼠径管を通る ・Douglas窩=直腸子宮窩。女性の腹腔で最も低い場所。子宮と膀胱の間は膀胱子宮窩

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。