片側の瞳孔が開いたら危険信号―テント切痕ヘルニアで動眼神経が狙われる理由
第106回医師国家試験 G問題 第18問
国試問題にチャレンジ
テント切痕ヘルニアで最も障害されやすいのはどれか。
- a.視神経
- b.動眼神経
- c.三叉神経
- d.外転神経
- e.副神経
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
テント切痕ヘルニアでは、テント上の圧上昇により側頭葉内側の鉤がテント切痕の縁を越えて下方へはみ出し、そのすぐそばを走る動眼神経を直接圧迫します。動眼神経の表面には瞳孔を縮める副交感神経線維が走るため、眼球運動障害よりも先に同側の散瞳と対光反射の消失が現れ、意識障害患者に新たに生じた瞳孔不同はヘルニア切迫の緊急サインとなります。外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進による偽局在徴候、うっ血乳頭は視神経鞘内圧の上昇によるもので、いずれもヘルニアの直接圧迫とは区別します。鉤ヘルニアでは反対側の片麻痺が典型ですが、Kernohan切痕現象で同側に麻痺が出ることもあり、頭蓋内圧亢進が疑われる場合は腰椎穿刺の前に画像評価が必要です。神経の解剖学的な走行と病態を結びつけて理解することが、救急での的確な神経所見の解釈につながります。
解答・解説
正解はbです
本問は、脳ヘルニアの中で最も多く臨床的に重要なテント切痕ヘルニアについて、その解剖学的な位置関係から、最初に障害される脳神経を問うものである。
テント切痕ヘルニアとは
小脳テントは、大脳(テント上)と小脳・脳幹下部(テント下)を仕切る硬膜のひだである。その内側縁には、中脳が通る開口部(テント切痕)がある。脳出血・急性硬膜外/硬膜下血腫・脳腫瘍・脳浮腫などでテント上の片側の圧が上がると、側頭葉の内側部(鉤〈uncus〉や海馬傍回)がテント切痕の縁を越えて下方へはみ出す。これを鉤ヘルニア(テント切痕ヘルニアの外側型)と呼ぶ。
なぜ動眼神経か
動眼神経は中脳の腹側(大脳脚の間の脚間窩)から出る。そして後大脳動脈と上小脳動脈の間を通り、テント切痕の縁のすぐ近くを前方へ進んで海綿静脈洞へ入る。はみ出した鉤はまさにこの部位を押すため、テント切痕ヘルニアで最初に、最も障害されやすい脳神経は動眼神経となる。 動眼神経の中で、瞳孔を縮める副交感神経線維は神経の外側(表面)を走る。このため圧迫を受けると、眼球運動障害より先に、病変と同じ側の瞳孔が広がり(散瞳)、対光反射が鈍くなったり消えたりする。意識障害のある患者に左右の瞳孔の大きさの差(瞳孔不同、アニソコリア)が新たに出た場合は、テント切痕ヘルニアが始まっている危険なサインとして、緊急に対応しなければならない。 ほかの選択肢の神経は、出る場所や走る経路がテント切痕から離れている。このため、ヘルニアによって直接押されることは起こりにくい。
選択肢考察
- ×a. 視神経
視神経(第II脳神経)は眼球から視神経管を通って頭蓋内に入り、下垂体の上にある視交叉で合流する。脳幹から出る神経ではなく、テント上の前方にあるため、テント切痕を通って下方へずれる鉤とは位置が離れている。頭蓋内圧が上がった状態では、視神経を包む鞘の中の圧も上がり、眼底でうっ血乳頭がみられる。しかし、これはヘルニアで神経が押されて起こる障害ではない。
- ○b. 動眼神経
動眼神経(第III脳神経)は中脳の腹側から出て、テント切痕の縁に沿って前方へ走り、海綿静脈洞へ向かう。テント切痕ヘルニアで下方へはみ出した側頭葉の鉤は、この神経を直接押す。神経の表面には瞳孔を縮める副交感神経線維があるため、まず同じ側の散瞳と対光反射の消失が起こる。圧迫が進むと、眼瞼下垂や、眼球が外下方を向いてしまう眼球運動障害が加わる。テント切痕ヘルニアで最も早く、最も多く障害される脳神経であり、正しい。
- ×c. 三叉神経
三叉神経(第V脳神経)は橋の中ほどの外側から出て、中頭蓋窩の三叉神経節へ向かう。テント切痕の縁に沿って走る神経ではないため、テント切痕ヘルニアで早い段階に障害されることはほとんどない。
- ×d. 外転神経
外転神経(第VI脳神経)は橋と延髄の境目の腹側から出る。頭蓋内を長く走り、斜台に沿って上り錐体骨の先端を越えるため、頭蓋内圧が全体的に上がると引き伸ばされて麻痺を起こしやすい。この場合、病変のある場所と関係なく出る症状であり、偽局在徴候(false localizing sign)と呼ばれる。ただし、これは頭蓋内圧亢進そのものによる障害であり、テント切痕ヘルニアで鉤が直接押す神経ではない。テント切痕ヘルニアで最も障害されやすいのは動眼神経である。
- ×e. 副神経
副神経(第XI脳神経)は延髄と上部頸髄から出て、頸静脈孔を通って頭蓋の外へ出る。胸鎖乳突筋と僧帽筋を動かす神経である。後頭蓋窩の下部にあり、テント切痕からは大きく離れているため、テント切痕ヘルニアで障害されることはない。なお、大後頭孔ヘルニア(小脳扁桃ヘルニア)では延髄が押されて呼吸停止などが起こるが、これは延髄そのものの障害として問題になる。
主な脳ヘルニアの種類
・帯状回ヘルニア(大脳鎌下ヘルニア):片側の帯状回が大脳鎌の下を通って反対側へずれる。前大脳動脈が圧迫されると、下肢に強い運動麻痺が出ることがある。 ・テント切痕ヘルニア(下行性): 外側型(鉤ヘルニア):側頭葉の鉤が片側から中脳を押す。同じ側の動眼神経麻痺(散瞳)で始まる。 中心型:間脳・中脳が真下へ押し下げられる。両側に縮瞳がみられ、意識障害が進む。 ・大後頭孔ヘルニア(小脳扁桃ヘルニア):小脳扁桃が大後頭孔へ落ち込んで延髄を押す。呼吸停止をきたし、命に直結する。腰椎穿刺をきっかけに起こることがあるため、頭蓋内圧亢進が疑われる患者では腰椎穿刺の前に画像検査で確かめる必要がある。 ・上行性テント切痕ヘルニア:後頭蓋窩の病変で小脳が上方へ押し上げられる。
テント切痕ヘルニア(鉤ヘルニア)で出る主な症状
・同側の動眼神経麻痺:散瞳、対光反射の消失 → 眼瞼下垂、眼球運動障害 ・意識障害:中脳の網様体が押されるため ・反対側の片麻痺:同側の大脳脚(錐体路)が押されるため。錐体路は延髄で交叉するので、麻痺は反対側に出る。 ・同側の片麻痺(Kernohan切痕現象):中脳全体が反対側へ押され、反対側の大脳脚がテント縁に押し付けられるため、病変と同じ側に片麻痺が出ることがある。偽局在徴候の一つである。 ・後大脳動脈の圧迫:後頭葉の梗塞を起こすことがある。 ・進行すると:除脳硬直、呼吸パターンの変化(Cheyne-Stokes呼吸 → 中枢性過換気など)、両側の散瞳、そして死に至る。
頭蓋内圧亢進の三主徴
頭痛・嘔吐・うっ血乳頭。急速に進行すると、Cushing現象(血圧上昇と徐脈)がみられる。
POINT
・テント切痕ヘルニアで最初に、最も障害されやすい脳神経は動眼神経 ・瞳孔を縮める副交感神経線維が動眼神経の表面を走るので、まず同じ側の散瞳・対光反射の消失が起こる ・意識障害の患者で新たに出た瞳孔不同は、ヘルニアの切迫を示す緊急サイン ・外転神経麻痺は頭蓋内圧亢進による偽局在徴候として出やすいが、テント切痕ヘルニアの直接の圧迫とは区別する ・脳ヘルニアでは反対側の片麻痺が典型だが、同じ側に麻痺が出ることもある(Kernohan切痕現象)
