せき止められた髄液が目に映る―中脳水道狭窄とうっ血乳頭
第120回医師国家試験 D問題 第6問
国試問題にチャレンジ
中脳水道狭窄による閉塞性水頭症で生じやすいのはどれか。
- a.眼振
- b.嚥下障害
- c.小脳失調
- d.舞踏運動
- e.うっ血乳頭
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
中脳水道は第3脳室と第4脳室をつなぐ狭い通路で、ここが狭窄すると両側側脳室と第3脳室が拡大し、第4脳室は拡大しない閉塞性水頭症となります。縫合閉鎖後の頭蓋では脳室拡大が頭蓋内圧亢進を招き、早朝頭痛・嘔吐・うっ血乳頭の三徴が現れ、うっ血乳頭はその代表的な眼底所見です。眼振・小脳失調は小脳や前庭系、嚥下障害は延髄、舞踏運動は大脳基底核の障害を示す所見で、本病態の典型ではありません。松果体部腫瘍ではParinaud症候群を伴うことがありますが、それは局所圧迫による症状として区別します。閉塞部位と拡大する脳室、そして閉塞の「結果」として何が起こるかを結びつけて考えることが、水頭症の診断と治療選択の基本になります。
解答・解説
正解はeです
脳脊髄液(髄液)が流れる経路のどこかが狭くなったりふさがったりすると、その上流の脳室に髄液がたまって拡大する。これを閉塞性水頭症(非交通性水頭症)と呼ぶ。中脳水道は、第3脳室と第4脳室をつなぐ細い管である。脳室系の中で最も狭い部位の一つであるため、閉塞が起こりやすい。 中脳水道が狭くなると、両側の側脳室と第3脳室が拡大する。第4脳室は拡大しない。原因には次のようなものがある。 ・先天性の中脳水道狭窄症 ・松果体部腫瘍や中脳被蓋・視蓋の腫瘍による圧迫 ・脳室内出血や髄膜炎の後に生じる癒着 頭蓋骨の縫合が閉じた後(年長児・成人)では、頭蓋内の容積は増やせない。そのため脳室が拡大すると頭蓋内圧が上がり、頭痛(特に早朝)、悪心・嘔吐、うっ血乳頭という「頭蓋内圧亢進の三徴」が現れる。進行すると、外転神経麻痺や意識障害、さらに脳ヘルニアを起こす。なお縫合が閉じる前の乳児では、頭囲の拡大、大泉門の膨隆、落陽現象などが目立つ。 本問は、閉塞部位(中脳水道)から直接生じる局所症状を問うものではない。閉塞の結果として起こる頭蓋内圧亢進の所見を選ばせる問題である。他の選択肢は、小脳・脳幹下部・基底核など別の部位の障害を示す所見である。
選択肢考察
- ×a. 眼振
誤り。眼振(眼球が不随意に律動的に往復する運動)は、主に前庭系(内耳・前庭神経・前庭神経核)、小脳、脳幹の障害で生じる。松果体部腫瘍などが中脳背側を直接圧迫した場合は、Parinaud症候群(上方注視麻痺、輻輳後退眼振、対光反射と輻輳反射の解離など)を伴うことがある。しかしこれは腫瘍による局所の圧迫による症状である。中脳水道狭窄による水頭症で一般に生じやすい所見とはいえない。
- ×b. 嚥下障害
誤り。嚥下障害は、延髄にある舌咽神経・迷走神経の神経核、またはこれらの神経そのものの障害(球麻痺)で起こる。両側の皮質延髄路の障害(偽性球麻痺)でも起こる。中脳水道の閉塞では第4脳室は拡大せず、延髄は直接の影響を受けにくい。そのため、嚥下障害は中脳水道狭窄による水頭症の典型的な症状ではない。
- ×c. 小脳失調
誤り。小脳失調(運動の協調障害、体幹のふらつき、測定障害など)は、小脳そのもの、またはその入出力路(小脳脚など)の障害で生じる。中脳水道狭窄による水頭症は、閉塞部より上流のテント上の脳室が拡大する病態である。小脳を直接障害するものではない。
- ×d. 舞踏運動
誤り。舞踏運動は、顔面や四肢に起こる、速く不規則で踊るような不随意運動である。大脳基底核、特に線条体(尾状核・被殻)の障害で生じる。代表的な疾患はHuntington病、Sydenham舞踏病、視床下核の障害で起こるヘミバリスムなどである。水頭症とは関係しない。
- ○e. うっ血乳頭
正しい。中脳水道で髄液の流れがせき止められると、側脳室と第3脳室が拡大して頭蓋内圧が上がる。上がった圧は、視神経を包む鞘のくも膜下腔にも伝わる。その結果、視神経内の軸索流(軸索輸送)が停滞し、静脈の還流も妨げられて、視神経乳頭が腫れて境界が不鮮明になる。これがうっ血乳頭であり、頭蓋内圧亢進を示す代表的な眼底所見である。通常は両側に起こる。初期には視力が保たれ、Mariotte盲点の拡大がみられる。長く続くと視神経萎縮を起こし、視力障害を残す。
髄液の流れ(古典的な考え方)
髄液は主に脳室の脈絡叢で産生される。側脳室 → Monro孔(室間孔)→ 第3脳室 → 中脳水道 → 第4脳室 → Luschka孔(外側口)・Magendie孔(正中口)の順に流れ、くも膜下腔に出る。その後、くも膜顆粒を通じて静脈洞へ吸収される。近年は、脳の実質や毛細血管、リンパ系を介した産生・吸収の経路も重視されている。髄液の動態は、この一方向の流れだけでは説明しきれないと考えられるようになってきた。ただし、閉塞部位と脳室拡大の関係を臨床的に理解するうえでは、この古典的なモデルが今も有用である。
閉塞部位と拡大する脳室
・Monro孔の閉塞(第3脳室コロイド嚢胞など):閉塞側の側脳室が拡大する。 ・中脳水道の閉塞(中脳水道狭窄症、松果体部腫瘍など):両側の側脳室と第3脳室が拡大し、第4脳室は正常である。 ・第4脳室出口の閉塞(Dandy-Walker症候群、小脳腫瘍など):第4脳室を含む全脳室が拡大する。
水頭症の分類
・閉塞性(非交通性):脳室系のどこかに通過障害がある。 ・交通性:脳室とくも膜下腔の交通は保たれているが、吸収障害などがある。くも膜下出血後や髄膜炎後、特発性正常圧水頭症(認知障害・歩行障害・尿失禁の三徴)がこれに当たる。
頭蓋内圧亢進の症状
・三徴:頭痛(早朝に強い)、嘔吐(悪心を伴わずに噴出することがある)、うっ血乳頭 ・そのほか:外転神経麻痺(偽性局在徴候)、意識障害、Cushing現象(血圧上昇・徐脈) ・乳児:頭囲の拡大、大泉門の膨隆、頭皮静脈の怒張、落陽現象
治療
中脳水道狭窄による閉塞性水頭症では、第3脳室の底に孔をあけて髄液をくも膜下腔へ逃がす内視鏡的第3脳室開窓術がよい適応となる。そのほか、脳室-腹腔(V-P)シャント術が行われる。
POINT
・中脳水道狭窄では、側脳室と第3脳室が拡大し、第4脳室は拡大しない。 ・閉塞性水頭症 → 頭蓋内圧亢進 → 頭痛・嘔吐・うっ血乳頭(三徴) ・うっ血乳頭は頭蓋内圧亢進を示す代表的な眼底所見である。 ・眼振・小脳失調は小脳と前庭系、嚥下障害は延髄(球麻痺)、舞踏運動は大脳基底核の障害を示す。 ・松果体部腫瘍では、Parinaud症候群(上方注視麻痺など)と閉塞性水頭症が合併しうる。
