StudyMed医師国家試験

糖のない点滴で2日間―飢餓の体が頼る「ケトン体」という非常用燃料

第116回医師国家試験 C問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第20問

生理食塩液輸液下で2日間の絶食により上昇するのはどれか。

  1. a.HbA1c
  2. b.ケトン体
  3. c.アルブミン
  4. d.トリグリセリド
  5. e.総コレステロール

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、絶食したときに体の代謝がどう切り替わるかを問う問題だ。注目してほしいのは「生理食塩液輸液下」という条件。この輸液に何が入っていて、何が入っていないかを考えるところから始めよう。
医学生医学生
生理食塩液は0.9%の食塩水なので、水分とナトリウム、クロールだけですね。ブドウ糖は入っていません。
ドクタードクター
その通り。つまり脱水は防がれているけれど、エネルギー源は2日間まったく入ってこない状態だ。血液濃縮による見かけ上の変化は考えなくてよく、純粋に飢餓に対する代謝の反応を問うているんだ。では、食べないと体はまず何を使って血糖を保つかな。
医学生医学生
生化学の講義で習った、肝臓のグリコーゲンの分解です。
ドクタードクター
正解。ただ肝グリコーゲンは十数時間から約1日でほぼ使い切ってしまう。その後は、筋たんぱく由来のアミノ酸や乳酸、グリセロールを材料にした糖新生で血糖を維持する。同時にインスリンが下がってグルカゴンが上がるので、脂肪組織で中性脂肪が分解され、遊離脂肪酸が大量に放出されるんだ。
医学生医学生
遊離脂肪酸は肝臓でβ酸化されて、アセチルCoAになりますよね。
ドクタードクター
そう。そのアセチルCoAがTCA回路で処理しきれないほど増えると、肝臓でケトン体、つまりアセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトンがつくられる。ケトン体は脳や心筋、骨格筋でブドウ糖の代わりの燃料になり、糖新生のための筋たんぱく分解を節約してくれる。だから2日間の絶食で上昇するのはケトン体だ。飢餓性ケトーシスと呼ばれる状態だね。
医学生医学生
糖がまったく入ってこないから、ケトン体の産生にブレーキがかからないということですね。
ドクタードクター
その理解でいい。では他の選択肢も見ておこう。HbA1cはどうかな。
医学生医学生
HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖を反映するので、2日では変わらないと思います。むしろ絶食なら下がりそうな気がしますが……。
ドクタードクター
赤血球の寿命が約120日だから、2日程度ではほとんど動かない。上がることはないし、低血糖気味の期間が長く続けば徐々に下がっていく、という考え方で合っているよ。次にアルブミンは?
医学生医学生
栄養状態の指標なので、絶食なら下がるのかなと迷いました。
ドクタードクター
合成は確かに落ちる。でもアルブミンの血中半減期は約2〜3週間と長いから、2日の絶食では濃度はほとんど変わらない。短期の栄養状態をみたいときは、半減期の短いrapid turnover protein、つまりトランスサイレチン、トランスフェリン、レチノール結合蛋白を使うんだ。
医学生医学生
NSTの回診についた臨床実習で、プレアルブミンを見ていたのはそういう理由だったんですね。脂質の2つはどうでしょう。脂肪が分解されるなら、血中のトリグリセリドも増えそうですが。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだ。脂肪組織で分解されたトリグリセリドは遊離脂肪酸とグリセロールとして動員されるから、血中トリグリセリドが増えるわけではない。そもそも血中トリグリセリドは食事の影響が大きく、食後はカイロミクロンで上がる。脂質検査を空腹時に採血するのはそのためだ。絶食では低下方向に向かうと考えよう。
医学生医学生
総コレステロールも、吸収がなくなる分、上がらないということですか。
ドクタードクター
そう。腸管からの吸収がなくなり、インスリン低下で肝臓でのHMG-CoA還元酵素の働きも抑えられるから、変化しないか低下傾向になる。上昇はしないね。
医学生医学生
短期間で動くのは代謝の燃料系で、長期指標や食事由来の脂質は上がらない、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識として、ケトン体を産生するのは肝臓だけれど、肝臓自身は利用できない点を覚えておこう。アセト酢酸を活性化する酵素を欠くからだ。また赤血球はミトコンドリアをもたないので、ケトン体を使えずブドウ糖に依存し続ける。
医学生医学生
臨床では、術前の絶食の患者さんにブドウ糖入りの維持液を使うのも関係ありますか。
ドクタードクター
大いに関係ある。少量でもブドウ糖を入れるとインスリン分泌が促され、ケトン体の産生や筋たんぱくの分解が抑えられる。逆に糖のない輸液だけを続けると飢餓状態が進むので注意が必要だ。ケトン体の上昇は糖尿病ケトアシドーシスやアルコール性ケトアシドーシス、妊娠悪阻のように嘔吐が続く状態でもみられるから、尿ケトンが陽性のときは背景に何があるかを考える習慣をつけてほしい。

まとめ

ブドウ糖を含まない生理食塩液のみで絶食すると、約1日で肝グリコーゲンが枯渇し、インスリン低下とグルカゴン上昇により脂肪分解が亢進して、肝臓で遊離脂肪酸のβ酸化からケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)が産生されます。ケトン体は脳や筋の代替燃料となり筋たんぱくの分解を節約するため、2日間の絶食で上昇するのはケトン体です。HbA1c(1〜2か月)やアルブミン(半減期約2〜3週間)は長期の指標で2日では変化せず、トリグリセリドや総コレステロールは食事由来の供給がなくなるため上昇しません。ブドウ糖を含む輸液はインスリン分泌を促してケトン体産生を抑えるため、術前や経口摂取不能時の輸液選択の根拠にもなります。絶食時の代謝の時間経過を理解することは、輸液管理やケトアシドーシスの病態把握に直結する重要な基礎です。

解答・解説

正解はbです

設問の条件を整理する

「生理食塩液輸液下」とは、水分とナトリウム・クロールは補われているが、ブドウ糖やアミノ酸などのエネルギー源・栄養素は一切入っていない状態を意味する。脱水による血液濃縮は起こりにくく、純粋に「エネルギー摂取がゼロの状態が2日間続いた」ときの代謝の変化を問う問題である。

絶食時のエネルギー代謝の流れ

1. 絶食直後は、肝臓に蓄えられたグリコーゲンを分解して血糖を維持する。 2. 肝グリコーゲンは絶食開始から十数時間〜約1日でほぼ枯渇する。 3. その後は、骨格筋のたんぱく質から放出されるアミノ酸(アラニンなど)、乳酸、脂肪分解で生じるグリセロールを材料に、肝臓で糖新生を行って血糖を保つ。 4. 同時に、インスリン分泌の低下とグルカゴンの上昇により脂肪組織での脂肪分解(中性脂肪→遊離脂肪酸+グリセロール)が亢進する。遊離脂肪酸は肝臓に取り込まれてβ酸化を受け、大量に生じたアセチルCoAからケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸〈β-ヒドロキシ酪酸〉、アセトン)がつくられる。 5. ケトン体は脳・心筋・骨格筋などでグルコースの代わりのエネルギー源として使われ、筋たんぱくの分解(糖新生のための)を節約する役割を果たす。 したがって2日間の絶食で明らかに上昇するのはケトン体である。一方、長期の血糖・栄養状態を反映する指標(HbA1c、アルブミン)は2日程度ではほとんど変化せず、食事由来の脂質(トリグリセリド、コレステロール)は吸収がなくなるため低下方向に動く。

選択肢考察

  1. ×a.  HbA1c

    HbA1c(ヘモグロビンA1c)は赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が非酵素的に結合したもので、赤血球の寿命(約120日)に依存し、過去1〜2か月の平均血糖値を反映する。2日間の絶食で上昇することはない。絶食で血糖が低めに保たれる期間が長く続けば、むしろ徐々に低下していく。

  2. ○b.  ケトン体

    糖の供給が途絶えるとインスリンが低下し、グルカゴンなどが上昇して脂肪分解が亢進する。遊離脂肪酸が肝臓でβ酸化を受け、生じたアセチルCoAがTCA回路で処理しきれなくなるため、ケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)の産生が増える。生理食塩液にはブドウ糖が含まれないため、この反応は抑制されず、2日間の絶食で血中ケトン体は上昇する(飢餓性ケトーシス)。

  3. ×c.  アルブミン

    アルブミンは肝臓で合成され、血中半減期が約2〜3週間と長いため、比較的長期(約3週間)の栄養状態を反映する。絶食で合成は低下するものの、2日間では血中濃度はほとんど変化しない。生理食塩液が補われているので脱水による見かけ上の上昇(血液濃縮)も起こりにくい。短期の栄養状態の変化をみるには、半減期の短いRTP(rapid turnover protein:トランスサイレチン〈プレアルブミン〉、トランスフェリン、レチノール結合蛋白)が用いられる。

  4. ×d.  トリグリセリド

    血中トリグリセリド(中性脂肪)は食事の影響を強く受け、食後には腸管から吸収された脂質がカイロミクロンとして血中に増える。絶食で食事由来の脂質供給がなくなり、また脂肪組織のトリグリセリドは分解されて遊離脂肪酸として動員されるため、血中トリグリセリドは上昇せず低下方向に向かう。脂質検査を空腹時(10時間以上の絶食後)に採血するのは、この食事の影響を除くためである。

  5. ×e.  総コレステロール

    コレステロールは食事からの吸収と肝臓での合成によって供給される。絶食では腸管からの吸収がなくなり、インスリン低下に伴って肝臓でのコレステロール合成(律速酵素HMG-CoA還元酵素はインスリンで活性化される)も抑えられるため、上昇することはなく、変化しないか低下傾向となる。

飢餓時の代謝の時間経過

・食後〜数時間:吸収されたブドウ糖を利用。インスリン優位で、グリコーゲン・脂肪の合成が進む。 ・絶食後数時間〜約1日:肝グリコーゲンの分解で血糖を維持する。 ・約1日以降:肝グリコーゲンが枯渇し、糖新生(材料はアミノ酸、乳酸、グリセロール)と脂肪分解・ケトン体産生が主体となる。 ・長期飢餓(数週間):脳もケトン体を主要なエネルギー源として利用するようになり、筋たんぱくの分解が抑えられる。

ケトン体のポイント

・構成:アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトン。 ・産生臓器は肝臓であるが、肝臓自身はケトン体を利用できない(アセト酢酸をアセトアセチルCoAに変換する酵素〈スクシニルCoA:3-ケト酸CoAトランスフェラーゼ〉を欠くため)。 ・赤血球はミトコンドリアをもたないためケトン体を利用できず、ブドウ糖に依存する。 ・ケトン体の上昇をきたす状態:飢餓・絶食、糖尿病ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス、糖質制限食、嘔吐が続く状態(妊娠悪阻など)など。 ・ブドウ糖を含む輸液を行えばインスリン分泌が促され、ケトン体の産生は抑えられる。術前絶食や経口摂取不能の患者にブドウ糖を含む維持液を用いる理由の一つである。

栄養指標と半減期

・HbA1c:過去1〜2か月の血糖。グリコアルブミン:過去約2週間の血糖。1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール):数日間の血糖変動。 ・アルブミン:半減期約2〜3週間。 ・RTP:トランスフェリン約7〜10日、トランスサイレチン(プレアルブミン)約2〜3日、レチノール結合蛋白約半日。

POINT

・絶食で肝グリコーゲンが枯渇すると、脂肪分解が亢進して肝臓でケトン体が産生される。 ・生理食塩液にはブドウ糖が含まれないため、ケトン体産生は抑えられない。 ・HbA1c(1〜2か月)とアルブミン(約3週間)は長期指標であり、2日間の絶食ではほぼ変化しない。 ・トリグリセリド・コレステロールは絶食で上昇しない(食事由来の供給がなくなる)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。