口のまわりと指先の皮膚炎が教えてくれる―亜鉛欠乏と微量元素の欠乏症マップ
第120回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
欠乏すると皮膚炎をきたすのはどれか。
- a.鉄
- b.銅
- c.亜鉛
- d.葉酸
- e.セレン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
亜鉛はDNA・RNAやタンパク質の合成に関わる多数の酵素の補因子であり、欠乏すると皮膚・粘膜、毛髪、味蕾など細胞の入れ替わりが速い組織が障害され、開口部周囲や四肢末端の皮膚炎、脱毛、味覚障害、下痢、創傷治癒遅延などをきたします。これに対し、鉄・銅・葉酸の欠乏は主に貧血を、セレン欠乏は心筋症(Keshan病)や筋症状を起こすのが代表的です。亜鉛欠乏は微量元素を含まない長期の静脈・経腸栄養、慢性肝疾患、慢性腎臓病、炎症性腸疾患、高齢者の摂取不足などで起こりやすく、血清亜鉛値の測定と補充で改善が期待できます。皮膚症状をきたす欠乏症としては、日光露光部の皮膚炎を示すナイアシン欠乏(ペラグラ)なども、分布の違いとあわせて整理しておくと役立ちます。栄養素の働きと障害される臓器を結び付けて理解することは、栄養管理を担う臨床の場で欠乏症に早く気づくための基礎になります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
微量元素とビタミンの欠乏症を、障害が現れる臓器・症状と結び付けて覚えているかを問う問題である。
考え方
各栄養素が体内でどのような働きをしているかから、欠乏したときの症状を推測できる。 ・鉄、銅、葉酸:いずれも造血に深く関わり、欠乏の代表的症状は貧血である。 ・セレン:抗酸化酵素の構成成分で、欠乏すると心筋や骨格筋が障害される。 ・亜鉛:DNA・RNAの合成やタンパク質合成に関わる多数の酵素の補因子であり、皮膚・粘膜や毛髪、味蕾など細胞の入れ替わりが速い組織で欠乏の影響が出やすい。そのため皮膚炎、脱毛、味覚障害、創傷治癒の遅れなどが生じる。 したがって、欠乏によって皮膚炎をきたす代表は亜鉛である。
臨床での注意
亜鉛欠乏は、微量元素を加えない高カロリー輸液や経腸栄養の長期使用、慢性肝疾患、慢性腎臓病、炎症性腸疾患、アルコール多飲、高齢者の摂取不足などで起こりやすい。口や肛門の周囲(開口部周囲)、手足の先端に紅斑・びらん・痂皮を伴う皮膚炎が生じるのが特徴である。
選択肢考察
- ×a. 鉄
鉄はヘモグロビンの構成成分であり、欠乏すると小球性低色素性貧血(鉄欠乏性貧血)をきたす。そのほか、匙状爪(スプーンネイル)、舌炎・口角炎、嚥下障害(Plummer-Vinson症候群)、氷などを無性に食べたくなる異食症などがみられる。皮膚炎は鉄欠乏の典型的症状ではない。
- ×b. 銅
銅はセルロプラスミンやシトクロムcオキシダーゼなどの酵素の構成成分で、鉄の利用(造血)や神経機能、結合組織の形成に関わる。欠乏すると貧血、白血球(好中球)減少、ビタミンB12欠乏に似た脊髄障害(しびれ、歩行障害)、毛髪の異常、骨の異常などが生じる。先天性の銅吸収障害であるMenkes病では、縮れ毛、発達遅滞、けいれんがみられる。皮膚炎は代表的症状ではない。
- ○c. 亜鉛
亜鉛は300種類以上の酵素の働きに関わり、細胞分裂やタンパク質合成に必要である。欠乏すると、口・鼻・眼・肛門周囲などの開口部周囲や四肢末端に紅斑・びらん・水疱・痂皮を伴う皮膚炎(腸性肢端皮膚炎様の皮疹)が生じ、脱毛、味覚障害、下痢、創傷治癒遅延、易感染性、小児の成長障害、性腺機能低下なども伴う。先天性の亜鉛吸収障害(腸性肢端皮膚炎)では、皮膚炎・脱毛・下痢が三徴とされる。
- ×d. 葉酸
葉酸はDNA合成に必要な補酵素として働き、欠乏すると巨赤芽球性貧血をきたす。そのほか舌炎、高ホモシステイン血症がみられ、妊娠初期の欠乏は胎児の神経管閉鎖障害(二分脊椎など)のリスクを高める。ビタミンB12欠乏と異なり、亜急性連合性脊髄変性症のような神経障害は通常目立たない。皮膚炎は代表的症状ではない。
- ×e. セレン
セレンは抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼや、甲状腺ホルモンの活性化に関わる脱ヨウ素酵素の構成成分である。欠乏すると心筋症(中国の土壌セレン欠乏地域でみられたKeshan病が有名)、筋肉痛・筋力低下、爪の白色化、大球性貧血、甲状腺機能低下などをきたす。長期の中心静脈栄養で問題となることがあるが、皮膚炎は代表的症状ではない。
亜鉛欠乏症の要点
・症状:皮膚炎(開口部周囲・四肢末端)、脱毛、味覚障害、口内炎・舌炎、食欲低下、下痢、創傷治癒遅延、易感染性、貧血、小児の成長障害、性腺機能低下。 ・検査:血清亜鉛値の低下。我が国の診療指針では血清亜鉛60μg/dL未満を亜鉛欠乏症、60〜80μg/dL未満を潜在性亜鉛欠乏とする。亜鉛を含む酵素であるアルカリホスファターゼ(ALP)の低値が手がかりになることがある。血清亜鉛は日内変動があり、早朝空腹時の採血が望ましい。 ・原因:摂取不足(高齢者、偏食、微量元素を含まない静脈・経腸栄養)、吸収障害(炎症性腸疾患、短腸症候群、胃切除後)、喪失・需要増大(慢性腎臓病・透析、ネフローゼ症候群、熱傷、妊娠)、慢性肝疾患、アルコール多飲、亜鉛と結合しやすい薬剤(キレート作用をもつ薬剤など)。 ・先天性:腸性肢端皮膚炎は亜鉛の腸管吸収に関わる輸送体の遺伝子異常による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患で、離乳期前後に皮膚炎・脱毛・下痢で発症する。 ・治療:亜鉛製剤(酢酸亜鉛など)の補充で皮膚症状は速やかに改善する。
欠乏で皮膚症状をきたす主な栄養素
・亜鉛:開口部周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛 ・ナイアシン:ペラグラ(日光露光部の皮膚炎、下痢、認知症の3D) ・ビタミンB2:口角炎、口唇炎、脂漏性皮膚炎 ・ビタミンB6:口角炎、脂漏性皮膚炎、末梢神経障害 ・ビオチン:皮膚炎、脱毛 ・ビタミンC:壊血病(毛包周囲の出血、歯肉出血) ・必須脂肪酸:鱗屑を伴う皮膚炎
微量元素欠乏の整理
・鉄:小球性貧血、匙状爪、異食症、Plummer-Vinson症候群 ・銅:貧血、好中球減少、脊髄障害、毛髪異常(Menkes病) ・亜鉛:皮膚炎、脱毛、味覚障害、創傷治癒遅延 ・セレン:心筋症(Keshan病)、筋症状、爪の白色化 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症 ・クロム:耐糖能異常
POINT
・欠乏で皮膚炎をきたす微量元素の代表は亜鉛である。 ・亜鉛欠乏:開口部周囲・四肢末端の皮膚炎、脱毛、味覚障害、下痢、創傷治癒遅延。 ・鉄・銅・葉酸の欠乏は主に貧血、セレン欠乏は心筋症(Keshan病)。 ・長期の高カロリー輸液や経腸栄養では微量元素の欠乏に注意する。
