見つかる癌が増えても喜べない―癌検診の「本当の成果」は死亡率で測る
第106回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
集団に対してある癌の検診を行った。 検診後に観察された変化の中で,検診が有効であったことを示す根拠はどれか。
- a.検診で発見されたその癌の患者数の増加
- b.検診で発見されたその癌の患者の生存率の上昇
- c.集団全体におけるその癌の死亡率の低下
- d.集団全体におけるその癌の罹患率の低下
- e.検診に用いられた検査の陽性反応適中率の上昇
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
癌検診の目的は早期発見そのものではなく、対象となる癌による死亡を減らすことであり、有効性の最も確かな根拠は集団全体におけるその癌の死亡率の低下です。検診で発見された患者数や生存率は、リードタイム・バイアス、レングス・バイアス、過剰診断、自己選択バイアスによって、実際には死亡が減っていなくても見かけ上改善します。検診は二次予防であるため通常は罹患率を下げず、導入初期にはむしろ上昇することが多い一方、子宮頸癌や大腸癌のように前がん病変の治療で罹患率が下がりうる例もあります。陽性反応適中率は有病率に左右される精度管理の指標であり、有効性の評価はランダム化比較試験や症例対照研究で死亡率を比較して行います。「見かけの数字」と「本当の成果」を区別する視点は、検診の評価だけでなく臨床研究を読み解く力の基礎にもなります。
解答・解説
正解はcです
がん検診の有効性を何で評価するかを問う問題である。 がん検診の最終目的は、がんを早く見つけることそのものではなく、早期発見・早期治療によって「そのがんで亡くなる人を減らすこと」である。したがって有効性の評価指標として最も重要なのは、検診を受けた人だけでなく、対象集団全体での「そのがんによる死亡率の低下」である。 一方、検診で見つかった患者だけを取り出して、発見数や生存率を比べる方法には、次のような見かけ上の効果(バイアス)が入り込むため、検診の有効性の根拠にはならない。 1) リードタイム・バイアス:診断の時点が前倒しされるだけで、死亡の時期が変わらなくても、診断からの生存期間は長く見える。 2) レングス・バイアス:ゆっくり進行する予後の良いがんほど、症状が出る前の期間が長いため検診で見つかりやすい。その結果、検診発見がんは見かけ上予後が良くなる。 3) 過剰診断バイアス:放置しても生涯にわたり症状や死亡をもたらさないがんまで見つけてしまうことで、患者数が増え、生存率も見かけ上改善する。 4) 自己選択バイアス:検診を自ら受ける人はもともと健康意識が高く、健康状態が良い傾向がある。 これらの影響を受けにくいのが集団全体の死亡率であり、ランダム化比較試験(RCT)や症例対照研究などで、検診群と非検診群のそのがんによる死亡率を比較して有効性を検証する。
選択肢考察
- ×a. 検診で発見されたその癌の患者数の増加
有効性の根拠にはならない。検診を行えば、症状が出る前のがんが前倒しで見つかるため、発見患者数は当然増える。さらに、進行が遅く生命予後に影響しないがんまで拾い上げる過剰診断によっても患者数は増加する。発見数が増えても、治療によってそのがんによる死亡が減らなければ検診の意味はなく、発見数は検診の「実施状況」を示すにすぎない。
- ×b. 検診で発見されたその癌の患者の生存率の上昇
有効性の根拠にはならない。検診で発見された患者の生存率は、リードタイム・バイアス(診断が早まった分だけ生存期間が長く見える)、レングス・バイアス(予後の良いゆっくり進行するがんが見つかりやすい)、過剰診断バイアス(死に至らないがんが分母に加わる)によって、実際に死亡が減っていなくても見かけ上上昇する。また、生存率は治療法の進歩にも大きく左右される。したがって、検診発見例の生存率の改善だけでは検診が有効であったとはいえない。
- ○c. 集団全体におけるその癌の死亡率の低下
これが正解である。がん検診の目的は、対象となるがんによる死亡を減らすことである。集団全体でのそのがんによる死亡率(一定期間に一定人口あたり何人がそのがんで死亡したか)は、診断時点の前倒しや、予後の良いがん・過剰診断例の混入の影響を受けにくい。そのため、検診の有効性を示す最も確かな指標となる。実際には、検診を行う群と行わない群をランダムに割り付けたRCTなどで、そのがんによる死亡率が有意に低下することを確かめて、検診の有効性が評価される。
- ×d. 集団全体におけるその癌の罹患率の低下
一般的ながん検診の有効性の根拠にはならない。検診の多くは、すでに発生したがんを早期に見つける二次予防であり、がんの発生そのものを減らすわけではない。むしろ検診の導入直後は、症状が出る前のがんや過剰診断例が見つかるため、見かけの罹患率は上昇することが多い。罹患率を下げるのは禁煙やワクチン接種などの一次予防である。なお、子宮頸がん検診で前がん病変(異形成)を、大腸がん検診で腺腫を見つけて治療すれば、長期的には浸潤がんの罹患率が低下しうる。しかし、それは一部の検診にみられる付随的な効果であり、検診の有効性評価で基本とされる指標は死亡率の低下である。
- ×e. 検診に用いられた検査の陽性反応適中率の上昇
有効性の根拠にはならない。陽性反応適中率(陽性的中率)は、検査で陽性となった人のうち実際にその疾患をもつ人の割合であり、検査の精度(感度・特異度)だけでなく、受診集団の有病率によって大きく変化する。有病率の高い集団を対象にすれば上昇し、検診を繰り返して有病者が減れば低下する。検査の性能や検診の精度管理を評価する指標ではあるが、受診者の死亡が減ったかどうかという検診の有効性を直接示すものではない。
がん検診の評価の段階
・精度管理の指標:受診率、要精検率、精検受診率、がん発見率、陽性反応適中率、感度・特異度など。検診がきちんと運営されているかを評価する。 ・有効性の指標:対象がんによる死亡率の減少。これが確認されて初めて、その検診は推奨される。
がん検診の評価で注意すべきバイアス
・リードタイム・バイアス:無症状の時期に診断が早まった分(リードタイム)だけ、生存期間が見かけ上延長する。 ・レングス・バイアス:発育の遅いがんは無症状期間が長く、検診で捕捉されやすいため、検診発見がんの予後が良く見える。 ・過剰診断(オーバーダイアグノーシス):生涯にわたり臨床的に問題とならないがんを発見すること。甲状腺がんや前立腺がんで問題となりやすい。 ・自己選択バイアス:検診受診者は健康志向が強く、もともと死亡リスクが低い。
有効性の証明方法
最も信頼性が高いのはRCTで、検診群と対照群の対象がん死亡率を比較する。実施が難しい場合は、症例対照研究(そのがんで死亡した人と死亡していない人の過去の検診受診歴を比較する)やコホート研究などの観察研究で間接的に評価する。
予防の段階
一次予防:発生の予防(禁煙、HPVワクチン、B型肝炎ワクチン、ピロリ菌除菌など)。 二次予防:早期発見・早期治療(がん検診)。 三次予防:再発・合併症の予防、リハビリテーション。
POINT
・がん検診の有効性の最重要指標は、集団全体における対象がんの死亡率の低下である。 ・検診発見例の患者数や生存率は、リードタイム・レングス・過剰診断などのバイアスで見かけ上改善するため、有効性の根拠にならない。 ・検診は二次予防であり、通常は罹患率を下げない(導入初期はむしろ上昇する)。 ・陽性反応適中率は有病率に左右される精度の指標であり、有効性の指標ではない。
