本人が望んでも、家族が拒めば提供できない―臓器移植法が守る「遺族の権利」
第106回医師国家試験 F問題 第13問
国試問題にチャレンジ
我が国の脳死臓器移植について正しいのはどれか。
- a.腎臓は臓器売買が認められている。
- b.心停止前の臓器摘出は禁止されている。
- c.ドナーカードによる同意が必須である。
- d.遺族には臓器摘出を拒否する権利がある。
- e.本人意思が不明の場合は裁判所が判断する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国の脳死下臓器提供は臓器移植法に基づき、2010年全面施行の改正法により、本人の書面による意思表示がある場合に加えて、本人意思が不明でも家族が書面で承諾すれば提供できるようになり、15歳未満の小児からの提供も可能になりました。一方で、本人が提供を望んでいても家族が拒めば摘出できないという「遺族の拒否権」は改正前後を通じて変わらず、本人が拒否の意思を示していれば家族が承諾しても提供できません。法的脳死判定を経た身体は死体とみなされるため心停止前の摘出が可能で、臓器売買は臓器の種類を問わず禁止され、提供の可否を裁判所が判断する仕組みもありません。意思表示の手段はドナーカードに限らず、運転免許証や健康保険証、マイナンバーカード、インターネット登録でも可能です。本人・家族の意思と法的手続きの関係を正確に理解することは、救急・集中治療の現場で家族に寄り添いながら移植医療に関わるための基礎となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、我が国で脳死下の臓器提供がどのような条件で認められるかを、「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」に基づいて問うている。
脳死下臓器提供の法的枠組み
臓器移植法は1997年に施行され、2009年に改正、2010年に全面施行された。改正の最大の変更点は、提供者(ドナー)本人の意思表示の扱いである。 ・改正前: 本人が書面で臓器提供と脳死判定に従う意思を示しており、かつ家族が拒まない場合に限って提供できた。書面の意思表示が有効とされたのは15歳以上であり、実質的に小児からの脳死下提供はできなかった。 ・改正後: 上記に加え、本人の意思が不明(書面での提供の意思表示も拒否の意思表示もない)であっても、家族が書面で承諾すれば提供できるようになった。これにより15歳未満の小児からの脳死下提供も可能になった。
家族(遺族)の位置づけ
改正前後を通じて変わらないのは、家族が拒めば臓器を摘出できないという点である。本人が提供の意思を明示していた場合でも、家族が拒否すれば提供は行われない。したがって「遺族には臓器摘出を拒否する権利がある」という記述が正しい。
考え方
選択肢を検討する際は、①臓器売買の禁止、②脳死判定後であれば心停止前でも摘出できること、③本人意思が不明なら家族の承諾で提供できること(ドナーカードは必須ではない)、④判断するのは家族であり裁判所ではないこと、の4点を押さえておけばよい。
選択肢考察
- ×a. 腎臓は臓器売買が認められている。
誤り。臓器移植法は、臓器提供の対価として金品などの利益を授受すること、またその約束や仲介を禁じており、違反には罰則がある。腎臓を含め、どの臓器についても売買は認められていない。臓器提供は善意に基づく無償の行為であることが大原則であり、これは国際的な共通認識(WHOの指導原則やイスタンブール宣言など)でもある。生体腎移植でも金銭授受は許されない。
- ×b. 心停止前の臓器摘出は禁止されている。
誤り。臓器移植法は、法に定められた手続きで脳死と判定された者の身体を「死体」に含めている。このため、法的脳死判定を経ていれば、心臓がまだ拍動している段階(心停止前)でも臓器を摘出できる。心臓・肺・肝臓・小腸のように血流が途絶えると急速に機能が損なわれる臓器は、脳死下でなければ移植に用いることが事実上難しい。なお、心停止後の提供で移植できるのは腎臓・膵臓・眼球(角膜)である。
- ×c. ドナーカードによる同意が必須である。
誤り。2点で誤っている。第一に、意思表示の手段はドナーカード(臓器提供意思表示カード)に限らず、運転免許証や健康保険証、マイナンバーカードの意思表示欄、インターネットでの意思登録などでも行える。第二に、2010年施行の改正法により、本人の意思が不明な場合でも家族が書面で承諾すれば脳死下の提供が可能になった。したがって本人の書面による同意は必須条件ではない。ただし、本人が提供を拒否する意思を示していた場合は、家族が承諾しても提供できない。
- ○d. 遺族には臓器摘出を拒否する権利がある。
正しい。臓器移植法では、本人が書面で提供の意思を示している場合でも「遺族がこれを拒まないとき、または遺族がないとき」に限って摘出できると定めている。つまり、本人が提供を希望していても、家族が拒否すれば摘出は行われない。本人意思が不明な場合も家族の書面での承諾が必要であり、家族が承諾しなければ提供は成立しない。いずれの場合も、家族は摘出を拒否する権利をもっている。
- ×e. 本人意思が不明の場合は裁判所が判断する。
誤り。本人の意思が不明な場合、提供するかどうかを判断するのは家族であり、家族が書面で承諾したときに限って提供できる。臓器提供の可否について裁判所が判断する仕組みは法律上存在しない。
脳死下臓器提供が認められる条件(改正臓器移植法)
①本人が書面で臓器提供の意思を表示しており、かつ家族が拒まないとき(または家族がいないとき) ②本人の意思が不明(提供・拒否いずれの意思表示もない)で、家族が書面で承諾したとき 本人が提供を拒否する意思を示していた場合は、家族が承諾しても提供できない。拒否の意思表示は年齢にかかわらず尊重される。
改正法(2010年全面施行)のその他の主な変更点
・15歳未満の小児からの脳死下臓器提供が可能になった(家族の書面承諾による)。 ・親族への優先提供の意思表示が認められた(配偶者、子、父母が対象)。 ・運転免許証や健康保険証にも意思表示欄が設けられた。
法的脳死判定
法的脳死判定は、脳死判定に十分な経験をもち、移植医療に関与しない医師2名以上で行う。主な判定項目は、①深昏睡、②両側瞳孔の固定・散大(瞳孔径4 mm以上)、③脳幹反射の消失、④平坦脳波、⑤自発呼吸の消失(無呼吸テスト)である。この判定を一定時間(成人および6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上)の間隔をおいて2回行い、2回目の判定終了時刻が死亡時刻となる。
臓器提供の種類と提供可能な臓器
・脳死下提供: 心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球(角膜) ・心停止後提供: 腎臓、膵臓、眼球(角膜)
小児からの提供に関する留意点
虐待を受けて死亡した疑いのある18歳未満の児童からは臓器を提供しないこととされており、医療機関には虐待の有無を確認する体制が求められる。
POINT
・臓器売買は臓器の種類を問わず禁止されている。 ・法的脳死判定を経ていれば、心停止前でも臓器を摘出できる。 ・改正臓器移植法(2010年全面施行)により、本人意思が不明でも家族の書面承諾で脳死下提供が可能になった。15歳未満の小児からの提供も可能。 ・本人が提供の意思を示していても、家族が拒めば提供できない(家族には拒否権がある)。 ・本人が拒否の意思を示していれば、家族が承諾しても提供できない。 ・意思表示はドナーカードのほか、運転免許証・健康保険証・マイナンバーカード・インターネット登録でも可能。
