声がかすれたら胸を疑え―症候の「機序」で解く呼吸器疾患の組合せ
第105回医師国家試験 G問題 第12問
国試問題にチャレンジ
疾患と症候の組合せで正しいのはどれか。
- a.サルコイドーシス ―― ばち指
- b.過換気症候群 ―― チアノーゼ
- c.気管支拡張症 ―― 胸水
- d.気管支嚢胞 ―― 喀血
- e.肺癌 ―― 嗄声
対話形式の解説
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医学生まとめ
肺癌の原発巣や縦隔リンパ節転移が反回神経に浸潤すると声帯麻痺による嗄声が生じ、胸郭内の走行が長い左側で起こりやすく、縦隔浸潤を示す進行例のサインとなります。過換気症候群はPaO2が保たれるためチアノーゼは生じず、呼吸性アルカローシスによるしびれやテタニーが主症状です。ばち指は肺癌・気管支拡張症・特発性肺線維症などでみられ、サルコイドーシスではまれであり、気管支拡張症は膿性痰や喀血が特徴で胸水は典型的ではなく、気管支嚢胞は多くが無症状です。症候を暗記ではなく成立機序から理解しておくと、組合せ問題に強くなるだけでなく、嗄声から胸部病変を疑うような臨床推論にも直結します。
解答・解説
正解はeです
呼吸器疾患とそれに特徴的な症候(身体所見)の対応を問う問題である。各症候がどのような機序で生じるかを押さえておくと、組合せの正誤を判断しやすい。 ・ばち指: 指先の軟部組織が増殖して爪の付け根の角度が失われる所見。慢性の低酸素血症や慢性化膿性疾患、腫瘍などに伴う。呼吸器では肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、肺膿瘍・膿胸などが代表的である。 ・チアノーゼ: 皮膚・粘膜が青紫色になる所見で、毛細血管内の還元ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン)が約5 g/dL以上になると現れる。すなわち低酸素血症を前提とする。 ・胸水: 胸膜腔に液体がたまる状態で、胸膜自体の病変(癌性胸膜炎、結核性胸膜炎、細菌性の胸膜炎・膿胸)や、心不全・低アルブミン血症などで生じる。 ・喀血: 気道や肺からの出血を喀出するもので、気管支拡張症、肺結核、肺癌、肺アスペルギルス症などが原因となる。 ・嗄声: 声がかすれる症状で、声帯自体の病変のほか、声帯を動かす反回神経の麻痺で生じる。左反回神経は大動脈弓の下を回り、右反回神経は鎖骨下動脈の下を回ってから上行するため、胸郭内の病変、特に肺癌や縦隔リンパ節転移で障害されやすい。 これらの機序を各疾患の病態に当てはめて判断すると、肺癌の反回神経浸潤による嗄声が正しい組合せとなる。
選択肢考察
- ×a. サルコイドーシス ―― ばち指
サルコイドーシスは、原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が肺・リンパ節・眼・皮膚・心臓などに多発する全身性疾患である。典型的な所見は両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、ぶどう膜炎、皮膚病変などであり、ばち指はほとんどみられない(進行した肺線維化例でまれに報告される程度)。ばち指をきたす代表的疾患としては、肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患などが挙げられる。なお、COPD(慢性閉塞性肺疾患)単独ではばち指は通常みられず、COPD患者にばち指があれば肺癌の合併などを疑うべきとされる。
- ×b. 過換気症候群 ―― チアノーゼ
過換気症候群は、不安や心理的ストレスを契機に呼吸が過剰になる機能的な病態である。肺そのものに器質的な異常はなく、換気が増えるため動脈血酸素分圧(PaO2)はむしろ正常〜高値となり、二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下して呼吸性アルカローシスとなる。低酸素血症がないのでチアノーゼは生じない。症状は、呼吸性アルカローシスに伴うイオン化カルシウムの低下による口周囲や手指のしびれ、テタニー(助産師手位)、めまい、動悸などである。
- ×c. 気管支拡張症 ―― 胸水
気管支拡張症は、気管支が不可逆的に拡張し、そこに分泌物がたまって慢性の気道感染を繰り返す疾患である。病変の主座は気道(肺内)にあり、胸膜病変ではないため、胸水は特徴的な所見ではない。典型的な症候は、慢性の咳嗽と大量の膿性痰、血痰・喀血、ばち指、聴診での水泡音(coarse crackles)などである。
- ×d. 気管支嚢胞 ―― 喀血
気管支嚢胞(気管支原性嚢胞)は、胎生期の気管支の発生異常によって生じる先天性の嚢胞で、縦隔(特に気管分岐部付近)や肺内にみられる。多くは無症状で、胸部X線写真などで偶然発見される。気道と交通すると感染を起こしやすく、感染時には発熱や咳嗽、膿性痰を生じ、大きくなれば気道や周囲臓器を圧迫することもある。出血性の病変ではないため、喀血は特徴的な症候ではない。
- ○e. 肺癌 ―― 嗄声
肺癌の原発巣や縦隔リンパ節転移が反回神経に浸潤・圧迫すると、同側の声帯が麻痺して嗄声が生じる。左反回神経は大動脈弓を前から後ろへくぐって上行し、その経路が大動脈下リンパ節(大動脈肺動脈窓)の近くを通るため、左上葉の肺癌やこの部位のリンパ節転移で障害されやすい。肺癌で反回神経麻痺による嗄声を認める場合、縦隔への浸潤を意味し、病期としては進行例であることが多い。肺癌の局所進展による症候としては、ほかに上大静脈症候群(顔面・上肢の浮腫、頸静脈怒張)、Horner症候群(肺尖部のPancoast腫瘍による縮瞳・眼瞼下垂・顔面の無汗)、横隔神経麻痺、癌性胸膜炎による胸水などがある。
肺癌の症候の整理
1. 原発巣による症状: 咳嗽、血痰・喀血、喘鳴、閉塞性肺炎 2. 局所進展による症状: 嗄声(反回神経麻痺)、上大静脈症候群、Horner症候群・上肢の疼痛(Pancoast腫瘍)、横隔神経麻痺、胸水(癌性胸膜炎)、嚥下障害(食道圧迫) 3. 遠隔転移による症状: 脳転移による頭痛・神経症状、骨転移による疼痛・病的骨折など 4. 腫瘍随伴症候群: 小細胞癌では抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、異所性ACTH産生によるCushing症候群、Lambert-Eaton筋無力症候群。扁平上皮癌ではPTHrP産生による高カルシウム血症。そのほか、ばち指・肥大性肺性骨関節症など
反回神経の走行
迷走神経の枝で、左は大動脈弓、右は右鎖骨下動脈の下を回って反転し、気管と食道の間の溝を上行して喉頭に至る。左の方が胸郭内での走行が長いため、肺癌、縦隔腫瘍、食道癌、胸部大動脈瘤、甲状腺手術・食道手術などで障害されやすい。
ばち指の主な原因
・呼吸器: 肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、肺膿瘍、膿胸、嚢胞性線維症 ・循環器: チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎 ・消化器: 肝硬変、炎症性腸疾患
チアノーゼの成立条件
毛細血管内の還元ヘモグロビンが約5 g/dL以上。したがって貧血が強い患者では低酸素血症があってもチアノーゼが出にくく、多血症の患者では出やすい。
POINT
・肺癌の反回神経浸潤(特に左)で嗄声が生じる。縦隔浸潤を示す進行例のサイン。 ・過換気症候群はPaO2が保たれるためチアノーゼは生じない。症状は呼吸性アルカローシスによるしびれ・テタニー。 ・ばち指は肺癌・気管支拡張症・特発性肺線維症などでみられ、サルコイドーシスやCOPD単独ではまれ。 ・気管支拡張症は大量の膿性痰・血痰・喀血が特徴で、胸水は典型的ではない。 ・気管支嚢胞は多くが無症状で、感染を契機に症状が出る。
