StudyMed医師国家試験

声がかすれたら胸を疑え―症候の「機序」で解く呼吸器疾患の組合せ

第105回医師国家試験 G問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第12問

疾患と症候の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.サルコイドーシス ―― ばち指
  2. b.過換気症候群 ―― チアノーゼ
  3. c.気管支拡張症 ―― 胸水
  4. d.気管支嚢胞 ―― 喀血
  5. e.肺癌 ―― 嗄声

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、呼吸器疾患とその症候の組合せを問う問題だ。丸暗記で臨むと迷いやすいけれど、「その症候はどういう仕組みで起こるのか」を考えれば、どれも理屈で判断できる。順番に見ていこう。
医学生医学生
組合せ問題は苦手です。CBTのときも、なんとなくそれっぽい組合せを選んで外していました。
ドクタードクター
それなら今日は機序から攻めよう。まずチアノーゼ。これはどういう条件で出る所見だったかな。
医学生医学生
毛細血管内の還元ヘモグロビンが5 g/dL以上になると出る、と生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。つまり前提として低酸素血症が必要だ。では過換気症候群では酸素はどうなっている?
医学生医学生
呼吸が速くて苦しそうなので、酸素が足りていないイメージがありました。
ドクタードクター
そこが典型的な誤解だね。過換気症候群は肺に器質的な異常がなく、換気が過剰になっている状態だから、PaO2はむしろ正常から高値になる。下がるのはPaCO2で、呼吸性アルカローシスになるんだ。低酸素がないからチアノーゼは生じない。
医学生医学生
アルカローシスでイオン化カルシウムが下がって、口の周りや手指のしびれ、助産師手位のテタニーが出るんでしたね。救急外来の実習で、紙袋ではなく声かけで落ち着かせていたのを思い出しました。
ドクタードクター
よく見ているね。次はばち指。指先の軟部組織が増えて、爪の付け根の角度が失われる所見だ。肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、肺膿瘍や膿胸など、慢性の低酸素や化膿性疾患、腫瘍に伴うことが多い。サルコイドーシスはどうだろう。
医学生医学生
サルコイドーシスも肺に病変があるので、出そうな気がしますが……。
ドクタードクター
実はほとんどみられないんだ。サルコイドーシスの典型像は両側肺門リンパ節腫脹、ぶどう膜炎、皮膚病変などで、ばち指は進行した肺線維化例でまれに報告される程度。ついでに言うと、COPD単独でもばち指は通常みられない。COPD患者にばち指があれば、肺癌の合併などを疑うべきだとされているよ。
医学生医学生
気管支拡張症と胸水の組合せはどうでしょう。慢性炎症なので胸水もたまりそうです。
ドクタードクター
胸水は胸膜腔に液体がたまる状態だから、基本は胸膜自体の病変か、心不全や低アルブミン血症のような全身要因で起こる。気管支拡張症の病変の主座は気道で、胸膜ではない。典型的なのは慢性の咳と大量の膿性痰、血痰・喀血、ばち指、聴診での水泡音だ。
医学生医学生
なるほど。むしろ喀血の方が気管支拡張症らしいんですね。では気管支嚢胞の喀血は?
ドクタードクター
気管支原性嚢胞は胎生期の気管支の発生異常による先天性の嚢胞で、縦隔、特に気管分岐部付近に多い。多くは無症状で、胸部X線で偶然見つかる。気道と交通すると感染を起こして発熱や膿性痰が出ることはあるけれど、出血性の病変ではないから喀血は特徴的ではないんだ。
医学生医学生
そうすると、肺癌と嗄声が正しい組合せですね。反回神経麻痺でしょうか。
ドクタードクター
正解。反回神経は迷走神経の枝で、左は大動脈弓、右は右鎖骨下動脈の下をくぐって反転し、喉頭へ上行する。特に左は胸郭内を長く走り、大動脈下リンパ節、いわゆる大動脈肺動脈窓のそばを通るから、左上葉の肺癌やその部位のリンパ節転移で障害されやすい。
医学生医学生
解剖実習で、左の反回神経が大動脈弓に引っかかるように回っているのを見て驚きました。だから左が狙われやすいんですね。
ドクタードクター
解剖の記憶が臨床につながる好例だね。臨床で大事なのは、肺癌で嗄声が出ていれば縦隔への浸潤を意味し、進行例であることが多いという点だ。同じ局所進展の症候として、顔面・上肢の浮腫や頸静脈怒張をきたす上大静脈症候群、肺尖部のPancoast腫瘍による縮瞳・眼瞼下垂・顔面の無汗のHorner症候群、横隔神経麻痺、癌性胸膜炎による胸水もセットで覚えよう。
医学生医学生
腫瘍随伴症候群も出題されやすいですよね。小細胞癌のSIADHやLambert-Eaton症候群とか。
ドクタードクター
その通り。小細胞癌では異所性ACTH産生によるCushing症候群もあるし、扁平上皮癌ではPTHrP産生による高カルシウム血症が有名だ。ばち指や肥大性肺性骨関節症も肺癌に関連する所見だよ。それから、嗄声の原因は肺癌に限らない。食道癌、胸部大動脈瘤、甲状腺や食道の手術後でも反回神経麻痺は起こるから、嗄声が続く患者を診たら喉頭だけでなく胸部の画像も確認する習慣をつけてほしい。
医学生医学生
「声がかすれる」という一言から、胸の中まで考えを広げることが大事なんですね。

まとめ

肺癌の原発巣や縦隔リンパ節転移が反回神経に浸潤すると声帯麻痺による嗄声が生じ、胸郭内の走行が長い左側で起こりやすく、縦隔浸潤を示す進行例のサインとなります。過換気症候群はPaO2が保たれるためチアノーゼは生じず、呼吸性アルカローシスによるしびれやテタニーが主症状です。ばち指は肺癌・気管支拡張症・特発性肺線維症などでみられ、サルコイドーシスではまれであり、気管支拡張症は膿性痰や喀血が特徴で胸水は典型的ではなく、気管支嚢胞は多くが無症状です。症候を暗記ではなく成立機序から理解しておくと、組合せ問題に強くなるだけでなく、嗄声から胸部病変を疑うような臨床推論にも直結します。

解答・解説

正解はeです

呼吸器疾患とそれに特徴的な症候(身体所見)の対応を問う問題である。各症候がどのような機序で生じるかを押さえておくと、組合せの正誤を判断しやすい。 ・ばち指: 指先の軟部組織が増殖して爪の付け根の角度が失われる所見。慢性の低酸素血症や慢性化膿性疾患、腫瘍などに伴う。呼吸器では肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、肺膿瘍・膿胸などが代表的である。 ・チアノーゼ: 皮膚・粘膜が青紫色になる所見で、毛細血管内の還元ヘモグロビン(酸素と結合していないヘモグロビン)が約5 g/dL以上になると現れる。すなわち低酸素血症を前提とする。 ・胸水: 胸膜腔に液体がたまる状態で、胸膜自体の病変(癌性胸膜炎、結核性胸膜炎、細菌性の胸膜炎・膿胸)や、心不全・低アルブミン血症などで生じる。 ・喀血: 気道や肺からの出血を喀出するもので、気管支拡張症、肺結核、肺癌、肺アスペルギルス症などが原因となる。 ・嗄声: 声がかすれる症状で、声帯自体の病変のほか、声帯を動かす反回神経の麻痺で生じる。左反回神経は大動脈弓の下を回り、右反回神経は鎖骨下動脈の下を回ってから上行するため、胸郭内の病変、特に肺癌や縦隔リンパ節転移で障害されやすい。 これらの機序を各疾患の病態に当てはめて判断すると、肺癌の反回神経浸潤による嗄声が正しい組合せとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  サルコイドーシス ―― ばち指

    サルコイドーシスは、原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が肺・リンパ節・眼・皮膚・心臓などに多発する全身性疾患である。典型的な所見は両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、ぶどう膜炎、皮膚病変などであり、ばち指はほとんどみられない(進行した肺線維化例でまれに報告される程度)。ばち指をきたす代表的疾患としては、肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎、肝硬変、炎症性腸疾患などが挙げられる。なお、COPD(慢性閉塞性肺疾患)単独ではばち指は通常みられず、COPD患者にばち指があれば肺癌の合併などを疑うべきとされる。

  2. ×b.  過換気症候群 ―― チアノーゼ

    過換気症候群は、不安や心理的ストレスを契機に呼吸が過剰になる機能的な病態である。肺そのものに器質的な異常はなく、換気が増えるため動脈血酸素分圧(PaO2)はむしろ正常〜高値となり、二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下して呼吸性アルカローシスとなる。低酸素血症がないのでチアノーゼは生じない。症状は、呼吸性アルカローシスに伴うイオン化カルシウムの低下による口周囲や手指のしびれ、テタニー(助産師手位)、めまい、動悸などである。

  3. ×c.  気管支拡張症 ―― 胸水

    気管支拡張症は、気管支が不可逆的に拡張し、そこに分泌物がたまって慢性の気道感染を繰り返す疾患である。病変の主座は気道(肺内)にあり、胸膜病変ではないため、胸水は特徴的な所見ではない。典型的な症候は、慢性の咳嗽と大量の膿性痰、血痰・喀血、ばち指、聴診での水泡音(coarse crackles)などである。

  4. ×d.  気管支嚢胞 ―― 喀血

    気管支嚢胞(気管支原性嚢胞)は、胎生期の気管支の発生異常によって生じる先天性の嚢胞で、縦隔(特に気管分岐部付近)や肺内にみられる。多くは無症状で、胸部X線写真などで偶然発見される。気道と交通すると感染を起こしやすく、感染時には発熱や咳嗽、膿性痰を生じ、大きくなれば気道や周囲臓器を圧迫することもある。出血性の病変ではないため、喀血は特徴的な症候ではない。

  5. ○e.  肺癌 ―― 嗄声

    肺癌の原発巣や縦隔リンパ節転移が反回神経に浸潤・圧迫すると、同側の声帯が麻痺して嗄声が生じる。左反回神経は大動脈弓を前から後ろへくぐって上行し、その経路が大動脈下リンパ節(大動脈肺動脈窓)の近くを通るため、左上葉の肺癌やこの部位のリンパ節転移で障害されやすい。肺癌で反回神経麻痺による嗄声を認める場合、縦隔への浸潤を意味し、病期としては進行例であることが多い。肺癌の局所進展による症候としては、ほかに上大静脈症候群(顔面・上肢の浮腫、頸静脈怒張)、Horner症候群(肺尖部のPancoast腫瘍による縮瞳・眼瞼下垂・顔面の無汗)、横隔神経麻痺、癌性胸膜炎による胸水などがある。

肺癌の症候の整理

1. 原発巣による症状: 咳嗽、血痰・喀血、喘鳴、閉塞性肺炎 2. 局所進展による症状: 嗄声(反回神経麻痺)、上大静脈症候群、Horner症候群・上肢の疼痛(Pancoast腫瘍)、横隔神経麻痺、胸水(癌性胸膜炎)、嚥下障害(食道圧迫) 3. 遠隔転移による症状: 脳転移による頭痛・神経症状、骨転移による疼痛・病的骨折など 4. 腫瘍随伴症候群: 小細胞癌では抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、異所性ACTH産生によるCushing症候群、Lambert-Eaton筋無力症候群。扁平上皮癌ではPTHrP産生による高カルシウム血症。そのほか、ばち指・肥大性肺性骨関節症など

反回神経の走行

迷走神経の枝で、左は大動脈弓、右は右鎖骨下動脈の下を回って反転し、気管と食道の間の溝を上行して喉頭に至る。左の方が胸郭内での走行が長いため、肺癌、縦隔腫瘍、食道癌、胸部大動脈瘤、甲状腺手術・食道手術などで障害されやすい。

ばち指の主な原因

・呼吸器: 肺癌、気管支拡張症、特発性肺線維症、肺膿瘍、膿胸、嚢胞性線維症 ・循環器: チアノーゼ性先天性心疾患、感染性心内膜炎 ・消化器: 肝硬変、炎症性腸疾患

チアノーゼの成立条件

毛細血管内の還元ヘモグロビンが約5 g/dL以上。したがって貧血が強い患者では低酸素血症があってもチアノーゼが出にくく、多血症の患者では出やすい。

POINT

・肺癌の反回神経浸潤(特に左)で嗄声が生じる。縦隔浸潤を示す進行例のサイン。 ・過換気症候群はPaO2が保たれるためチアノーゼは生じない。症状は呼吸性アルカローシスによるしびれ・テタニー。 ・ばち指は肺癌・気管支拡張症・特発性肺線維症などでみられ、サルコイドーシスやCOPD単独ではまれ。 ・気管支拡張症は大量の膿性痰・血痰・喀血が特徴で、胸水は典型的ではない。 ・気管支嚢胞は多くが無症状で、感染を契機に症状が出る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。