第一呼吸がすべてを変える―胎児循環から新生児循環への劇的な切り替え
第105回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
新生児の循環動態で正しいのはどれか。
- a.肺血流量は出生後増加する。
- b.卵円孔は出生直前に閉鎖する。
- c.大動脈拡張期圧は出生後低下する。
- d.肺血管抵抗は体血管抵抗よりも大きい。
- e.動脈管は動脈血二酸化炭素分圧の低下によって閉鎖する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
胎児期は胎盤でガス交換を行うため肺血管抵抗が体血管抵抗より高く、肺血流量は心拍出量の1割前後にとどまりますが、出生後は肺の拡張とPaO2上昇で肺血管抵抗が急低下し、肺血流量は著明に増加します。臍帯結紮で胎盤循環が消えると体血管抵抗と大動脈圧は上昇し、左房圧が右房圧を上回ることで卵円孔は出生直後に機能的に閉鎖します。動脈管はPaCO2ではなくPaO2の上昇とPGE2の低下によって閉鎖し、臨床ではPGE1で開存を維持し、インドメタシンやイブプロフェンで閉鎖を促します。正常な循環移行を理解しておくことは、動脈管開存症や新生児遷延性肺高血圧症、動脈管依存性心疾患の病態と治療を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
胎児循環から新生児循環への移行(循環の適応)を問う問題である。まず胎児循環の特徴を整理し、出生によって何が変わるかを順に追うと、各選択肢の正誤が判断できる。
胎児循環の特徴
胎児はガス交換を肺ではなく胎盤で行う。肺は液体で満たされて虚脱しており、肺血管は低酸素によって強く収縮しているため、肺血管抵抗は非常に高い。一方、胎盤は血管抵抗の低い大きな血管床であり、体血管抵抗は低い。そのため肺血管抵抗>体血管抵抗という関係になり、右心系の圧が左心系より高い。 胎盤で酸素化された血液は臍静脈→静脈管(アランチウス管)→下大静脈→右房と流れ、その多くは卵円孔を通って左房へ入り、左室から上行大動脈を経て脳や心筋に優先的に送られる。上大静脈から戻る血液は主に右室→肺動脈へ向かうが、肺血管抵抗が高いため大部分は動脈管を通って下行大動脈へ流れ(右→左短絡)、肺を流れる血液は心拍出量全体の1割前後にすぎない。動脈管の開存は、胎盤で産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)と低い酸素分圧によって維持されている。
出生後の変化
1. 第一呼吸で肺が拡張し、肺胞内の酸素分圧が上昇すると、肺血管が拡張して肺血管抵抗が急速に低下する。その結果、肺血流量は胎児期の数倍〜10倍程度に増え、左右の心室がほぼ同じ量を拍出する直列循環となる。 2. 臍帯の結紮により低抵抗の胎盤循環が途絶え、体血管抵抗が上昇する。これにより大動脈圧(収縮期圧・拡張期圧とも)は上昇する。 3. 肺静脈から左房への還流量が増えて左房圧が上昇し、同時に右房への還流(静脈管・下大静脈経由)が減って右房圧が低下する。左房圧>右房圧となるため、卵円孔の弁(一次中隔)が二次中隔に押し付けられ、出生直後に機能的に閉鎖する。器質的な閉鎖は数か月〜1年ほどかかり、成人の約25%では閉鎖が不完全な卵円孔開存(PFO)が残る。 4. 動脈血酸素分圧(PaO2)の上昇と、胎盤由来のPGE2の消失(および肺でのPGE2代謝)によって動脈管の平滑筋が収縮し、生後10〜15時間ほどで機能的に閉鎖する。その後数週間で線維化して動脈管索となる。 以上から、出生後に肺血流量が増加するという記述が正しい。
選択肢考察
- ○a. 肺血流量は出生後増加する。
胎児期には肺血管抵抗が高く、右室から出た血液の大部分は動脈管を通って大動脈へ流れるため、肺血流量は心拍出量全体の1割前後にとどまる。出生後は肺の拡張と酸素分圧の上昇によって肺血管が拡張し、肺血管抵抗が急速に低下する。さらに動脈管・卵円孔が閉鎖して右心系の拍出がすべて肺へ向かうようになるため、肺血流量は体血流量とほぼ等しくなり、胎児期に比べて著しく(10倍程度にまで)増加する。
- ×b. 卵円孔は出生直前に閉鎖する。
卵円孔は、出生後に肺血流が増えて左房圧が上昇し、同時に胎盤からの還流が途絶えて右房圧が低下することで閉鎖する。つまり閉鎖の引き金は出生後の圧関係の逆転であり、出生前に閉じることはない。むしろ胎児期に卵円孔が閉じてしまうと、酸素化血を左心系へ送れず、左心の発育も障害される。機能的閉鎖は出生直後(数分以内)、器質的閉鎖は生後数か月〜1年ごろである。
- ×c. 大動脈拡張期圧は出生後低下する。
臍帯結紮により血管抵抗の低い胎盤循環が体循環から切り離されるため、体血管抵抗は上昇し、大動脈圧は出生後に上昇する。また動脈管が閉鎖すると、拡張期に大動脈から肺動脈へ血液が逃げる経路もなくなり、拡張期圧は保たれる。したがって正常な移行過程で大動脈拡張期圧が低下することはない。逆に動脈管開存症(PDA)が残ると、拡張期に大動脈から肺動脈へ血液が流れ込むため拡張期圧が低下し、脈圧が大きくなる(反跳脈)。
- ×d. 肺血管抵抗は体血管抵抗よりも大きい。
肺血管抵抗が体血管抵抗より大きいのは胎児期の特徴である。出生後は肺血管抵抗が急速に低下し、体血管抵抗は胎盤循環の消失により上昇するため、両者の大小関係が逆転して体血管抵抗>肺血管抵抗となる。肺血管抵抗はその後も生後数週間かけて低下を続け、成人に近い値となる。出生後も肺血管抵抗が高いまま下がらない病態が新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)であり、卵円孔や動脈管を介した右→左短絡が続いて重度の低酸素血症をきたす。
- ×e. 動脈管は動脈血二酸化炭素分圧の低下によって閉鎖する。
動脈管の閉鎖を促すのは、二酸化炭素分圧の低下ではなく動脈血酸素分圧(PaO2)の上昇である。酸素は動脈管の平滑筋を直接収縮させる。加えて、胎盤で産生されていたPGE2が出生により供給されなくなり、肺血流の増加で肺での分解も進むため、血中PGE2濃度が低下することも閉鎖に寄与する。臨床ではこの性質を利用し、動脈管依存性の先天性心疾患ではPGE1製剤を投与して動脈管を開存させ、早産児の動脈管開存症ではシクロオキシゲナーゼ阻害薬(インドメタシンやイブプロフェン)でプロスタグランジン産生を抑えて閉鎖を図る。
胎児循環の3つの短絡路と出生後の遺残構造
・静脈管(アランチウス管): 臍静脈血を肝臓を迂回させて下大静脈へ送る。出生後閉鎖し、静脈管索となる。 ・卵円孔: 右房から左房への短絡。出生後閉鎖し、卵円窩となる。 ・動脈管: 肺動脈から大動脈への短絡。出生後閉鎖し、動脈管索となる。 そのほか、臍静脈は肝円索、臍動脈は内側臍索となる。
胎児期と出生後の比較
・ガス交換の場: 胎盤 → 肺 ・肺血管抵抗: 高い → 急速に低下 ・体血管抵抗: 低い(胎盤循環のため) → 上昇 ・肺血流量: 心拍出量の1割前後 → 体血流量とほぼ同じ ・右房圧と左房圧: 右房>左房 → 左房>右房 ・動脈管の血流: 右→左(肺動脈→大動脈) → 閉鎖(閉鎖前の一時期は左→右)
動脈管と薬物
・開存させる: PGE1製剤(大動脈縮窄・離断、左心低形成症候群、肺動脈閉鎖などの動脈管依存性心疾患) ・閉鎖させる: インドメタシン、イブプロフェン(早産児の動脈管開存症) ・妊娠後期の母体へのNSAIDs投与は胎児の動脈管を早期に収縮させる危険があるため避ける。
関連する病態
・新生児遷延性肺高血圧症(PPHN): 出生後も肺血管抵抗が下がらず、胎児循環が遷延する。胎便吸引症候群、仮死、横隔膜ヘルニアなどに合併しやすい。動脈管より上流の右手(プレダクタル)と下肢(ポストダクタル)で酸素飽和度に差が出るのが特徴。
POINT
・出生後、肺の拡張とPaO2上昇で肺血管抵抗が急低下し、肺血流量は著明に増加する。 ・臍帯結紮で胎盤循環が消失し、体血管抵抗・大動脈圧は上昇する。 ・胎児期は肺血管抵抗>体血管抵抗、出生後は逆転して体血管抵抗>肺血管抵抗。 ・卵円孔は出生直後に左房圧>右房圧となって機能的に閉鎖する(器質的閉鎖は数か月以降)。 ・動脈管はPaO2上昇とPGE2低下で閉鎖する(PaCO2ではない)。PGE1で開存、インドメタシンで閉鎖。
