生まれた日と1か月後、増えるのはどれ?―胎盤を越える抗体、越えない抗体
第119回医師国家試験 F問題 第30問
国試問題にチャレンジ
正期産児で,日齢0より日齢28で高値となるのはどれか。2つ選べ。
- a.IgA
- b.IgG
- c.IgM
- d.白血球
- e.ヘモグロビン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児の検査値の推移は「出生時の値が何で決まっているか」から理解できます。胎盤を通過する免疫グロブリンはFcRnを介して輸送されるIgGのみで、出生時に高値だった母体由来IgGは生後減少し、生後3〜6か月で総IgGが最低となります。一方、胎盤を通らないIgMとIgAは出生時ごく低値で、出生後の抗原刺激により児自身の産生がIgM、IgG、IgAの順に立ち上がるため、日齢28では日齢0より高値となります。ヘモグロビンは低酸素の胎内環境を反映して出生時に高く、生後2〜3か月で生理的貧血の最低値となり、白血球も出生直後が最高でその後低下します。臍帯血IgM高値が先天感染を示唆することも含め、月齢に応じた正常な変化を知ることが小児の検査値を正しく解釈する土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
新生児期の血液検査値が出生直後(日齢0)から生後約1か月(日齢28)にかけてどう推移するかを問う問題である。考える軸は「出生時の値は何によって決まるか」である。
免疫グロブリン
胎児の免疫グロブリンは、母体から胎盤を通って届くものと、胎児・新生児自身がつくるものに分けられる。胎盤を通過できるのはIgGだけで、胎盤の合胞体栄養膜細胞にある胎児性Fc受容体(FcRn)を介して能動的に輸送される。分子量の大きい五量体のIgMや、IgAは胎盤を通過しない。また胎内は原則として無菌で抗原刺激が乏しいため、胎児自身の抗体産生はわずかである。 したがって出生時は「IgGは母体由来で高く、IgMとIgAはきわめて低い」状態である。出生後は外界の微生物や食物抗原による刺激を受けて児自身の抗体産生が始まり、IgM→IgG→IgAの順に立ち上がる。一方、母体由来のIgGは半減期(約3週間)に従って分解されて減っていく。
血球
胎内は低酸素環境であり、エリスロポエチンの作用で赤血球・ヘモグロビンは多い状態で生まれる。出生後に肺呼吸が始まると酸素化が改善してエリスロポエチン産生が低下し、さらに胎児赤血球の寿命が短いこともあって、ヘモグロビンは低下していく。白血球も出生時は分娩ストレスなどの影響で高値で、その後低下する。 以上から、日齢0より日齢28で高値となるのは、出生後に児自身の産生が始まるIgMとIgAである。
選択肢考察
- ○a. IgA
IgAは胎盤を通過しないため、臍帯血・出生時の血清中にはほとんど存在しない。出生後、腸管や気道の粘膜が抗原に曝されることで児自身の産生が始まり、ゆっくりと上昇していく。したがって日齢28の値は日齢0より高い。なお、母乳中に含まれる分泌型IgAは主に児の腸管内腔で局所的に感染防御を担うものであり、血清IgA上昇の主因ではない。血清IgAが成人レベルに達するのは思春期ごろと、免疫グロブリンの中で最も遅い。
- ×b. IgG
IgGはFcRnを介して胎盤を能動輸送され、特に妊娠後期に大量に移行する。このため正期産児の出生時のIgGは母体と同程度かそれ以上の高値である。出生後は母体からの供給が途絶え、移行IgGは半減期に従って減少する。児自身のIgG産生は始まるものの、生後1か月の時点では減少分を補うには至らず、日齢28の値は日齢0より低い。総IgGが最も低くなるのは生後3〜6か月ごろで(生理的低γグロブリン血症)、移行抗体は生後6か月ごろまでにほぼ消失する。
- ○c. IgM
IgMは五量体で分子量が大きく、胎盤を通過しない。胎内では抗原刺激が乏しいため胎児自身の産生もわずかで、出生時はごく低値である。出生後は外界の抗原刺激に反応して、免疫グロブリンの中で最初に児自身の産生が立ち上がり、上昇していく。したがって日齢28の値は日齢0より高い。逆に、臍帯血や出生直後のIgMが高値であれば、胎内で児自身が抗原に反応したこと、すなわち先天感染(TORCH症候群など)を疑う手がかりとなる。
- ×d. 白血球
新生児の白血球数は出生直後が最も高く、分娩のストレスやカテコールアミン・副腎皮質ステロイドの影響もあって、生後数時間〜1日で数万/μLに達することもある。その後は低下し、生後1〜2週以降は1万/μL前後で推移する。したがって日齢28の値は日齢0より低い。白血球分画は、出生直後は好中球優位で、生後1週ごろからリンパ球優位に転じ、幼児期(4〜6歳ごろ)に再び好中球優位となる。
- ×e. ヘモグロビン
胎内は低酸素環境であるため、胎児はエリスロポエチンの刺激を受けて赤血球を多くつくり、正期産児は多血傾向(ヘモグロビン約17〜19 g/dL)で生まれる。生後1日ほどは血漿成分の移動による血液濃縮でさらにやや上昇することもあるが、肺呼吸の開始で酸素化が改善するとエリスロポエチン産生が低下して造血が抑えられ、さらに寿命の短い胎児赤血球が壊されていくため、ヘモグロビンは低下していく。日齢28の値は日齢0より低く、最も低くなるのは生後2〜3か月ごろである(生理的貧血)。この過程で、胎児型ヘモグロビン(HbF)は成人型ヘモグロビン(HbA)へと置き換わっていく。
胎盤通過性と免疫グロブリン
IgG:胎盤を通過する(FcRnを介した能動輸送)。妊娠後期に移行量が急増するため、早産児ほど出生時IgGが低く、感染症に弱い。 IgM:五量体で分子量が大きく、胎盤を通過しない。 IgA:胎盤を通過しない。母乳(特に初乳)に分泌型IgAとして豊富に含まれ、児の腸管粘膜を局所的に守る。 IgE・IgD:胎盤を通過しない。
出生後の免疫グロブリンの推移
母体由来IgGは出生直後から減少し、生後6か月ごろまでにほぼ消失する。児自身の抗体産生はIgM→IgG→IgAの順に始まり、成人レベルに達する時期の目安はIgMが1歳前後、IgGが学童期前後、IgAが思春期ごろである。母体由来IgGの減少と児自身の産生が釣り合わない生後3〜6か月ごろに総IgGが最低となり、これを生理的低γグロブリン血症という。この時期に頻回の感染を繰り返し、回復が遅れる状態は乳児一過性低γグロブリン血症と呼ばれる。
臍帯血IgM高値の意義
IgMは胎盤を通らないため、臍帯血や新生児の血清IgM高値(目安として20 mg/dL以上)、あるいは病原体特異的IgM抗体の陽性は、胎児自身が感染に反応した証拠となり、先天感染(トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス、梅毒など)の診断の手がかりとなる。一方、病原体特異的IgG抗体の陽性だけでは母体からの移行抗体と区別できない。
新生児〜乳児期の血球の推移
ヘモグロビン:出生時に高値(多血傾向)→生後2〜3か月で最低(生理的貧血)→その後回復。早産児ではより早く、より深く低下する(未熟児貧血)。 白血球:出生直後が最高→生後1〜2週で低下し安定。 白血球分画:出生直後は好中球優位→生後1週ごろからリンパ球優位→4〜6歳ごろに再び好中球優位(好中球とリンパ球の比率が逆転する時期は「2回の交差」として整理される)。
POINT
・胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみ。 ・出生時:IgGは母体由来で高値、IgM・IgAはごく低値。 ・出生後:母体由来IgGは減少(生後3〜6か月で総IgG最低)、IgM・IgAは児自身の産生で上昇(IgM→IgG→IgAの順)。 ・新生児のIgM高値は先天感染を示唆する。 ・ヘモグロビンと白血球は出生時が高く、その後低下する(Hbは生後2〜3か月で最低=生理的貧血)。
