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かさぶたは治りかけのサインじゃない?―褥瘡を治す「湿潤環境」の考え方

第105回医師国家試験 G問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第11問

褥瘡の治癒に適しているのはどれか。

  1. a.痂皮形成
  2. b.血腫形成
  3. c.湿潤環境
  4. d.創部圧迫
  5. e.創部消毒

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、褥瘡を治すときに創をどんな環境に整えるべきかを問う問題だ。昔ながらの「乾かしてかさぶたをつくれば治る」というイメージと、現在の創傷治療の考え方の違いがポイントになるよ。
医学生医学生
正直、すり傷ならかさぶたができたら治りかけだと思っていました。痂皮形成は治癒に適しているんじゃないですか。
ドクタードクター
多くの人がそう思っているから、ここが最大の落とし穴なんだ。まず褥瘡がどういう病態かから確認しよう。褥瘡は骨突出部の皮膚や軟部組織に持続的な圧迫やずれが加わって血流が途絶え、虚血から壊死に陥った状態だ。
医学生医学生
病理学の講義で、阻血性の壊死として習いました。仙骨部や踵が多いんですよね。
ドクタードクター
その通り。仰臥位なら仙骨部が最も多く、踵部や後頭部、肩甲骨部。側臥位なら大転子部、座位なら坐骨結節部だ。では本題。創が治るときには、表皮細胞が創面を這うように移動して覆っていく上皮化が起こる。このとき創面が湿っているか乾いているかで何が変わると思う?
医学生医学生
湿っているほうが細胞が動きやすい、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。創面から出る滲出液には、線維芽細胞増殖因子や血小板由来増殖因子といった細胞成長因子、白血球、蛋白分解酵素が含まれている。これらが適度に保たれた湿った環境では、上皮化や肉芽形成がスムーズに進む。これが湿潤環境下療法、moist wound healingという考え方で、正解は湿潤環境だ。
医学生医学生
逆に乾かすと、表面の細胞が死んで痂皮になってしまうわけですね。
ドクタードクター
そう。痂皮ができると上皮細胞はその下を潜るように進まざるを得ず、治癒が遅れる。痂皮の下に滲出液がたまって細菌が増える温床にもなる。褥瘡では黒く乾いた壊死組織、エスカーとして見られることが多く、むしろデブリードマンで除去する対象なんだ。
医学生医学生
血腫形成も、血液がたまるだけなら悪くないのかと思いましたが。
ドクタードクター
血腫は創の内部にたまった血液の塊で、肉芽の形成や上皮化を物理的に邪魔するし、細菌の培地にもなる。深部組織損傷が疑われる褥瘡では皮下に血腫が見られることもあるけれど、いずれにせよ治癒を遅らせるものだから、必要に応じて除去する。
医学生医学生
創部圧迫は、止血のイメージで一瞬迷いましたが、褥瘡の原因そのものですよね。
ドクタードクター
その気づきが大事だ。褥瘡の根本原因は圧迫による虚血だから、創部を圧迫すれば悪化する。治療でも予防でも、体位変換や体圧分散マットレスで除圧を図ることが大前提で、体位変換は一般に2時間ごとが目安とされているよ。
医学生医学生
消毒はどうでしょう。OSCEの清潔操作の練習では、傷にはまず消毒、という感覚が身についていました。
ドクタードクター
そこも現在の考え方とずれやすいところだね。ポビドンヨードなどの消毒薬は、細菌だけでなく線維芽細胞や表皮細胞といった治癒を担う正常な細胞にも障害を与える。だから感染の徴候がない褥瘡では消毒はせず、生理食塩水や微温湯、水道水でもよいので十分に洗浄する。明らかな感染があれば、洗浄に加えて抗菌作用のある外用薬や全身的な抗菌薬を検討するんだ。
医学生医学生
治療の流れとしては、除圧して、痂皮や壊死組織、血腫を取り除いて、洗浄して、ドレッシング材で湿潤環境を保つ、という順番ですね。
ドクタードクター
よく整理できている。ドレッシング材にはハイドロコロイドやポリウレタンフォームなどがある。ただし「適度な」湿潤がポイントで、滲出液が多すぎると周囲の皮膚がふやける浸軟を起こすから、吸収性のものを選ぶなど調整が必要だ。それから、局所だけでなく低栄養の改善や基礎疾患の管理といった全身管理も欠かせない。
医学生医学生
皮膚科の実習で、病棟の褥瘡回診にDESIGN-Rという評価表を使っていました。
ドクタードクター
日本褥瘡学会のツールだね。深さ、滲出液、大きさ、炎症・感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットを評価して経過を追う。最後に一つ注意点がある。予防の段階では、失禁や発汗で皮膚が湿っていることはむしろ褥瘡の危険因子だから、皮膚を清潔・乾燥に保つ必要がある。治療では湿潤、予防では乾燥と、求められる条件が逆になることを覚えておこう。

まとめ

褥瘡は骨突出部への持続的な圧迫やずれによる虚血性壊死であり、治療の基本は創面の湿潤環境を保つ湿潤環境下療法です。滲出液中の細胞成長因子や白血球が保たれることで上皮化と肉芽形成が促進される一方、痂皮や血腫、壊死組織は治癒を妨げるため除去し、感染がなければ消毒ではなく生理食塩水や水道水で洗浄します。圧迫は褥瘡の原因そのものであり、体位変換や体圧分散寝具による除圧、栄養状態の改善が治療と予防の大前提です。予防では失禁や発汗による皮膚の湿潤を避けるなど、治療と予防で求められる条件が逆になる点を理解しておくことが、病棟での実践的な褥瘡ケアにつながります。

解答・解説

正解はcです

褥瘡(pressure ulcer / pressure injury)は、骨突出部の皮膚や軟部組織が持続的な圧迫やずれ(剪断力)を受けて血流が途絶え、虚血・壊死に陥った状態である。本問は、できてしまった褥瘡を治すときにどのような創の環境を整えるべきかを問うている。 現在の創傷治療の基本は「湿潤環境下療法(moist wound healing)」である。創面から出る滲出液には、線維芽細胞増殖因子(FGF)や血小板由来増殖因子(PDGF)などの細胞成長因子、白血球、タンパク分解酵素が含まれており、これらが適度に保たれた湿った環境では、表皮細胞が創面を這うように移動して上皮化が速やかに進む。反対に創を乾燥させると、表層の細胞が死んで痂皮ができ、上皮化はその下を潜るように進まざるを得ず、治癒は遅れる。 したがって治療の考え方は、(1) 原因である圧迫・ずれを取り除く(除圧)、(2) 壊死組織・痂皮・血腫など治癒を妨げるものを除去する(デブリードマン)、(3) 感染がなければ消毒は避け、生理食塩水や水道水で洗浄する、(4) ドレッシング材などで創面の湿潤環境を保つ、という流れで整理できる。これに照らして各選択肢を判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  痂皮形成

    痂皮(かさぶた)は、創面が乾燥して滲出液や壊死組織が固まったものである。痂皮があると上皮細胞の移動が妨げられ、その下に滲出液がたまって細菌が増殖する温床にもなるため、治癒を遅らせる要因となる。褥瘡では黒色の乾燥した壊死組織(エスカー)として見られることが多く、除去(デブリードマン)の対象である。

  2. ×b.  血腫形成

    血腫は創の内部にたまった血液の塊であり、肉芽組織の形成や上皮化を物理的に妨げる。また細菌の培地となって感染の原因にもなる。深部組織損傷(DTI)の疑いがある褥瘡では皮下の血腫が見られることがあるが、いずれにしても治癒を遷延させるものであり、必要に応じて除去する。

  3. ○c.  湿潤環境

    滲出液に含まれる細胞成長因子や白血球を創面にとどめ、表皮細胞の遊走を助ける湿潤環境は、上皮化と肉芽形成を促進する。ハイドロコロイドやポリウレタンフォームなどのドレッシング材で創面を覆い、適度な湿り気を保つことが褥瘡治療の基本である。なお、過剰な滲出液は周囲の皮膚を浸軟(ふやけ)させるので、吸収性のドレッシング材を選ぶなど「適度な」湿潤に調整する。また、発生を防ぐ「予防」の段階では、失禁や発汗による皮膚の湿潤はむしろ褥瘡の危険因子となるため、皮膚を清潔・乾燥に保つことが求められる。治療と予防で求められる条件が逆になる点に注意する。

  4. ×d.  創部圧迫

    褥瘡の根本原因は、骨突出部に持続的な圧迫が加わり、毛細血管の血流が途絶えることである。創部を圧迫すれば虚血がさらに進み、褥瘡は悪化する。治療・予防のいずれにおいても、体位変換(一般に2時間ごとが目安とされる)や体圧分散マットレスによって除圧を図ることが原則であり、圧迫は行ってはならない。

  5. ×e.  創部消毒

    ポビドンヨードなどの消毒薬は、細菌だけでなく線維芽細胞や表皮細胞などの正常な組織の細胞にも障害を与えるため、創傷治癒を妨げる。感染の徴候がない褥瘡では消毒は行わず、生理食塩水や微温湯(水道水でもよい)で十分に洗浄して創面を清潔に保つ。明らかな感染がある場合には、洗浄に加えて抗菌作用のある外用薬の使用や全身的な抗菌薬投与を検討する。

褥瘡の発生要因

・外的要因: 圧迫、ずれ(剪断力)、摩擦、失禁や発汗による皮膚の湿潤 ・内的要因: 低栄養(低アルブミン血症)、るい痩による骨突出、可動性の低下、知覚障害、循環障害、高齢

好発部位

仰臥位では仙骨部が最も多く、踵部、後頭部、肩甲骨部。側臥位では大転子部、腸骨部、外果。座位では坐骨結節部。

深達度分類(NPUAP/EPUAP分類の概略)

・ステージ1: 消退しない発赤(指で押しても白くならない紅斑) ・ステージ2: 真皮までの部分欠損(びらん、浅い潰瘍、水疱) ・ステージ3: 皮下組織に達する全層欠損 ・ステージ4: 筋・腱・骨に達する全層欠損 ・判定不能: 壊死組織で覆われ深さが評価できないもの ・深部組織損傷(DTI): 表皮は保たれていても深部に損傷が生じている疑いのあるもの わが国では、日本褥瘡学会のDESIGN-R(深さ、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットを評価するツール)も広く用いられる。

治療の流れ

1. 除圧: 体位変換、体圧分散寝具、座位時間の調整 2. 全身管理: 栄養改善(エネルギー・タンパク質の補給)、基礎疾患の管理 3. 局所管理: 壊死組織・痂皮・血腫のデブリードマン、生理食塩水などによる洗浄、湿潤環境を保つドレッシング材の使用、感染時は抗菌作用のある外用薬や抗菌薬 4. 保存的治療で治らない深い褥瘡では、皮弁などによる外科的再建を考慮する

湿潤環境下療法の利点

上皮化の促進、肉芽形成の促進、痂皮形成の防止、疼痛の軽減、ドレッシング交換時の組織損傷の軽減。

POINT

・褥瘡の「治療」には湿潤環境の維持が有効(moist wound healing)。 ・褥瘡の「予防」では、失禁・発汗による皮膚の湿潤を避け、清潔・乾燥を保つ。治療と予防で逆になる点に注意。 ・痂皮・血腫・壊死組織は治癒を妨げるため除去(デブリードマン)する。 ・感染がなければ消毒はせず、生理食塩水などで洗浄する。 ・圧迫は褥瘡の原因であり、除圧(体位変換、体圧分散寝具)が治療・予防の大前提。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。