子牛と赤ちゃんは育ち方が違う―母乳に「多い」のは乳糖だった
第105回医師国家試験 G問題 第10問
国試問題にチャレンジ
牛乳よりも母乳に多く含まれる成分はどれか。
- a.鉄
- b.糖質
- c.カゼイン
- d.ビタミンK
- e.飽和脂肪酸
対話形式の解説
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ドクターまとめ
母乳と牛乳の違いは、「人の乳児は脳が急速に育ち、子牛は体が急速に大きくなる」という目的の違いから理解できます。母乳には乳糖(糖質)、不飽和脂肪酸、乳清蛋白質や分泌型IgA・ラクトフェリンなどの免疫物質が多く、牛乳には蛋白質の総量、カゼイン、飽和脂肪酸、ミネラルが多く含まれます。鉄とビタミンKはどちらにも少なく、母乳栄養児ではビタミンK2シロップによる出血予防と、生後6か月ごろからの離乳食による鉄の補給が欠かせません。牛乳の腎溶質負荷の大きさや、ガラクトース血症・HTLV-1感染など母乳を避けるべき状況もあわせて押さえておくと、乳児栄養の指導に自信をもって臨めます。
解答・解説
正解はbです
母乳(人乳)と牛乳の成分の違いを問う一般問題である。 牛乳は子牛のための乳であり、子牛は生後短期間で体が大きくなるため、体を作る材料となる蛋白質やミネラルを多く含む。一方、人の乳児は体の成長が比較的ゆっくりで、脳が急速に発達する時期にあたるため、母乳はエネルギー源となる乳糖や、脳・網膜の発達に必要な不飽和脂肪酸を多く含み、蛋白質やミネラルは少なめで腎臓への負担が小さい組成になっている。 100g あたりのおおよその比較(成熟乳と普通牛乳)は次のとおりである。 ・蛋白質:母乳 約1.1g、牛乳 約3.3g(牛乳が約3倍) ・脂質:母乳 約3.5g、牛乳 約3.8g(量はほぼ同じだが脂肪酸の組成が異なる) ・糖質(主に乳糖):母乳 約7g、牛乳 約5g(母乳が多い) ・ミネラル(ナトリウム、カルシウム、リンなど):牛乳が多い つまり「母乳の方が多い」と覚えるべき代表は、乳糖(糖質)、不飽和脂肪酸、乳清蛋白質(ラクトフェリン、分泌型IgAなどの感染防御物質を含む)である。これに対し、蛋白質全体、カゼイン、ミネラル、飽和脂肪酸は牛乳の方が多い。鉄とビタミンKはどちらにも少なく、母乳が特に多いとはいえない。
選択肢考察
- ×a. 鉄
誤りである。鉄は母乳にも牛乳にもごくわずかしか含まれず(いずれも100g あたり0.1mg未満)、母乳の方が多いとはいえない。母乳の鉄は、ラクトフェリンなどと結合した形で存在するため吸収率が高い(約50%、牛乳では10%程度)という質的な利点はあるが、含まれる量そのものは少ない。乳児は胎内で蓄えた鉄を生後数か月で使い切るため、生後6か月ごろからは離乳食で鉄を補う必要がある。なお、1歳未満の乳児に牛乳を主な飲み物として与えると、鉄の不足に加え腸管からの微量出血を起こすことがあり、鉄欠乏性貧血の原因となる。
- ○b. 糖質
正しい。母乳の糖質の大部分は乳糖(ラクトース)であり、100g あたり約7g と、牛乳(約5g)より多い。乳糖は分解されるとグルコースとガラクトースになり、乳児の重要なエネルギー源となるほか、ガラクトースは脳の糖脂質(ガラクトセレブロシドなど)の材料となる。また、乳糖はカルシウムの吸収を助け、腸内でビフィズス菌が優位な環境を作るのにも役立つ。さらに母乳には、乳糖以外にヒトミルクオリゴ糖と呼ばれる多様なオリゴ糖が豊富に含まれ、ビフィズス菌の増殖を促したり病原体の腸管への付着を妨げたりする。
- ×c. カゼイン
誤りである。カゼインは乳蛋白質の一種で、胃酸によって固まりやすい性質をもつ。牛乳では蛋白質の約8割がカゼインであるのに対し、母乳ではカゼインの割合が低く(おおむね4割前後、分娩後の早い時期ほど低い)、残りは乳清蛋白質(α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、分泌型IgA、リゾチームなど)が占める。そもそも蛋白質の総量も牛乳の方が約3倍多いため、カゼインの量は牛乳の方がはるかに多い。母乳は胃の中で大きな凝固塊(カード)を作りにくく、消化されやすい。
- ×d. ビタミンK
誤りである。ビタミンKは母乳にはごく少量しか含まれず、牛乳より多いとはいえない(むしろ牛乳の方がやや多い)。新生児は、ビタミンKが胎盤を通りにくいため体内の蓄えが少なく、ビタミンKを産生する腸内細菌もまだ定着していない。そのため母乳栄養児ではビタミンK欠乏による出血(新生児メレナや、生後1~2か月ごろに起こる頭蓋内出血など)の危険がある。予防としてビタミンK2シロップを内服させる。わが国の現在の指針では、出生後早期、生後1週(または産科退院時)、1か月健診時の3回投与を基本とし、生後3か月まで週1回投与を続ける方法も推奨されている(かつては出生時と1か月時などの投与が一般的であった)。
- ×e. 飽和脂肪酸
誤りである。脂質の総量は母乳と牛乳でほぼ同じだが、脂肪酸の組成が異なる。牛乳の脂肪は飽和脂肪酸の割合が高く(6~7割程度)、必須脂肪酸が少ない。母乳の脂肪にも飽和脂肪酸(パルミチン酸など)はある程度含まれるが割合は牛乳より低く、リノール酸、α-リノレン酸といった必須脂肪酸や、ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸などの長鎖多価不飽和脂肪酸が多い。これらは脳や網膜の発達に重要である。また母乳にはリパーゼ(脂肪分解酵素)が含まれており、乳児の未熟な消化機能でも脂肪を吸収しやすい。
母乳と牛乳の比較のまとめ
・母乳に多いもの:乳糖(糖質)、ヒトミルクオリゴ糖、不飽和脂肪酸(必須脂肪酸、DHA など)、乳清蛋白質の割合、免疫物質(分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、白血球など)、リパーゼ ・牛乳に多いもの:蛋白質(総量)、カゼイン、飽和脂肪酸、ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン) ・どちらにも少ないもの:鉄、ビタミンK、ビタミンD 牛乳は蛋白質とミネラルが多いため、腎臓が処理すべき溶質の量(腎溶質負荷)が大きく、腎機能が未熟な乳児には負担となる。育児用ミルク(調製粉乳)は、牛乳を原料にこれらの点を母乳に近づけるよう調整したものである。
初乳と成乳
・初乳(分娩後数日間):蛋白質、特に分泌型IgA やラクトフェリンなどの感染防御物質が多い。黄色みを帯び、量は少ない。 ・成乳(分娩後およそ2週以降):初乳に比べて蛋白質が減り、乳糖と脂肪が増えてエネルギーが高くなる。
母乳栄養の利点
・感染症(中耳炎、胃腸炎、呼吸器感染症など)の予防 ・消化吸収がよく、腎臓への負担が少ない ・アレルギーを起こしにくい ・母子関係の形成を促す ・母体の産後の子宮復古を促す(授乳刺激によるオキシトシン分泌)
母乳栄養で補う必要のあるもの
・ビタミンK:新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防のため、ビタミンK2シロップを投与する。 ・ビタミンD:日光を浴びる機会が少ない場合などに不足し、くる病の原因となりうる。 ・鉄:生後6か月ごろからは離乳食で補う。
母乳を与えてはならない主な状況
・乳児のガラクトース血症(乳糖に含まれるガラクトースを代謝できない) ・母親のHTLV-1 感染(母乳を介した感染予防のため、人工栄養などが勧められる)、HIV 感染 ・母乳に移行して乳児に有害な薬剤を母親が使用している場合(抗悪性腫瘍薬など)
POINT
・母乳に多い:乳糖(糖質)、不飽和脂肪酸、乳清蛋白質、免疫物質(分泌型IgA、ラクトフェリン)。 ・牛乳に多い:蛋白質(総量)、カゼイン、飽和脂肪酸、ミネラル(Na、Ca、Pなど)。 ・鉄とビタミンKはどちらにも少ない。母乳の鉄は量は少ないが吸収率が高い。 ・母乳栄養児はビタミンK欠乏性出血症に注意し、ビタミンK2シロップで予防する。 ・初乳は蛋白質・免疫物質が多く、成乳になると乳糖と脂肪が増える。
