「同じものしか食べない」は病気?―1歳半健診で親の不安にどう寄り添うか
第119回医師国家試験 F問題 第51問
国試問題にチャレンジ
1歳6か月の男児。1歳6か月児健康診査のため母親に連れられて来院した。在胎40週,身長50cm,体重2,900g,正常分娩で出生した。来院時の身長81cm,体重10.5kg。1歳で離乳食から幼児食に移行し,1日3回の食事や間食のリズムはついてきたが,同じものしか食べない。 適切な指導はどれか。
- a.「生卵かけご飯を食べさせてみてはどうですか」
- b.「大人の食事と同じくらい味つけを濃くしてみましょう」
- c.「今は食事を楽しむことが大事ですからゆっくり進めていきましょう」
- d.「ミニトマトやブドウはのど越しがよいのでそのまま食べさせましょう」
- e.「口をあけたタイミングで食べさせたいものを口に押し込んでみましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
1歳6か月児健診で「同じものしか食べない」と相談された場合、まず成長曲線やカウプ指数で発育を評価し、順調であれば自我の芽生えや新奇性恐怖による発達過程上の偏食と判断します。指導の基本は、無理強いせず、焦らず、家族と楽しく食べる経験を重ねることで、嫌がる食品も調理法を変えて繰り返し出すと慣れていくことが多いです。あわせて、卵は十分に加熱する、ミニトマトやブドウなど丸い食品は4等分以上に切って窒息を防ぐ、幼児食は薄味を基本とする、といった食の安全も保護者に伝える必要があります。体重増加不良を伴う極端な偏食や強い感覚へのこだわりがあれば、発達特性や摂食機能の評価も考えます。保護者の不安に寄り添いながら、安全で健やかな食習慣へ導く姿勢は、小児の外来や健診に携わるすべての医師に求められる基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・1歳6か月の男児で、1歳6か月児健康診査(市町村が実施する法定健診)での相談である。 ・在胎40週、出生時身長50cm・体重2,900gの正常分娩で、周産期に問題はない。 ・現在の身長81cm、体重10.5kgは、同月齢男児のほぼ中央値付近にある。体格の指標であるカウプ指数(体重[g]÷身長[cm]²×10)を計算すると、10,500÷81²×10≒16.0であり、幼児期の標準的な範囲(おおむね15〜18)に収まる。成長に問題はない。 ・1歳で離乳を完了して幼児食へ移行し、1日3回の食事と間食のリズムも確立している。 ・訴えは「同じものしか食べない」という、いわゆる偏食(食べむら・好き嫌い)である。
考え方
成長が順調で食事のリズムも整っていることから、器質的疾患や栄養障害を疑う状況ではなく、幼児期に一般的にみられる発達過程上の偏食と判断できる。1歳半〜2歳頃は自我が芽生えて自己主張が強くなる時期であり、また初めての食べ物を警戒して口にしない傾向(新奇性恐怖)もみられる。味覚や食感にも敏感で、特定の食品を嫌がったり、同じものばかり好んだりすることは珍しくない。多くは成長とともに、あるいは繰り返し食卓に出して慣れることで自然に改善していく。 したがって保護者への指導の基本は、焦らず、無理強いせず、食事を楽しい時間にすることである。あわせて、この年齢の子どもに対して食の安全(感染症・窒息の予防)と健康的な食習慣(薄味)を守ることも重要であり、選択肢はこれらの観点から判断する。
選択肢考察
- ×a. 「生卵かけご飯を食べさせてみてはどうですか」
生卵はサルモネラ属菌による食中毒の原因となりうる。乳幼児は免疫機能が未熟で、少ない菌量でも発症・重症化しやすいため、卵は十分に加熱して与えるのが原則であり、生卵を勧めるのは不適切である。また、卵白のアレルゲン性は加熱により低下するため、生の卵は加熱卵よりアレルギー反応を起こしやすいという点からも勧められない。
- ×b. 「大人の食事と同じくらい味つけを濃くしてみましょう」
幼児期は味覚が形成される時期であり、濃い味つけに慣れると塩分・糖分の過剰摂取につながり、将来の高血圧などの生活習慣病のリスクを高める。幼児の食事は大人より薄味を基本とし、素材の味を生かすことが推奨される。偏食への対策として味を濃くするのは不適切である。
- ○c. 「今は食事を楽しむことが大事ですからゆっくり進めていきましょう」
本児は身長・体重とも順調に増えており、食事のリズムも確立している。同じものしか食べないのは幼児期によくみられる発達上の現象で、多くは時間とともに改善する。この時期は家族と一緒に楽しく食べる経験を通じて食への興味を育てることが大切であり、無理に食べさせず、嫌がる食品も調理法や形を変えながら繰り返し食卓に出して慣れさせるとよい。保護者の不安を受け止めつつ、焦らずに進めるよう助言するのが適切な指導である。
- ×d. 「ミニトマトやブドウはのど越しがよいのでそのまま食べさせましょう」
ミニトマトやブドウのように丸くてつるっとした食品は、幼児の気道の太さに近い大きさで、そのまま飲み込むと気道をふさいで窒息を起こす危険が高い。乳幼児では咀嚼力・嚥下機能が未熟であり、4等分以上に小さく切って与えることが推奨されている。のど越しがよいことはむしろ危険因子であり、誤った指導である。
- ×e. 「口をあけたタイミングで食べさせたいものを口に押し込んでみましょう」
食べ物を無理に口へ押し込むと、子どもは食事に恐怖や嫌悪感を抱き、偏食や拒食をかえって悪化させる。さらに、予期せず口に入った食べ物は誤嚥・窒息の原因にもなる。強制的に食べさせることは避けるべきである。
1歳6か月児健康診査
母子保健法に基づき市町村が実施する健診で、3歳児健診とともに法定健診である。身体発育、運動発達(独歩など)、言語発達(意味のある単語を話す)、社会性、歯科、栄養状態、育児環境などを評価し、保護者の育児相談にも応じる。
幼児期の偏食への対応
・成長曲線に沿って身長・体重が伸びていれば、偏食があっても必要な栄養はおおむね確保されていると考えてよい。 ・嫌がる食品も、調理法・形状・盛り付けを変えたり、家族が楽しそうに食べる姿を見せたりしながら、繰り返し食卓に出すことで受け入れられるようになることが多い。 ・無理強い・叱責は逆効果である。食事時間を区切り、間食や甘い飲料の与えすぎで空腹感が損なわれていないかも確認する。 ・体重増加不良を伴う極端な偏食、特定の感覚へのこだわりが強い場合などは、発達特性(自閉スペクトラム症など)や摂食機能の問題も念頭に置いて評価する。
幼児期の食の安全
・窒息予防:ミニトマト、ブドウ、白玉団子などの丸い食品は4等分以上に切る。豆類やナッツ類のように硬くかみ砕く必要のある食品は、誤嚥・窒息の危険が高いため、5歳以下の子どもには食べさせないよう注意喚起されている。餅にも注意する。 ・感染予防:卵は十分に加熱する。はちみつは乳児ボツリヌス症予防のため1歳未満には与えない(本児は1歳以上のため問題ない)。 ・味つけ:塩分を控えた薄味を基本とする。
カウプ指数
体重[g]÷身長[cm]²×10で算出し、乳幼児の栄養状態の評価に用いる。幼児ではおおむね15〜18を標準とする(乳児はやや高め)。
POINT
・成長が順調で食事リズムも確立していれば、幼児期の偏食は発達過程の一部であり、焦らず楽しく食べることを優先させる。 ・無理に口へ押し込む、叱るなどの強制は逆効果で、誤嚥の危険もある。 ・ミニトマト・ブドウなど丸い食品は小さく(4等分以上)切って窒息を防ぐ。 ・乳幼児に生卵は避け、卵は十分加熱する。 ・幼児食は大人より薄味が基本。
