歯がなくても離乳は始められる―「食べる準備」を見極める4つのサイン
第118回医師国家試験 F問題 第24問
国試問題にチャレンジ
離乳開始の目安となる乳児の発達で誤っているのはどれか。
- a.5秒以上座れる。
- b.食べ物に興味を示す。
- c.複数の臼歯が生える。
- d.首のすわりがしっかりしている。
- e.スプーンを口に入れても嫌がらない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
離乳は生後5〜6か月頃に開始するのが適当とされ、その目安は「首のすわりがしっかりして寝返りができる」「5秒以上座れる」「スプーンを舌で押し出すことが少なくなる(哺乳反射の減弱)」「食べ物に興味を示す」の4つです。離乳初期の食物はなめらかなペースト状で咀嚼を必要としないため、歯の萌出は開始の条件ではなく、乳臼歯が生えるのは1歳以降です。離乳は初期・中期・後期・完了期と、舌でつぶせる固さから歯ぐきで噛める固さへ段階的に進み、完了は12〜18か月頃で断乳とは別の概念です。はちみつを1歳未満に与えない、アレルギー予防目的で食物開始を遅らせないといった注意点も含め、乳児健診や保護者指導で根拠をもって説明できるようにしておくことが大切です。
解答・解説
正解はcです
問われていること
離乳を始めてよいかどうかを判断するための「子どもの発達の目安」を知っているかが問われている。厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」では、離乳の開始時期は生後5〜6か月頃が適当とされ、その時期の発達状況の目安として次の4点が挙げられている。 ・首のすわりがしっかりして寝返りができる ・5秒以上座れる ・スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる(哺乳反射の減弱) ・食べ物に興味を示す
考え方
離乳とは、母乳や育児用ミルクなどの乳汁だけの栄養から、幼児食へ移行していく過程である。最初に与えるのはなめらかにすりつぶした粥(ペースト状)であり、咀嚼(かみ砕くこと)は必要ない。つまり離乳開始に求められるのは「歯」ではなく、体幹が安定して食物を受け入れる姿勢がとれること、乳汁を吸うための反射的な舌の動きが弱まって半固形物を口の中に取り込めるようになること、そして食べることへの関心が芽生えていること、である。 一方、臼歯(乳臼歯)が生えるのは1歳以降であり、生後5〜6か月の乳児にはまだ1本も歯がないことも珍しくない。したがって「複数の臼歯が生える」は離乳開始の目安として誤りである。
選択肢考察
- ×a. 5秒以上座れる。
支援ガイドに明記されている目安の一つであり、記述は正しい。体幹がある程度安定し、支えがあれば座った姿勢を保てることは、食物を口に運ばれたときに頭と体をまっすぐ保ち、誤嚥(食物が気道に入ること)を避けながら飲み込むための前提となる。なお、手をついて座る(両手支持の座位)のが生後6か月頃、手を離して一人で座れるのは生後7か月頃が一般的であり、5秒程度の座位保持は離乳開始期の発達段階とよく合う。
- ×b. 食べ物に興味を示す。
支援ガイドに挙げられている目安であり、記述は正しい。家族が食事をしている様子をじっと見つめる、口をもぐもぐ動かす、よだれ(流涎)が増える、手を伸ばすといった行動がみられれば、食物を受け入れる準備が整いつつあると判断できる。
- ○c. 複数の臼歯が生える。
離乳開始の目安には含まれず、誤った記述である。乳歯の萌出(歯が生えること)は生後6〜9か月頃の下顎乳中切歯(下の前歯)から始まるのが一般的で、乳臼歯は第一乳臼歯が1歳〜1歳半頃、第二乳臼歯が2〜3歳頃に生える。生後5〜6か月の時点で臼歯が複数生えていることは通常ない。また離乳初期の食物はなめらかなペースト状であり、すりつぶす歯は必要としない。歯ぐきでつぶせる固さの食物に進むのは生後9〜11か月頃、歯ぐきで噛める固さに進むのは12〜18か月頃である。なお、乳歯列には「小臼歯」は存在せず、乳臼歯の後継として永久歯の小臼歯が生えてくる点も区別しておく。
- ×d. 首のすわりがしっかりしている。
支援ガイドでは「首のすわりがしっかりして寝返りができる」が目安とされており、記述は正しい。頸定(首のすわり)は生後3〜4か月頃に始まり、生後5か月頃にはしっかりする。首が安定していないと頭部を保持したまま食物を飲み込む動作が難しく、誤嚥の危険が高い。寝返りは生後5〜6か月頃にみられるようになる。
- ×e. スプーンを口に入れても嫌がらない。
支援ガイドの「スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる」に相当し、記述は正しい。乳児には口に入ったものを舌で押し出す反射(舌挺出反射)や、吸啜反射などの哺乳反射があり、これらは乳汁を飲むには有利だが半固形物を取り込むには妨げになる。哺乳反射は生後4〜5か月頃から弱まり始め、スプーンを受け入れられるようになることが離乳開始のサインとなる。
離乳の進め方の目安(授乳・離乳の支援ガイド 2019年改定版)
・離乳初期(生後5〜6か月頃): 1日1回、なめらかにすりつぶした状態のもの。つぶし粥から始め、野菜、豆腐・白身魚・固ゆでした卵黄などへ広げる。母乳・ミルクは飲みたいだけ与える。 ・離乳中期(生後7〜8か月頃): 1日2回。舌でつぶせる固さ。 ・離乳後期(生後9〜11か月頃): 1日3回。歯ぐきでつぶせる固さ。 ・離乳完了期(生後12〜18か月頃): 1日3回の食事と1〜2回の補食。歯ぐきで噛める固さ。 「離乳の完了」とは、形のある食物をかみつぶすことができるようになり、エネルギーや栄養素の大部分を乳汁以外の食物からとれるようになった状態を指し、母乳や育児用ミルクをやめること(断乳)を意味するわけではない。
離乳の意義
乳汁だけでは不足してくるエネルギー・鉄などの栄養素を補うこと、咀嚼・嚥下機能(摂食機能)の発達を促すこと、さまざまな味や食感を経験して味覚や食習慣の基礎をつくることにある。
注意点
・はちみつは乳児ボツリヌス症の危険があるため1歳未満には与えない。 ・離乳開始前に果汁やイオン飲料を与えることの栄養学的意義は認められていない(2019年改定で明記)。 ・食物アレルギーの予防目的で特定の食物の摂取開始を遅らせることは推奨されない。
乳歯の萌出時期の目安
乳中切歯 6〜9か月頃 → 乳側切歯 9〜12か月頃 → 第一乳臼歯 1歳〜1歳半頃 → 乳犬歯 1歳半頃 → 第二乳臼歯 2〜3歳頃。乳歯20本は2歳半〜3歳頃に生えそろう。個人差が大きく、多少の遅れは病的ではない。
POINT
・離乳開始は生後5〜6か月頃。 ・開始の目安は「首のすわり+寝返り」「5秒以上の座位」「スプーンを舌で押し出さない(哺乳反射の減弱)」「食べ物への興味」の4つ。 ・歯の萌出は離乳開始の条件ではない。乳臼歯の萌出は1歳以降。 ・離乳の完了は12〜18か月頃で、断乳とは別の概念。 ・はちみつは1歳まで禁。
