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血圧の平均を比べるなら?―データの種類で決まる統計手法の選び方

第118回医師国家試験 F問題 第23問

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第118回 F問題 第23問

2群間の血圧の平均を比較するときに用いる統計解析手法はどれか。

  1. a.t検定
  2. b.χ2検定
  3. c.生存分析
  4. d.比例ハザードモデル
  5. e.ロジスティック回帰

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は統計解析手法の選択の問題だ。統計手法は丸暗記より「目的変数がどんな種類のデータか」と「何をどう比べたいか」の2点で決まる、と考えると整理しやすい。まず、血圧はどんな種類のデータかな。
医学生医学生
数値で表されるので、量的データ、つまり連続変数ですね。
ドクタードクター
その通り。連続変数は平均や大小に意味がある。一方、疾患の有無や性別のように人数や割合で集計するものはカテゴリ変数。もう一つ、死亡や再発といったイベントが起こるまでの時間を扱う生存時間データという特殊な種類もある。
医学生医学生
公衆衛生の講義で手法の一覧表を配られたんですが、名前ばかり並んでいて混乱しました。
ドクタードクター
多くの人がそこでつまずくね。今回は「連続変数」を「2群」で「平均」を比べたい。この条件にぴったり合う手法はどれだと思う?
医学生医学生
t検定ですね。平均値の差を見る検定だと習いました。
ドクタードクター
正解。t検定はt分布を利用して、2群の平均値の差が偶然のばらつきで説明できるかどうかを検定する方法だ。データが正規分布に従うことを前提とするパラメトリック検定でもある。
医学生医学生
薬を飲んだ群と飲んでいない群を比べる場合と、同じ人の治療前後を比べる場合でも同じt検定でいいんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。別々の人の2群なら対応のないt検定、同じ人の前後なら対応のあるt検定を使う。さらに、正規分布を仮定できなかったり外れ値が多かったりする場合は、ノンパラメトリック検定のMann-WhitneyのU検定や、対応があるときはWilcoxonの符号付順位検定を選ぶんだ。
医学生医学生
χ2検定も2群の比較に使った気がするのですが、それではだめですか。
ドクタードクター
χ2検定はカテゴリ変数の度数をクロス集計表にまとめ、2つの変数が無関係だと仮定したときの期待度数とのずれを評価する検定だ。たとえば喫煙の有無と肺癌の有無の関連や、2群の有効率の差を見るときに使う。比べるのは割合であって、血圧の平均ではないんだ。期待度数が小さいセルがあるときはFisherの正確確率検定を使う点も覚えておこう。
医学生医学生
生存分析と比例ハザードモデルは、論文抄読会で見た生存曲線のグラフのイメージです。
ドクタードクター
そうだね。生存分析はイベントまでの時間を扱う手法の総称で、途中で追跡できなくなった打ち切り例の情報も活かせるのが特徴だ。Kaplan-Meier法で生存曲線を描き、2群の比較にはログランク検定を使う。Cox比例ハザードモデルは、年齢や治療法など複数の因子を同時に調整してハザード比を求める多変量解析だ。どちらも平均の比較には使わない。
医学生医学生
ロジスティック回帰も多変量解析ですよね。血圧を説明変数に入れることもありそうですが。
ドクタードクター
鋭いね。血圧が説明変数に入ることはあっても、ロジスティック回帰の目的変数は「疾患あり・なし」のような二値で、結果はオッズ比として得られる。症例対照研究で交絡因子を調整するときによく使われるよ。目的変数が血圧の値そのもののような連続変数なら、重回帰分析を使うんだ。
医学生医学生
つまり、結果が連続値ならt検定や回帰分析、二値ならχ2検定やロジスティック回帰、時間ならKaplan-Meier法やCoxモデル、という対応ですね。
ドクタードクター
見事な整理だ。もう少し広げると、3群以上の平均を比べるなら分散分析を使う。t検定を何度も繰り返すと、偶然に有意差が出る確率がふくらんでしまうからね。2変数の関連ならPearsonの相関係数、正規分布でなければSpearmanの順位相関係数だ。
医学生医学生
臨床実習で論文を読むとき、まず目的変数の種類を確認すれば、使われている手法が妥当か判断できそうです。
ドクタードクター
まさにそれが実践での使い方だ。統計手法の選択はEBMで論文を批判的に読む力の土台になる。手法名を覚えるより「データの種類×比べ方」という軸で整理しておけば、初めて見る研究デザインでも迷わずに済むよ。

まとめ

統計解析手法は、目的変数の種類(連続変数・カテゴリ変数・生存時間データ)と比較の形(群の数、対応の有無、交絡因子の調整の要否)で選びます。血圧のような連続変数で2群の平均を比べるときはt検定を用い、対応の有無で使い分け、正規分布を仮定できなければMann-WhitneyのU検定やWilcoxonの符号付順位検定を選びます。カテゴリ変数の割合の比較にはχ2検定、イベントまでの時間にはKaplan-Meier法・ログランク検定やCox比例ハザードモデル(ハザード比)、二値の結果の多変量解析にはロジスティック回帰(オッズ比)を用います。3群以上の平均の比較には分散分析を使い、t検定の繰り返しは避けます。この対応関係を押さえておくことは、論文を批判的に読み、臨床研究を正しく解釈するための基礎になります。

解答・解説

正解はaです

テーマ

データの種類と比較したい内容に応じて、適切な統計解析手法を選ぶ問題である。

手法選択の考え方

統計手法は、主に次の2点で決まる。 1. 目的変数(結果として見たい変数)の種類 ・連続変数(量的データ):血圧、身長、検査値など、数値の大小や平均に意味があるもの ・カテゴリ変数(質的データ):疾患の有無、性別、喫煙の有無など、人数や割合で集計するもの ・生存時間データ:死亡や再発などのイベントが起こるまでの時間(観察打ち切りを含む) 2. 比較の形:何群を比べるか、対応があるか、他の因子(交絡因子)を同時に調整したいか

本問への当てはめ

血圧は連続変数であり、比較したいのは「2群の平均値」である。2群の平均値の差を検定する代表的な手法はt検定である。χ2検定はカテゴリ変数の比率・度数の比較、生存分析と比例ハザードモデルはイベントまでの時間の解析、ロジスティック回帰は二値の結果に対する多変量解析に用いる手法であり、いずれも「2群の血圧の平均の比較」には適さない。

選択肢考察

  1. ○a.  t検定

    正しい。t検定は、t分布を利用して平均値の差が偶然のばらつきで説明できるかどうかを検定する方法であり、連続変数の2群間の平均値の比較に用いる。データが正規分布に従うことを前提とするパラメトリック検定である。異なる対象者の2群(例:薬剤投与群と非投与群の血圧)を比べる場合は対応のないt検定(2標本t検定。等分散を仮定しない場合はWelchのt検定)を、同じ対象者の治療前後の血圧のように対になったデータを比べる場合は対応のあるt検定を用いる。データが正規分布に従わない場合や外れ値が多い場合は、ノンパラメトリック検定であるMann-WhitneyのU検定(対応のないとき)やWilcoxonの符号付順位検定(対応のあるとき)を用いる。

  2. ×b.  χ2検定

    誤り。χ2(カイ二乗)検定は、カテゴリ変数の度数(人数)を2×2表(四分表)などのクロス集計表にまとめ、観測度数と、2つの変数が無関係(独立)と仮定したときの期待度数とのずれを評価する検定である。例えば「喫煙の有無」と「肺癌の有無」が関連するか、2群で有効率(割合)に差があるかを調べるときに用いる。血圧のような連続変数の平均の比較には使えない。なお、期待度数が小さいセル(一般に5未満)がある場合はFisherの正確確率検定を用いる。

  3. ×c.  生存分析

    誤り。生存分析は、死亡、再発、退院、回復など、あるイベントが起こるまでの時間を扱う解析手法の総称である。観察期間中にイベントが起こらなかった人や途中で追跡できなくなった人(打ち切り例)の情報も活かせるのが特徴である。代表例として、生存率の推移を階段状の曲線で示すKaplan-Meier法があり、2群の生存曲線の差はログランク検定で比較する。平均値の比較を目的とした手法ではない。

  4. ×d.  比例ハザードモデル

    誤り。比例ハザードモデル(Cox比例ハザードモデル、Cox回帰)は生存分析で用いる多変量解析の手法である。年齢・性別・治療法などの複数の説明変数(共変量)が、イベントの発生しやすさ(ハザード)にそれぞれどの程度影響するかを、他の因子の影響を調整したうえでハザード比として推定する。各群のハザードの比が観察期間を通じて一定であること(比例ハザード性)を前提とする。生存時間データを扱う手法であり、2群の血圧の平均の比較には用いない。

  5. ×e.  ロジスティック回帰

    誤り。ロジスティック回帰は、目的変数が「疾患あり・なし」「死亡・生存」のような二値(2つのカテゴリ)であるときに用いる多変量解析の手法である。複数の説明変数(年齢、喫煙歴、血圧値など)からその事象が起こる確率を説明・予測し、各因子の影響を他の因子で調整したオッズ比として求める。症例対照研究で交絡因子を調整する際などによく用いられる。目的変数が連続変数(例:肺活量や血圧の値そのもの)の場合は重回帰分析(線形回帰)を用いるのであり、ロジスティック回帰は2群の平均値の比較には適さない。

データの種類と代表的な統計手法

連続変数(正規分布を仮定できる:パラメトリック) ・2群の平均の比較:t検定(対応なし/対応あり) ・3群以上の平均の比較:分散分析(ANOVA)、その後に多重比較 ・2変数の関連:Pearsonの相関係数、単回帰分析 ・複数の因子で目的変数を説明:重回帰分析 連続変数(正規分布を仮定できない、順序データ:ノンパラメトリック) ・2群(対応なし):Mann-WhitneyのU検定 ・2群(対応あり):Wilcoxonの符号付順位検定 ・3群以上:Kruskal-Wallis検定 ・2変数の関連:Spearmanの順位相関係数 カテゴリ変数 ・独立性・割合の比較:χ2検定(期待度数が小さいときはFisherの正確確率検定) ・対応のある2値データ:McNemar検定 ・二値の結果の多変量解析:ロジスティック回帰(オッズ比) 生存時間データ ・生存曲線の推定:Kaplan-Meier法 ・2群の生存曲線の比較:ログランク検定 ・多変量解析:Cox比例ハザードモデル(ハザード比)

t分布について

t分布は標本数が少ないときに平均値のばらつきを表す分布で、正規分布より裾が広い。自由度(標本数に応じて決まる値)が大きくなるにつれて標準正規分布に近づく。t検定は平均値の比較のほか、回帰係数が0と異なるかどうかの検定などにも利用される。

POINT

・連続変数の2群の平均の比較はt検定(正規分布を仮定できなければMann-WhitneyのU検定)。 ・3群以上の平均の比較は分散分析。 ・カテゴリ変数の割合の比較はχ2検定。 ・イベントまでの時間はKaplan-Meier法・ログランク検定、多変量ならCox比例ハザードモデル(ハザード比)。 ・二値の結果の多変量解析はロジスティック回帰(オッズ比)、連続値の結果なら重回帰分析。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。