血圧の平均を比べるなら?―データの種類で決まる統計手法の選び方
第118回医師国家試験 F問題 第23問
国試問題にチャレンジ
2群間の血圧の平均を比較するときに用いる統計解析手法はどれか。
- a.t検定
- b.χ2検定
- c.生存分析
- d.比例ハザードモデル
- e.ロジスティック回帰
対話形式の解説
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ドクターまとめ
統計解析手法は、目的変数の種類(連続変数・カテゴリ変数・生存時間データ)と比較の形(群の数、対応の有無、交絡因子の調整の要否)で選びます。血圧のような連続変数で2群の平均を比べるときはt検定を用い、対応の有無で使い分け、正規分布を仮定できなければMann-WhitneyのU検定やWilcoxonの符号付順位検定を選びます。カテゴリ変数の割合の比較にはχ2検定、イベントまでの時間にはKaplan-Meier法・ログランク検定やCox比例ハザードモデル(ハザード比)、二値の結果の多変量解析にはロジスティック回帰(オッズ比)を用います。3群以上の平均の比較には分散分析を使い、t検定の繰り返しは避けます。この対応関係を押さえておくことは、論文を批判的に読み、臨床研究を正しく解釈するための基礎になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
データの種類と比較したい内容に応じて、適切な統計解析手法を選ぶ問題である。
手法選択の考え方
統計手法は、主に次の2点で決まる。 1. 目的変数(結果として見たい変数)の種類 ・連続変数(量的データ):血圧、身長、検査値など、数値の大小や平均に意味があるもの ・カテゴリ変数(質的データ):疾患の有無、性別、喫煙の有無など、人数や割合で集計するもの ・生存時間データ:死亡や再発などのイベントが起こるまでの時間(観察打ち切りを含む) 2. 比較の形:何群を比べるか、対応があるか、他の因子(交絡因子)を同時に調整したいか
本問への当てはめ
血圧は連続変数であり、比較したいのは「2群の平均値」である。2群の平均値の差を検定する代表的な手法はt検定である。χ2検定はカテゴリ変数の比率・度数の比較、生存分析と比例ハザードモデルはイベントまでの時間の解析、ロジスティック回帰は二値の結果に対する多変量解析に用いる手法であり、いずれも「2群の血圧の平均の比較」には適さない。
選択肢考察
- ○a. t検定
正しい。t検定は、t分布を利用して平均値の差が偶然のばらつきで説明できるかどうかを検定する方法であり、連続変数の2群間の平均値の比較に用いる。データが正規分布に従うことを前提とするパラメトリック検定である。異なる対象者の2群(例:薬剤投与群と非投与群の血圧)を比べる場合は対応のないt検定(2標本t検定。等分散を仮定しない場合はWelchのt検定)を、同じ対象者の治療前後の血圧のように対になったデータを比べる場合は対応のあるt検定を用いる。データが正規分布に従わない場合や外れ値が多い場合は、ノンパラメトリック検定であるMann-WhitneyのU検定(対応のないとき)やWilcoxonの符号付順位検定(対応のあるとき)を用いる。
- ×b. χ2検定
誤り。χ2(カイ二乗)検定は、カテゴリ変数の度数(人数)を2×2表(四分表)などのクロス集計表にまとめ、観測度数と、2つの変数が無関係(独立)と仮定したときの期待度数とのずれを評価する検定である。例えば「喫煙の有無」と「肺癌の有無」が関連するか、2群で有効率(割合)に差があるかを調べるときに用いる。血圧のような連続変数の平均の比較には使えない。なお、期待度数が小さいセル(一般に5未満)がある場合はFisherの正確確率検定を用いる。
- ×c. 生存分析
誤り。生存分析は、死亡、再発、退院、回復など、あるイベントが起こるまでの時間を扱う解析手法の総称である。観察期間中にイベントが起こらなかった人や途中で追跡できなくなった人(打ち切り例)の情報も活かせるのが特徴である。代表例として、生存率の推移を階段状の曲線で示すKaplan-Meier法があり、2群の生存曲線の差はログランク検定で比較する。平均値の比較を目的とした手法ではない。
- ×d. 比例ハザードモデル
誤り。比例ハザードモデル(Cox比例ハザードモデル、Cox回帰)は生存分析で用いる多変量解析の手法である。年齢・性別・治療法などの複数の説明変数(共変量)が、イベントの発生しやすさ(ハザード)にそれぞれどの程度影響するかを、他の因子の影響を調整したうえでハザード比として推定する。各群のハザードの比が観察期間を通じて一定であること(比例ハザード性)を前提とする。生存時間データを扱う手法であり、2群の血圧の平均の比較には用いない。
- ×e. ロジスティック回帰
誤り。ロジスティック回帰は、目的変数が「疾患あり・なし」「死亡・生存」のような二値(2つのカテゴリ)であるときに用いる多変量解析の手法である。複数の説明変数(年齢、喫煙歴、血圧値など)からその事象が起こる確率を説明・予測し、各因子の影響を他の因子で調整したオッズ比として求める。症例対照研究で交絡因子を調整する際などによく用いられる。目的変数が連続変数(例:肺活量や血圧の値そのもの)の場合は重回帰分析(線形回帰)を用いるのであり、ロジスティック回帰は2群の平均値の比較には適さない。
データの種類と代表的な統計手法
連続変数(正規分布を仮定できる:パラメトリック) ・2群の平均の比較:t検定(対応なし/対応あり) ・3群以上の平均の比較:分散分析(ANOVA)、その後に多重比較 ・2変数の関連:Pearsonの相関係数、単回帰分析 ・複数の因子で目的変数を説明:重回帰分析 連続変数(正規分布を仮定できない、順序データ:ノンパラメトリック) ・2群(対応なし):Mann-WhitneyのU検定 ・2群(対応あり):Wilcoxonの符号付順位検定 ・3群以上:Kruskal-Wallis検定 ・2変数の関連:Spearmanの順位相関係数 カテゴリ変数 ・独立性・割合の比較:χ2検定(期待度数が小さいときはFisherの正確確率検定) ・対応のある2値データ:McNemar検定 ・二値の結果の多変量解析:ロジスティック回帰(オッズ比) 生存時間データ ・生存曲線の推定:Kaplan-Meier法 ・2群の生存曲線の比較:ログランク検定 ・多変量解析:Cox比例ハザードモデル(ハザード比)
t分布について
t分布は標本数が少ないときに平均値のばらつきを表す分布で、正規分布より裾が広い。自由度(標本数に応じて決まる値)が大きくなるにつれて標準正規分布に近づく。t検定は平均値の比較のほか、回帰係数が0と異なるかどうかの検定などにも利用される。
POINT
・連続変数の2群の平均の比較はt検定(正規分布を仮定できなければMann-WhitneyのU検定)。 ・3群以上の平均の比較は分散分析。 ・カテゴリ変数の割合の比較はχ2検定。 ・イベントまでの時間はKaplan-Meier法・ログランク検定、多変量ならCox比例ハザードモデル(ハザード比)。 ・二値の結果の多変量解析はロジスティック回帰(オッズ比)、連続値の結果なら重回帰分析。
