StudyMed医師国家試験

「人数を増やせば解決するか?」―偶然誤差と系統誤差を見分けるたった一つの問い

第119回医師国家試験 C問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第4問

地域住民の喫煙者割合を把握するため質問紙調査を行う。  偶然誤差と関連するのはどれか。

  1. a.喫煙の定義
  2. b.記名の有無
  3. c.質問の妥当性
  4. d.調査対象者数
  5. e.無作為抽出の有無

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、質問紙調査の誤差の種類を見分ける問題だ。調査で得られる値と真の値のずれは、大きく偶然誤差と系統誤差(バイアス)の2つに分けられる。選択肢の要素がどちらに関わるのかを判断できれば解ける。まず、2つの違いを説明できるかな。
医学生医学生
疫学の講義で習ったはずなんですが、偶然誤差は「たまたま起こるずれ」で、系統誤差は「偏り」というくらいのイメージしかありません。
ドクタードクター
そのイメージで方向性は合っているよ。もう少し具体的にしよう。地域住民全員を調べるのは大変だから、一部の人を標本として選んで喫煙者割合を推定するよね。そのとき、誰が選ばれたかという偶然によって、推定値は真の値の上下に方向性なくばらつく。これが偶然誤差だ。調査をやり直すたびに値が少しずつ変わる、そのばらつきの大きさに当たる。
医学生医学生
では系統誤差は、何度やり直しても同じ方向にずれる誤差ということですか。
ドクタードクター
その通り。調査の設計、測定方法、対象の選び方などに原因があって、結果を一定の方向へ偏らせる。だから見分けるときは「人数を増やせば減るか」と考えるとわかりやすい。偶然誤差は人数を増やすと小さくなるけれど、系統誤差は人数をいくら増やしても減らないんだ。
医学生医学生
そうすると、人数そのものに関わる調査対象者数が偶然誤差と関連する、ということになりますね。
ドクタードクター
正解だ。割合pを人数nの標本で推定したときの標準誤差は√{p(1−p)/n}で表され、nが大きいほど小さくなる。たとえば人数を4倍にすると標準誤差はおよそ半分になり、95%信頼区間も狭くなる。生物統計の講義で出てきた式だね。
医学生医学生
CBTの勉強で、サンプルサイズを大きくすると信頼区間が狭くなると覚えましたが、それが偶然誤差が減るという意味だったんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では、ほかの要素がなぜ系統誤差なのかを見ていこう。喫煙の定義はどうかな。
医学生医学生
定義がはっきりしないと、答えがばらつくので偶然誤差かなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。「毎日吸う人」だけを喫煙者とするか、「時々吸う人」も含めるかで、測っている中身そのものが変わる。定義が曖昧だと、時々吸う人が自分を非喫煙者と答えるといった誤分類が起こり、割合は一定の方向に過大・過小評価されうる。測定方法に由来する情報バイアスで、人数を増やしても解決しないんだ。
医学生医学生
記名の有無はどうでしょう。名前を書くと、正直に答えにくくなりそうです。
ドクタードクター
まさにそれ。記名式だと周囲の目を意識して、吸っていても「吸わない」と答えやすくなる。これを社会的望ましさバイアスといって、喫煙者割合は低めに出るという一定方向のずれが生じる。だから系統誤差だ。質問の妥当性も同じで、妥当性とは測りたいものを正しく測れているかということ。誘導的な表現や分かりにくい設問では、一貫したずれが生まれる。
医学生医学生
無作為抽出の有無は、対象者を選ぶ話なので、偶然誤差と関係しそうな気がします。
ドクタードクター
迷いやすいポイントだね。無作為抽出をせず、たとえば健診の受診者だけを対象にすると、健康意識の高い人が多く集まり、喫煙者割合は低めにずれるだろう。これは選択バイアスという系統誤差だ。無作為抽出は系統誤差を防ぐための手段であって、偶然誤差の大きさを決めるのは主に標本の人数なんだ。
医学生医学生
「無作為」という言葉に引っ張られましたが、偏りを防ぐ仕組みなんですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。ここで的あてのたとえを覚えておくと便利だよ。矢が中心の周りに広く散らばるのが偶然誤差が大きい状態、矢がまとまっているけれど中心から外れた一点に集まるのが系統誤差が大きい状態だ。偶然誤差は精度や信頼性、系統誤差は正確度や妥当性に関わると整理される。
医学生医学生
人数をすごく増やした大規模研究でも、バイアスがあれば間違った方向に自信満々の結果が出てしまう、ということですね。
ドクタードクター
鋭いね。それが臨床研究を読むときの大事な注意点だ。大規模で信頼区間が狭い研究ほど結果が確からしく見えるけれど、対象の選び方や測定方法に偏りがあれば、正確な答えにはならない。論文を読むときは、人数だけでなく、無作為抽出や測定法の標準化、盲検化、妥当性の確認された質問票の使用など、バイアスへの対策がとられているかを確認してほしい。交絡も系統誤差の一つとして扱われることも覚えておこう。

まとめ

調査結果の誤差は、方向性なくばらつく偶然誤差と、一定方向に偏る系統誤差(バイアス)に分けられます。偶然誤差は標本抽出の偶然などで生じ、標準誤差が√{p(1−p)/n}で表されるように調査対象者数を増やすと小さくなるため、本問では調査対象者数が偶然誤差と関連します。喫煙の定義や質問の妥当性は誤分類などの情報バイアス、記名の有無は社会的望ましさバイアス、無作為抽出をしないことは選択バイアスにつながり、いずれも人数を増やしても減らない系統誤差です。偶然誤差は精度・信頼性、系統誤差は正確度・妥当性に関わり、見分けに迷ったら「人数を増やせば解決するか」と考えるのが有効です。この区別は、疫学調査の設計だけでなく、臨床研究の結果を批判的に読み解く力の土台になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

調査や研究で得られる値と真の値とのずれ(誤差)は、大きく偶然誤差(ランダム誤差)と系統誤差(バイアス)の2種類に分けられる。本問は、地域住民の喫煙者割合を質問紙で推定する場面を想定し、5つの要素のうちどれが偶然誤差に関係するかを問うている。

2種類の誤差の見分け方

・偶然誤差:誰を標本に選んだかという「たまたま」や測定時のゆらぎによって、推定値が真の値の上下に方向性なくばらつく誤差である。調査を繰り返すと値が毎回少しずつ違ってくる、そのばらつきの大きさに当たる。標本サイズ(調査人数)を増やすと小さくなり、統計学的には標準誤差や信頼区間の幅として表される。 ・系統誤差:調査の設計・測定方法・対象の選び方などに起因し、結果を一定の方向へ偏らせる誤差である。何度繰り返しても同じ方向にずれるため、人数を増やしても小さくならない。研究デザインの工夫で防ぐ必要がある。

考え方

「人数を増やせば減るか」と考えるとわかりやすい。喫煙の定義、記名の有無、質問の妥当性、無作為抽出の有無は、いずれも人数をいくら増やしても解消されない「方向性のある偏り」を生む要素であり、系統誤差に関わる。一方、調査対象者数は推定値のばらつきの大きさを直接左右する要素であり、偶然誤差と関連する。

選択肢考察

  1. ×a.  喫煙の定義

    「現在毎日吸っている人」だけを喫煙者とするか、「時々吸う人」も含めるかなど、定義の置き方によって測っている中身そのものが変わる。定義が曖昧であれば回答者ごとに解釈が異なり、結果は一定の方向に過大・過小評価されうる。これは測定方法に由来する系統誤差(情報バイアス・誤分類)であり、偶然誤差ではない。

  2. ×b.  記名の有無

    記名式にすると、回答者は周囲からどう見られるかを意識し、喫煙していても「吸わない」と答えるなど社会的に望ましい方向へ回答を偏らせやすい(社会的望ましさバイアス)。喫煙者割合は低めに推定されるという一定方向のずれが生じるため、系統誤差(情報バイアス)に関わる要素である。

  3. ×c.  質問の妥当性

    妥当性とは、質問が本来測りたいもの(ここでは喫煙状況)を正しく測れているかどうかを指す。誘導的な表現や意味の取りにくい設問など妥当性の低い質問では、測りたい内容と実際の回答との間に一貫したずれが生じる。これは質問紙の設計に由来する系統誤差であり、人数を増やしても改善しない。

  4. ○d.  調査対象者数

    母集団の一部(標本)から割合を推定するとき、どの人が選ばれたかという偶然によって推定値は真の値の周りでばらつく。これが偶然誤差(標本誤差)である。割合pを人数nの標本で推定したときの標準誤差は√{p(1−p)/n}で表され、nが大きいほど小さくなる。たとえば人数を4倍にすると標準誤差はおよそ半分になり、95%信頼区間も狭くなる。したがって調査対象者数は偶然誤差と直接関連する。ただし人数を増やしても系統誤差は減らない点に注意する。

  5. ×e.  無作為抽出の有無

    無作為抽出を行わず、たとえば健診受診者や協力的な住民だけを対象にすると、健康意識の高い人が多く含まれるなど、標本が母集団を代表しなくなる。その結果、喫煙者割合は一定の方向にずれて推定される。これは対象の選び方に由来する系統誤差(選択バイアス)である。無作為抽出は系統誤差を防ぐための手段であり、偶然誤差の大きさを決めるのは主に標本の人数である。

偶然誤差と系統誤差の比較

・偶然誤差(random error)  性質:方向性のないばらつき。真の値の上下に散らばる。  原因:標本抽出の偶然(標本誤差)、測定のたびの小さなゆらぎ。  対策:標本サイズを増やす、測定を繰り返して平均する。  関連する指標:精度(precision)、信頼性(reliability)、再現性。標準誤差や信頼区間の幅で評価する。 ・系統誤差(systematic error、バイアス)  性質:一定方向への偏り。  原因:研究デザイン・測定方法・対象選択の問題。  代表例:選択バイアス(対象の選び方の偏り)、情報バイアス(思い出しバイアス、面接者バイアス、社会的望ましさバイアス、誤分類など)、交絡(第三の因子による見かけの関連)。  対策:無作為抽出、測定法の標準化・校正、盲検化、妥当性の確認された質問票の使用など。人数を増やしても減らない。  関連する指標:正確度(accuracy)、妥当性(validity)。

的あてのたとえ

矢が的の中心の周りに広く散らばるのが偶然誤差が大きい状態、矢がまとまってはいるが中心から外れた一点に集まるのが系統誤差が大きい状態である。精度は高いが正確でない(系統誤差あり)、正確だが精度が低い(偶然誤差大)という組み合わせがありうる。

補足:誤分類

曝露や疾病の分類の誤りのうち、比較する群間で誤りの程度が同じものを非差異的誤分類、異なるものを差異的誤分類という。いずれも情報バイアスに含まれる系統誤差である。

POINT

・偶然誤差=方向性のないばらつき。標本サイズ(調査人数)を増やすと小さくなる。精度・信頼性に関わる。 ・系統誤差(バイアス)=一定方向への偏り。人数を増やしても減らない。正確度・妥当性に関わる。 ・定義の曖昧さ、記名式による回答のゆがみ、質問の妥当性、非無作為抽出はいずれも系統誤差の要因。 ・判断に迷ったら「人数を増やせば解決するか」で見分ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。