StudyMed医師国家試験

「量」で決まる心臓のリスク―喫煙・塩・カロリー・運動・お酒を数字で読み解く

第105回医師国家試験 C問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第105回 C問題 第13問

虚血性心疾患の危険因子でない生活習慣はどれか。

  1. a.10本/日の喫煙
  2. b.15 g/日の塩分摂取
  3. c.100 mL/日の日本酒摂取
  4. d.4,500 kcal/日の食事摂取
  5. e.1,500歩/日相当の身体活動

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は虚血性心疾患の危険因子を、生活習慣の「量」から判断する問題だ。狭心症や心筋梗塞は冠動脈の粥状硬化で心筋への血流が足りなくなる病気だから、動脈硬化を進めるものがそのまま危険因子になる。ポイントは、量に関係なく危険なものと、量しだいで危険になるものを分けて考えることだよ。
医学生医学生
循環器の講義で冠危険因子は習いました。高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満……でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。加えて加齢、男性、早発性冠動脈疾患の家族歴といった変えられない因子、それに慢性腎臓病、身体活動不足、精神的ストレスもある。今回の選択肢は全部「変えられる因子」に関わる生活習慣だ。まず喫煙から考えよう。1日10本なら少なめに思えるかな?
医学生医学生
ヘビースモーカーではないので、もしかしたらセーフかもと一瞬思いました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。喫煙は血管内皮を傷つけ、LDLの酸化、HDLの低下、血小板凝集の亢進、冠攣縮、交感神経刺激による血圧上昇と、多くの経路で動脈硬化と血栓形成を促す。リスクは本数とともに増えるけれど、1日数本でも明らかに上昇することが示されていて、安全な本数はない。受動喫煙も危険因子だ。
医学生医学生
だから禁煙外来では「減らす」ではなく「やめる」が目標なんですね。では食塩15 gはどうでしょう。
ドクタードクター
食塩の過剰摂取はナトリウムと水の貯留を介して血圧を上げ、高血圧という代表的な冠危険因子につながる。日本人の食事摂取基準の目標量は成人男性7.5 g/日未満、女性6.5 g/日未満、高血圧患者の減塩目標は6 g/日未満だ。15 gはその倍以上だから明らかに過剰だね。
医学生医学生
4,500 kcalも多すぎますよね。公衆衛生の実習で標準体重×25〜35 kcalと習いました。
ドクタードクター
その通り。標準体重60 kgなら1,500〜2,100 kcal程度だから、激しい肉体労働や競技スポーツでもない限り大幅な過剰だ。内臓脂肪がたまってインスリン抵抗性が生じ、糖尿病、脂質異常症、高血圧というメタボリックシンドロームを介して動脈硬化が進む。
医学生医学生
1,500歩も少ないですね。病棟実習の日はそれだけで1万歩近く歩いていました。
ドクタードクター
ははは、実習は体力勝負だからね。1,500歩は10数分の歩行にすぎない。成人の身体活動の目安は1日8,000歩以上相当で、中等度の有酸素運動を1日30分以上が目標だ。身体活動不足は肥満やインスリン抵抗性、HDL低下を招き、それ自体が独立した危険因子とされている。
医学生医学生
残るのは日本酒100 mLですね。お酒は全部ダメだと思っていましたが、これが正解ということでしょうか。
ドクタードクター
そう、これが危険因子とはいえないものだ。ここは計算してみよう。純アルコール量は飲酒量×度数×0.8で求める。日本酒は約15%だから、100×0.15×0.8で何gになる?
医学生医学生
約12 gです。健康日本21の「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコール20 g程度、日本酒なら1合180 mLくらいでしたっけ。
ドクタードクター
完璧だ。高血圧患者への指導でも男性20〜30 g/日以下、女性10〜20 g/日以下に制限するとされていて、12 gはその範囲に収まる。少量飲酒ではHDLが上がり、冠動脈疾患のリスクが飲まない人と同等かやや低いという観察研究もある。
医学生医学生
じゃあ少しは飲んだほうが心臓にいい、と患者さんに勧めてもいいんですか。
ドクタードクター
それは勧められない。観察研究の結果は飲まない人に飲酒を勧める根拠にはならないし、近年は少量飲酒の保護効果自体が疑問視されている。飲酒量に比例して高血圧、脳出血、口腔・咽頭・食道・乳房などのがんのリスクは上がるし、多量飲酒は高中性脂肪血症、心房細動、アルコール性心筋症も起こす。「飲酒量は少ないほどよい」という考え方が強まっていることも知っておこう。
医学生医学生
「適量の範囲なら危険因子とはいえない」と「飲んだほうがよい」は別物、ということですね。
ドクタードクター
その区別が大切だ。臨床では、喫煙は本数ではなくゼロを目指す、食塩・カロリー・運動・飲酒は目安の数値と比べて具体的に指導する、という姿勢が求められる。純アルコールの換算式と、日本酒1合・ビール中瓶1本・ワイン200 mL弱がそれぞれ約20 gという目安は、外来の生活指導ですぐ使えるから覚えておこう。

まとめ

虚血性心疾患の危険因子は冠動脈の動脈硬化を進める要因であり、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満、身体活動不足などが代表的です。喫煙は本数にかかわらず危険因子で安全な量はなく、食塩15 g/日(高血圧患者の目標は6 g/日未満)、4,500 kcal/日の過剰なエネルギー摂取、1,500歩/日の運動不足はいずれも明らかな危険因子です。一方、日本酒100 mLは純アルコール約12 gで、節度ある適度な飲酒とされる1日平均約20 gを下回るため、危険因子とはいえません。ただし少量飲酒の心保護効果は近年疑問視されており、飲まない人に飲酒を勧める根拠にはなりません。純アルコール量=飲酒量×度数×0.8の計算と各指標の目安を押さえておくことは、生活習慣指導の実践に直結します。

解答・解説

正解はcです

虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)は、冠動脈の動脈硬化(粥状硬化)によって心筋への血流が不足する病気である。動脈硬化を進める要因が、そのまま虚血性心疾患の危険因子(冠危険因子)となる。 主な冠危険因子は、加齢・男性・早発性冠動脈疾患の家族歴といった変えられない因子と、高血圧、脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症)、糖尿病、喫煙、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、慢性腎臓病、身体活動不足、精神的ストレスといった治療・生活改善で変えられる因子に分けられる。 本問では、選択肢の生活習慣がこれらの危険因子に直接つながるかどうか、そして「量」が健康的な範囲か過剰(または不足)かを判断する必要がある。喫煙は量にかかわらず危険因子である。一方、食塩・エネルギー・運動・飲酒は量の問題であり、目安となる数値と比較して考える。日本酒100 mL/日は、エタノールに換算すると約12 gで、「節度ある適度な飲酒」とされる1日平均エタノール20 g程度(日本酒1合=180 mL程度)を下回る。したがって、選択肢の中では危険因子とはいえない生活習慣となる。

選択肢考察

  1. ×a.  10本/日の喫煙

    危険因子である。喫煙は、血管内皮の障害、LDLの酸化、HDLコレステロールの低下、血小板凝集の亢進、冠動脈の攣縮(けいれん性の収縮)、交感神経の刺激による血圧・心拍数の上昇など多くの経路で動脈硬化と血栓形成を促す。リスクは本数に応じて増えるが、1日数本程度の少量喫煙でも虚血性心疾患のリスクは明らかに上昇することが示されており、安全な本数はない。受動喫煙も危険因子である。10本/日は明確な危険因子であり、禁煙が推奨される。

  2. ×b.  15 g/日の塩分摂取

    危険因子である。食塩の過剰摂取は、体内のナトリウムと水分の貯留を通じて血圧を上昇させる。高血圧は代表的な冠危険因子である。日本人の食事摂取基準では食塩の目標量を成人男性7.5 g/日未満、女性6.5 g/日未満としており、高血圧治療ガイドラインでは高血圧患者の減塩目標を6 g/日未満としている。生理的に必要な量はもっと少なく、1.5 g/日程度で足りる。15 g/日はこれらの目標を大きく上回る過剰摂取である。

  3. ○c.  100 mL/日の日本酒摂取

    危険因子とはいえず、本問の正解である。日本酒のアルコール度数は約15%であり、100 mLに含まれるエタノールは100 mL×0.15×0.8(エタノールの比重)=約12 gである。わが国の健康日本21では「節度ある適度な飲酒」を1日平均純アルコール約20 g程度(日本酒1合=180 mL程度)としている。高血圧患者への指導でも、エタノールで男性20〜30 g/日以下、女性10〜20 g/日以下に制限するよう求めている。100 mL/日はこれらの範囲内に収まる。少量の飲酒ではHDLコレステロールの上昇などがみられ、冠動脈疾患のリスクは飲酒しない人と同等かやや低いという観察研究もある。一方、多量飲酒は高血圧、高中性脂肪血症、心房細動、アルコール性心筋症などを通じて心血管疾患のリスクを高める。

  4. ×d.  4,500 kcal/日の食事摂取

    危険因子である。1日の適正な摂取エネルギーは、身体活動の程度に応じて標準体重1 kgあたりおよそ25〜35 kcalで見積もる(肥満・糖尿病の食事療法ではより少なめに設定する)。標準体重60 kgの人であれば1,500〜2,100 kcal程度となる。4,500 kcal/日は、激しい肉体労働や競技スポーツをする人を除けば明らかな過剰摂取である。エネルギーの過剰摂取は肥満、特に内臓脂肪の蓄積を招き、インスリン抵抗性、糖尿病、脂質異常症、高血圧(いわゆるメタボリックシンドローム)を介して動脈硬化を進める。

  5. ×e.  1,500歩/日相当の身体活動

    危険因子である。歩行はおよそ100〜120歩/分なので、1,500歩はわずか10数分の歩行に相当し、明らかな運動不足である。わが国の身体活動の指針では、成人は1日8,000歩以上に相当する身体活動を目安としている。有酸素運動の目標は、中等度の運動を1日30分以上、できれば毎日(少なくとも週150分程度)である。身体活動不足は肥満、インスリン抵抗性、高血圧、HDLコレステロール低下などをもたらし、それ自体が冠動脈疾患の独立した危険因子とされている。

虚血性心疾患の主な危険因子

・変えられない因子:加齢(男性45歳以上、女性55歳以上)、男性、早発性冠動脈疾患の家族歴 ・変えられる因子:高血圧、脂質異常症(高LDLコレステロール、低HDLコレステロール、高中性脂肪)、糖尿病・耐糖能異常、喫煙(受動喫煙を含む)、肥満(特に内臓脂肪型)、身体活動不足、慢性腎臓病、精神的ストレス、多量飲酒

生活習慣改善の目安(わが国の代表的な指標)

・食塩:高血圧患者は6 g/日未満。一般成人の目標量は男性7.5 g/日未満、女性6.5 g/日未満 ・飲酒:節度ある適度な飲酒は純アルコール1日平均約20 g程度。高血圧患者は男性20〜30 g/日以下、女性10〜20 g/日以下 ・純アルコール約20 gの目安:日本酒1合(180 mL)、ビール中瓶1本(500 mL)、ワイングラス2杯弱(約200 mL) ・身体活動:成人は1日8,000歩以上相当。中等度の有酸素運動を1日30分以上を目標とする ・体重:BMI 25未満を目指す。摂取エネルギーは標準体重と活動量から設定する ・禁煙:本数を減らすのではなく、完全な禁煙を目指す

純アルコール量の計算

純アルコール量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)/100×0.8 例:日本酒100 mL(15%)→100×0.15×0.8=12 g

少量飲酒をめぐる補足

少量飲酒で冠動脈疾患が少ないという観察研究はあるが、飲まない人に飲酒を勧める根拠にはならない。また、飲酒量に比例して高血圧、脳出血、がん(口腔・咽頭・食道・乳房など)のリスクは上がる。近年は「飲酒量は少ないほどよい」という考え方が強まっていることも知っておきたい。

POINT

・喫煙は本数にかかわらず危険因子である(安全な本数はない)。 ・食塩15 g/日は過剰摂取(高血圧患者の目標は6 g/日未満)。 ・日本酒1合(180 mL、純アルコール約20 g)以下の飲酒は、節度ある適度な飲酒の範囲内とされる。 ・4,500 kcal/日は明らかなエネルギー過剰で、肥満・メタボリックシンドロームにつながる。 ・1,500歩/日は運動不足(成人の目安は8,000歩/日以上相当)。 ・純アルコール量=飲酒量(mL)×度数(%)/100×0.8 を計算できるようにしておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。