StudyMed医師国家試験

寝返りでぐるぐる―迷子の耳石が起こす良性発作性頭位眩暈症

第105回医師国家試験 C問題 第14問

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第105回 C問題 第14問

良性発作性頭位眩暈症の臨床的特徴として正しいのはどれか。

  1. a.難聴を伴う。
  2. b.眼振は出現しない。
  3. c.寝返りで誘発される。
  4. d.非回転性のめまいである。
  5. e.一過性の意識消失を伴う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はめまい疾患の中で最も多い、良性発作性頭位眩暈症(BPPV)の臨床像を問う問題だ。病名に「良性」「発作性」「頭位」と特徴がそのまま詰まっているから、まずは発症の仕組みを理解して、そこから症状を導いてみよう。
医学生医学生
耳石が関係する病気だということは覚えています。でも、なぜ耳石でめまいが起こるのかは曖昧です。
ドクタードクター
内耳の卵形嚢には、炭酸カルシウムの小さな結晶である耳石が並んでいて、重力や直線加速度を感じ取っている。これがはがれて回転を感知する半規管に入り込むのが半規管結石症、クプラに付着するのがクプラ結石症だ。頭の向きを変えるたびに耳石が重力で動いてリンパ流を起こし、実際には回っていないのに「回っている」という信号が脳に送られるんだよ。
医学生医学生
だから頭の位置を変えたときだけ症状が出るんですね。正解は「寝返りで誘発される」でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。寝返り、朝の起き上がり、寝るときに横になる動作、上を見上げる・下を向くといった頭位変換が引き金になる。頭を動かしてから数秒の潜時があって、めまいと眼振が出て、多くは1分以内に治まる。同じ動作を繰り返すと症状が弱まる疲労現象も特徴だ。
医学生医学生
めまいの性状は、ふわふわした感じとは違うんですよね。
ドクタードクター
そう、周囲がぐるぐる回る回転性めまいだ。半規管はもともと頭部の回転を感知する器官だから、その異常な刺激は回転感として知覚される。ふらつきや浮動感といった非回転性めまいは、中枢性の障害や起立性低血圧、薬剤などでみられることが多いね。
医学生医学生
眼振は出ないという選択肢もありましたが、回転感があるなら眼振も出そうです。
ドクタードクター
いい推論だ。むしろ頭位変換で誘発される眼振こそが診断の決め手になる。最も多い後半規管型では、Dix-Hallpike法、つまり座位で頭を45度横に向けたまま懸垂頭位へ倒すと、下になった耳の方向へ向かう回旋性眼振が上眼瞼向きの成分を伴って出る。外側半規管型では、仰臥位で頭を左右に向けると向きによって方向が入れ替わる方向交代性の水平性眼振がみられる。
医学生医学生
耳鼻科の実習で、Frenzel眼鏡をかけて眼振を観察させてもらいました。あれは固視で眼振が抑えられないようにするためでしたね。
ドクタードクター
その通り。赤外線CCDカメラも同じ目的で使う。次に難聴について。BPPVで難聴は出るかな?
医学生医学生
メニエール病と混同しそうですが、耳石の問題なら聴覚は関係ない気がします。
ドクタードクター
そのとおり。障害は前庭に限られていて、聴覚を担う蝸牛は侵されないから、難聴や耳鳴は伴わない。めまいに難聴・耳鳴・耳閉感を伴うなら、反復する回転性めまいと変動する低音部の感音難聴をきたすメニエール病や、めまいを伴う突発性難聴を考える。ここは鑑別の大事な分かれ道だよ。
医学生医学生
意識消失もしないですよね。内耳の病気なので脳の血流は保たれていますし。
ドクタードクター
そう。めまい感とともに一過性の意識消失があれば、不整脈による心原性失神、起立性低血圧、神経調節性失神、椎骨脳底動脈系の循環障害など、まったく別の病態を考えなければいけない。救急外来では見逃せないポイントだ。
医学生医学生
整理すると、頭位変換で誘発される短い回転性めまいと眼振があって、難聴も意識障害も神経症状もない、というのがBPPVですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。臨床で特に注意したいのは、小脳や脳幹の病変でも頭位でめまいと眼振が出る「中枢性頭位めまい」があることだ。潜時がない、眼振が長く続いて減衰しない、純粋な垂直性、特に下眼瞼向きの眼振、繰り返しても弱まらない、構音障害や運動失調を伴う、といった場合は中枢性を疑ってMRIで精査する。
医学生医学生
治療は薬でしょうか。それとも様子をみるだけですか。
ドクタードクター
予後は良好で自然に軽快することも多いけれど、積極的には耳石置換法を行う。後半規管型にはEpley法、外側半規管型にはLempert法、通称バーベキューローテーション法で、半規管に入った耳石を卵形嚢へ戻すんだ。症状が強い時期には制吐薬や抗めまい薬を対症的に使う。中高年の女性に多く、再発もしばしばあるから、その説明もしておくといいね。

まとめ

良性発作性頭位眩暈症は、卵形嚢からはがれた耳石が半規管内に入り込む、あるいはクプラに付着することで起こる末梢性めまいで、めまい疾患の中で最も頻度が高い疾患です。寝返りや起き上がりなどの頭位変換で、数秒の潜時の後に回転性めまいと眼振が誘発され、多くは1分以内に治まり、繰り返すと減弱します。後半規管型ではDix-Hallpike法で回旋性眼振、外側半規管型では方向交代性の水平性眼振がみられ、蝸牛や中枢は障害されないため難聴・耳鳴、意識消失、神経症状は伴いません。治療はEpley法などの耳石置換法が中心ですが、潜時がなく持続する眼振や下眼瞼向き眼振、神経症状を伴う場合は中枢性頭位めまいを疑う必要があります。発症機序から症状を導けるようにしておくことは、めまい診療の第一歩である末梢性と中枢性の鑑別に直結します。

解答・解説

正解はcです

良性発作性頭位眩暈症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)は、内耳(末梢前庭)の障害で起こるめまいのうち最も頻度が高い疾患である。 内耳の卵形嚢には、平衡感覚のセンサーとして炭酸カルシウムの小さな結晶である耳石(耳石器の平衡砂)が並んでいる。これが何らかの原因ではがれ落ち、回転運動を感知する半規管の中に入り込む(半規管結石症)、あるいは半規管のクプラ(感覚毛を覆うゼラチン状の構造)に付着する(クプラ結石症)と、頭の向きを変えるたびに耳石が重力に従って動き、実際には回転していないのに「回っている」という誤った信号が脳に送られる。これがBPPVのめまいの機序である。 このため、BPPVでは「特定の頭の位置・頭の動き」によって誘発される、数秒〜数十秒程度の短い回転性めまいと、それに伴う眼振が特徴となる。障害は前庭(平衡の感覚器)に限られ、蝸牛(聴覚の感覚器)や中枢神経は侵されないため、難聴・耳鳴や意識障害、神経症状は伴わない。本問ではこれらの特徴に合致する選択肢を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  難聴を伴う。

    誤り。BPPVは半規管内の耳石による前庭の障害であり、聴覚を担う蝸牛は障害されないため、難聴や耳鳴は伴わない。めまいに難聴・耳鳴・耳閉感を伴うものとしては、メニエール病(反復する回転性めまいと変動する低音部の感音難聴)や、めまいを伴う突発性難聴などがあり、BPPVとの重要な鑑別点となる。

  2. ×b.  眼振は出現しない。

    誤り。BPPVでは頭位変換により特徴的な眼振が誘発され、これが診断の決め手となる。最も多い後半規管型では、Dix-Hallpike法(座位から頭を45度横に向けたまま懸垂頭位へ倒す検査)で、下になった耳の側へ向かう回旋性の眼振(上眼瞼向きの成分を伴う)がみられる。外側(水平)半規管型では、仰臥位で左右に頭を向けると、向きによって方向が入れ替わる水平性の眼振(方向交代性眼振)がみられる。

  3. ○c.  寝返りで誘発される。

    正しい。BPPVのめまいは、寝返り、起床時の起き上がり、寝る時に横になる動作、上を見上げる・下を向くといった、頭の位置を変える動作で誘発されるのが最大の特徴である。頭位を変えてから数秒の潜時の後にめまいと眼振が出現し、多くは1分以内に治まる。同じ頭位変換を繰り返すと症状が弱くなる(疲労現象)ことも特徴である。

  4. ×d.  非回転性のめまいである。

    誤り。BPPVのめまいは、周囲がぐるぐる回るように感じる回転性めまいである。半規管は頭部の回転を感知する器官であり、その異常な刺激は「回転している」という感覚として知覚される。ふらつきや浮動感のような非回転性めまいは、中枢性の障害や起立性低血圧、薬剤などでみられることが多い。

  5. ×e.  一過性の意識消失を伴う。

    誤り。BPPVは内耳の末梢前庭障害であり、脳の血流や機能は保たれているため、意識消失は伴わない。めまい感とともに一過性の意識消失をきたす場合は、不整脈などによる心原性失神、起立性低血圧、神経調節性失神、椎骨脳底動脈系の循環障害など、別の病態を考える必要がある。

BPPVの概要

・めまい疾患の中で最も多く、中高年の女性に多い。頭部外傷、長期臥床、加齢などが誘因となるが、原因不明のことも多い。 ・後半規管型が最も多く、次いで外側半規管型である。 ・予後は良好で、自然に軽快することが多いが、再発もしばしばある。

診断

・後半規管型:Dix-Hallpike法で、潜時を伴い、持続が短く、回旋性(上眼瞼向き成分を伴う)の眼振が誘発される。座位に戻すと逆向きの眼振がみられる。 ・外側半規管型:仰臥位で頭を左右に向ける検査(supine roll test)で、方向交代性の水平性眼振が誘発される。下になった耳の方向へ向かうもの(向地性)と、上になった耳の方向へ向かうもの(背地性)がある。 ・眼振の観察には、固視(一点を見つめること)で眼振が抑制されないよう、Frenzel眼鏡や赤外線CCDカメラを用いる。 ・聴力は正常で、神経学的異常所見もない。

治療

・耳石置換法(頭位治療):後半規管型にはEpley法、外側半規管型にはLempert法(バーベキューローテーション法)などを行い、半規管内の耳石を卵形嚢へ戻す。 ・症状が強い時期は制吐薬や抗めまい薬を対症的に用いる。

中枢性頭位めまいとの鑑別

小脳・脳幹の病変でも頭位でめまいと眼振が誘発されることがある(中枢性頭位めまい)。潜時がない、眼振が長く持続し減衰しない、純粋な垂直性(特に下眼瞼向き)眼振、繰り返しても弱まらない、構音障害・運動失調などの神経症状を伴う、などの場合は中枢性を疑い、MRIなどで精査する。

POINT

・BPPVは耳石が半規管に入り込むことによる末梢性めまいで、めまい疾患の中で最も多い。 ・寝返り・起き上がりなどの頭位変換で誘発される、短時間(多くは1分以内)の回転性めまいが特徴である。 ・頭位変換で眼振が出現する(後半規管型では回旋性、外側半規管型では方向交代性水平性眼振)。 ・難聴・耳鳴、意識消失、神経症状は伴わない。 ・治療はEpley法などの耳石置換法である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。