StudyMed医師国家試験

一度きりの嵐と強い吐き気―前庭神経炎を「ないもの」で見抜く

第118回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第118回 D問題 第1問

前庭神経炎で正しいのはどれか。

  1. a.再発することが多い。
  2. b.垂直性の眼振を認める。
  3. c.頭痛をともなう。
  4. d.難聴をともなう。
  5. e.吐き気をともなう。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は前庭神経炎の臨床像を問う問題だ。ポイントは、この病気で「みられる症状」と「みられない症状」をきちんと分けること。前庭神経がどこを走り、何を担っているかをイメージできれば、選択肢は自然に絞れるよ。まず、前庭神経炎ってどんな病気だと理解している?
医学生医学生
片側の前庭神経が急に障害されて、激しい回転性めまいが起こる病気ですよね。原因はウイルス感染と習いました。
ドクタードクター
その通り。単純ヘルペスウイルスの再活性化などが有力と考えられていて、発症前に風邪のような症状があることも多い。突然の激しい回転性めまいが数日続くのが典型だ。では、めまいは繰り返すと思う?
医学生医学生
めまいの病気というと、何度も発作を繰り返すイメージがあります。再発しやすいのかなと。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。前庭神経炎の大きな発作は、通常は一生に1回きりなんだ。発作後しばらくふらつきが残ることはあるけれど、それは脳が左右差を補う「中枢代償」が完成するまでの後遺症状で、再発ではない。発作を繰り返すのはメニエール病や良性発作性頭位めまい症のほうだ。
医学生医学生
じゃあ難聴はどうでしょう。耳の病気なので、聞こえも悪くなりそうですが。
ドクタードクター
これも大事な鑑別点。第Ⅷ脳神経には前庭神経と蝸牛神経があって、前庭神経炎では前庭側だけがやられる。だから難聴・耳鳴・耳閉感といった蝸牛症状は伴わないんだ。めまいに難聴を伴えば、メニエール病やめまいを伴う突発性難聴、内耳炎を考える。
医学生医学生
耳鼻科の臨床実習で、めまいの患者さんには必ず聴力検査をしていた理由がわかりました。
ドクタードクター
まさにそれ。聴力が正常であることを確認するのが、前庭神経炎の診断の一部になる。次は眼振。どんな向きになると思う?
医学生医学生
片側の前庭が落ちているなら、水平方向でしょうか。垂直性はなんとなく違う気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。前庭神経炎の眼振は、健側へ向かう方向固定性の水平性、あるいは水平回旋混合性の眼振だ。純粋な垂直性眼振は脳幹や小脳の病変を示唆する中枢性の所見だから、ここでは当てはまらない。
医学生医学生
頭痛はどうですか。めまいで救急に来る人は頭も痛がっていそうですが。
ドクタードクター
前庭神経炎は前庭神経に限局した障害だから、頭痛は伴わない。むしろ急性めまいに頭痛や後頸部痛があれば、小脳出血・小脳梗塞や椎骨動脈解離といった危険な中枢性疾患を真っ先に疑うべきなんだ。
医学生医学生
そうすると、残る吐き気が正解ですね。片側の前庭からの入力が急になくなるから、自律神経症状が出るということでしょうか。
ドクタードクター
その理解で正しい。左右の前庭入力に大きな差が生じ、その情報が脳幹の嘔吐中枢や自律神経系に伝わって、強い悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白が起こる。激しい回転性めまいと強い吐き気のセットが前庭神経炎の典型像だ。
医学生医学生
CBTの勉強では、前庭神経炎は「蝸牛症状なし、めまい1回」とだけ覚えていました。随伴症状まで意識していませんでした。
ドクタードクター
その2つに「強い悪心・嘔吐」を足しておくと完璧だね。検査も押さえておこう。温度眼振検査、いわゆるカロリックテストで患側の反応が低下・消失する半規管麻痺が診断に重要だ。ビデオヘッドインパルス検査では、患側へ頭を回したときに眼が追いつかず、キャッチアップサッケードがみられる。
医学生医学生
治療は安静と制吐薬でしょうか。
ドクタードクター
急性期は安静、制吐薬・抗めまい薬、嘔吐が強ければ輸液。副腎皮質ステロイドが使われることもある。そして大事なのが、落ち着いたら早めに体を動かす前庭リハビリテーションで中枢代償を促すこと。寝てばかりだと、かえってふらつきが長引くんだ。
医学生医学生
救急外来では、中枢性を見逃さないことも重要ですよね。
ドクタードクター
そう。垂直性眼振や方向交代性の注視眼振、頭痛、構音障害・複視などの脳神経症状、立てないほどの体幹失調があれば中枢性を疑って頭部MRIを考える。頭部インパルス検査・眼振の性状・眼球の上下ずれを組み合わせたHINTSという診察も、見逃し防止に役立つよ。

まとめ

前庭神経炎は、ウイルス感染などにより片側の前庭神経が急に障害され、突然の激しい回転性めまいが数日持続する末梢性めまい疾患です。左右の前庭入力の不均衡から強い悪心・嘔吐を伴う一方、蝸牛は侵されないため難聴・耳鳴はなく、大きな発作は通常1回で反復しない点がメニエール病などとの鑑別点です。眼振は健側向きの方向固定性水平性で、垂直性眼振や頭痛、他の神経症状を伴う場合は小脳梗塞などの中枢性疾患を疑います。診断には温度眼振検査での半規管麻痺が重要で、治療は急性期の対症療法に加え、早期の前庭リハビリテーションで中枢代償を促します。「あるはずの症状」と「ないはずの症状」を整理しておくことは、救急外来で危険なめまいを見逃さないための基本となります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

前庭神経炎は、片側の前庭神経(内耳の平衡感覚の情報を脳へ伝える神経)が急に障害され、激しい回転性めまいが起こる末梢性めまい疾患である。原因はウイルス感染(単純ヘルペスウイルスの再活性化など)が有力と考えられており、発症前に上気道炎などの感冒症状がみられることがある。

臨床像の要点

・突然発症する激しい回転性めまいが、数日にわたって持続する。めまいの大きな発作は通常1回きりである。 ・左右の前庭からの入力のバランスが崩れるため、自律神経症状として強い悪心・嘔吐を伴う。 ・障害は前庭神経に限られ、蝸牛(聴覚)は侵されないため、難聴・耳鳴・耳閉感といった蝸牛症状を伴わない。 ・眼振は健側に向かう方向固定性の水平性(または水平回旋混合性)眼振である。 ・頭痛や他の脳神経症状、四肢の麻痺・失調などの中枢神経症状は伴わない。

正解を導く考え方

「蝸牛症状がない」「大きなめまい発作は1回」「末梢性の眼振(水平性)」「中枢症状がない」という特徴を押さえれば、前庭障害そのものに伴う随伴症状である悪心(吐き気)が正しいと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  再発することが多い。

    前庭神経炎の激しい回転性めまいは、通常は生涯に1回の発作で終わり、繰り返すことは少ない。発作後しばらくふらつきが残ることはあるが、これは再発ではなく、中枢による代償が完成するまでの後遺症状である。めまい発作を繰り返す疾患としてはメニエール病や良性発作性頭位めまい症(BPPV)があり、これらとの鑑別点になる。

  2. ×b.  垂直性の眼振を認める。

    前庭神経炎では、障害されていない健側へ向かう、方向が変わらない水平性(または水平回旋混合性)の眼振がみられる。純粋な垂直性眼振は脳幹や小脳の障害など中枢性病変を示唆する所見であり、末梢性めまいである前庭神経炎には当てはまらない。

  3. ×c.  頭痛をともなう。

    前庭神経炎は第Ⅷ脳神経の前庭枝に限局した障害であり、頭痛は伴わない。急性のめまいに頭痛や後頸部痛を伴う場合は、小脳出血・小脳梗塞や椎骨動脈解離など危険な中枢性疾患を疑う必要がある。

  4. ×d.  難聴をともなう。

    前庭神経炎では蝸牛および蝸牛神経が障害されないため、難聴・耳鳴・耳閉感などの蝸牛症状はみられない。この点が、めまいと難聴を伴うメニエール病やめまいを伴う突発性難聴、内耳炎との重要な鑑別点である。

  5. ○e.  吐き気をともなう。

    片側の前庭機能が急に失われると、左右の前庭からの入力に大きな差が生じ、その情報が脳幹の嘔吐中枢や自律神経系に伝わって、強い悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白などの自律神経症状が起こる。前庭神経炎では激しい回転性めまいとともに強い吐き気・嘔吐を伴うのが典型的である。

前庭神経炎の検査

・温度眼振検査(カロリックテスト):外耳道に冷水・温水などを入れて前庭を刺激する検査で、患側の反応が低下または消失する(半規管麻痺)。診断に重要である。 ・ビデオヘッドインパルス検査(vHIT):頭を素早く回したときの眼の動きを調べ、患側への回転で前庭眼反射が低下し、追いつくための急速な眼球運動(キャッチアップサッケード)がみられる。 ・聴力検査:正常であることを確認する。 ・中枢性疾患が否定できない場合は頭部MRIを行う。

治療と経過

急性期は安静、制吐薬・抗めまい薬の投与、嘔吐が強ければ輸液を行う。副腎皮質ステロイドが用いられることもある。めまいが落ち着いたら、早期から体を動かす前庭リハビリテーションを行い、中枢による代償を促す。多くは数週から数か月で日常生活に支障がなくなるが、ふらつきが長く残ることもある。

主な末梢性めまいの比較

・前庭神経炎:めまいは1回で数日持続、蝸牛症状なし、強い悪心・嘔吐。 ・メニエール病:内リンパ水腫による。数十分~数時間の回転性めまい発作を反復し、変動する低音障害型難聴・耳鳴・耳閉感を伴う。 ・良性発作性頭位めまい症(BPPV):頭位変換で誘発される数十秒程度のめまいを反復、蝸牛症状なし。最も頻度が高い。 ・めまいを伴う突発性難聴:突然の高度難聴とめまい。めまいは通常反復しない。

末梢性と中枢性めまいの鑑別

中枢性を疑う所見:垂直性眼振、方向交代性の注視眼振、頭痛、構音障害・複視・顔面のしびれなどの他の脳神経症状、体幹失調で立てない・歩けない、四肢の麻痺・運動失調。急性めまいでは、頭部インパルス検査・眼振の性状・眼球の上下ずれ(skew deviation)の3項目を組み合わせた診察(HINTS)が中枢性病変の見逃し防止に役立つ。

POINT

・前庭神経炎:突然の激しい回転性めまい(通常1回、数日持続)+強い悪心・嘔吐。 ・難聴・耳鳴などの蝸牛症状はない(メニエール病との鑑別点)。 ・眼振は健側向きの方向固定性水平性(水平回旋混合性)。垂直性眼振は中枢性を疑う。 ・頭痛や他の神経症状を伴えば中枢性疾患を考える。 ・温度眼振検査で患側の反応低下(半規管麻痺)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。