起き上がると20秒ぐるぐる―耳石を「戻す」ことで治す良性発作性頭位めまい症
第120回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。回転性めまいを主訴に来院した。めまいは寝床から起き上がるときや上を向くときに出現する。1回のめまいは20秒くらい持続し,悪心を伴う。難聴や耳鳴の自覚はない。四肢の脱力や感覚障害を認めない。頭位変換眼振検査の所見を下に示す。 この疾患の治療で最も有用なのはどれか。

- a.安静
- b.耳石置換法
- c.利尿薬投与
- d.内リンパ嚢開放術
- e.グルココルチコイド投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
頭位変換で誘発され数十秒で治まる回転性めまいで、難聴・耳鳴などの蝸牛症状も神経症状も伴わなければ、良性発作性頭位めまい症(BPPV)を考えます。懸垂頭位で潜時をおいて回旋性眼振が出現し、座位に戻すと逆向きになるのは最も多い後半規管型の所見で、卵形嚢からはがれた耳石が半規管に迷入していることが原因です。治療の第一選択は耳石を卵形嚢へ戻す耳石置換法(後半規管型ではEpley法など)で、安静は前庭代償を妨げかえって回復を遅らせます。利尿薬や内リンパ嚢開放術はMénière病、グルココルチコイドは突発性難聴や前庭神経炎の治療であり、めまいの持続時間と随伴症状、病態と治療を対応させて整理することが大切です。また、神経症状や非典型的な眼振を伴う場合は中枢性めまいを見逃さない姿勢が臨床では欠かせません。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・48歳女性、回転性めまい(自分や周囲がぐるぐる回る感覚)が主訴である。回転性めまいは内耳や前庭神経など末梢前庭系の障害で生じやすい。 ・めまいは「寝床から起き上がる」「上を向く」といった特定の頭の動き(頭位変換)で誘発される。 ・1回の持続は約20秒と短く、悪心を伴う。 ・難聴・耳鳴といった蝸牛症状(聴覚にかかわる症状)がない。 ・四肢の脱力や感覚障害がなく、脳幹・小脳病変を思わせる神経症状がない。 ・頭位変換眼振検査(座位から仰臥位で頭を垂らした懸垂頭位へ、さらに座位へ戻す検査)では、懸垂頭位で一方向(図上段:時計回り)の回旋性眼振、座位に戻すと逆向き(図下段:反時計回り)の回旋性眼振が出現している。
診断へのプロセス
頭位変換で誘発され、数十秒以内で治まる回転性めまいで、蝸牛症状も中枢神経症状も伴わないという組み合わせは、良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)の典型像である。 鑑別として、Ménière病はめまい発作が数十分〜数時間続き、変動する難聴・耳鳴・耳閉感を伴う点で合わない。突発性難聴に伴うめまいも難聴を欠く本例には当てはまらない。前庭神経炎は聴覚症状を欠く点は共通するが、激しいめまいが数日持続する点で本例と異なる。脳幹・小脳の梗塞や出血などの中枢性めまいは、神経脱落症状がないこと、眼振が頭位変換に一致して短時間出現し向きが逆転するという末梢性の特徴をもつことから否定的である。 頭位変換眼振検査で懸垂頭位にて回旋性(垂直成分を伴う)眼振が数秒の潜時をおいて出現し、座位に戻すと方向が逆転するのは後半規管型BPPVの所見である。図は検者から見た表記で懸垂頭位にて時計回り(患者の左耳側へ向かう回旋)であり、左後半規管型と考えられる。
設問の考え方
BPPVは、卵形嚢の耳石(炭酸カルシウムの結晶)がはがれて半規管内に迷入し、頭位変換のたびに半規管内を移動してリンパ流を起こす(またはクプラに付着して重くする)ことで生じる。したがって治療の要は、迷入した耳石を頭位の操作で半規管から卵形嚢へ戻すこと、すなわち耳石置換法である。
選択肢考察
- ×a. 安静
BPPVでは、めまいを恐れて頭を動かさずにいると耳石が半規管内にとどまりやすく、また中枢の前庭代償(脳がめまいに慣れて補正する働き)も進みにくいため、回復がかえって遅れる。積極的に頭位を変える運動やリハビリテーションを勧めるのが原則であり、安静は有用な治療ではない。
- ○b. 耳石置換法
半規管内に迷入した耳石を、重力を利用した一連の頭位変換で卵形嚢へ戻す方法である。後半規管型にはEpley法(浮遊耳石置換法)やSemont法、外側半規管型にはLempert法(barbecue roll法)やGufoni法などが用いられる。原因そのもの(遊離耳石)を除去する治療であり、後半規管型では1〜数回の施行で多くの例が速やかに改善する。本例は後半規管型BPPVであり、最も有用な治療である。
- ×c. 利尿薬投与
イソソルビドなどの浸透圧利尿薬は、内リンパ液が過剰に貯留した内リンパ水腫を軽減する目的でMénière病に用いられる。BPPVは耳石の迷入による病態であり、内リンパ水腫とは関係しないため適応はない。
- ×d. 内リンパ嚢開放術
内リンパ嚢を開放して内リンパの排出を促し、内リンパ水腫を改善する手術で、生活指導や薬物療法で発作が抑えられない難治性Ménière病に検討される。BPPVの治療ではない。なお保存療法が無効な難治性BPPVでは後半規管遮断術などが選択肢となるが、きわめてまれである。
- ×e. グルココルチコイド投与
グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)は抗炎症作用を期待して突発性難聴や前庭神経炎の急性期に用いられ、Ménière病の急性期にも使われることがある。炎症が病態の主体ではないBPPVには効果が期待できない。
BPPVの概要
・めまい疾患の中で最も頻度が高く、中高年の女性に多い。頭部外傷、長期臥床、加齢、骨粗鬆症などが誘因になるとされるが、多くは原因不明である。 ・病型は障害される半規管で分けられ、後半規管型が最多、次いで外側(水平)半規管型で、前半規管型はまれである。 ・病態には、耳石が半規管内を浮遊する半規管結石症(canalolithiasis)と、耳石がクプラに付着するクプラ結石症(cupulolithiasis)がある。
眼振の特徴
・後半規管型:Dix-Hallpike法や懸垂頭位で、数秒の潜時の後に患側下頭位で患側(下側の耳)へ向かう回旋成分と上眼瞼向きの垂直成分をもつ眼振が出現し、数十秒以内に減衰する。座位に戻すと逆向きの眼振が出る。繰り返すと減弱する(疲労現象)。 ・外側半規管型:仰臥位で頭を左右に向けると水平性の眼振が出る。半規管結石症では地面方向へ向かう方向交代性下向性眼振、クプラ結石症では天井方向へ向かう方向交代性上向性眼振で、後者は持続が長い。
主なめまい疾患の鑑別
・BPPV:頭位変換で誘発、数十秒、蝸牛症状なし。 ・Ménière病:数十分〜数時間の発作を反復、変動する低音障害型感音難聴・耳鳴・耳閉感を伴う。 ・前庭神経炎:先行する上気道炎の後などに突然の激しい回転性めまいが数日持続、蝸牛症状なし。 ・突発性難聴:突然の高度感音難聴で、めまいを伴うことがある。 ・中枢性めまい(小脳・脳幹梗塞など):構音障害、四肢・体幹の失調、感覚障害などの神経症状や、純粋な垂直性眼振・注視方向性眼振などを伴うことがあり、注意を要する。
予後
自然軽快が多いが再発もしばしばみられる。再発時も耳石置換法が有効である。
POINT
・頭位変換で誘発される数十秒の回転性めまいで、蝸牛症状と神経症状を欠けばBPPVを考える。 ・後半規管型では懸垂頭位で回旋性眼振が出現し、座位に戻すと逆転する。 ・治療の第一選択は耳石置換法(後半規管型ではEpley法など)。安静はかえって回復を遅らせる。 ・利尿薬・内リンパ嚢開放術はMénière病、ステロイドは突発性難聴・前庭神経炎の治療であり区別する。
