唇の黒いシミが告げる腸の危機―Peutz-Jeghers症候群のポリープが詰まらせるもの
第120回医師国家試験 A問題 第23問
国試問題にチャレンジ
4歳の女児。口唇,口腔内の色素斑を主訴に母親に連れられて来院した。3歳ごろから口唇,口腔内に黒い色素斑が出現し,徐々に増加してきたため母が不安になり受診した。兄弟姉妹はいない。母と母方の祖父に複数のポリープを大腸に認め,治療歴がある。成長や発達に異常は認めない。口唇,口腔内に径1~5mmの黒い色素斑を認める。患児の下部消化管内視鏡検査の下行結腸像を下に示す。 この疾患の消化器病変で正しいのはどれか。

- a.腺腫である。
- b.悪性化しない。
- c.自然脱落する。
- d.大腸に限局する。
- e.通過障害の原因となる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幼少期からの口唇・口腔粘膜の黒色色素斑と、家族歴のある消化管ポリポーシスの組み合わせはPeutz-Jeghers症候群を示し、STK11遺伝子変異による常染色体顕性遺伝の疾患です。ポリープは平滑筋が樹枝状に入り込む過誤腫性で、食道を除く全消化管、特に小腸に多発し、自然脱落せず年齢とともに増大します。最も重要な合併症は有茎性ポリープを先進部とする腸重積による通過障害と出血で、予防的な内視鏡的切除が行われます。過誤腫でも癌化しうるうえ、膵・乳腺・婦人科臓器・精巣など消化管外の癌リスクも高いため、生涯のサーベイランスが欠かせません。ポリポーシス症候群を組織型・遺伝子・随伴症状で整理しておくことは、年長児の腸重積や若年者の消化管出血の背景疾患を見抜く力につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・4歳の女児。3歳ごろから口唇・口腔粘膜に径1〜5mmの黒色の色素斑が出現し、増えてきている。 ・母と母方祖父に大腸の多発ポリープがあり治療歴がある。親子2世代以上にわたり、男女を問わず発症していることから、常染色体顕性(優性)遺伝のポリポーシスが疑われる。 ・成長・発達は正常である。 ・下部消化管内視鏡では、下行結腸に表面が分葉状の有茎性〜亜有茎性ポリープを認める。
診断へのプロセス
幼少期から口唇・口腔粘膜に多発する黒褐色の色素斑と、家族歴を伴う消化管ポリポーシスの組み合わせは、Peutz-Jeghers症候群に特徴的である。口唇・口腔の色素斑は単純黒子に似るが、口唇の赤唇部をこえて頬粘膜にまで及ぶ点が、通常の雀卵斑(そばかす)との違いである。 消化管ポリポーシスを伴う他疾患との区別では、家族性大腸腺腫症は大腸に多数の腺腫を生じ、皮膚・粘膜の色素斑を伴わない。若年性ポリポーシスは過誤腫性ポリープが多発するが特徴的な色素斑はない。Cronkhite-Canada症候群は中高年に発症する非遺伝性の疾患で、脱毛・爪甲萎縮・皮膚色素沈着と下痢・低蛋白血症を伴う。Cowden病は多発性過誤腫に加え顔面の外毛根鞘腫や口腔粘膜の乳頭腫を伴う。これらとは臨床像が異なる。
設問の考え方
問われているのは本症候群の消化管ポリープの性質である。ポリープの組織型(過誤腫)、悪性化の可能性、自然経過、分布(食道以外の全消化管、特に小腸)、そして合併症(腸重積による通過障害、出血)を整理しておけば選択肢を判断できる。
選択肢考察
- ×a. 腺腫である。
Peutz-Jeghers型ポリープは過誤腫性ポリープである。過誤腫とは、その臓器に本来ある組織成分が異常に増殖・配列したもので、本症では粘膜筋板由来の平滑筋線維が樹枝状に枝分かれして粘膜内に入り込み、その周囲を正常に近い腺上皮が覆う像が特徴的である。腺腫(腫瘍性の上皮増殖)を多発するのは家族性大腸腺腫症である。
- ×b. 悪性化しない。
過誤腫性ポリープではあるが、一部に腺腫成分や異型を生じて癌化することがあり、悪性化しないとはいえない。さらに本症候群では消化管癌(大腸・胃・小腸)だけでなく、膵癌、乳癌、卵巣腫瘍(輪状細管を伴う性索腫瘍)、子宮頸部腺癌、精巣のSertoli細胞腫など消化管外の悪性腫瘍のリスクも一般人口より高く、生涯にわたるサーベイランスが必要である。
- ×c. 自然脱落する。
ポリープは自然に脱落して消失することは期待できず、年齢とともに増大・増加する傾向がある。そのため定期的に内視鏡で観察し、腸重積や出血の原因となりうる大きなポリープは内視鏡的に切除する。
- ×d. 大腸に限局する。
ポリープは食道を除く全消化管(胃・小腸・大腸)に発生し、最も多いのは小腸、特に空腸である。大腸に限局するわけではないため、上部・下部消化管内視鏡に加え、カプセル内視鏡やバルーン小腸内視鏡による小腸の評価が必要となる。
- ○e. 通過障害の原因となる。
有茎性のポリープが大きくなると、蠕動によって先端が引っ張られ、腸管が腸管内へ入り込む腸重積を起こし、腸閉塞(通過障害)となる。好発部位は小腸で、小児期から若年期の腹痛・嘔吐の原因として重要であり、本症の最も代表的な合併症の一つである。ポリープからの出血による貧血も起こる。
Peutz-Jeghers症候群の概要
・原因:がん抑制遺伝子STK11(LKB1)の生殖細胞系列変異。常染色体顕性(優性)遺伝で家族内集積が多いが、新生変異による孤発例もある。 ・皮膚・粘膜病変:口唇、口腔粘膜(頬粘膜を含む)、手掌・足底、指趾に黒褐色の色素斑が乳幼児期から出現する。口唇や皮膚の色素斑は思春期以降に薄くなることが多いが、頬粘膜の色素斑は残りやすい。 ・消化管病変:食道以外の全消化管に過誤腫性ポリープが多発し、小腸に最も多い。有茎性〜亜有茎性で、表面は分葉状を呈することが多い。 ・合併症:腸重積による腸閉塞、消化管出血による貧血。腸重積は小児期から起こり、開腹手術を繰り返す原因となるため、予防的なポリープ切除が重要である。 ・悪性腫瘍:消化管癌のほか、膵癌、乳癌、卵巣・子宮頸部・精巣の腫瘍などのリスクが高い。
管理
・小児期から上部・下部消化管内視鏡と小腸の評価(カプセル内視鏡、バルーン小腸内視鏡など)を定期的に行い、大きなポリープを内視鏡的に切除する。 ・成人後は消化管に加え、乳房・膵・婦人科臓器・精巣などの癌検診を行う。
消化管ポリポーシスの整理
・家族性大腸腺腫症:腺腫性。APC遺伝子、常染色体顕性。大腸に100個以上の腺腫、放置すればほぼ全例が大腸癌になる。 ・Peutz-Jeghers症候群:過誤腫性。STK11、常染色体顕性。口唇・口腔の色素斑。 ・若年性ポリポーシス:過誤腫性。SMAD4・BMPR1Aなど。 ・Cowden病:過誤腫性。PTEN。顔面の外毛根鞘腫、乳癌・甲状腺癌リスク。 ・Cronkhite-Canada症候群:非遺伝性。中高年、脱毛・爪甲萎縮・色素沈着、蛋白漏出。
POINT
・口唇・口腔粘膜の黒色色素斑+家族歴のある消化管ポリポーシス→Peutz-Jeghers症候群(STK11、常染色体顕性遺伝)。 ・ポリープは過誤腫性で、食道以外の全消化管、特に小腸に多発する。 ・最も重要な合併症は腸重積による通過障害(腸閉塞)と出血。 ・ポリープは自然脱落せず、悪性化しうる。消化管外の癌リスクも高く、生涯のサーベイランスが必要。
