繰り返す回転性めまいと低い音の聞こえにくさ―オージオグラムで捉えるMénière病
第119回医師国家試験 C問題 第42問
国試問題にチャレンジ
37歳の女性。めまいと右耳の難聴を主訴に来院した。6か月前から回転性めまい発作を繰り返している。めまいの持続時間は30分から2時間程度で,めまいの際には,悪心,右耳の耳鳴および難聴を伴う。 下に示すオージオグラム(①~⑤)のうちこの患者のオージオグラムはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
数十分〜数時間の回転性めまい発作を反復し、発作に一致して片側の難聴・耳鳴・耳閉感を伴う場合はMénière病を考えます。病態は内リンパ水腫で、低音を担当する蝸牛頂回転側から障害されやすいため、初期には患側の低音障害型(右上がり型)感音難聴を示し、発作のたびに変動しながら次第に水平型・高度難聴へ進行します。オージオグラムでは○が右気導、×が左気導、[と]が骨導を表し、気導と骨導がともに悪く差がなければ感音難聴、骨導正常で気導骨導差があれば伝音難聴と判断します。めまいの鑑別は持続時間・反復性・蝸牛症状の有無で整理でき、BPPV、前庭神経炎、突発性難聴との区別に役立ちます。病歴から診断を絞り、聴力像で裏付けるという流れは、めまい診療の基本となる考え方です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・37歳の女性。主訴はめまいと右耳の難聴。 ・回転性めまいの発作を6か月にわたり繰り返している(反復性)。 ・1回のめまいは30分〜2時間程度続く(数十分〜数時間)。 ・発作時に悪心のほか、右耳の耳鳴と難聴という蝸牛症状(聴覚に関わる内耳の蝸牛の障害による症状)を伴う。
診断に至るプロセス
回転性めまいの鑑別では、①1回の持続時間、②反復するかどうか、③蝸牛症状を伴うかどうか、の3点が手がかりになる。 ・良性発作性頭位めまい症(BPPV):頭の位置を変えたときに誘発され、数秒〜1分程度で治まる。反復するが蝸牛症状はない。 ・前庭神経炎:強いめまいが数日続き、通常は反復しない。蝸牛症状はない。 ・めまいを伴う突発性難聴:突然の高度難聴とともにめまいが生じるが、めまい発作は基本的に反復しない。 ・前庭性片頭痛:数分〜数日のめまいを反復しうるが、片頭痛の既往や頭痛・光過敏などを伴い、蝸牛症状は目立たないことが多い。 本例は「数十分〜数時間のめまい発作を反復し、そのたびに片側の耳鳴・難聴を伴う」という典型的な経過であり、右のMénière病と考えられる。
設問の考え方:オージオグラムの読み方
オージオグラムは、横軸が周波数(左が低音、右が高音)、縦軸が聴力レベル(dB、下ほど聞こえが悪い)である。記号は、○が右気導、×が左気導、[ が右骨導、] が左骨導で、記号に付いた矢印はスケールアウト(検査機器の最大出力でも反応がない)を示す。 ・気導閾値と骨導閾値がほぼ一致して両方とも悪い → 感音難聴(内耳〜聴神経・中枢の障害) ・骨導は正常で気導だけが悪く、気導骨導差(気導と骨導の差)がある → 伝音難聴(外耳・中耳の障害) ・骨導も悪く、さらに気導骨導差もある → 混合性難聴 Ménière病では内リンパ水腫(内耳の内リンパ液が過剰にたまった状態)が蝸牛の頂回転側から生じやすく、病初期には低音域を中心とする感音難聴を示す。したがって、患側である右耳に低音障害型の感音難聴を示すオージオグラムを選べばよい。
選択肢考察
- ○a. ①
右気導(○)は125〜250 Hzで約50 dBと低下し、周波数が上がるにつれて改善して4,000〜8,000 Hzでは約20 dBとほぼ正常になる。右骨導([)も低音域で気導とほぼ同じ値を示し、気導骨導差はない。左耳(×)はほぼ正常範囲である。右の低音障害型(上昇型)感音難聴であり、内リンパ水腫が蝸牛の頂回転(低音を担当する部位)から障害するMénière病の初期の聴力像に合致する。患側も症状の右耳と一致する。
- ×b. ②
右耳(○)は全周波数で15〜20 dB程度と正常である。左耳は気導(×)が低音域で約35〜40 dB、高音域で50〜60 dBと低下し、骨導も気導とほぼ同じ値を示すため、左の感音難聴(高音域でやや悪化する)である。障害が左側である点、また低音障害型ではない点で、右耳の症状を訴える本例とは一致しない。
- ×c. ③
右気導(○)は全周波数で40〜50 dB程度と低下しているが、右骨導([)は15〜20 dB程度と正常で、約25〜30 dBの気導骨導差がある。右の伝音難聴(ほぼ水平型)であり、滲出性中耳炎や慢性中耳炎、耳硬化症など外耳・中耳の病変を考える所見である。Ménière病は内耳の病気であり、伝音難聴ではなく感音難聴を示す。
- ×d. ④
左耳は気導(×)・骨導とも45〜65 dB程度と低下し、気導骨導差のない感音難聴である。右耳も25〜40 dB程度の軽度の感音難聴を示しており、左に強い両側性の感音難聴である。障害が左優位であり、低音障害型でもないため、右のMénière病の初期像には合わない。
- ×e. ⑤
右気導(○)は80 dBから高音域で100 dB以上と著しく低下し、右骨導([)には最大出力でも反応がないことを示す矢印が付いている。右の聾(高度〜重度の感音難聴)であり、左耳はほぼ正常である。Ménière病も発作を長年繰り返すと難聴が進行し全周波数に及ぶことはあるが、発症から6か月の本例でここまで高度になるのは典型的ではない。片側の聾は、高度の突発性難聴、ムンプス難聴、聴神経腫瘍の進行例などで考える所見である。
Ménière病の概要
・病態:内リンパ水腫。原因ははっきりしないが、ストレス、睡眠不足、過労などが誘因になるとされる。30〜50歳代に多く、やや女性に多い。多くは片側性だが、経過中に両側化する例もある。 ・症状:回転性めまい発作(数十分〜数時間)を反復し、発作に一致して患側の難聴・耳鳴・耳閉感が増悪・改善を繰り返す。悪心・嘔吐を伴うことが多い。
診断基準の要点
確定診断には、①20分〜12時間程度続く自発性の回転性めまい発作を2回以上繰り返すこと、②めまい発作の前後や発作中に、患側の低音〜中音域の感音難聴が聴力検査で確認されること、③患側の聴覚症状(難聴・耳鳴・耳閉感)が変動すること、④他の疾患が除外されること、が求められる。
聴力の経過と検査
・初期は低音障害型の感音難聴で、発作のたびに悪化と回復を繰り返す(変動性)。発作を重ねると回復しにくくなり、水平型・高度難聴へと進行していく。 ・内耳性(迷路性)難聴であるため補充現象(小さい音は聞こえにくいのに、大きい音は健常耳と同様にうるさく感じる現象)が陽性となる。 ・内リンパ水腫の推定検査として、グリセロールテスト・フロセミドテスト(浸透圧利尿薬や利尿薬の投与で聴力や前庭機能が改善するか)、蝸電図検査(加重電位SPが大きくなり−SP/AP比が増大する)、ガドリニウム造影剤投与後の内耳MRIによる内リンパ腔拡大の描出がある。 ・発作中は、眼振(多くは水平回旋混合性)がみられ、その向きは発作の時期により変化しうる。
治療
・発作期:安静、制吐薬、抗めまい薬(炭酸水素ナトリウム静注など)、抗不安薬。 ・間欠期・予防:生活指導(十分な睡眠、ストレスの軽減、適度な有酸素運動)、浸透圧利尿薬(イソソルビド)、ビタミンB12、循環改善薬など。 ・難治例:中耳加圧療法、内リンパ嚢開放術、ゲンタマイシン鼓室内注入(前庭機能を化学的に破壊する)、前庭神経切断術など。
低音障害型感音難聴の鑑別
難聴・耳鳴・耳閉感のみでめまいを伴わない低音障害型感音難聴は「急性低音障害型感音難聴」と呼ばれ、蝸牛に限局した内リンパ水腫が関与すると考えられている。反復するうちにめまいを伴うようになり、Ménière病へ移行する例もある。
POINT
・数十分〜数時間の回転性めまい発作を反復+発作に一致した片側の難聴・耳鳴・耳閉感 → Ménière病。 ・Ménière病の初期の聴力像は患側の低音障害型(上昇型)感音難聴で、発作のたびに変動する。進行すると水平型・高度難聴となる。 ・オージオグラムの記号:○右気導、×左気導、[ 右骨導、] 左骨導、矢印はスケールアウト。 ・気導と骨導がともに悪く差がない → 感音難聴。骨導正常で気導骨導差あり → 伝音難聴。 ・めまいの鑑別は持続時間・反復性・蝸牛症状の有無で整理する(BPPV:秒〜分・蝸牛症状なし、前庭神経炎:数日・反復なし・蝸牛症状なし、突発性難聴:反復なし)。
