触れればうつる、治っても残る―感染経路から読み解くエボラウイルス
第118回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
ウイルス発見以後,アフリカ各地で流行が繰り返されてきた。感染者の体液に触れるとウイルスが傷口や粘膜から体内に入り感染する。発熱,倦怠感,頭痛,筋肉痛と咽頭痛などに続いて嘔吐や下痢が出現する。病状回復後も精液内にウイルスが残存することがある。過去の流行における平均の致死率は約50%である。 このウイルスはどれか。
- a.エボラウイルス
- b.ジカウイルス
- c.新型コロナウイルス
- d.デングウイルス
- e.ポリオウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アフリカで流行を繰り返し、感染者の血液・体液への接触で傷口や粘膜から感染し、回復後も精液中にウイルスが残り、平均致死率が約50%と高いウイルスはエボラウイルスです。インフルエンザ様の初期症状に続いて嘔吐・下痢が現れ、重症例ではDICや多臓器不全を起こしますが、出血症状を欠く例も少なくありません。選択肢のウイルスは感染経路で整理すると鑑別しやすく、ジカ・デングは蚊媒介、新型コロナは飛沫・エアロゾル、ポリオは糞口感染です。エボラ出血熱は感染症法の一類感染症で、診断後ただちに届け出て指定医療機関に入院させます。感染経路・流行地・致死率という軸で病原体を整理しておくことは、渡航者の発熱診療や院内感染対策の基礎になります。
解答・解説
正解はaです
問題文に示された特徴を一つずつ整理すると、病原体を絞り込める。 【感染経路】感染者の血液・体液に直接触れ、皮膚の傷や粘膜からウイルスが侵入する「接触感染」である。蚊が媒介する感染(ジカ、デング)、飛沫・エアロゾル感染(新型コロナ)、糞口感染(ポリオ)とは明確に異なる。 【流行地域】ウイルスの発見(1976年)以降、アフリカで繰り返し流行している。 【症状】発熱・倦怠感・頭痛・筋肉痛・咽頭痛といったインフルエンザ様の初期症状に続き、嘔吐・下痢などの消化器症状が現れる。 【回復後】病状が回復した後も精液中に長期間ウイルスが残ることがあり、性行為による感染が報告されている。 【致死率】過去の流行の平均で約50%と非常に高い。 アフリカでの反復流行、体液への接触による感染、回復後の精液中への残存、約50%という高い致死率を同時に満たすのはエボラウイルスである。他の選択肢はいずれも近年話題になった感染症だが、感染経路を思い出すだけでも除外できる。
選択肢考察
- ○a. エボラウイルス
フィロウイルス科のRNAウイルスで、エボラウイルス病(エボラ出血熱)を起こす。1976年に中部アフリカで初めて確認され、その後アフリカで流行を繰り返してきた。2014〜2016年の西アフリカでの大流行では、患者数が約2万8千人、死者が1万人を超えた。感染者の血液・体液や遺体に直接触れることで、傷口や粘膜からウイルスが侵入する。2〜21日の潜伏期を経て、発熱・倦怠感・頭痛・筋肉痛・咽頭痛で発症し、続いて嘔吐・下痢が出現する。重症例では出血傾向や多臓器不全を起こす。回復後も精液などにウイルスが長く残ることがある。平均致死率は約50%(流行により25〜90%)である。問題文の記述にすべて当てはまる。
- ×b. ジカウイルス
フラビウイルス科のウイルスで、主にネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊が媒介する。性行為や母子感染でもうつる。不顕性感染が多く、発症しても軽い発熱・皮疹・結膜充血・関節痛・筋肉痛・頭痛などで軽く済むことがほとんどである。精液中にウイルスが残る点は問題文と共通するが、致死率は極めて低い。問題となるのは、妊娠中の感染による胎児の小頭症などの先天異常(先天性ジカウイルス感染症)と、ギラン・バレー症候群の合併である。感染経路と致死率から否定できる。
- ×c. 新型コロナウイルス
SARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)はCOVID-19の原因ウイルスで、飛沫・エアロゾル・接触で感染する。症状は発熱・咽頭痛・咳嗽・鼻汁などの上気道症状が中心で、嗅覚障害や味覚障害を伴うこともある。2019年末に中国で初めて確認された後、世界的に大流行した。「アフリカで繰り返し流行」という経過とは合わない。2022年にオミクロン株が主流になってからは重症化率・致死率が下がっており、約50%という致死率とはかけ離れている。
- ×d. デングウイルス
フラビウイルス科のウイルスで、ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。熱帯・亜熱帯の広い地域、特に東南アジアや中南米で流行する。発熱・頭痛・眼窩後部痛・筋肉痛・関節痛・発疹がみられ、検査では白血球減少・血小板減少・肝酵素上昇を示す。血清型が4つあり、前回と異なる血清型に再感染すると、血漿漏出や出血を伴う重症型デング(デング出血熱・デングショック症候群)になりやすい。適切に治療すれば致死率は低い。蚊媒介である点と、ヒトの体液への接触で感染しない点から否定できる。
- ×e. ポリオウイルス
ピコルナウイルス科エンテロウイルス属のウイルスで、糞口(経口)感染する。感染者の大半(9割以上)は不顕性感染で、麻痺が出るのは0.1〜1%程度にすぎない。発症すると脊髄前角の運動神経細胞が障害され、非対称性の急性弛緩性麻痺が起こる。麻痺した患者の一部は呼吸筋麻痺で死亡するが、感染者全体の致死率が約50%になることはない。ワクチンの普及で野生株の流行はパキスタン・アフガニスタンなどに限られている。消化器症状と体液を介した接触感染、高い致死率という問題文の特徴とは合わない。
エボラウイルス病の概要
・病原体:フィロウイルス科オルソエボラウイルス属。ザイール、スーダン、ブンディブギョなど複数の種がある。 ・自然宿主:オオコウモリ類と考えられている。感染した野生動物(サル類など)との接触や、その肉の処理でヒトに入り、その後ヒトからヒトへ広がる。 ・感染経路:患者の血液・体液・排泄物や、汚染された物、遺体への直接接触。空気感染は基本的に起こさない。医療従事者への院内感染や、葬儀で遺体に触れる習慣が流行拡大の要因になってきた。 ・臨床像:潜伏期は2〜21日。突然の発熱、全身倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭痛で始まり、嘔吐・下痢・腹痛、発疹、肝・腎障害が続く。重症例では播種性血管内凝固(DIC)による出血や多臓器不全を起こす。「出血熱」という名前だが、出血症状がみられない例も多い。 ・回復後:精液、眼房水、母乳などに長くウイルスが残ることがあり、回復者からの性行為感染が報告されている。 ・治療・予防:ザイール型に対するモノクローナル抗体製剤や、ワクチン(rVSV-ZEBOV)が実用化されている。
日本の感染症法上の位置づけ
エボラ出血熱は一類感染症で、ほかにクリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱が含まれる。診断したらただちに届け出る。患者は特定または第一種感染症指定医療機関に入院させる。
選択肢のウイルスと感染経路
・接触感染(体液):エボラウイルス ・蚊媒介:ジカウイルス、デングウイルス(いずれもフラビウイルス科) ・飛沫・エアロゾル・接触:新型コロナウイルス ・糞口感染:ポリオウイルス
精液中への残存がよく問われるウイルス
エボラウイルスとジカウイルスは、回復後も精液中にウイルスが残り、性行為で感染しうる。そのため、流行地から帰国した人に一定期間の性行為の自粛やコンドームの使用が勧められる。
POINT
・アフリカで反復流行、体液への接触で感染、回復後も精液中に残存、致死率約50% → エボラウイルス ・エボラ出血熱は感染症法の一類感染症である。 ・ジカ、デングは蚊媒介、新型コロナは飛沫・エアロゾル感染、ポリオは糞口感染である。 ・ジカウイルスは妊娠中の感染で胎児の小頭症を、デングウイルスは異なる血清型への再感染で重症化を起こす。
