自己導尿は「1日1回」では足りない―膀胱を守る導尿の基本と落とし穴
第105回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
導尿で誤っているのはどれか。
- a.在宅自己導尿は通常1日1回行う。
- b.持続導尿では尿道バルーンカテーテルを留置する。
- c.膀胱結石はカテーテルを長期留置した場合にみられる。
- d.男性では陰茎を上方に牽引しながらカテーテルを挿入する。
- e.尿閉で経尿道的にカテーテルを挿入できない場合は膀胱穿刺を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
導尿には一時的(間欠的)導尿、バルーン付き尿道カテーテルを用いる持続導尿、そして経皮的な膀胱穿刺・膀胱瘻があります。在宅での清潔間欠自己導尿は膀胱の過伸展を防ぐため、1回量が400〜500mLを超えないよう1日数回(一般に4〜6回程度)行うのが原則で、「1日1回」は誤りです。長期留置ではウレアーゼ産生菌による尿のアルカリ化でストルバイトなどの感染結石が生じやすく、尿路感染や尿道損傷も問題となります。男性への挿入時は陰茎を上方に牽引して尿道の屈曲をまっすぐにし、留置後は下腹部側に固定します。経尿道的に挿入できない尿閉では無理をせず膀胱穿刺・膀胱瘻を選び、尿閉と無尿を区別することも含め、日常診療で必ず使う基本手技として理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はaです
導尿とは、尿道や腹壁からカテーテル(細い管)を膀胱へ入れて尿を体外へ出す手技である。大きく次の3つに分けて整理すると理解しやすい。
1. 一時的(間欠的)導尿
必要なときだけカテーテルを入れ、尿を出したらすぐ抜く方法である。医療者が行う単回導尿のほか、患者自身が行う清潔間欠自己導尿(clean intermittent catheterization:CIC)がある。CICは神経因性膀胱などで自力では膀胱を十分に空にできない患者に行われ、膀胱が過度に膨らまないよう1日に数回(一般的には4〜6回程度)、決まった間隔で行う。
2. 持続導尿(カテーテル留置)
先端にバルーンの付いた尿道カテーテル(Foleyカテーテル)を膀胱内に留置し、尿を持続的に排出させる方法である。便利だが、留置期間が長いほど尿路感染や結石、尿道損傷などの合併症が増える。
3. 経皮的な膀胱へのアプローチ
尿道からカテーテルが入らない場合(尿道狭窄、尿道外傷、高度の前立腺肥大症など)に、恥骨上から膀胱を穿刺して排尿路を確保する(膀胱穿刺・膀胱瘻造設)。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。自己導尿の回数は1日1回では足りず、1日数回行うのが原則であるという点を押さえていれば正解にたどり着ける。そのほかの選択肢は、カテーテル留置の方法・合併症・挿入手技・挿入困難時の対処として、いずれも妥当な記述である。
選択肢考察
- ○a. 在宅自己導尿は通常1日1回行う。
誤った記述であり、本問の正解である。在宅での清潔間欠自己導尿(CIC)は、神経因性膀胱などで自然排尿ができない、あるいは残尿が多い患者に行う。成人の1日尿量はおよそ1,000〜1,500 mLあり、1日1回の導尿では膀胱に尿がたまりすぎてしまう。膀胱が過伸展すると膀胱壁の血流が低下して感染を起こしやすくなり、膀胱内圧の上昇によって膀胱尿管逆流や水腎症を招き、腎機能を損なうおそれがある。そのため1回の導尿量が400〜500 mLを超えない程度を目安に、1日数回(一般的に4〜6回程度)行う。自然排尿がある程度保たれている場合は、残尿量に応じて回数を減らすことがある。
- ×b. 持続導尿では尿道バルーンカテーテルを留置する。
正しい記述である。持続導尿では、先端近くに小さなバルーンを備えた尿道カテーテル(Foleyカテーテル)を膀胱まで入れ、バルーンを滅菌蒸留水で膨らませて固定する。バルーンが膀胱頸部に引っかかるため自然に抜けにくい。尿閉が続く場合、手術中・術後の尿量管理、重症患者の時間尿量測定などで用いられる。なお、バルーンは必ずカテーテルが膀胱内に入って尿の流出を確認してから膨らませる。尿道内で膨らませると尿道損傷を起こす。
- ×c. 膀胱結石はカテーテルを長期留置した場合にみられる。
正しい記述である。カテーテルを長期間留置すると、カテーテル表面に細菌が付着して膜(バイオフィルム)を作り、慢性的な細菌尿となる。Proteus属などのウレアーゼ産生菌は尿素を分解してアンモニアを作り、尿をアルカリ性に傾ける。アルカリ尿ではリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP、ストルバイト)やリン酸カルシウムが析出しやすく、これがカテーテルやバルーンの周囲に沈着して膀胱結石やカテーテル閉塞の原因となる(感染結石)。長期留置の合併症としては、ほかに尿路感染症、尿道損傷・尿道狭窄、萎縮膀胱なども重要である。
- ×d. 男性では陰茎を上方に牽引しながらカテーテルを挿入する。
正しい記述である。男性の尿道は約16〜20 cmと長く、陰茎が垂れ下がった状態では陰茎と陰嚢の境界付近で下向きに曲がっている。挿入時は、利き手でない方の手で陰茎を持ち、体幹に対してほぼ垂直になるよう上方へ引き上げる。こうすると前部尿道の屈曲がまっすぐになり、カテーテルが進みやすくなる(親指と人差し指で外尿道口を広げながら挿入する)。途中で抵抗を感じたら、陰茎を足側へ倒して後部尿道の走行に合わせ、さらに進める。なお、留置後にカテーテルを大腿に固定して陰茎を下向きに引っ張ったままにすると、陰茎陰嚢移行部の尿道が圧迫されて潰瘍や瘻孔ができることがある。そのため男性ではカテーテルを下腹部側(上向き)に固定するのが基本である。
- ×e. 尿閉で経尿道的にカテーテルを挿入できない場合は膀胱穿刺を行う。
正しい記述である。尿閉(膀胱に尿がたまっているのに自力で出せない状態)では、まず経尿道的なカテーテル挿入を試みる。尿道狭窄、尿道外傷(特に骨盤骨折に伴う後部尿道損傷)、高度の前立腺肥大症などで挿入できないときに無理を重ねると、偽尿道(誤った通り道)の形成や出血、損傷の悪化を招く。このような場合は、膀胱が十分に拡張していることを超音波で確かめたうえで、恥骨の上から膀胱を穿刺して尿を排出し、必要に応じて膀胱瘻を造設する。尿道外傷が疑われる場合は、経尿道的カテーテル挿入そのものを試みずに膀胱瘻を選ぶことも多い。
尿閉と無尿の違い
尿閉は、腎臓で作られた尿が膀胱に貯留しているのに、排出できない状態である。下腹部の膨隆・緊満、強い尿意や下腹部痛がみられ、超音波で膀胱に大量の尿を確認できる。原因は前立腺肥大症、尿道狭窄、神経因性膀胱、抗コリン薬などの薬剤、術後などである。 無尿は、腎臓で尿がほとんど作られない(1日尿量100 mL未満)状態で、膀胱は空である。導尿をしても尿は得られず、腎不全や両側尿路閉塞の評価が必要となる。
清潔間欠自己導尿(CIC)
神経因性膀胱(脊髄損傷、二分脊椎、糖尿病性神経障害など)や多量の残尿がある患者に行う。完全な無菌操作は必要なく、手洗いと陰部の清拭で行う「清潔」操作で十分とされる。膀胱を定期的に空にすることで、長期のカテーテル留置に比べて尿路感染や結石、上部尿路障害のリスクを減らせる点が最大の利点である。回数は1日数回(一般的に4〜6回)で、1回導尿量が400〜500 mL程度を超えないように調整する。
尿道カテーテル留置の主な合併症
・尿路感染症(カテーテル関連尿路感染症):留置日数に比例してリスクが上がる ・膀胱結石、カテーテル閉塞:ウレアーゼ産生菌による尿のアルカリ化でMAP結石が生じやすい ・尿道損傷、尿道狭窄、偽尿道 ・陰茎陰嚢移行部の潰瘍・瘻孔:カテーテルを下方へ固定した場合に起こりやすい ・萎縮膀胱:膀胱が長く空の状態に保たれることによる
経尿道的カテーテル挿入が困難なときの対処
経験のある医師による再挿入や、カテーテルの種類の変更(先端が曲がったチーマンカテーテルなど)を検討し、それでも困難であれば膀胱穿刺・膀胱瘻造設を行う。強引な操作の繰り返しは避ける。
POINT
・在宅自己導尿(CIC)は1日1回ではなく1日数回(4〜6回程度)行い、膀胱の過伸展を防ぐ。 ・持続導尿ではバルーン付き尿道カテーテル(Foleyカテーテル)を留置する。 ・長期留置の合併症は尿路感染と膀胱結石(MAP結石)が代表的である。 ・男性への挿入時は陰茎を上方へ引き上げて尿道の屈曲をまっすぐにする。留置後は下腹部側に固定する。 ・経尿道的に入らない尿閉には膀胱穿刺・膀胱瘻造設で対応する。 ・尿閉(尿はあるが出せない)と無尿(尿が作られない)を区別する。
