膿性痰とGram染色が語る―健常成人の市中肺炎、二大起炎菌を見抜く
第105回医師国家試験 A問題 第51問
国試問題にチャレンジ
56歳の男性。発熱と膿性痰とを主訴に来院した。3日前から38℃台の発熱と膿性痰とを認めている。既往歴と家族歴とに特記すべきことはない。胸部エックス線写真にて右下肺野に浸潤影を認める。喀痰のGram染色で好中球と菌体とを多数認める。 考えられる起炎菌はどれか。2つ選べ。
- a.Chlamydophila(Chlamydia)pneumoniae
- b.Haemophilus influenzae
- c.Klebsiella pneumoniae
- d.Mycoplasma pneumoniae
- e.Streptococcus pneumoniae
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
基礎疾患のない成人が発熱と膿性痰で発症し、喀痰Gram染色で好中球と多数の菌体を認める場合は、市中の細菌性肺炎と考えます。その二大起炎菌は、Gram陽性双球菌の肺炎球菌と、Gram陰性短桿菌のインフルエンザ菌です。マイコプラズマ(細胞壁なし)や肺炎クラミジア(偏性細胞内寄生)は非定型肺炎の病原体でGram染色では確認できず、肺炎桿菌は糖尿病・アルコール多飲・高齢者など危険因子のある人で考える菌です。発症の場、宿主背景、Gram染色像を組み合わせて起炎菌を推定する考え方は、適切な初期抗菌薬選択の基本となります。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・56歳の男性、既往歴・家族歴に特記事項なし:基礎疾患のない成人であり、病院外で発症している。つまり健常成人の市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)である。 ・3日前からの38℃台の発熱と膿性痰:急性の下気道感染を示す。膿性痰は好中球が多く含まれる痰で、一般細菌による感染を強く示唆する。 ・胸部エックス線写真で右下肺野に浸潤影:肺炎である。 ・喀痰Gram染色で好中球と菌体を多数認める:Gram染色で見える一般細菌が原因であり、白血球が菌を貪食している状況がうかがえる。
診断へのプロセス
肺炎を診たら、まず「市中肺炎か院内肺炎か」「基礎疾患の有無」を確認し、次に「細菌性肺炎か非定型肺炎か」を考えて原因微生物を推定する。 本例は健常成人の市中肺炎で、膿性痰があり、Gram染色で菌体が多数見えることから、非定型肺炎ではなく細菌性肺炎である。日本の成人市中肺炎(細菌性)の起炎菌として最も多いのは肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)で、次いでインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)である。
設問の考え方
選択肢のうち、Mycoplasma pneumoniae と Chlamydophila pneumoniae は非定型肺炎の病原体で、Gram染色では菌体を確認できない。Klebsiella pneumoniae は細菌性肺炎の起炎菌であるが、糖尿病・アルコール多飲・高齢者など宿主側に危険因子がある場合に考える菌で、基礎疾患のない成人の第一候補ではない。したがって、肺炎球菌とインフルエンザ菌の2つを選ぶ。実際の診療では、Gram染色でGram陽性双球菌(肺炎球菌)かGram陰性短桿菌(インフルエンザ菌)かを見分け、抗菌薬選択に役立てる。
選択肢考察
- ×a. Chlamydophila(Chlamydia)pneumoniae
肺炎クラミジアは細胞内でしか増殖できない偏性細胞内寄生性の細菌で、非定型肺炎の代表的な原因微生物である。細胞の中に存在し、Gram染色では菌体として観察できない。非定型肺炎では痰が少ないことが多く、膿性痰とGram染色で多数の菌体を認める本例には合わない。診断には血清抗体価や抗原・核酸検出を用いる。
- ○b. Haemophilus influenzae
インフルエンザ菌はGram陰性の短桿菌で、肺炎球菌に次いで多い成人市中細菌性肺炎の起炎菌である。膿性痰とGram染色で多数の菌体を認める本例の所見に合う。慢性閉塞性肺疾患(COPD)など慢性呼吸器疾患のある人や喫煙者では特に頻度が高い。βラクタマーゼ産生菌やβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性菌(BLNAR)が存在するため、抗菌薬選択に注意が必要である。
- ×c. Klebsiella pneumoniae
肺炎桿菌は莢膜をもつGram陰性桿菌で、糖尿病、アルコール多飲者、高齢者、免疫能の低下した人などに肺炎を起こしやすい。院内肺炎の起炎菌としても重要である。基礎疾患のない健常成人の市中肺炎で最初に想定する菌ではない。典型例では粘稠な赤褐色(レンガ色)の痰や、上葉に多い大葉性肺炎、葉間裂の膨隆(bulging fissure sign)がみられる。
- ×d. Mycoplasma pneumoniae
肺炎マイコプラズマは細胞壁をもたない細菌で、Gram染色では染まらない。非定型肺炎の代表で、若年者に多く、頑固な乾性咳嗽が目立つ一方で痰は少ない。膿性痰があり、Gram染色で多数の菌体を認める本例の所見とは合わない。細胞壁をもたないためβラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系を用いる。
- ○e. Streptococcus pneumoniae
肺炎球菌は成人市中肺炎の起炎菌として最も頻度が高い。Gram陽性の双球菌(ランセット形の球菌が2個並ぶ)で、周囲に莢膜による透明帯(halo)がみられる。急な高熱、膿性・さび色痰、大葉性肺炎像を呈しやすく、本例の所見によく合う。尿中抗原検査も迅速診断に有用である。
成人肺炎の分類と想定する原因微生物
・市中肺炎(健常成人):肺炎球菌、インフルエンザ菌が主。ほかにモラクセラ・カタラーリス、非定型病原体(マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラ)など。 ・基礎疾患のある人・高齢者:上記に加え、肺炎桿菌などのGram陰性桿菌、黄色ブドウ球菌、誤嚥に関連した口腔内嫌気性菌。 ・院内肺炎:緑膿菌、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、腸内細菌科細菌など耐性菌が問題となる。
細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別(日本呼吸器学会の市中肺炎ガイドラインの6項目)
1. 年齢60歳未満 2. 基礎疾患がない、あるいは軽微 3. 頑固な咳がある 4. 胸部聴診上所見が乏しい 5. 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない 6. 末梢血白血球数が10,000/μL未満 6項目中4項目以上を満たせば非定型肺炎を疑い、3項目以下なら細菌性肺炎を疑う。本例は年齢・基礎疾患の2項目のみ該当し、膿性痰とGram染色で菌が見えることから細菌性肺炎と判断できる。
Gram染色で見える主な起炎菌の形態
・肺炎球菌:Gram陽性双球菌(莢膜をもつ) ・黄色ブドウ球菌:Gram陽性球菌、ぶどうの房状 ・インフルエンザ菌:Gram陰性短桿菌(小さく多形性) ・モラクセラ・カタラーリス:Gram陰性双球菌 ・肺炎桿菌:太いGram陰性桿菌(莢膜が厚い) ・マイコプラズマ(細胞壁なし)、クラミジア(細胞内寄生)、レジオネラ(染まりにくい)はGram染色での同定が困難。
POINT
・健常成人の市中細菌性肺炎の二大起炎菌は肺炎球菌とインフルエンザ菌である。 ・膿性痰があり、喀痰Gram染色で好中球と菌体を多数認めれば細菌性肺炎を考える。 ・マイコプラズマ、クラミジアは非定型肺炎の病原体で、Gram染色で菌体を確認できない。 ・肺炎桿菌は糖尿病、アルコール多飲、高齢者など宿主因子のある人で考える。
