StudyMed医師国家試験

4歳児の頻回なげっぷ―pHモニタリングが証明する胃食道逆流症と治療の階段

第105回医師国家試験 A問題 第52問

国試問題にチャレンジ

第105回 A問題 第52問

4歳の男児。頻回のげっぷを主訴に来院した。半年前から次第にげっぷの回数が増えてきた。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知せず,圧痛を認めない。24時間下部食道pHモニタリングの結果を別に示す。  この疾患に対する有効な治療法はどれか。2つ選べ。

第105回 A問題 第52問の問題画像
  1. a.手術
  2. b.食後臥位
  3. c.鎮痙薬投与
  4. d.カウンセリング
  5. e.酸分泌抑制薬投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児の頻回なげっぷから病態を見抜き、有効な治療を選ぶ問題だ。カギになるのは24時間下部食道pHモニタリングの読み方。身体所見はほぼ正常だから、この検査が診断の決め手になる。まず、この検査で何を見ているかわかるかな。
医学生医学生
食道の下のほうにセンサーを置いて、胃酸が上がってきていないかを1日中記録する検査ですよね。
ドクタードクター
その通り。正常の食道内pHはおおむね6〜7で、pHが4未満に下がったら胃酸が逆流してきた目安と考える。この症例では、日中を中心にpH4未満への低下が頻回に、しかも長時間繰り返されている。夜間は比較的安定しているけれど、明け方以降にまた下がっているね。
医学生医学生
酸の逆流が病的に多いということなので、胃食道逆流症でしょうか。
ドクタードクター
正解。pH4未満の時間が長いことで、病的な酸逆流が客観的に示されている。げっぷが増えたのは、食道胃接合部の逆流防止機構がうまく働いていないことや、逆流の不快感で空気を飲み込んでしまうことを反映していると考えられる。
医学生医学生
小児科の講義で、乳児の吐き戻しはよくあるけど多くは自然に治ると習いました。4歳でも続くのは珍しいんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。乳児は下部食道括約筋が未熟で、食道の腹腔内部分が短く、寝ている時間が長くて食事も液体が多い。だから生理的な逆流がよくみられ、多くは1歳前後までに改善する。4歳で症状が続き、検査で病的な逆流が証明されているなら、治療の対象と考えるべきだ。
医学生医学生
心理的なストレスで空気を飲み込んでいるだけ、という可能性はないですか。
ドクタードクター
空気嚥下症は鑑別に挙がるね。でも、それではここまで食道内pHが下がることは説明できない。食道アカラシアや先天性食道狭窄症も鑑別になるけれど、これらは嚥下困難が主体で、やはり酸の逆流所見とは合わない。だからカウンセリングで逆流そのものを治すことはできず、有効な治療とはいえないんだ。
医学生医学生
では、治療はまず薬ですか。PPIを思い浮かべました。
ドクタードクター
そう、酸分泌抑制薬が薬物療法の中心だ。プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬は、逆流そのものを止めるわけではないけれど、逆流してくる胃内容の酸性度を下げる。それで食道粘膜の傷害と症状を抑えることができる。
医学生医学生
鎮痙薬も、消化管のけいれんを抑えるなら効きそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいポイントだ。抗コリン薬などの鎮痙薬は平滑筋を緩めるから、下部食道括約筋の圧を下げてしまう。さらに胃の排出も遅らせる。どちらも逆流を増やす方向に働くから、胃食道逆流症ではむしろ悪化させる。補助的に使うなら、胃の排出を促す消化管運動改善薬のほうだね。
医学生医学生
薬理学で習った抗コリン薬の副作用がそのまま効いてくるんですね。食後に横になるのも、重力を考えると逆効果ですよね。
ドクタードクター
その通り。食後すぐ横になると胃内容が食道へ戻りやすくなる。食後しばらくは座位や上体を起こした姿勢を保ち、寝るときも上半身を少し挙げるのが勧められる。では、もう一つの正解である手術はどんなときに選ぶと思う?
医学生医学生
薬で良くならないときでしょうか。
ドクタードクター
そう。内科的治療で改善しない難治例、食道炎による狭窄や出血、誤嚥性肺炎や喘息のような呼吸器合併症を繰り返す例、体重が増えない例、食道裂孔ヘルニアを合併する例などが手術の適応だ。代表的なのはNissen法の噴門形成術で、胃底部を食道下部に巻き付けて逆流防止機構をつくり直す。最近は腹腔鏡下で行われることが多い。
医学生医学生
第一選択ではないけれど、有効な治療法であることには変わりない、ということですね。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。治療は、体位や生活の工夫、酸分泌抑制薬を中心とした薬物療法、そして難治例や合併症例への噴門形成術、という階段で考えるといい。臨床で注意したいのは、重症心身障害児や食道閉鎖症術後の子どもでは逆流が高頻度で重症化しやすいこと。反復する肺炎や原因不明の喘鳴、体重増加不良の裏に胃食道逆流症が隠れていることもあるから、呼吸器症状だけを見て見逃さないようにしよう。最近はpHに加えて酸以外の逆流も捉えられる多チャンネルインピーダンス・pHモニタリングも使われているよ。

まとめ

24時間食道pHモニタリングでpH4未満となる時間が長ければ、病的な酸逆流があると判断でき、胃食道逆流症と診断できます。治療は、食後の臥位を避け上体を挙上するなどの体位・生活指導、酸分泌抑制薬(PPIやH2受容体拮抗薬)を中心とした薬物療法、そして内科的治療抵抗例や合併症例に対する噴門形成術(Nissen法など)という段階で進めます。鎮痙薬は下部食道括約筋圧を下げ胃排出を遅らせるため逆流を悪化させ、心理的アプローチでは逆流そのものは改善しません。乳児期の生理的逆流と区別し、反復する呼吸器症状や体重増加不良の背景にある胃食道逆流症に気づくことが、小児診療では特に重要です。

解答・解説

正解はa, eです

所見の整理

・4歳の男児、半年前から次第に増えてきた頻回のげっぷ:慢性的に経過する上部消化管症状であり、胃内容や空気が食道側へ戻りやすい状態、すなわち食道胃接合部の逆流防止機構の障害を疑う。 ・心音・呼吸音に異常なし:心疾患や、逆流に伴う誤嚥性肺炎・喘息様症状などの呼吸器合併症は現時点でははっきりしない。 ・腹部は平坦・軟、肝脾腫なし、圧痛なし:腹腔内腫瘤による圧迫や腹膜炎などの炎症性疾患は考えにくい。 ・24時間下部食道pHモニタリング:食道下部に留置したセンサーで食道内pHを連続記録する検査で、正常の食道内pHはおおむね6〜7である。本例では、日中(8時〜20時頃)を中心に、胃酸逆流の目安であるpH 4未満への低下が頻回かつ長時間にわたって繰り返されている。夜間は比較的安定しているが、明け方以降にも再び低下がみられる。

診断へのプロセス

食道内pHが4未満となる時間が長く、酸の逆流が病的に多いことが客観的に示されており、胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)と診断できる。頻回のげっぷは、逆流防止機構の機能不全と、逆流に伴う不快感による空気嚥下を反映した症状と考えられる。 鑑別として、食道アカラシア(下部食道括約筋の弛緩不全で、嚥下困難や食物の口腔内逆流が主体。学童期以降に多い)、先天性食道狭窄症(離乳食開始の頃から固形物の嚥下障害)、心理的要因による空気嚥下症などが挙がる。しかしこれらでは、本例のような食道内pHの著しい低下は説明できない。

設問の考え方

GERDの治療は、(1)生活・体位の工夫、(2)薬物療法(酸分泌抑制薬、消化管運動改善薬)、(3)内科的治療で効果がない例や合併症のある例に対する外科手術(噴門形成術)の段階を踏む。この流れに沿って有効な治療法を選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  手術

    薬物療法などの内科的治療を行っても改善しない難治例、食道炎による狭窄・出血、反復する誤嚥性肺炎や喘息などの呼吸器合併症、体重増加不良を伴う例、食道裂孔ヘルニアを合併する例などでは手術の適応となる。胃底部(穹窿部)を食道下部に巻き付けて逆流防止機構を再建する噴門形成術(Nissen法が代表的)を行い、近年は腹腔鏡下で行われることが多い。第一選択ではないが、GERDに対する有効な治療法である。

  2. ×b.  食後臥位

    食後すぐに横になると、重力による胃内容の保持が働かず、胃内容が食道へ逆流しやすくなる。GERDでは逆に、食後しばらくは座位や上半身を起こした姿勢を保ち、就寝時も上体を挙上することが勧められる。

  3. ×c.  鎮痙薬投与

    鎮痙薬(抗コリン薬など)は消化管平滑筋を弛緩させるため、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)の圧を下げ、さらに胃の排出を遅らせる。いずれも逆流を増やす方向に働き、GERDを悪化させる。GERDではむしろ、胃の排出を促進する消化管運動改善薬が補助的に用いられることがある。

  4. ×d.  カウンセリング

    心理的ストレスによる空気嚥下症であれば心理的アプローチが有用な場合もあるが、本例は24時間pHモニタリングで病的な酸逆流が証明されており、原因は下部食道の逆流防止機構の障害である。カウンセリングで逆流そのものを改善することはできず、有効な治療法とはいえない。

  5. ○e.  酸分泌抑制薬投与

    逆流そのものを止めるわけではないが、逆流する胃内容の酸性度を下げることで、食道粘膜の障害(逆流性食道炎)とそれに伴う症状を抑える。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬が用いられ、GERD薬物療法の中心である。

胃食道逆流症(GERD)の概要

胃内容(主に胃酸)が食道へ逆流し、症状や合併症をきたす疾患の総称である。内視鏡で食道粘膜のびらん・潰瘍を認めるものを逆流性食道炎(びらん性GERD)、症状はあるが粘膜傷害を認めないものを非びらん性胃食道逆流症(NERD)とよぶ。

小児のGERD

・乳児では、LESの未熟さ、食道の腹腔内部分が短いこと、臥位で過ごす時間が長いこと、液体の食事が多いことなどから、生理的な逆流(溢乳)がよくみられ、多くは1歳前後までに自然に改善する。体重増加不良や呼吸器症状などを伴う病的なものがGERDである。 ・症状:嘔吐・溢乳、げっぷ、胸やけ・腹痛、体重増加不良、吐血・貧血、反復する肺炎・喘鳴・慢性咳嗽、無呼吸発作など。 ・重症心身障害児、食道閉鎖症術後、食道裂孔ヘルニアなどでは高頻度で重症化しやすい。

診断法

・24時間食道pHモニタリング:食道内pH 4未満の時間の割合(pH<4時間率)で酸逆流の程度を評価する。近年はpHに加えて非酸性の逆流も検出できる多チャンネルインピーダンス・pHモニタリングも用いられる。 ・上部消化管造影:逆流の有無や食道裂孔ヘルニアなどの形態異常の評価。 ・上部消化管内視鏡:食道炎の有無と重症度の評価。

治療の段階

1. 生活指導・体位療法:食後の臥位を避ける、就寝時の上体挙上、少量頻回の食事、乳児では授乳後の排気や増粘ミルク、肥満の是正など。 2. 薬物療法:酸分泌抑制薬(PPI、H2受容体拮抗薬)が中心。消化管運動改善薬や粘膜保護薬を併用することもある。 3. 外科治療:内科的治療抵抗例や合併症例に噴門形成術(Nissen法など)。

POINT

・24時間食道pHモニタリングでpH 4未満の時間が長ければ、病的な酸逆流(GERD)である。 ・GERDの治療は、体位・生活指導 → 酸分泌抑制薬(PPI、H2受容体拮抗薬) → 難治例・合併症例では噴門形成術(Nissen法)。 ・食後の臥位はGERDを悪化させ、食後は座位・上体挙上を保つ。 ・抗コリン薬などの鎮痙薬はLES圧を下げ、胃排出を遅らせるためGERDを悪化させる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。