治療中断の代償―慢性骨髄性白血病が「急性」に変わるとき
第105回医師国家試験 A問題 第53問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。1か月前からの腹部膨満感と全身倦怠感とを主訴に来院した。3年前に慢性骨髄性白血病と診断され通院治療を受けていた。しばしば治療を中断し,前回の受診は半年前である。半年で体重が5 kg減少した。身長168 cm,体重53 kg。体温36.8℃。眼瞼結膜に貧血を認める。腹部は軽度膨隆し,右肋骨弓下に肝を6 cm,左肋骨弓下に脾を10 cm触知する。血液所見:赤血球280万,Hb 8.2 g/dL,Ht 30%,白血球98,000(桿状核好中球5%,分葉核好中球25%,好塩基球4%,好酸球1%,単球3%,リンパ球18%,芽球44%),血小板11万。骨髄に芽球を45%認める。末梢血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。 治療として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.抗癌化学療法
- b.分化誘導療法
- c.免疫抑制療法
- d.サイトカイン療法
- e.同種造血幹細胞移植
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
慢性骨髄性白血病の治療中断例で、末梢血や骨髄の芽球が20%以上に増え、肝脾腫の増大、貧血や血小板減少を伴う場合は急性転化を考えます。急性転化期は急性白血病に準じた病態であり、芽球の系統に応じた骨髄性またはリンパ性白血病型の化学療法を多くはチロシンキナーゼ阻害薬と併用して行い、若年者では治癒を目指して同種造血幹細胞移植につなげます。分化誘導療法は急性前骨髄球性白血病、免疫抑制療法は再生不良性貧血の治療であり、インターフェロンなどのサイトカイン療法は急性転化には無効です。慢性期の阻害薬の服薬継続こそが急性転化の予防として最も重要であり、病期と治療の対応を整理しておくことは血液疾患全般の治療選択の理解につながります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・38歳の男性、3年前に慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)と診断され、治療をしばしば中断:服薬不良により病勢のコントロールが不十分で、病期が進行しやすい状況にある。 ・1か月前からの腹部膨満感、全身倦怠感、半年で5 kgの体重減少:著明な肝脾腫と、腫瘍量の増加に伴う全身症状(消耗)を示す。 ・肝を右肋骨弓下に6 cm、脾を左肋骨弓下に10 cm触知:高度の肝脾腫。 ・Hb 8.2 g/dLの貧血、血小板11万とやや減少:CML慢性期では血小板はむしろ増えることが多く、貧血や血小板減少の進行は正常造血が芽球に置き換えられつつあることを示す。 ・白血球98,000、芽球44%:慢性期では末梢血の芽球はごく少数で、骨髄球・後骨髄球など各成熟段階の顆粒球が連続的にみられるのが特徴である。本例では芽球が著しく増え、成熟好中球との間の中間段階の細胞がほとんどみられない(白血病裂孔に似た像)。 ・骨髄芽球45%:芽球の著増。 ・末梢血塗抹標本:核網繊細で核小体をもち、細胞質の乏しい芽球が多数みられる。
診断へのプロセス
CMLは、慢性期 → 移行期 → 急性転化期(芽球期)と進行する。末梢血または骨髄の芽球が20%以上(WHO分類)となれば急性転化と判断され、本例は末梢血44%、骨髄45%と明らかにこの基準を満たす。治療中断の経過、著明な肝脾腫、貧血・血小板の低下もこれを支持する。診断はCMLの急性転化である。
設問の考え方
急性転化したCMLは、急性白血病と同様の病態で予後が極めて不良である。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)単独での長期制御は難しく、急性転化の芽球の系統(骨髄系かリンパ系か)に応じて急性骨髄性白血病(AML)型または急性リンパ性白血病(ALL)型の多剤併用化学療法を行い、多くはTKIと併用する。化学療法で慢性期などの状態に戻せたら、治癒を目指して同種造血幹細胞移植を行う。38歳と若く、移植の適応がある。
選択肢考察
- ○a. 抗癌化学療法
急性転化期のCMLには急性白血病に準じた治療を行う。骨髄系の急性転化ではシタラビン(Ara-C)とアントラサイクリン系薬剤を中心とするAML型の寛解導入療法、リンパ系の急性転化ではビンクリスチンと副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)などを中心とするALL型の治療を用いる。現在は、BCR-ABL1遺伝子の変異解析結果を参考に選んだ第2・第3世代TKI(ダサチニブ、ニロチニブ、ポナチニブなど)を併用することが多い。化学療法で芽球を減らし、移植につなげることが目標となる。
- ×b. 分化誘導療法
分化誘導療法は、全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid:ATRA)で白血病細胞の成熟を促す治療で、PML-RARA融合遺伝子をもつ急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類M3)に特異的に有効である。CMLの急性転化には効果がない。
- ×c. 免疫抑制療法
抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やシクロスポリンを用いる免疫抑制療法は、T細胞による造血幹細胞への攻撃を抑える治療で、再生不良性貧血などに用いられる。腫瘍性疾患であるCMLの急性転化に対する治療にはならない。
- ×d. サイトカイン療法
インターフェロンαはかつてCML慢性期の治療に用いられたサイトカイン製剤であるが、TKIの登場により現在の標準治療ではなく、急性転化期には無効である。また、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は骨髄系細胞の増殖を促すため、芽球が増加している状態では用いるべきではない。
- ○e. 同種造血幹細胞移植
急性転化期のCMLは、化学療法やTKIで一時的に改善しても再燃しやすく、薬物療法だけで長期生存を得ることは難しい。治癒の可能性がある唯一の治療が、ドナー由来の造血幹細胞とそれに伴う免疫細胞による移植片対白血病(GVL)効果を利用する同種造血幹細胞移植である。化学療法とTKIで芽球を減らし、慢性期に近い状態に戻したうえで行うのが望ましい。本例は38歳と若く、全身状態が保たれていれば移植の良い適応である。
慢性骨髄性白血病(CML)の概要
造血幹細胞レベルで9番染色体と22番染色体の相互転座 t(9;22)(q34;q11) が起こり、短くなった22番染色体(フィラデルフィア染色体:Ph染色体)上にBCR-ABL1融合遺伝子が形成される。この遺伝子産物は常に活性化したチロシンキナーゼで、顆粒球系を中心とする細胞の増殖を引き起こす骨髄増殖性腫瘍である。
慢性期の特徴
・白血球増加(骨髄芽球から成熟好中球まで各成熟段階の細胞がみられる)、好塩基球・好酸球の増加、血小板増加を伴うことが多い。 ・好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアの低下。 ・脾腫。 ・無症状で健診時に見つかることも多い。
病期の進行
慢性期 → 移行期 → 急性転化期(芽球期)。 ・急性転化期:末梢血または骨髄の芽球20%以上(WHO分類。欧州白血病ネット(ELN)の基準では30%以上)、あるいは髄外での芽球の腫瘤形成など。 ・急性転化の約3分の2は骨髄系、約3分の1はリンパ系(主にB細胞系)とされる。 ・なお、WHO分類第5版(2022年)では、TKI時代に移行期の意義が乏しくなったとして移行期を廃止し、慢性期と急性転化期(芽球期)の2病期としている。
治療
・慢性期:TKI(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブなど)が第一選択。多くの患者で長期の病勢コントロールが得られ、服薬を継続することが最も重要である。T315I変異などの耐性例にはポナチニブや、ABL1のミリストイル部位に結合するアシミニブが用いられる。 ・急性転化期:TKIとAML型またはALL型の化学療法の併用 → 同種造血幹細胞移植。 ・同種移植は、かつては移植関連毒性のため年齢制限が厳しかったが、現在は骨髄非破壊的(減量強度)前処置の導入により、より高齢の患者にも行われるようになっている。
急性白血病関連の特殊な治療の整理
・分化誘導療法(ATRA):APL ・免疫抑制療法(ATG、シクロスポリン):再生不良性貧血など ・分子標的療法(TKI):CML、Ph陽性ALL
POINT
・CMLの治療中断例で、芽球の著増(20%以上)、肝脾腫の増大、貧血・血小板減少をみたら急性転化を考える。 ・急性転化期は急性白血病に準じた化学療法(多くはTKIと併用)を行い、若年者では同種造血幹細胞移植を目指す。 ・分化誘導療法(ATRA)はAPL、免疫抑制療法は再生不良性貧血の治療である。 ・慢性期CMLの第一選択はTKIであり、服薬継続が急性転化の予防に重要である。
