裂けた心臓は薬では治せない―心筋梗塞後に「メス」が必要になる合併症
第104回医師国家試験 H問題 第14問
国試問題にチャレンジ
心筋梗塞の急性期合併症で緊急開心術の適応となるのはどれか。
- a.左室瘤形成
- b.心室中隔穿孔
- c.心原性ショック
- d.多形性心室頻拍
- e.Ⅲ度房室ブロック
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性心筋梗塞の合併症は、不整脈、ポンプ失調、機械的合併症に分けて整理すると治療方針が理解しやすくなります。心破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂といった機械的合併症は心臓の構造そのものが壊れるため、緊急開心術の適応となり、多くは発症後1週間以内に新たな心雑音や急激な心不全・ショックとして現れます。心室中隔穿孔では胸骨左縁の汎収縮期雑音と右室でのO2ステップアップが特徴で、IABPなどで循環を支えつつ外科的に閉鎖します。一方、不整脈は除細動・薬物・ペーシング、心原性ショックは再灌流療法と補助循環が中心であり、左室瘤は慢性期に必要に応じて待機的手術を行います。病態ごとに治療手段を結びつけて理解することは、急性期の病棟管理で異変を早期に察知する力につながります。
解答・解説
正解はbです
急性心筋梗塞(AMI)の合併症は、大きく「不整脈(電気的合併症)」「ポンプ失調(心不全・心原性ショック)」「機械的合併症」に分けられる。このうち、心筋が壊死してもろくなった部位が裂けることで生じる機械的合併症は、心臓の構造そのものが壊れているため薬物療法やカテーテルによる再灌流療法だけでは治らず、放置すれば短期間で死亡する。そのため、緊急の開心術(人工心肺を用いて心臓を直接修復する手術)の対象となる。 代表的な機械的合併症は次の3つである。 ・心破裂(左室自由壁破裂):心タンポナーデを起こし急死につながる。 ・心室中隔穿孔:左室から右室への短絡(左右シャント)が生じ、急性心不全・ショックに陥る。 ・乳頭筋断裂:急性の重症僧帽弁閉鎖不全症を来し、急性肺水腫・ショックに陥る。 いずれも発症から数日〜2週間以内(多くは1週間以内)に起こりやすい。 これに対し、不整脈には薬物・電気的除細動・ペーシングが、ポンプ失調には再灌流療法や補助循環が中心的な治療となる。また左室瘤は発症から時間がたってから形成される慢性期の合併症である。以上から、急性期合併症で緊急開心術の適応となるのは心室中隔穿孔である。
選択肢考察
- ×a. 左室瘤形成
左室瘤は、貫壁性梗塞(特に前壁梗塞)の壊死部が線維化して薄くなり、収縮期に外側へ膨らむ(奇異性運動)ようになったもので、発症後数週〜数か月の慢性期に明らかになることが多い。心電図でST上昇が持続するのが特徴である。心不全、難治性の心室頻拍、瘤内血栓による塞栓症などの原因となった場合に、待機的に瘤切除・左室形成術(Dor手術など)が検討されるが、急性期の緊急開心術の対象ではない。なお、心筋が破れて心膜などで覆われただけの仮性瘤は破裂の危険が高く、早期手術の対象となる点で真性瘤と区別する。
- ○b. 心室中隔穿孔
心室中隔穿孔は、壊死した心室中隔が裂けて左室から右室へ血液が流れ込む機械的合併症で、発症から数日〜2週間以内(多くは1週間以内)に起こる。胸骨左縁の新たな汎収縮期雑音(しばしば振戦〈スリル〉を伴う)、急速に進行する心不全・肺うっ血・ショックが特徴で、心エコーのカラードプラで短絡血流を確認する。右心カテーテルでは右室で酸素飽和度が急に上がる(O2ステップアップ)。内科的治療のみでは死亡率がきわめて高いため、大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで循環を支えながら、緊急の開心術(パッチによる穿孔部閉鎖術)を行うのが原則である。したがって本問の正解である。
- ×c. 心原性ショック
心原性ショックは、広範囲梗塞などによる左室のポンプ機能低下で生じることが多い。治療の中心は、緊急の再灌流療法(主に経皮的冠動脈インターベンション〈PCI〉)と、昇圧薬・強心薬、IABP・Impella(経皮的補助人工心臓)・VA-ECMO(静脈脳動脈体外式膜型人工肺)などの補助循環である。冠動脈病変によっては冠動脈バイパス術が選ばれることもあるが、心原性ショックという状態そのものが開心術の適応になるわけではない。ただし、ショックの原因が機械的合併症(心室中隔穿孔、乳頭筋断裂、心破裂)であれば、その修復のため緊急手術が必要となるので、ショック時には必ず機械的合併症を心エコーで除外する。
- ×d. 多形性心室頻拍
AMI急性期の多形性心室頻拍は、主に心筋虚血そのものが引き金となる致死性不整脈である。血行動態が破綻していれば直ちに電気的除細動を行い、アミオダロンなどの抗不整脈薬やβ遮断薬の投与、電解質(K、Mg)の補正、そして原因である虚血を解除するための再灌流療法を行う。刺激伝導系・心筋の電気的な異常であり、開心術によって治療するものではない。
- ×e. Ⅲ度房室ブロック
Ⅲ度(完全)房室ブロックは、下壁梗塞では右冠動脈からの房室結節枝の虚血によって生じることが多く、一過性で回復しやすい。前壁梗塞に伴う場合はヒス束以下の広範な障害を意味し、予後不良である。徐脈による血行動態の悪化があれば、アトロピン投与や一時的ペーシングで対応し、回復しなければ恒久的ペースメーカー植込みを検討する。開心術の適応ではない。
急性心筋梗塞の合併症の整理
1. 不整脈 ・心室期外収縮、心室頻拍、心室細動(発症早期、特に数時間以内の死因として最多) ・房室ブロック(下壁梗塞に多い)、洞徐脈 2. ポンプ失調 ・急性心不全、心原性ショック(重症度評価にはKillip分類やForrester分類を用いる) 3. 機械的合併症(緊急手術の対象) ・左室自由壁破裂:突然の心タンポナーデ、無脈性電気活動(PEA)で発症することがある。 ・心室中隔穿孔:新たな汎収縮期雑音(胸骨左縁)、右室でのO2ステップアップ。 ・乳頭筋断裂:新たな収縮期雑音(心尖部)、急性肺水腫。後乳頭筋は右冠動脈(または回旋枝)の単独支配であることが多く、下壁梗塞で起こりやすい。 4. その他 ・梗塞後心膜炎(早期)、Dressler症候群(数週後の自己免疫性心膜炎) ・左室内血栓・塞栓症、左室瘤(慢性期)
機械的合併症の危険因子
高齢、女性、初回梗塞、側副血行路の乏しい貫壁性梗塞、再灌流療法が行われなかった・遅れた例などで起こりやすい。再灌流療法の普及により頻度は低下したが、発症すれば致死率は高い。
心室中隔穿孔の治療
手術を遅らせると状態が急激に悪化しうるため、血行動態が安定していても早期の外科的閉鎖が推奨される。IABPなどの補助循環は手術までの橋渡しとして用いる。施設によってはカテーテルによる閉鎖術が選択されることもある。
POINT
・AMIの機械的合併症(心破裂、心室中隔穿孔、乳頭筋断裂)は緊急開心術の適応である。 ・いずれも発症から数日〜2週間以内(多くは1週間以内)に起こり、新たな心雑音や急激な心不全・ショックが手がかりとなる。 ・心室中隔穿孔:胸骨左縁の汎収縮期雑音と右室でのO2ステップアップ。 ・左室瘤は慢性期合併症で、必要時に待機的手術を行う。 ・不整脈は除細動・薬物・ペーシング、心原性ショックは再灌流療法と補助循環が治療の中心。
