StudyMed医師国家試験

採血管の中でも血球は生きている―放置で「下がる」ただ一つの検査値

第104回医師国家試験 H問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第104回 H問題 第13問

全血検体を室温放置することで低下するのはどれか。

  1. a.LD
  2. b.AST
  3. c.ブドウ糖
  4. d.無機リン
  5. e.アンモニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、採血した血液を分離せずに室温で置いておくと、どの検査値がどちらへ動くかを問う問題だ。検査室に届くまでのあいだに起こる誤差、いわゆる前分析誤差がテーマになる。ポイントは「試験管の中でも血球は代謝を続けている」と考えられるかどうか。まず、放置で値が動く理由を思いつくかな。
医学生医学生
臨床検査医学の講義で溶血の話を聞きました。時間がたつと赤血球が壊れて、中身が出てくるんですよね。
ドクタードクター
その通り、それが一つ目の機序だね。整理すると三つある。一つは血球による消費、二つ目は血球からの漏出や溶血、三つ目は成分の分解や生成だ。このうち値が「下がる」方向に働くのはどれだと思う?
医学生医学生
漏れ出す、生成されるは上がる方向ですよね。だとすると消費される物質が下がる……血球が使うものといえば、ブドウ糖でしょうか。
ドクタードクター
正解。赤血球や白血球、血小板は採血管の中でも解糖系でブドウ糖を取り込み、エネルギー源として使い続ける。だから血漿を分けずに室温で置くと、血糖値は時間とともに下がっていく。1時間あたりおおよそ5〜10%程度とされ、白血球が多い検体ではもっと速い。
医学生医学生
白血病の患者さんの検体だと、見かけ上の低血糖になりそうですね。
ドクタードクター
いい応用だね。実際、白血球著増例ではそういうことが起こりうる。では、ほかの項目も見ていこう。LDとASTはどうかな。
医学生医学生
どちらも逸脱酵素なので、肝臓や心筋が傷んだときに上がるイメージです。放置とは関係ないように思えますが……。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、実は両方とも赤血球の中に高濃度で含まれているんだ。LDは血清の百数十倍、ASTも十数〜数十倍程度ある。だから溶血が起こると血清中に漏れ出し、値は上昇する。ちなみにALTは赤血球内の含量が比較的少ないので、溶血の影響はASTより小さい。
医学生医学生
だから溶血検体だとASTだけ妙に高くて、ALTとかみ合わないことがあるんですね。無機リンはどうなりますか。
ドクタードクター
赤血球の中には2,3-DPGやATPといった有機リン化合物、つまりリン酸エステルがたくさんある。放置するとこれらが加水分解されて無機リンが生じ、溶血でも外に出てくる。だから無機リンも上昇する方向だ。
医学生医学生
アンモニアも、肝性脳症の評価で測るときに「すぐ氷で冷やして出して」と臨床実習で言われました。
ドクタードクター
まさにそれが理由。採血後の検体では蛋白やアミノ酸、特にグルタミンなどの分解が進んで、アンモニアが新たに作られてしまう。放置すると上がるから、氷冷して速やかに、目安として30分以内に測定する。影響を特に受けやすい項目の代表だね。
医学生医学生
まとめると、消費されるブドウ糖だけが下がって、LD、AST、無機リン、アンモニアは漏れ出すか作られるかで上がる、ということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。では実務の話をしよう。血糖を測る採血管が、ほかの生化学用と違うのは知っているかな。
医学生医学生
灰色のキャップの管ですよね。フッ化ナトリウムが入っていると習いました。
ドクタードクター
そう。フッ化ナトリウムは解糖系の酵素であるエノラーゼを阻害して、血球によるブドウ糖消費を止める。ただし効き始めるまでに時間がかかり、採血直後の1〜2時間は低下を完全には防げないことも知られているから、早めに測るに越したことはない。
医学生医学生
カリウムも放置で上がる項目でしたよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。赤血球内のカリウムは血漿の約20倍以上あるから、溶血や長時間の放置で偽性高カリウム血症が起こる。意外なのは冷蔵保存でも上がることで、低温ではNa+/K+-ATPaseが働かなくなり、カリウムが細胞外へ漏れ出すんだ。血小板や白血球が著しく多い検体でも、凝固の過程でカリウムが放出されて高く出ることがある。心電図変化のない高カリウム血症を見たら、まず検体の扱いを疑う習慣をつけておこう。
医学生医学生
検査値を読む前に、その検体がどう扱われたかも考える必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。速やかに遠心分離して血清や血漿を血球から分けること、項目に合った採血管を選ぶこと、保存条件を守ること。こうした測定前の管理が、正しい診断の出発点になるんだ。

まとめ

採血後の全血では血球が代謝を続けるため、分離せずに室温で放置すると検査値が本来の値からずれる前分析誤差が生じます。変化の方向は、血球による消費(ブドウ糖は解糖で低下)、血球からの漏出・溶血(LD、AST、カリウム、無機リンは上昇)、成分の分解・生成(アンモニアは蛋白・アミノ酸の分解で上昇)の三つの機序で整理できます。血糖測定ではエノラーゼを阻害するフッ化ナトリウム入り採血管を用い、アンモニアは氷冷して速やかに測定することが重要です。偽性高カリウム血症や見かけ上の低血糖は臨床判断を誤らせる原因となるため、検査値を解釈する際には検体の採取・保存条件まで意識することが、正確な診療の土台になります。

解答・解説

正解はcです

採血後の血液(全血)は、試験管の中でも血球が生きており、代謝を続けている。また時間がたつと赤血球膜が傷んで細胞内成分が漏れ出したり(溶血)、血漿中の成分が分解されたりする。そのため、血清・血漿の分離をせずに室温で放置すると、検査値が本来の値からずれてしまう。これを検体採取後の「前分析誤差」という。 変化の方向は、次の3つの機序で考えると整理しやすい。 1. 血球による消費:赤血球・白血球・血小板が解糖系でブドウ糖を取り込んで消費するため、血漿中のブドウ糖は低下する。 2. 血球からの逸脱(溶血など):赤血球内の濃度が血漿よりはるかに高い成分(LD、AST、カリウム、無機リンなど)は、血球外へ漏れ出して上昇する。 3. 成分の分解・生成:蛋白やアミノ酸の分解でアンモニアが生じ、有機リン化合物の加水分解で無機リンが生じるため、これらは上昇する。 選択肢のうち、放置により「低下」するのは、血球に消費されるブドウ糖である。

選択肢考察

  1. ×a.  LD

    LD(乳酸脱水素酵素)は赤血球内に血清の百数十倍程度という高濃度で存在する酵素である。全血を放置すると赤血球の膜が傷んで溶血が起こり、LDが血清中に漏れ出すため、測定値は上昇する。低下はしない。

  2. ×b.  AST

    AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)も赤血球内濃度が血清より高い(十数〜数十倍程度)酵素である。放置による溶血や血球からの漏出により、血清中の値は上昇する。なお同じ肝逸脱酵素でもALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は赤血球内含量が比較的少なく、溶血の影響はASTより小さい。

  3. ○c.  ブドウ糖

    採血管内でも血球は解糖系によってブドウ糖をエネルギー源として消費し続ける。そのため、血漿を分離せずに室温で置くと血糖値は時間とともに低下する(室温では1時間あたりおおよそ5〜10%程度とされ、白血球数が多い検体ではさらに速く低下する)。これを防ぐため、血糖測定用の採血管には解糖系の酵素(エノラーゼ)を阻害するフッ化ナトリウムが抗凝固薬(EDTAやヘパリンなど)とともに添加されている。

  4. ×d.  無機リン

    赤血球内には有機リン化合物(2,3-DPG〈2,3-ジホスホグリセリン酸〉やATPなどのリン酸エステル)が豊富に含まれる。放置によりこれらが加水分解されて無機リンが生じ、さらに溶血によって血球外へ出てくるため、血清無機リンは上昇する。低下はしない。

  5. ×e.  アンモニア

    採血後の検体内では、蛋白やアミノ酸(特にグルタミンなど)の分解が進み、アンモニアが新たに生成されるため、測定値は上昇する。アンモニアは影響を特に受けやすい項目で、採血後は氷冷し、速やかに(目安として30分以内に)測定することが求められる。

全血放置で変動する主な検査項目

・低下するもの:ブドウ糖(血球による消費)。 ・上昇するもの:LD、AST、カリウム(K)、無機リン(血球からの逸脱・溶血、有機リンの分解)、アンモニア(蛋白・アミノ酸の分解)、乳酸(解糖の最終産物として蓄積)。

カリウムの注意点

赤血球内のK濃度は血漿の約20倍以上である。溶血や長時間の放置、さらに冷蔵保存(Na+/K+-ATPaseが働かなくなり、Kが細胞外へ漏れる)でも見かけ上の高K血症(偽性高K血症)が生じる。血小板や白血球が著しく多い検体では、凝固の過程でKが放出され、血清Kが高く出ることもある。

検体の適切な取り扱い

・血糖:フッ化ナトリウム入り採血管を用いる。ただしフッ化ナトリウムの解糖阻害効果が現れるまでに時間がかかり、採血直後の1〜2時間はブドウ糖の低下を完全には防げないことも知られている。 ・アンモニア:採血後は氷冷して直ちに測定する。 ・その他の生化学検査:速やかに遠心分離し、血清(血漿)を血球から分けて保存する。 正確な検査結果を得るためには、採血のタイミング、採血管の選択、血球との分離、保存条件といった測定前の工程を適切に管理する必要がある。

POINT

・全血を室温放置すると、血球の解糖によりブドウ糖は低下する。 ・血糖測定にはフッ化ナトリウム(解糖阻害薬)入り採血管を用いる。 ・LD・AST・K・無機リンは溶血や血球からの漏出で上昇する。 ・アンモニアは蛋白分解で上昇するため、氷冷して速やかに測定する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。