採血管の中でも血球は生きている―放置で「下がる」ただ一つの検査値
第104回医師国家試験 H問題 第13問
国試問題にチャレンジ
全血検体を室温放置することで低下するのはどれか。
- a.LD
- b.AST
- c.ブドウ糖
- d.無機リン
- e.アンモニア
対話形式の解説
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ドクターまとめ
採血後の全血では血球が代謝を続けるため、分離せずに室温で放置すると検査値が本来の値からずれる前分析誤差が生じます。変化の方向は、血球による消費(ブドウ糖は解糖で低下)、血球からの漏出・溶血(LD、AST、カリウム、無機リンは上昇)、成分の分解・生成(アンモニアは蛋白・アミノ酸の分解で上昇)の三つの機序で整理できます。血糖測定ではエノラーゼを阻害するフッ化ナトリウム入り採血管を用い、アンモニアは氷冷して速やかに測定することが重要です。偽性高カリウム血症や見かけ上の低血糖は臨床判断を誤らせる原因となるため、検査値を解釈する際には検体の採取・保存条件まで意識することが、正確な診療の土台になります。
解答・解説
正解はcです
採血後の血液(全血)は、試験管の中でも血球が生きており、代謝を続けている。また時間がたつと赤血球膜が傷んで細胞内成分が漏れ出したり(溶血)、血漿中の成分が分解されたりする。そのため、血清・血漿の分離をせずに室温で放置すると、検査値が本来の値からずれてしまう。これを検体採取後の「前分析誤差」という。 変化の方向は、次の3つの機序で考えると整理しやすい。 1. 血球による消費:赤血球・白血球・血小板が解糖系でブドウ糖を取り込んで消費するため、血漿中のブドウ糖は低下する。 2. 血球からの逸脱(溶血など):赤血球内の濃度が血漿よりはるかに高い成分(LD、AST、カリウム、無機リンなど)は、血球外へ漏れ出して上昇する。 3. 成分の分解・生成:蛋白やアミノ酸の分解でアンモニアが生じ、有機リン化合物の加水分解で無機リンが生じるため、これらは上昇する。 選択肢のうち、放置により「低下」するのは、血球に消費されるブドウ糖である。
選択肢考察
- ×a. LD
LD(乳酸脱水素酵素)は赤血球内に血清の百数十倍程度という高濃度で存在する酵素である。全血を放置すると赤血球の膜が傷んで溶血が起こり、LDが血清中に漏れ出すため、測定値は上昇する。低下はしない。
- ×b. AST
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)も赤血球内濃度が血清より高い(十数〜数十倍程度)酵素である。放置による溶血や血球からの漏出により、血清中の値は上昇する。なお同じ肝逸脱酵素でもALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は赤血球内含量が比較的少なく、溶血の影響はASTより小さい。
- ○c. ブドウ糖
採血管内でも血球は解糖系によってブドウ糖をエネルギー源として消費し続ける。そのため、血漿を分離せずに室温で置くと血糖値は時間とともに低下する(室温では1時間あたりおおよそ5〜10%程度とされ、白血球数が多い検体ではさらに速く低下する)。これを防ぐため、血糖測定用の採血管には解糖系の酵素(エノラーゼ)を阻害するフッ化ナトリウムが抗凝固薬(EDTAやヘパリンなど)とともに添加されている。
- ×d. 無機リン
赤血球内には有機リン化合物(2,3-DPG〈2,3-ジホスホグリセリン酸〉やATPなどのリン酸エステル)が豊富に含まれる。放置によりこれらが加水分解されて無機リンが生じ、さらに溶血によって血球外へ出てくるため、血清無機リンは上昇する。低下はしない。
- ×e. アンモニア
採血後の検体内では、蛋白やアミノ酸(特にグルタミンなど)の分解が進み、アンモニアが新たに生成されるため、測定値は上昇する。アンモニアは影響を特に受けやすい項目で、採血後は氷冷し、速やかに(目安として30分以内に)測定することが求められる。
全血放置で変動する主な検査項目
・低下するもの:ブドウ糖(血球による消費)。 ・上昇するもの:LD、AST、カリウム(K)、無機リン(血球からの逸脱・溶血、有機リンの分解)、アンモニア(蛋白・アミノ酸の分解)、乳酸(解糖の最終産物として蓄積)。
カリウムの注意点
赤血球内のK濃度は血漿の約20倍以上である。溶血や長時間の放置、さらに冷蔵保存(Na+/K+-ATPaseが働かなくなり、Kが細胞外へ漏れる)でも見かけ上の高K血症(偽性高K血症)が生じる。血小板や白血球が著しく多い検体では、凝固の過程でKが放出され、血清Kが高く出ることもある。
検体の適切な取り扱い
・血糖:フッ化ナトリウム入り採血管を用いる。ただしフッ化ナトリウムの解糖阻害効果が現れるまでに時間がかかり、採血直後の1〜2時間はブドウ糖の低下を完全には防げないことも知られている。 ・アンモニア:採血後は氷冷して直ちに測定する。 ・その他の生化学検査:速やかに遠心分離し、血清(血漿)を血球から分けて保存する。 正確な検査結果を得るためには、採血のタイミング、採血管の選択、血球との分離、保存条件といった測定前の工程を適切に管理する必要がある。
POINT
・全血を室温放置すると、血球の解糖によりブドウ糖は低下する。 ・血糖測定にはフッ化ナトリウム(解糖阻害薬)入り採血管を用いる。 ・LD・AST・K・無機リンは溶血や血球からの漏出で上昇する。 ・アンモニアは蛋白分解で上昇するため、氷冷して速やかに測定する。
