StudyMed医師国家試験

家庭内の高齢者虐待、どこへ知らせる?―通報先は「市町村」、窓口は地域包括支援センター

第104回医師国家試験 G問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第104回 G問題 第31問

家族から虐待を受けた居宅高齢者を診察した際の通報先として最も適切なのはどれか。

  1. a.保健所
  2. b.家庭裁判所
  3. c.精神保健福祉センター
  4. d.地域包括支援センター
  5. e.訪問看護ステーション

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診察の場で家族からの虐待が疑われる高齢者に出会ったとき、医師がどこへ通報するかを問う問題だ。ポイントは「根拠となる法律は何か」と「その法律が定める通報先はどこか」の2つ。まず、高齢者虐待に関する法律の名前は思い浮かぶかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った高齢者虐待防止法ですね。児童虐待防止法と並んで出てきた記憶があります。
ドクタードクター
その通り。正式には「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」で、2006年に施行された。名前に「養護者に対する支援」と入っているのが特徴で、虐待した家族を罰するより、介護負担などの背景を含めて支える発想に立っているんだ。では、この法律で通報先として定められているのはどこだと思う?
医学生医学生
虐待というと警察か、あるいは保健所でしょうか。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、法律上の通報先は市町村なんだ。養護者、つまり家族など実際に世話をしている人による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに市町村へ通報する。生命や身体に重大な危険が生じている場合は通報義務、それ以外は努力義務とされている。
医学生医学生
でも選択肢に市町村そのものはありませんね。
ドクタードクター
そこがこの問題の肝だね。市町村は、通報の受理や相談・助言といった事務を地域包括支援センターに委託できる。地域包括支援センターは介護保険法に基づいて市町村が設置、または委託する機関で、業務の柱の一つに虐待の防止・早期発見を含む権利擁護がある。だから選択肢の中では地域包括支援センターが最も適切というわけだ。
医学生医学生
臨床実習で総合診療科を回ったとき、退院調整で地域包括の社会福祉士さんと連絡を取っていました。あそこが虐待対応も担っているんですね。
ドクタードクター
そう。保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置されていて、通報を受けると市町村と一緒に事実確認をし、高齢者の安全確保や養護者への支援を進める。介護の専門職がそろっているから、在宅高齢者の問題に一番対応しやすいんだ。ほかの選択肢も見ておこう。保健所はどうかな。
医学生医学生
保健所は感染症対策や食品衛生、精神保健や難病の業務をしている機関でしたよね。
ドクタードクター
そう、地域保健法に基づき都道府県や政令指定都市などが設置する、広域的・専門的な公衆衛生の拠点だ。高齢者虐待防止法上の通報先ではない。精神保健福祉センターも、精神保健福祉法に基づいて精神保健の普及啓発や困難事例の相談、保健所への技術支援を行う機関で、虐待の通報先ではないよ。
医学生医学生
家庭裁判所は成年後見の申立て先なので、少し関係がありそうに見えました。
ドクタードクター
鋭いね。経済的虐待などで財産を守る必要があれば成年後見制度を使うことがあり、その申立て先は家庭裁判所だ。ただ、それは対応の一手段であって、虐待を発見したときの通報先ではない。訪問看護ステーションは、看護師が在宅療養者を訪問する事業所。訪問看護師は虐待に気づいて通報する側になることはあっても、通報を受ける公的窓口ではないんだ。
医学生医学生
医師が通報すると患者さんの情報を外に出すことになりますが、守秘義務は大丈夫なんでしょうか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。高齢者虐待防止法では、通報は刑法の秘密漏示罪やその他の守秘義務の規定によって妨げられないと明記されている。さらに医師は、高齢者の福祉に職務上関係する者として、虐待の早期発見に努めることが求められている。ためらわずに通報してよいし、むしろ通報すべき立場なんだ。
医学生医学生
虐待の種類も整理しておきたいです。身体的虐待とネグレクト以外に何がありましたか。
ドクタードクター
5類型で、身体的虐待、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待だ。年金を家族が勝手に使ってしまう経済的虐待は見落とされやすい。診察では、説明のつかない打撲や骨折、低栄養や脱水、不衛生な状態、受診の遅れなどに気づいたら虐待の可能性を頭に置こう。
医学生医学生
ほかの虐待の通報先と混同しそうです。児童虐待は児童相談所でしたよね。
ドクタードクター
そう、児童虐待は市町村、都道府県の福祉事務所、児童相談所。障害者虐待は市町村で、使用者による虐待なら市町村または都道府県。配偶者からの暴力は配偶者暴力相談支援センターまたは警察官で、被害者の意思を尊重するよう努めるとされている。対象ごとに法律と窓口をセットで覚えると混乱しないよ。
医学生医学生
高齢者は市町村、実務上の窓口は地域包括支援センター、そして通報は守秘義務違反にならない、ですね。
ドクタードクター
完璧だ。高齢者虐待防止法でいう高齢者は65歳以上という点も添えておこう。臨床では、虐待を疑っても家族を責める姿勢を見せず、高齢者の安全を最優先に、多職種で支える視点を持つことが大切だよ。

まとめ

家族など養護者による高齢者虐待を発見した場合、高齢者虐待防止法に基づき市町村へ通報し、市町村から事務委託を受けた地域包括支援センターが実務上の窓口となります。生命・身体に重大な危険がある場合は通報義務、それ以外は努力義務で、通報は守秘義務違反に当たらず、医師には虐待の早期発見に努めることが求められます。保健所・精神保健福祉センターは別分野の公的機関、家庭裁判所は成年後見の申立て先、訪問看護ステーションは在宅療養を支える事業所であり、通報先ではありません。児童虐待は児童相談所・市町村・福祉事務所、DVは配偶者暴力相談支援センター・警察というように、虐待の対象ごとに根拠法と窓口を対比して整理しておくことが、臨床現場で迷わず行動するための土台になります。

解答・解説

正解はdです

本問は、家庭内(養護者による)高齢者虐待を発見したときに、どこへ通報するかを問うている。根拠となる法律は「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法、2006年施行)である。

法律上の通報先は市町村

高齢者虐待防止法では、養護者(家族など、高齢者を現に世話している人)による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに市町村へ通報しなければならないと定めている。高齢者の生命や身体に重大な危険が生じている場合は通報が義務、それ以外の場合は通報の努力義務とされる。また、医師・保健師・弁護士など高齢者の福祉に職務上関係する者は、虐待の早期発見に努めなければならないとされている。

実際の窓口は地域包括支援センター

同法では、市町村は通報の受理や相談・指導・助言などの事務を地域包括支援センターなどに委託できるとされている。地域包括支援センターは介護保険法に基づき市町村(または委託を受けた法人)が設置する機関で、業務の一つに「権利擁護(高齢者虐待の防止・早期発見を含む)」がある。したがって、選択肢の中で居宅高齢者の虐待の通報先として最も適切なのは地域包括支援センターである。

守秘義務との関係

通報は刑法の秘密漏示罪やその他の守秘義務に関する規定によって妨げられないと明記されており、医師が診察で知った虐待を通報しても守秘義務違反には当たらない。

選択肢考察

  1. ×a.  保健所

    保健所は地域保健法に基づき都道府県・政令指定都市・中核市などが設置する機関で、感染症対策、食品衛生、環境衛生、精神保健、難病対策など広域的・専門的な公衆衛生業務を担う。高齢者虐待防止法で定められた通報先ではない。

  2. ×b.  家庭裁判所

    家庭裁判所は家事事件(離婚、相続、成年後見の開始など)や少年事件の審判を行う司法機関である。虐待を受けた高齢者の財産保護のために成年後見制度の申立てを行う先となることはあるが、虐待発見時の通報先ではない。

  3. ×c.  精神保健福祉センター

    精神保健福祉センターは精神保健福祉法に基づき都道府県・政令指定都市に設置され、精神保健に関する知識の普及、複雑・困難な相談への対応、保健所など関係機関への技術支援などを行う機関である。高齢者虐待の通報先ではない。

  4. ○d.  地域包括支援センター

    高齢者虐待防止法上の通報先は市町村であり、市町村は通報の受理や相談対応などの事務を地域包括支援センターに委託できる。地域包括支援センターは介護保険法に基づき市町村が設置(または委託)する機関で、総合相談支援、権利擁護(虐待の防止・早期発見、成年後見制度の活用支援など)、包括的・継続的ケアマネジメント支援、介護予防ケアマネジメントを担う。保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置され、虐待の通報を受けると市町村とともに事実確認や高齢者の安全確保、養護者への支援を行う。したがって居宅高齢者の虐待を発見した際の通報先として最も適切である。

  5. ×e.  訪問看護ステーション

    訪問看護ステーションは、在宅療養者の自宅へ看護師などが訪問して療養上の世話や診療の補助を行う事業所である。訪問看護師が虐待に気づき通報する立場になることはあるが、通報を受ける公的な窓口ではない。

虐待防止関連法と通報先の整理

・高齢者虐待(高齢者虐待防止法):市町村(地域包括支援センターに委託可)。養介護施設従事者による虐待も市町村へ通報する。 ・児童虐待(児童虐待防止法):市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所。 ・障害者虐待(障害者虐待防止法):市町村(市町村障害者虐待防止センター)。使用者による虐待は市町村または都道府県へ通報する。 ・配偶者からの暴力(DV防止法):配偶者暴力相談支援センターまたは警察官(通報は努力義務で、被害者の意思を尊重するよう努める)。

高齢者虐待の5類型

身体的虐待、介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待。 高齢者虐待防止法でいう「高齢者」は65歳以上の者を指す。

地域包括支援センターの4つの主な業務

1. 総合相談支援 2. 権利擁護(虐待防止・早期発見、成年後見制度の利用支援、消費者被害の防止など) 3. 包括的・継続的ケアマネジメント支援 4. 介護予防ケアマネジメント

POINT

・養護者による高齢者虐待を発見したら市町村へ通報する(実務上の窓口は地域包括支援センター)。 ・生命・身体に重大な危険がある場合は通報義務、それ以外は努力義務。 ・通報は守秘義務違反にならない。 ・児童虐待は児童相談所・市町村・福祉事務所、DVは配偶者暴力相談支援センター・警察と区別して覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。